ニュージーランド移住記録「西蘭花通信」

「西蘭花通信」~家を失った普通の人たち~ Vol.0729


カテゴリー: 2017年05月07日
またまたお久しぶりになってしまいました。間が空いてしまってすみません。
北半球は風薫る5月ですね。オークランドはぐっと冷え込んできました。

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「西蘭花通信」経済編 ~家を失った普通の人たち~  Vol.0729  2017年5月7日
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土曜日の朝、私と夫は週末のファーマーズマーケットに行こうとしていました。
道の脇にクルマを停め外に出るや、すぐ脇の芝地に女性がひとり座っていまし
た。なぜかとても不思議なものを目にした気がして、クルマから帽子やバッグ
を取り出しながら、私は見て見ぬ振りをしつつ、つい彼女を盗み見ていました。

女性は30歳前後の白人で、黒縁の眼鏡を掛けていました。化粧っ気のない肌は
全く陽に焼けておらず、やや赤味を帯びた髪を後ろにまとめていました。オフ
ホワイトのブラウスに制服のようなグレーのスカートをはいており、私たち観
光客はもちろん、誰もが寛いだ格好の土曜日とあっては、まるで勤めにでも行
くようなきちんとしたいでたちでした。  

彼女はその格好で芝の上に何も敷かず、ペタンと座っていました。手には小さ
なペーパーバックを持っていましたが熱心に読んでいる風でもなく、なんとな
くこちらを見上げています。自然と目が合い私が会釈をすると、彼女もはにか
んだように小さく微笑みました。そして本に目を落とすのではなく、曖昧に微
笑んだまま私たちをじっと見ています。請うような訴えるような、後髪を引か
れる視線を背中に感じつつ私たちは市場に向かいました。

「今の人、見た?」
私が聞くと、
「見た。」
夫が短く答えました。
「ホームレスなのかしら?」
「そう思った。」
話を切り上げるように、夫が再び短く答えました。

とても不思議に感じられたのは、一目で彼女がホームレスだとわかったからで
す。いくら芝地でもそこはガソリンスタンドの裏の空き地。公園の一角のよう
にピクニックをするような場所ではありません。現に彼女以外、誰も座ってい
ませんでした。さらに彼女の周りにはパンパンに膨らんだ袋がいくつか置いて
あり、持ち物全てを持ち歩いているのは明らかでした。

「あんなに普通の若い女性が・・・・」
見てはいけない秘密を目にしてしまったような気になり、私たちは彼女の話を
切り上げました。しかし、あの時の衝撃は1ヶ月以上経った今でも私の中に残っ
ています。女性に会ったのは4月初めのハワイでした。結婚26周年でハワイ島を
訪れていた私たち。到着した時から人口の割りにホームレスが多いことに驚い
ていましたが、その中でも彼女の存在は格別でした。

学校の先生か図書館司のような、不潔さもすさんだ感じも微塵もないきちんと
した身なりの若い女性。私が持っていた路上生活者のイメージを根底から覆す
ような存在でした。彼女の周りに置かれた袋がなければ、例え妙な場所に座っ
ていたとしても、ホームレスだとは気づかなかったことでしょう。自分が目に
したものが信じがたく、思わず夫に聞いてしまったほどでした。夫も同じ想い
だったと思います。

旅行中の身でなかったら、NZの知らない同士でも声を掛け合う風土であれば、
つい
「どうかしたの?」
と声を掛けてしまいそうでした。それは彼女の身の上を知りたいという好奇心
ではなく、彼女の置かれた信じがたい立場を打ち消すために、あえて何でもな
いように振舞いたい、むしろ知り合いになってみたいという強い衝動でした。
「そんなばかな、そんなばかな、そんなばかな・・・・」
そんな想いが私の中にこだましていました。

その1ヵ月後のオーストラリアで、今度は「55歳以上の中高年女性のホームレス
が急増中」という新聞記事を目にし衝撃を覚えました。シドニーの中央駅周辺
には多数の路上生活者がおり、物乞いをしている女性も何度か見かけました。
統計によれば過去5年間でこうした女性は44%増加し、全国に約1万人いるのでは
ないかと見られています。政府の統計では今後20年間で、50万人の女性が行き
場を失うという恐るべき数字も出ています。

中高年女性が家を失う理由は、離婚、夫との死別、家庭内暴力、低賃金やパー
ト仕事、上昇する一方の家賃といった状況が重なることで、自分でも思いもよ
らずにホームレスになってしまうのだそうです。以前の彼女らは専業主婦だっ
たり、パートで働いたりしながら子育てを終え、持ち家があったり事業を営ん
でいたり、ごくごく普通の人たちでした。それが何らかの理由で夫を失うこと
で収入も失い、生活に行き詰ってしまうのだそうです。

自分が今年55歳になったせいか、新聞の「55歳以上の中高年女性」という見出
しには思わずギクッとしました。同時にあのハワイの明るい日差しの下にペタ
ンと座り込んでいた女性を思い出し、ホームレスということが生まれて初めて
足元まで打ち寄せるさざなみのように身近に感じられました。それはどこか遠
い寂れた浜辺の荒波なのではなく、人々が泳いだり寝転がったりしている平和
なビーチにもひたひたと押し寄せているものだったのです。レースのようなさ
ざなみはやがて、踝へそして膝へと刻々と満ちてくることでしょう。

ホームレスは自動的に路上生活者と訳されてしまいますが、実際の定義はさら
に広く、車上生活者、友人親類宅を転々としている人、キャンプ場や簡易宿泊
所などで暮らす人々も含む、文字通り家を持たない人たちを指しているそうで
す。何かの事情で家を失った普通の人たち――― 今まで視界に入っていても
全く見えていなかった人たちが、初めて見えた気がしました。ハワイの彼女の
恥ずかしそうな、遠慮がちのはにかんだ笑顔。なぜあの素直な表情に声を掛け
られなかったのかと、今になって悔やまれてきました。

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「マヨネーズ」

シドニーで新聞を開いただけで目に飛び込んできた、普通の人々のホームレス
化の話。その一方で「プライベートジェットで行く究極の南米」という記事が
あり、家1軒買えそうな値段のマクラーレンの宣伝も。これが果たして本当にニュ
ーノーマルなのだろうか?

西蘭みこと

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