古代史探求レポート

呪いは科学的で効力を持つものだった


カテゴリー: 2018年09月18日
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古代史探求レポート 2018年9月19日号
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古代の医療や治療方法というものに焦点を当てて見てきましたが、最後はやはり呪術というものについて考えて見たいと思います。
呪術とは「超自然的・神秘的なものの力を借りて、望む事柄を起こさせること。まじない・魔法など。」と定義されています。
「呪い」には「のろい」という訓と「まじない」という訓があります。どちらも「呪い」で同じ意味のようにも見えますが、私達は少し違う意味合いで使い分けているように思います。「のろい」という時には、少しオカルト的な意味合いを持たせているのではないでしょうか。
数ヶ月前に、「呪」の字は「祝」が源であり、そこから派生した字であるという説明をさせていただきました。「祝」は、非常に意味の良い字ですが、その成り立ちは、示す偏に兄と書きます。ただし、この兄は兄弟の兄と同じ形をしていますが、別の字です。
兄弟の兄の上の口は大きな頭を表していますが、呪いの兄は口の下にひざまずいた人を書いて、神に言葉をかける人、もしくは、神の言葉を話す人という意味を示しています。簡単にいえば、「巫女」ということになるのでしょうが、女性でなければならないということではありません。
「示」は台の上に書が置かれている形ですので、「祝」は神に何かを告げているのか、神から何かを授かったことを表しています。その言葉から、台と台の上の書が除かれ、口がつくようになったのが「呪」です。つまり、元々は、巫女の話す言葉を表したのが「呪」であったわけです。
「呪い」は、「人または霊が、物理的手段によらず精神的あるいは霊的な手段で、悪意をもって他の人や社会全般に対し災厄や不幸をもたらせしめようとする行為」と定義されていますから、現代では「悪意」のある事柄のみを示すようになってしまいました。
しかし、古代では呪術、呪いによって、病を直そうとし、また、災いから逃れようとしていたわけです。ここには、「悪意」ではなく、切なる「願い」があったのであり、また、「善意」による行為や言葉であったはずです。私達は「まじない」とよんで「善意」を示し、「のろい」と読んで悪意を示すようになったのだと思います。
言葉の意味が「悪意」のみを示すようになったのは、最近のことであるようです。「精神的あるいは霊的な手段」という言い方が正しいのか、「超自然的・神秘的なものの力を借りる事」という言い方が正しいのかはわかりませんが、そんなものは存在しないという認識が広まるにつれて、「善意」の意味合いはなくなったのだと考えることもできます。何も効果のないことを善意で実施することはないというのは、現代人の合理性が生み出した考え方のような気がします。
つまり、逆に言うと、非科学的であるから「悪意」が似合うということなのかもしれません。私たちは、物事は全て論理的でなければならないと教育されてきました。従って、現象が私たちの知りうる知識を超えて起こるとき、それは非論理的であり、ありえないことだから嘘であると結論づけます。そして、嘘は「悪」であるという考え方です。
確かに、今時、「霊が見える」とか「除霊しなければならない」などという言葉は、オカルト世界の言葉として非現実なものとして一括りにされて、最早マニアックな一部の人達の興味の対象でしか無くなっているのだと思います。
「霊がいるなら、いることを証明してください。」「見せてください」と言われます。見えないから「霊」なのですが、それでも、見せる必要があるために、写真に撮って空気中にキラキラしたものが写ったり、うっすら光の線が写るとそれが霊だと言い張ります。あまりにも酷い扱い方です。
日本人の中で、少なくとも一千年、千五百年、または二千年以上続いてきた風習や行事、言葉が本当に非科学的なものであったのかというと、私はそうは考えないのです。ある「霊媒師」が除霊すると、病気が治るという偶然が一度でも起こったとするなら、人々は、次も起こるのではないかと、ダメ元で信じ除霊を御願いするのではないかと思います。大切なのは、除霊により病気が治るということではなく、絶望の状況にいる人々の心の救いとなっておるのだという事実です。それは、宗教に似ているのかもしれません。
