特許戦略マガジン

☆特許戦略マガジン☆

第147号 2010年6月28日発行

● パテントポリス 夏子

第2話 パテントポリス準備室へ

「安岡長官、私は祖父の果たせなかった思いのために戦っているのです。」と、夏子はつぶやいた。
「どういう事だ。」
「祖父は、技術者でした。そして、十数年の研究の結果、遂に完全透明ゴムを発明したのです。そして、会社をおこしました。それが、青山特殊ゴム工業株式会社です。完全透明ゴムはレンズやガラスの結合部材として重宝されました。一時は、世界シェアの80%を獲得したこともあるそうです。」と、夏子は言った。
「しかし、祖父の会社の成功は長くは続きませんでした。完全透明ゴムの特許権を取得はしていたのですが、すぐに多数の中国企業が模倣品を販売開始しました。特許権行使を数社にはしましたが、相手の企業数が多すぎてきりがありません。青山特殊ゴム工業株式会社は売り上げ激減と訴訟費用負担が原因で倒産しました。祖父は亡くなる前に私に言いました。夏子は強い子だ。日本の技術屋を特許権で守ってくれ。」と、夏子は黒のギャランを警察庁の地下駐車場に向かわせながら言った。
「そういう事だったのか。君も苦労しているね。見た感じは、旧家のお嬢様という風情なのだが。日本の技術屋を特許権で守るという志は私も持っている。良い話を聞かせてもらったよ。」と、特許庁長官の安岡は自分に言い聞かせるかのように言った。
「私は、大学を卒業すると同時に警察庁に入り、主として外事情報部で海外からのスパイ活動の監視の任務にあたっていましたが、5年前に、パテントポリス準備室に転属になったのです。たぶん、私の祖父の事などが知られたためと思います。」と、言いながら夏子は、指を駐車場のゲートの指紋センサーに押し当てた。
すると、前方のゲートが開くのではなく、そのまま車体は地下に沈んでいった。
「パテントポリス準備室は、警察庁の地下にあります。車から出るところを見られてはならないため、こうして車ごとパテントポリス準備室専用の地下駐車場に向かいます。」と、夏子は言った。
「ところで、パテントポリスの任務を教えてくれないか。」と、特許庁長官の安岡は尋ねた。
「パテントポリスの任務は、日本の基幹産業を外国企業による故意の特許権侵害から守る事であり、国防の一部をなしています。したがって、個別の企業を守ることは任務とはしていませんし、日本企業相互の知的財産権紛争にもかかわりません。」
「パテントポリスの活動の根拠法は?」と、役人らしく特許庁長官の安岡は尋ねた。
「知的財産基本法第16条です。」と、少し上を向いて夏子は即座に答えた。
内閣官房政務官の木村新之助は、夏子のその時の表情を見て、女優の桃井かおりに似ているという印象を持った。
「現在のパテントポリス準備室の人員構成と現在の活動内容は?」と、木村は聞いた。
「室長と、10名のスタッフと、10名のパテントポリスです。パテントポリスは現役の警察官で、司法警察職員の資格を持ち何らかの技術分野の知識を備えた者の中から選抜されました。そして、それぞれ民間企業の知財部に社員として入社し、知財実務の能力を獲得しています。私も、某企業の社員ではありますが、その企業の誰にも気付かれないようにしています。スタッフは、パテントポリスの組織体制と法整備にあたっており、1年後の本格活動の準備に忙しくしています。」と夏子は答えた。
「安岡長官、我々が知らないだけで、着々と準備は進んでいたということか。しかし、団総理はいつからご存知だったのだろう?」と木村は特許庁長官の安岡に尋ねた。
「たぶん、団総理の知財人脈の中にパテントポリス構想の仕掛け人がいるのでしょう。」と、安岡は答えながら考えた。
「もしかしたら、あの研究会か?」
パテントポリス準備室の専用駐車場には3名が迎えに来ていた。
「私は、パテントポリス準備室長の平野です。そして、こちらはパテントポリスの聖子君で、こちらも同じくパテントポリスの百合子君です。二人とも、青山夏子君と同期でポリスアカデミーを卒業した逸材です。」
「パテントポリスの佐藤聖子です。よろしく、お願いいたします。」
「パテントポリスの小林百合子です。よろしく、お願いいたします。」
「現在、パテントポリスは男性5名、女性5名となっており、企業の知財部門を中心に社員として働きながら知財実務能力を獲得しています。そして、週末にはこの場所に集まって報告会と訓練に励んでいるという日々です。それでは、会議室にご案内します」と平野は言った。
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発行周期: 不定期 最新号:  2019/02/21 部数:  155部

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