名言名句マガジン[言の葉庵]

春宵一刻直千金。【言の葉庵】No.108

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┣┫OW┃O                 春の夜の魔術 2019/1/1
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新春の名言名句は、蘇軾「春宵一刻直千金」。春の夜に、幽玄はその影を垣間見せてくれます。言の葉庵、1月-2月の新講座情報をお知らせします。能と茶道の現地体験講座で日本文化に直接触れてみましょう。

…<今週のCONTENTS>…………………………………………………………………

【1】名言名句 第六十二回         「春夜」春宵一刻直千金
【2】カルチャー情報         新春能と茶道、特別体験講座

編集後記…
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【1】名言名句 第六十二回         「春夜」春宵一刻直千金
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春宵一刻直千金。
~蘇軾(蘇東坡)『春夜』


今回の名言名句は「春宵一刻値千金」。
宋の代表的詩人、蘇東坡「春夜」よりご紹介しましょう。


「春夜」 蘇軾

【原文】
春宵一刻直千金
花有清香月有陰
歌管楼台声細細
鞦韆院落夜沈沈


【読み】
しゅんしょういっこく あたいせんきん
花にせいこうあり 月にかげあり
かかんろうだい 声さいさい
しゅうせんいんらく 夜ちんちん


【訳文】
春の夜は、ひとときが千金にもあたいするのだ。
花は夜香をただよわせ、月はおぼろ、暗夜にかかる。
高殿の歌や楽の音も、今はひそと漏れ聞こゆるばかり。
中庭のブランコはぽつりと取り残され、夜が深々とふけていく。

【語解】
直:値と同。値段。
歌管楼台:たかどのでの歌声や管弦の音。
声細細:音がかぼそい様子。「寂寂」としているテキストもある。
鞦韆:ブランコ。女子の遊具とされていた。※注1
院落:中庭。
沈沈:夜が静かにふけていく様子。

※注1
「鞦」「韆」はそれぞれ1文字でもブランコの意味を持つ。古くは中国で宮女が使った遊び道具(性具)をさす。遊戯中、裾から宮女の足が見える。これが帝の目に留まって夜伽に呼ばれることから、艶かしいイメージを持たれていた。蘇軾の漢詩「春夜」の鞦韆は、皇帝との夜の営みを隠喩するという説もある。(『角川俳句大歳時記 春』2006年)

【押韻】
同詩は七文字が四行からなる、七言絶句という形式です。金(キン)・陰(イン)・沈(チン)が韻を踏む(押韻)。句末の音が持続・開放系ではなく、下へ、内へと沈んでいく春夜のイメージを聴覚化したものです。


春の宵には、墨一色ではないさまざまな色合いとものの気配、複雑な生き物の濃度がまじりあっています。
漢字28文字に過ぎないこの短い詩に、蘇東坡は視覚・聴覚・嗅覚・触覚をことごとく呼び覚まし、あたかも今日ドローンで撮影した4k映像以上の、生の豊かなイメージを創出しました。
生と死が濃厚な匂いを発する春の宵。そこには千金万金にも代えがたい、宇宙の真実がひそんでいます。肉眼では決して見えず、人の耳では決して聞こえてこない、奥深い“幽玄の境”といえましょうか。
そしてまた、「無一物中無尽蔵」で詠んだ悟りの風景にもつながっていく、永遠の春の詩が蘇軾の「春夜」なのです。


・蘇東坡(蘇軾)

蘇 軾(そ しょく)1037 -1101。中国北宋時代の官人、詩人、書家。東坡居士と号したので、一般に蘇東坡(そとうば)とも呼ばれます。
北宋最高の詩人とされ、文人としては韓愈・柳宗元・欧陽脩らとともに「唐宋八大家」と称されています。また書家としては、米芾・黄庭堅・蔡襄とともに「宋の四大家」と称される、中国を代表する文化人です。



・能〈田村〉への引用句

春の名作能〈田村〉には、シテ・ワキの名所教えの段落で、当句が引用されます。

ワキ げにげにこれこそ暇惜しけれ。こと心なき春の一時
シテ げに惜むべし
ワキ 惜むべしや 
シテ・ワキ 春宵一刻価千金。花に清香。月に影
シテ げに千金にも。替えじとは。今此時かや