子供が転び怪我をすると、痛みに泣き出します。泣くことで不安を発散させているのかもしれません。そこで「痛いの痛いの飛んでいけー」という呪い(まじない)の言葉をかけられると、なぜか痛みが軽くなったような気がします。
痛み自体は、怪我の部位が発するものではなく、脳が発するものですから、脳になんらかの麻酔をかける物質が出て、痛みを和らげてくれているのだと思います。同時に、子供にとってみれば、呪いをかけてくれる人の存在そのものに、安心し気持ちが落ち着くのだと思います。これは、結局鎮静剤と同じ働きをしていることになります。
つまり、「痛いの痛いの飛んでいけー」という呪いの言葉は、超自然的・神秘的なものではなく、霊的な手段によっているものでもないのです。この呪いは、臨床心理士が実施する非常に科学的な治療と同じことがなされているともいうことができると思います。そう考えていくと「呪術」や「呪文」というのは、一つの技術であり、また、薬と同じものであったのではないかと思うのです。
京都の貴船神社は「丑の刻参り」という非常に形式化した呪術を持っています。白衣を着て、頭にはロウソク灯して突き立てた鉄輪を付けて、丑の刻に、神社の御神木に藁人形を五寸釘で打ち込むという、世にもおどろおどろしい呪術です。七日間誰にも見られずに続けることができると、相手を呪い殺すことができると言われています。
冷静に考えると、藁人形を作り、白衣を着て、頭にはロウソク灯して突き立てた鉄輪を付ける姿をした時点で、非常に大きな労力を必要とします。その上、深夜一時過ぎに神社の奥深い山に入って行って、五寸釘を1週間もの間打ち込むわけです。この労力たるや大変なものです。
これを成し遂げるほどの憎しみを持った人が、この丑の刻参りをしなかったとしたら、その女性は抱いている憎しみをどこにぶつけるのでしょうか。最早、相手を直接刺し殺すぐらいの行為しか存在しないのではないでしょうか。そう考えると、この丑の刻参りというのは、憎しみの感情を発散させる最良の方法だったと言えるのかもしれません。
京都市内から車で約1時間ほどの山の中にある貴船神社は、少なくとも天武天皇時代には社殿が作り変えられたという記録が残る非常に古い神社です。大河である淀川の上流の鴨川のそのまた上流の貴船川の水源地です。人里離れた山の中にあり、水源地であることから、雨乞いの神として非常に重んじられました。
地中から水が湧き出る湧水地としての不思議、天候という人間の力を遥かに超えた存在は、古代の人にとって理解のできないもの、神秘的なものであったことは間違いありません。雨を降らしてくれる神が存在したとするなら、その神の力により人を呪い殺せると考えても決しておかしくはないのです。
今でも、貴船神社には、多くの灯籠が整備されており、夜でも参ることができるようになっています。古くから、夜参りの風習はあったようで、これは貴船明神が降臨したのが「丑の年の丑の月の丑の日の丑の刻」だとされているためのようにです。
丑の月は12月です。12で回りますから、丑の日は特定できません。12年に一回、12月のある日の午前1時から3時迄、まさしく極寒の季節に丑の刻参りが実施されていたのです。そのチャンスが稀有であればあるほど、貴重さが増します。多くの人がお参りするようになったことは、十分に考えられます。
それが転じたのでしょうが、呪術としての丑の刻参りが完成したのは江戸時代になってからと言われます。コスチュームの劇場性などを考えると、芝居の世界から飛び出してきたのではないかとも感じます。呪いとは得てしてそういうものなのかもしれません。
雷がなると、多くの人が「クワバラクワバラ」と言います。今の若者には「クワバラ」の存在がわかりにくいかもしれませんが、「桑原」のことで、桑畑のあった場所です。いろんな地域に、地名として残っています。
桑の木は、蚕の餌として昔はいたるところにありました。非常に低木です。ですから、桑畑に雷が落ちたというのは聞いたことがありませんし、可能性は非常に少ないのだと思います。雷が鳴った時、外にいた人達は「桑原に行け」と言い合ったのではないでしょうか。そこで、雷を避ける言葉として「桑原桑原」というのものが残ったのだと思います。
