特許戦略マガジン

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第155号 2010年8月19日

● パテントポリス 夏子

第10話 太陽光発電産業の防衛の指示

警察庁を後にした内閣官房政務官の木村新之助は、特許庁長官の安岡は、特許庁に向かった。
車の中で、木村は言った。「海外特許権行使機構の必要性はわかったのだが、民間企業からエクスクルーシプライセンスを得るための交渉が長期化すると、日本の基幹産業の防衛の目的がなかなか達成できそうにないな。私は、その部分に少し懸念を感じた。」
「そうですね。民間企業は、色々な利害関係の錯綜の中で事業をしているものですので、パテントポリスが必要とするエクスクルーシブライセンスを迅速に海外特許権行使機構が得ることができない場合も多いでしょう。特に、ライセンスの対価の金額の決定に手間取りそうです。」と、安岡は応じた。
「このあたりの事は、警察庁のマターではないな。経済産業省と特許庁に知恵をしぼってもらおう。」と、木村は言った。
特許庁に到着すると、そこには特許庁総務部企画調査課の山岡健二課長補佐が待っていた。
「安岡長官、木村政務官。 さきほど、官邸から電話がありました。30分後の4時から団総理とのテレビ会議を行なうので、参加するようにとの事です。テレビ会議が長官室でできるように準備完了しています。」
「それで、議題は何と言われていた?」と特許庁長官の安岡は聞いた。
「太陽光発電技術パテントの件との事でした。」
「そうか、それでは特許審査第一部 審査調査室の室長と担当審査官も参加するように手配してくれ。」と安岡は指示した。
「わかりました。手配いたします。」
特許庁長官室に、安岡長官と木村内閣官房政務官が入った。
部屋の中には、大きな花瓶にユリの花が活けてあり、良いにおいをかもし出していた。
「ほー、安岡長官はユリの花がお好きですか?」と木村が言っている間に、突然にテレビ会議用のモニターテレビの電源が入り、画面には団直人総理大臣と古山内閣官房副長官と権藤警察庁長官と経済産業政策局長の顔が映った。
「そちらは、集まったか?」と、団総理大臣が述べた。
「団総理、申し訳ありません。今、太陽光発電技術分野の審査室の担当者を呼んでいるところです。数分、お待ちください。」と、安岡は少しあわてて返事をした。
モニター画面に映っている古山内閣官房副長官が、「総理、こちらも経済産業大臣がまだ到着していません。10分はかかると思われます。」と、述べた。
「木村政務官、警察庁のパテントポリスはいかがでしたか?」と、警察庁長官の権藤が言った。
「いやー、びっくりさせられどおしでした。パテントポリスがいかに特許権侵害を摘発するかがイメージできました。準備は思った以上に進んでいました。海外特許権行使機構の発足ができれば、日本国内での特許権侵害罪の摘発と連動させて、効果的な活動ができそうに思いました。」と、木村政務官は応じた。
「団総理、こちらは全員そろいました。」と、安岡特許庁長官は言った。
「それでは、こちらは経済産業大臣の到着はまだだが、経済産業政策局長の小笠原君がいるので、まずは小笠原君から経済産業省の考える太陽光発電技術における課題の説明をしてもらおうか。その間に、成島経済産業大臣も到着するだろう。」
「小笠原です。ご説明いたします。
太陽光発電は、ご存知のとおり人類全体の進むべき道です。現在の石油文明は十年程度で終わりを告げます。経済的に採掘できる石油がなくなるためです。また、二酸化炭素の発生を伴うエネルギーの消費がこれ以上は許されないという理由もあります。
原子力発電は過渡的なものであり、廃棄物の処理や事故の際の危険性や燃料となるウランの埋蔵量を考えると、これを柱にできるというものではありません。
そうなると、人類が頼るべきは、やはり太陽光発電しかありません。
太陽光発電は、火力発電所の代替になるというだけの存在ではありません。電気自動車との連携、スマートグリッドの中核となるものであり、今後のわが国の輸出を支える基幹産業と言えます。さらに、太陽光発電が発達すると、人工光合成も行なえるようになり、食糧生産や二酸化炭素の吸収というところまで到達できます。その先には、人工光合成住宅によって、各家庭がエネルギーと食料の自給自足ができるという人類の夢が実現できるということになります。
この太陽光発電技術でわが国企業は世界最先端を走っていますし、多数の特許権を全世界で取得しています。
しかし、この分野にも新興工業国による知的財産権侵害とコストダウンによる攻勢が及んできています。このまま放置しますと、
日本の将来の基幹産業が壊滅することは、明らかです。経済産業省では、これまで研究補助金の制度や、研究組合制度、
優遇税制などの方策で産業育成をしてきました。しかし、そのような方策だけでは新興工業国企業とのグローバルな競争には勝てないという事が、
この十数年のDVD産業、液晶産業、携帯電話産業を分析して判明しています。いかに、中核技術を独占しながらその中核技術のまわりに国際標準化したインタフェースを有するプラットフォームを形成して、多様な分野に応用していくかが大事だということを学びました。そして、中核技術の独占のためには、パテントに関するポリス・ファンクションがキーポイントとなるという事に最近、やっと気付きました。すなわち、太陽光発電を日本の基幹産業とするためには、パテントポリスが必要という事です。」
「やはり、パテントポリスが要か。」と、つぶやくように内閣官房政務官の木村は言った。
「そうだよ。だから、何年も前から警察庁の平野君とパテントポリス構想の準備をしてきたんだよ。 まずは、太陽光発電技術に関するパテントポリス活動から開始してもらいたい。それも早急に。 すでに太陽光発電の分野においても中国企業による安売り攻勢が始まっている。日本企業の特許権を侵害しながらの製造販売である可能性が高いと、私は思っている。太陽光発電産業をDVD産業の二の舞としてはならない。」と、団総理大臣は言った。

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