特許戦略マガジン

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第154号 2010年8月3日

● パテントポリス 夏子

第9話 遠隔録音の是非の問題と海外特許権行使機構

会議室に戻って、平野パテントポリス準備室長は説明を再開した。

「いわゆる通信傍受法というものの存在をご存知でしょうか?正式には犯罪捜査のための通信傍受に関する法律です。」と平野は言った。
「聞いたことはあるが、詳しくは知らないな。」と、内閣官房政務官の安岡は答えた。
「通信傍受法は、麻薬取引や銃器取引や組織的殺人などの特定の組織犯罪の犯罪捜査目的に限定して、裁判所の令状のもとでのみ有線通信の通信傍受を認める
というものです。無線通信の傍受はもともと自由ですので、問題はありません。これは、1999年に成立した法律です。この法律は、法案審議の段階から日本国憲法第21条違反との批判がありましたし、法律として成立後も批判をする人は多くいます。しかし、巧妙化する組織犯罪を取り締まるためには有線通信の傍受が不可欠ということで、厳格な手続きと大変に制限された対象にのみ通信傍受を認めるようにして、通信の秘密や表現の自由における問題に一定の決着をつけたのです。
赤外線レーザーを用いた遠隔録音は、有線通信の傍受でもありませんし、住居侵入もしませんので、違法性はありません。しかし、室内での会話を捜査機関に聞かれる可能性があるという事は表現の自由に脅威を与えるので憲法21条違反との批判は必ず行なわれると予測しています。
問題は侵害における故意の立証なのです。他の方法で故意を立証できるのなら、遠隔録音の必要性は著しく減ります。被疑者の任意での取り調べでは故意を示す供述はなかなか出てきません。特に、外国企業による侵害品を日本国内で輸入販売している業者を取り調べてもなかなかわかりません。そこで、考えたのが特許権侵害罪の被疑事実の通告の直後の会話の遠隔録音です。電話または訪問して、被疑事実の通告をすると相手は対策を話し合いだします。その会話の中から関係者の名前や故意の立証に使える情報を取得します。」と、平野は説明を続けた。
「という事は、違法収集証拠ではないので裁判でも証拠として使えるということか?」と安岡は応じた。
「そのとおりです。裁判でも証拠として使えますし、裁判官から被疑者に対する逮捕状、捜索差押許可状を出していただくためにも使えます。また、一部の勢力からの憲法21条違反との批判に対しては、被疑事実の通告に起因した相手方の会話の録音に限定しているので一般的な表現の自由への脅威には該当しないし、もしも部分的に表現の自由に脅威を感じさせることがあったとしても、それは日本国の基幹産業を防衛するという大きな公共の利益との比較から見て、許容範囲であるとします。」と、平野は自信をもって答えた。
「それなら安心だ。それにしても、赤外線による遠隔録音は強力な武器になりそうだ。しかし、窓のない部屋での会話の録音はできないと思うが、それにはどう対処するのだ?」と安岡は平野に疑問をぶつけた。
「その場合は、被疑企業にパテントポリスが合法的に潜入して、潜入捜査を行ないます。すなわち、清掃員としてや、アルバイト職員として採用されるようにしますし、大規模な事件の場合には正社員として採用されるようにします。そして会話の録音や書類の写真撮影なども行ないます。」と平野は言った。
「話は、わかった。問題は海外企業が侵害製品を日本に輸出していて、それを輸入している日本企業は侵害の事実に全く気付いていない場合だな。そのような場合の方が多いように思うが、そんな場合にはどうするのだ?」と内閣官房政務官の木村は尋ねた。
「そのような場合に備えて、海外特許権行使機構を設立します。海外特許権行使機構は侵害企業の生産拠点や販売拠点のある地域、だいたい都道府県レベルの狭い地域に限定したエクスクルーシブライセンスを日本企業の有する海外特許権について得ます。複数の日本企業から基幹産業での基本特許権に関して、このような実施権を集めます。このようにして得たエクスクルーシブライセンスを用いて、海外でも権利行使をしていきます。」と平野は答えた。
「都道府県レベルの狭い地域に限定することで、エクスクルーシブライセンスの対価を小さくしようという事だな。」と、特許庁長官の安岡は言った。
「そうです。このような仕組みで、パテントポリスは日本の基幹産業を防衛します。」と、平野は言った。
「だが、どうやって、海外において侵害企業の生産拠点や販売拠点のある地域を発見するのだ?」と、安岡はさらに尋ねた。
それに対して、パテントポリスの霜山美月がすかさず、答えた。
「日本が独自に打ち上げて運用しています情報収集衛星IGS-5Aからの情報を、パテントポリスは国防目的のために自由に使用しています。その情報を用いて、日本及び海外において注目したエリアや建物の状況の把握や、特定の車両の追跡を行ないます。そして、注目した企業の生産拠点や販売拠点の解明を行ないます。もちろん、パテントポリスが海外を含めた潜入捜査をして、精度が高く、具体的な情報を獲得します。」
「パテントポリスは、担当する海外のエリアがあります。夏子は中国と台湾を担当しています。聖子はアメリカとカナダとオーストラリアを担当しています。百合子はヨーロッパとインドを担当しています。アフリカと中近東と東南アジアの担当はまだいません。美月は情報収集衛星からの情報や、他のパテントポリスが収集した音声や画像のデータの分析を行なっています。」と平野が補足した。
「という事は、夏子君は中国には頻繁に行っているのか?」と、特許庁長官の安岡は夏子に質問した。
「そうです。今では上海と北京に拠点となる住宅を秘密裏に確保しています。その住宅を改造して、地下に中国でのパテントポリスの活動を支える情報収集用特殊車両や機材や通信インフラを保持しています。」と夏子は答えた。
「このように、警察庁の範囲で可能な事については、パテントポリスの体制は着々と整備されつつありますが、まだまだ進展していない課題もあります。」と平野が続けた。
「わかった。海外特許権行使機構、特許権侵害製品分析センターの設立が残された大きな課題という事だな。それらについては、団直人総理大臣と相談して経済産業大臣に指示を出していただく。予算措置と特別立法が必要のように思うので、具体的なことは平野君、内閣官房まで説明に来てくれ。日程は後で連絡する。」と、木村政務官がしめくくった。
会議を終えて、内閣官房政務官の木村新之助は、特許庁長官の安岡は警察庁をあとにした。

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