私は、例え、科学の知識が未熟であったとしても、人々は経験やまた今以上の自然物への観察眼から、何が真実で何がデタラメかということはわかっていたと思います。古代の人も、体系化された知識は少なかったのかもしれませんが、知恵はあり、自然に対する情報量というのは、それなりに持っていたと思うのです。
丑の刻参りの呪術は雨乞いの夜参りが転じて作られたものであり、雷の時の「クワバラクワバラ」は危ないぞと呼びかけあった言葉が残ったものなのです。「痛いの痛いの飛んでいけー」の呪文は、子供達に効果があったからこそ長い間人々に伝えられてきた呪文なのです。
現代人の私達であっても、家を建てるとなると、地鎮祭をしたり、棟上げをします。地中の断層のずれや、プレート運動によって地震が引き起こされるものだとわかっていても、地中のナマズが暴れると信じられた頃と同じように、祈祷をして、お祓いをし、祈りを捧げます。家が無事に建つのは、基礎を深くしっかり作る土建会社の技術力だということを知っているのですが、それでも、祈りを捧げます。
車に事故がないようにお祓いをするのもそうです。車の性能と、運転技術であるとわかっていても、お祓いをします。それは、心の落ち着きを得るため、偶然がもたらす事故に対して何らかの力が働いて欲しいという願いです。
非合理であることはわかっていても、それで安心が得られるのなら良いと考えるからです。呪文や呪術というのは、決して非科学的なものではなく、非常に科学的なものなのです。数学的な確率を使った心理学の応用であり、呪文や呪いは本当に効力を発揮するのです。天災から逃れることはできなくとも、天災に対する心の余裕を生み出します。その心の余裕が生活を豊かにし、ストレスを無くしてくれるのです。
呪いは、アドレナリンにより高揚した神経に対して、セロトニンを分泌させ血管の緊張をほぐし、ヒスタミンの分泌を誘って高まった血圧を降下させ、ドーパミンによって痛みを和らげるのです。そう理解すると、呪術師やシャーマンは詐欺師であるのではなく、臨床心理士であるのです。非科学的だと言って、呪文や呪いを否定するのではなく、それを信じることで、現実に痛みが和らぎ、心の安定を得られるのであれば、それを素直に受け入れることが得策であるとも言えます。
呪い殺すとか、災いをもたらすという力は全くなく「悪意」に対しては驚くほど無力であるのです。しかし、呪い殺されようとしていることを理解すれば、相手の行いに改善が見られるかもしれません。そういう意味では、呪術を使うことを公言する方が効力があるということになります。
私達の生活の中に根付いている、呪文やまじないの文化は、日本人が何年もかけて見付け出した、本当に効力を持つ魔法の言葉なのです。そしてその多くは意味を持ち、私達の先祖の知恵なのです。これを大切にしない理由はありません。馬鹿にして無視するのではなく、呪術はできるだけ公にして使い、そして、疑わずその力を信じることで、大きな効果を得ることができるのです。私は、これからも使い続け、伝え続けていきたいと思います。
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<<編集後記>>
「カメラを止めるな」という映画を見てきました。皆様はご存知でしょうか?制作費300万円という低予算で作られた映画ですが、面白いと評判になり、多くの映画館で上映されるようになっています。
この舞台となったのは、川口市のSKIPシティです。もしかすると、彼もスキップの出身者なのかもしれません。SKIPシティは映像に興味のある若者が集まる場所です。この、歴史探求社もSKIPシティで生まれました。映画も作っていたんですよ。非常に懐かしく見させていただきました。
「カメラを止めるな」の中にも「血の呪文」という言葉が出てきます。これも何かの縁なのかもしれません。

<発行者> 株式会社歴史探求社
<公式サイト> www.rekitan.co.jp
<問い合わせ> web@rekitan.co.jp
<登録・解除> http://www.mag2.com/m/0001587982.html  

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