ニュージーランド移住記録「西蘭花通信」

「西蘭花通信」~移住後20年の果て~Vol.0745

カテゴリー: 2018年12月04日
お得意のご無沙汰で、またまた間が空いてしまいました。すみません(汗)
先月書き始めたときにはまだ次男が家にいたのですが、配信する今日はすでにヨーロッパに
います。今頃ウィーン入りしているかも?

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「西蘭花通信」Vol.0745:NZ編 ~移住後20年の果て~ 2018年12月4日号
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「クリスの親、フィリピンに帰るかもしれないんだって。」
ふらりとキッチンに入ってきた次男・善(21歳)が唐突に言いました。
「えぇぇえ!どうして?永住権持ってるじゃない。もうすぐ年金なんじゃないの?」
「そうなんだけど・・・」

クリスは善の子どもの頃からの友だちで、今でも仲良くしています。両親はフィリピンから
の移民で、「子どものためにより良い生活を」という母親の強い希望で、20年前にNZにやっ
てきました。善と同い年のクリスが生まれたばかりの頃のことでした。当時は一定条件さえ
満たせば外国人は永住権が取れたので、一家は一度もNZを訪れることなくフィリピンで永住
権を申請をし、永住者として入国しました。

母親は会計士でした。英語も話せたので、仕事が見つかるだろうと思っていました。しかし、
多少の蓄えなど吹き飛んでしまう本国とNZの物価の違いに、着いた翌日には社会保障の窓
口兼ハローワークでもあるワーク&インカムに駆け込みました。すぐに生活保護に相当する失
業手当など社会保障が提供されたそうです。

本国の給与水準から比べたら、驚くほど高額の手当。しかし、それまでずっと働いてきた母
親には着いた翌日から生活保護受給者になってしまったことがショックで、安堵と無念さ、
移住の喜びと生活への焦りで複雑な心境だったそうです。父親は英語が話せなかったので、
就職するなら「自分しかない」という責任感も感じていました。

必死の求職にもかかわらず、20年前のNZでは英語が話せてもネイティブではない移民が会計
の仕事を見つけるのは容易ではありませんでした。さらに言えば、NZは1997~98年にかけて
のアジア通貨危機から大きな痛手を被り、一家が移住してきた頃は非常に景気が悪かったは
ずで、失業率も8%を目前にし現在の3.9%とは雲泥の差でした。

やっと見つけた唯一の仕事が幼稚園の先生でした。今のように資格を問われず、雇用されれ
ば誰でも先生になれた時代でした。定職について生活保護から自立するために、クリスの母
親は幼児教育という畑違いの世界に飛び込んで行きました。他人の子どもを預かるという職
務は想像以上に重く、毎日毎日疲労困憊になる思いでした。しかし、賃金は政府が定める最
低賃金水準で、一家の生活は非常に厳しいものでした。

母親が働きに出たことで、父親が家でクリスと軽い障害のある兄の面倒をみていました。そ
れでも家計を助けようと、限られた時間でもできる仕事を探しましたが、ほとんどが期間限
定の仕事で、なかなか定職に就くことができなかったそうです。その中でもクリスと兄はス
クスクと育ち、すっかりキウイの子となっていきました。

一家の生活苦はその後も続き、
「みんな、着なくなった服をクリスにあげたりしてるよ。」
と、善が言っていたこともありました。クリスは明るい性格で、いるだけで場が華やぐよう
な人気者でした。家計についてもオープンで秘密はありませんでした。大学の進学は、政府
が支給する返済義務のない学生給付金と借入金利のない学生ローン、フルタイム雇用並みの
週40時間の早朝からのカフェのバイトで、なんとか切り抜けました。

学業とバイトを両立するためにはシティーに住むしかなく、その負担もあって通常3年で卒業
するところを4年をかけ、いよいよ今年で卒業しました。NZには日本のよう新卒者の大量採用
制度がないので(世界的に見れば日本が特殊なんでしょうが)、クリスはこのままカフェで
働きつつ就職先を探すそうです。学業を終えれば給付金がなくなり、働けば学生ローンの返
済が自動的に始まります。給与は学生時代と変わらない最低賃金の時給制。シティーに住む
のが精いっぱいで、親を助けるどころの話ではないようです。

「お母さんは60代になって、ホントに仕事が辛いんだって。今までもずっと我慢してたらし
いけど、クリスの大学が終わって、これ以上無理する理由がないって思い始めたらしい。」
「60代なら年金まであと数年じゃない。」
NZは65歳になれば国民と永住者に国から一律の老齢年金が支給されます。
「でも、クリスんちってお母さんの方が年上なんだ。お母さんがリタイアしたら、お父さん
が65歳になるまで年金だけで暮らせないんだって。貯金もないし、お父さんも60近くなって
ほとんど仕事がないし・・・・」

クリスが家を出てから一家はさらに小さなアパートに引っ越し家賃の節約に努めていますが、
母親が仕事を辞めたら家賃の支払いどころか生活が立ち行かなくなってしまうため、「親
族を頼って帰国しよう」というところまできたそうです。その際に障害のある兄をどうする
のか、帰国しても年金があるわけではなく、NZの年金も失い、本当に暮らしていけるのか、
心配は尽きません。しかし、移住後ついぞ安定した職に就けなかった父親の郷愁の念は年を
追うごとに深く、母親の疲労も限界なんだそうです。

懸命に生きてきた一家の移住後20年の果て。善と2人、それ以上言葉が続きませんでした。

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「マヨネーズ」
「お母さんは残りたいんじゃない?いつかクリスが結婚して、孫が生まれたら面倒みたいん
じゃない?ずっと他人の子の面倒をみて、自分の子はお父さんがみてたんだから。」
「だと思うよ。あのお母さんなら。幼稚園でも人気のおばあちゃん先生なんだって。」
善はクリスの家に幾度となくお邪魔し、主にお父さんの手料理でもてなされてきました。私
はご両親にはお会いしたことがありませんが、あの親思いの明るいクリスが、NZにひとり取
り残されることがないようにと祈るばかりです。

西蘭みこと

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