特許戦略マガジン

☆特許戦略マガジン☆

第148号 2010年7月1日発行

● パテントポリス 夏子

第3話 最初の会議の開始

案内されて、内閣官房政務官の木村と、特許庁長官の安岡が入った会議室には警察庁長官の権藤が待っていた。
「権藤です。木村政務官、安岡長官、出迎えにも行けず申し訳ありません。団総理大臣からの電話があり、先ほどまで話し込んでいました。団総理にはパテントポリスへの強い思い入れがおありのようです。」
「お気遣いなく。我々も団総理の強い思いを感じていますが今日、御指示を受けたばかりで、事情が飲み込めていない状況です。まずは、警察庁で5年前にパテントポリス準備室を設置して、準備を開始した経緯からご説明ください。」と、木村が言った。
「それでは、私からパテントポリス準備室発足の経緯をご説明いたします。」と、パテントポリス準備室長の平野がビデオプロジェクターのスイッチを入れて、プレゼンテーションを開始した。
「これは、かつて日本メーカーが世界市場の大部分を占有していた液晶パネル、DVDプレイヤー、カーナビの各分野における
日本メーカーのシェアの合計値の年次推移です。どれも、80%を越えるシェアから20%以下まで10年程度で急減してい
ます。この間にも、日本メーカーの外国企業に対する特許出願件数比率はほとんど減っておらず、技術競争力が衰えたのでは
ないことは明白です。では、これらのシェアの急減の原因は何かというと、それは大規模な特許権侵害行為と国際標準化による
コストダウン競争に、日本メーカーが耐えられなかったという事です。いくら日本企業が優秀な技術者を投入し、莫大な研究費
を費やして新しい製品分野を切り開いていっても、欧米企業を中心とした国際標準化によって日本企業の獲得した大部分の
特許権は国際標準の必須特許として、安い実施料で開放させられるというパターンが定着しています。しかも、アジアの
新興工業国の企業は国際標準に準拠した製品を安価で大量に必須特許のロイヤリティを適正に支払うこともなく製造しているのみならず、国際標準での必須特許としては開放していない日本企業の特許権についても平気で侵害しています。しかし、日本企業の多くは、侵害企業の多さに、せっかくの自社の特許権の行使をする事もあきらめてコストダウン競争に入り、それにも疲弊して事業撤退するというのが、日本企業の負けパターンです。実は、これが世間で言われている失われた15年と言われている日本の閉塞状況の隠れた大きな原因です。」
「そんなひどい状況だったとは気付かなかった。私は審査期間の短縮をすれば、日本企業の競争力は増えると思い込んで、特許庁での審査期間短縮にばかり注力していた。」と、特許庁長官の安岡はうめいた。
平野室長は続けた。
「団総理大臣は野党時代から、このような事を知的財産管理研究会での活動で知っておられたのです。私と野党議員時代の団総理とはこの研究会で頻繁に討議を行ない、パテントポリスが日本には必要であるとの共通認識に至りました。2003年の頃です。その前年の2002年に知的財産基本法が成立し、ちょうど2003年に知的財産基本法が施行されました。知的財産基本法の第16条は次のように規定しています。

第十六条 国は、国内市場における知的財産権の侵害及び知的財産権を侵害する物品の輸
 入について、事業者又は事業者団体その他関係団体との緊密な連携協力体制の下、知的
 財産権を侵害する事犯の取締り、権利を侵害する物品の没収その他必要な措置を講ずる
 ものとする。
2 国は、本邦の法令に基づいて設立された法人その他の団体又は日本の国籍を有する者
 (「本邦法人等」という。次条において同じ。)の有する知的財産が外国において適正
 に保護されない場合には、当該外国政府、国際機関及び関係団体と状況に応じて連携を
 図りつつ、知的財産に関する条約に定める権利の的確な行使その他必要な措置を講ずる
 ものとする。

知的財産基本法第16条を具体的に政府として実行するために、警察庁にパテントポリス本部を設けようということになり、パテントポリス準備室が5年前の2005年に発足したのです。」と平野は言った。

「しかし、それなら特許庁になぜ、今日まで話が来なかったのだろうか? 私は何も知らなかった。」と安岡は平野に言った。
「それには、大変に難しい問題があったのです。一つ目は、安岡長官がご存知のパリ条約における内国民待遇との関係です。外国企業の保有する日本特許権の侵害についてパテントポリスをどのように運用するかという事です。二つ目は、刑事事件を取り扱う警察と検察と裁判所が特許権侵害判断を迅速に行なえるだけの現実的な能力を持てるのかという事です。これら二つの問題の解決の目処が出来る前に、パテントポリスの構想が外部に知られると、この構想がつぶれてしまうと危惧しました結果、特許庁にお知らせすることが大変に遅れたのです。」
「そうでしたか。それでは、その二つの問題の解決の目処ができたということですな。」と安岡は言った。
「そのとおりです。色々と経緯はありましたが、パテントポリスの活動を国防の一部と位置付けることで、これらの問題を
解決できるとの目処を得ることができました。すなわち、特許権侵害罪の適用という武器を装備したパテントポリスが、
日本国の防衛のために日本国の基幹産業を外国企業による特許権の故意侵害から迅速に守る活動であるので、パリ条約の
内国民待遇の適用は本来的に不要であるし、侵害者に特許権の故意侵害という外形を認めることができたなら迅速にそれを取り締まり、後になって当該特許権が無効になったとしても、又は侵害行為にあたらなかったとの判決が出たとしても、国家賠償の対象ともしないで良いとの基本原則を確立できたのです。また個別ケースでの侵害判断については、特許庁と知財高裁のご協力をいただければ、迅速性は担保できるものと確信しています。」と、パテントポリス準備室長の平野は警察庁長官の権藤を見ながら説明した。
「警察機能の中にも国防の部分は昔からあります。いわゆる公安警察がこれにあたります。パテントポリスを公安警察の新しい分野と考えてもらえれば、判りやすいと思います。」と権藤は補足した。



---------------------------------------------
(C) Copyright 2010 久野敦司(E-mail: patentisland@hotmail.com ) All Rights Reserved 

特許戦略マガジン

発行周期: 不定期 最新号:  2019/02/21 部数:  155部

ついでに読みたい

特許戦略マガジン

発行周期:  不定期 最新号:  2019/02/21 部数:  155部

他のメルマガを読む