九雀通信

弟子、親元へ帰る


カテゴリー: 2016年10月04日
久しぶりにマグマグ当局から「発行を怠けてまっせ」とお知らせがきましたので、書きます。
前回から半年経ちましたので、それはそれは、いろんなことがありました。

前回は、弟子・九ノ一(くのいち)が来たところで終わっておりました。
(※ 豊中市の自宅には、家内の弟子・鏡(きょう)ちゃんがおりますので、九ノ一の内弟子生活は、私と父が住む兵庫県三田市にて)

昨年末から時々稽古に通ってきておりました前田将輝(まえだまさき)くん20歳は、
3月1日に、桂九ノ一として、内弟子になり、初舞台もその日に踏み、長い落語家人生の始まり・・・
になるはずでした。

ところがどっこい。
わずか4ヶ月半経った7月17日(日)の午前中に九ノ一が「辞めたい」と言い出しました。
理由は言いませんでしたし、聞きもしませんでした。
聞いたところで「それやったらしゃあないなぁ」という理由であるはずがないですから。

その1週間前に参議院議員の選挙がありまして、現住所のある豊中市上新田へ、投票のために帰らせました。
直後にこの発言ですから、地元で誰かに会ったり、話をしたりして、帰りたくなったのだろうと、これは誰にでも想像できることです。
いわゆる里心がついたというやつ。
一種のホームシックです。

シックというぐらいですから、病気です。
無理に内弟子を続けさせて、精神に異常をきたしては困りますので、とりあえず親元へ帰らせることにしました。
親御さんが
「自分から頼み込んで弟子になったくせに、甘えたことを抜かすな。帰って来ることは罷りならぬ。」
とおっしゃったら、もう少し置いておこうと思いましたが、どうやら暖かく迎え入れはるようでした。
この時点で、内弟子という修行形態は継続しないことに決定しました。
言い方を変えますと、擬似家族になって芸を伝承する関係ではなくなりました。
下世話な話ですが、そうなると金銭的援助もしません。家族じゃないので。
衣食住、交通費、習い事のお月謝などが、以後はすべて自前になります。

そんな精神状態ですから、落語をやる気力は失せております。
いや、逆に、落語をやる気力が無くなったから、「おうちへ帰りたい」となったのかも知れません。

去年10月に彼が繁昌亭へ「弟子にして下さい」と訪れた時に持参した履歴書が、ここにあります。
「志望の動機・・・」の欄に
「落語が好きで落語になりたいです。」と書いてあります。
「落語家(ラクゴカ)になりたい」では無く「落語(ラクゴ)になりたい」です。
落語そのものになりたい。
ひたむきまでの落語愛です。
それが、こんなに早く覚めるとは。

そんな無気力状態ですから、決まっている高座も勤められません。
二葉さん、染八さん、あおばさんに、それぞれ助けて頂きました。
お笛、踊り、お習字などのお稽古事も全て辞めました。
あとは、荷物をまとめて早々に出ていくだろうと思っていました。

ところが、なかなか出て行こうとしません。
月が変わって8月になりました。
うちとしては、理由があって(次号に書きます)、8月いっぱいには出て行ってもらわないと困ります。
そこで、こちらから指示して、8月16日(火)に親元へ帰ってもらいました。

落語そのものになりたいぐらいだったのが、無気力になった人間に、良い噺が出来るはずもないので、落語を演じるのは、もうやめたら良いと思います。
それでなくても落語家は多すぎますのでね。

ただ、「弟子」は簡単には辞められません。
前田将輝という人間の気まぐれで弟子入り志願をしてきてから、周りの人間はさまざまな物を、彼のために費やしております。
心、時間、お金など。

見知らぬ青年を家庭へ受け入れる決意をしたうちの家族。
ご指導下さった、各お稽古ごとの先生・師匠がた。
修行仲間として親身に話し相手になった岡野鏡ちゃん。
楽屋で様々な指導をしてくれたお兄さん、お姉さんがた、先輩落語家さん。
初舞台以降、期待と応援の気持ちで見守って下さったお客様。
九ノ一の入会を承認して下さった協会理事の皆さん。
九ノ一の名前が入った今年の系図手拭いを作ってくださった上方落語協会。
同じく名前の入った手拭いを久し振りに作って下さった米朝事務所。

お金を払って入る学校やカルチャーセンターとは違って、本人は善意を享受するだけの恵まれた世界です。失うものは何もありません。
前田君はうちへ来る前に、吉本の学校NSCに入って、すぐに辞めたのですが、あっちは大枚払って入ってます。
それとこっちを一緒にしてもろたら困る。
上記の恩を全て返してからでないと、弟子を辞められへん理屈です。

「おうちへ帰りたい」というぐらいですから、まだ精神的には子供なのですが、間もなく21歳になろうという男です。
しかも自分から進んで、この大人の世界へ入ってきたのですから、ここはひとつ大人の世界のルールを学んで、子供から大人に成長してもらおうではないか、と考えております。

彼は初対面の時に私にこう言いました。
「僕は何をやっても続かなかったので、そんな自分を変えたい」と。
そして私は入門前に彼にこう言うたんです。
「言うとくけど、やめさせへんで。」
双方の意見が一致してますやん。
長年温めておいた名前を付けたんです。
そう簡単にやめられては困ります。
弟子は続けて貰います。

そんなわけで、現在、九ノ一は「内弟子」でも「通い弟子」でもなく、「現場直行弟子」という立場です。
「いきなり九雀の日」に、いつ登場するのかと楽しみにしておられた方、
また「九雀さんが厳しいさかい、なかなか高座で喋らせて貰われへん」と思ってらした方、
これで、色々な謎が解けたことと存じます。

「弟子が落語をやらない師弟関係」
おお!
松之助師匠とさんま兄さんみたいですやん。
私も90歳まで生きるさかい、
九ノ一、お願いや。さんまさんみたいに売れてくれぇ。

九ノ一の話題で終わってしまいました。近々次号を。

<ツイッター>
公演情報 hataraku_kujaku
普通のツイート katsurakujaku

<facebook>
「桂 九雀」の名前にて。

<ホームページ>
http://www.rakugokobo.jp/ 落語工房 

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