ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」

【嶌信彦】時代をよむ 官民ファンド崩壊の教訓

2018年 12月 26日 vol.280

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官民ファンド崩壊の教訓
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安倍政権の新成長戦略の目玉として位置づけていた“官民ファンド”が崩壊寸前だ。民間が手を出しにくい事業に“官”がお金を出し、新産業を育てるという狙いだった。2012年に構想され、現在14ファンドが設立されている。その中心的存在だったのが、前身の産業革新機構を改組して設立した官民ファンドの「産業革新投資機構(JIC)」だった。政府は今後約95%を出資する大株主として関与し、新設された他の官民ファンドはJICの系列下に入る計画だったという。

ところがJICの田中正明社長(元三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長)がJICには「将来の産業競争力を強化するという理念で民間出身のプロが集まったのに、“官庁側に信頼関係を壊す行為がみられ、それが対立原因となって民間出身の取締役8人全員が辞任することになった”」と発表し、発足後二ヶ月半で休止状態となったのである。

対立の最大の原因は、最大1億円を超える役員報酬案を経産省が一旦了承しながら、内外から「高すぎるのではないか」と批判を受け撤回してしまったことにあったようだ。報酬については予算を担当する財務省が「高過ぎるのではないか」と批判し、この高額では国民の理解も得られない、と対立が表沙汰になり、さらにJICの下に孫ファンドをつくり自由度の高い投資を行なうことも考えていたが「孫ファンドの投資先や報酬体系が不透明」と批判され、情報開示やガバナンスのあり方にまで対立が広がっていた。

民間出身のJIC役員には冨山和彦・経営共創基盤CEOや坂根正弘・コマツ相談役らも社外取締役に入っていたが、官庁が介入してきたことによって、民間の最善の手法を活用する民間の官民ファンドでなく国の意向を忖度して運用する“官ファンド”へ変質してしまう。これでは国際的に活躍するベンチャー投資などは出来ない上に、国の意向を受けて不振産業を救済するだけの“ゾンビ”機構になってしまう。」として総退陣になったようだ。

結局、このシステムでは「将来有望なベンチャー企業を探して育成するファンドを目指すという目的は達成できないし、民間らしい機動的なファンドは出来ない」として手を引くことになったわけだ。

政府はこれまでJT株や税金などを原資に約7800億円の資金を官民ファンドに投じてきた。しかし、これまで投資した14ファンドのうち、8ファンドの投資額が国などの出資金の50%に満たなかった。魅力ある投資案件をみつけられなかったのだ。

また政府がこれまで設立した14ファンドのうち、既に6ファンドは成功していないといわれ、政府もムダ金投資の批判に耐えにくいと判断したことも背景にあるようだ。実際、農水省所管のファンドは6年間に1770億円の投資予定だったのに、実績はわずか90億円。総務省案件も1370億円の投資計画に対し50億円だった。収益が見込めないのに人件費と運営費だけで毎年10億円単位の経費がかさんでいるという。

そもそも民間ファンドは、民間のリスクで将来、宝となるような企業を探し当てるのが狙いなのだが、新産業の芽が出てこない昨今の経済の動きに業を煮やしたのか、政府が専門家を集めて投資先をみつければ官民ファンドも成功すると思ったところに甘さがあったのかもしれない。

所詮、保証をバックにした官のファンドは死ぬ気で成功させる気概も少なかったのではなかろうか。本気のベンチャー投資はリスクもあるが、そのリスクを認識して成功への道を探るのが本当の“ベンチャー”で、日本にはまだまだベンチャーが育つ土壌がないということなのだろう。

そもそもまだ成功した官民ファンドがほとんどないのに、国の出す報酬額を巡ってもめるところに、真のベンチャー精神が宿っているとはいい難いともいえる。まだまだ日本のベンチャー風土、ベンチャー精神は甘い?といえるのではなかろうか。機構の方もいくつかの成功例を出してから報酬アップを申し出ればよかったと思うが、少しふっかけすぎて世間の常識を見間違えたといえるのではないか。
【Japan In-depth 2018年12月23日】

◆お知らせ
・1月15日 国際交流基金主催 中央アジア公開セミナー「中央アジアの歴史と文化を語る」のご案内
 本セミナーは中央アジア交流ミッションの一環として行なわれるものです。嶌はメンバーとして2016年から2017年にかけて実際に中央アジアを訪問しています。中央アジア5か国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)から専門家を1名ずつお呼びし、各国の歴史や文化についてお話しいただくものです。
 日時	2019年1月15日(火曜日)15時~17時30分
 会場	都立中央図書館4階 多目的ホール 東京都港区南麻布5丁目7―13
 主催	国際交流基金、東京外国語大学
 詳細は以下を参照下さい。
 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/201812251

・23日 TBSラジオ『嶌信彦 人生百景「志の人たち」』21:30~
 ゲスト:吉永みち子氏(ノンフィクション作家)三夜目 音源掲載
 反対する母を説得して結婚した後、競馬記者を辞め主婦生活を過ごしたことや、再就職を決意し、作家デビューするまでの経緯などにつきお伺いしました。

 初回は、幼少期に父を亡くし母と二人暮らしになり、厳しい母の顔色を見ながら暮らしていた思い出や、学生時代から競馬の世界に入り込んでいった経緯など。二夜目は競馬の世界に興味を持ち女性初の競馬記者になるまでのエピソードや、憧れの記者生活、騎手のご主人との出会いなどにつきお伺いしました。

 次回は「第60回『輝く!日本レコード大賞』」放送のため、12月29日(土)20:30-21:00からの放送日時が変更になります。ゲストに東京大田区にある町工場・小松ばね工業会長の小松節子氏をお迎えいたします。
 http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20181225

・日本ウズベキスタン協会創立20周年記念新年会開催 ~本場のウズベク料理やダンス、ドゥタール演奏を堪能~
 早いものでウズベキスタン協会を設立してから20年も経ちました。そこで20年経過の記念すべき新年会としてゲストに中央アジア古代史の第一人者である前田耕作先生をお招きして「シルクロードと玄奘三蔵」と題して華やかな世界の中心となっていた時代の中央アジアの歴史を30分程度、語っていただくことになりました。その後、前田先生と嶌が現代の中央アジアの存在意義と将来、日本との関係について対談(15分程度)をする予定です。

 ウズベキスタン大使館差し入れの本場ウズベク料理やウズベクダンス、ドゥタールの演奏をお楽しみいただけます。
 [日 時]2019年1月26日(土)13:30~16:30
 [会 場]日本プレスセンタービル 10 階(千代田区内幸町 2 ─ 2 ─ 1) 
 [会 費]一般5,000円、会員及び同伴者3,000円、学生2,000円、留学生・外国人の方1,000円  
   詳細は以下を参照下さい。
  http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20181218

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嶌信彦オフィシャルサイト   http://www.nobuhiko-shima.com/

「日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた」特設サイト
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NPO法人日本ウズベキスタン協会サイト http://www.japan-uzbek.org/

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発行周期: ほぼ 平日刊 最新号:  2019/02/15 部数:  1,694部

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