清水寺から、清閑寺、今熊野観音、鷲の尾の寺、音羽山へと、シテとワキがお互いの視線を追いながら、春都の絶景をながめるシーンです。
「春宵一刻価千金」と感動を分かち合いつつ共に吟ずるくだり。
旅の僧と社殿の童子が、あたかも恋人同士のように袖引き合いながら、互いの心に春のおぼろ月をかけあう。
引用元の「春夜」になまめかしい暗喩があるとしたら、能作者はそのイメージをも物語の背景に意図して盛り込んだものかもしれません。
とかく春の夜は、もの狂おしいものです。




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【2】カルチャー情報         新春能と茶道、特別体験講座
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言の葉庵(講師:水野聡)の新春新講座のお知らせです。

1.日本文化体験交流塾 「能と茶道、特別体験講座」


■【新春特別企画】葛飾区山本亭でのお茶会・講義と柴又まち歩き
https://www.ijcee.jp/culture/tea/ceremony-yamamototei/
葛飾区にある本格茶室での初釜点前体験と、中世茶会の歴史をたどる講座をミックスした初の体験型茶道入門講座です。新春の雅なひととき、歴史と文化を実際にご自身の肌で感じながら学んでいけます。

日時 2019年1月29日(火)10:00~15:00
場所 葛飾区帝釈天 山本亭
講師 茶道体験:山口和歌子(日本文化体験交流塾 副理事長)
   茶道史講座:水野聡(能文社 代表)
プログラム A.山口講師による初釜茶会体験
      B. 柴又まち歩きとお昼休憩
      C.水野講師による茶会の歴史講座


■はじめて見る能狂言講座&能楽堂体験見学ツアー
https://www.ijcee.jp/jculture-mizuno-noukyougen190205/
能の歴史と鑑賞ポイントを学ぶ実践講座と、神楽坂にある由緒正しい能楽堂を実地で見学する体験ツアーをミックスした、体験型能狂言入門講座。
普段は入れない能楽堂のバックステージ見学と観世流能楽師による謡と舞のワークショップもあります。

日時 2019年2月5日(火) 10:00~15:00
場所 港区 日本文化体験交流塾 研修室(午前)
   神楽坂 矢来能楽堂
講師 水野聡(能文社 代表)
   デモンストレーション 奥川恒治(観世流 能楽師)
プログラム A.はじめて見る能狂言講座(午前)
      B. 休憩と各自による移動
      C.矢来能楽堂見学会と能の実技デモンストレーション


2.寺子屋素読の会 2019年新講座

寺子屋では、本年2月度より、能の新講座がはじまります。

■Bクラス「能の名曲」
http://nobunsha.jp/img/terakoya%20annai.pdf

日程 2019年2月8日(金)~ 初回講座開始予定
毎月第二金曜日13:00~14:30
場所 新橋 生涯教育センター ばるーん 会議室
講師 水野聡(能文社 代表)


能の名曲を一作品ずつ読んでいく鑑賞講座です。
2019年2月度より、寺子屋Bクラスでは、名作能を1 回に1作品ずつ、解読、鑑賞する講座がはじまりました。 能の永遠の名作、『井筒』『敦盛』『葵上』『松風 』…。これらの曲が何百年もの間、愛され続けている理由は、源氏物語・伊勢物語・平家物語など、古典の名段落・エッセンスが、ふんだんに散りばめられているから。本講座では、能の実際の舞台と作品世界を重ね合わせてくわしく解説・案内していきます。古典原作の音読、ビデオ鑑賞と、ひとつひとつのシーンのわかりやすい説明もあります。

・各回予定スケジュール 
※進行状況により変更の可能性あり。

第一回 『井筒』 
第二回 『敦盛』 
第三回 『葵上』 
第四回 『鵺』 
第五回 『松風』 
第六回 『俊寛』
第七回 『遊行柳』『江口』 
第八回 『鉄輪』 
第九回 『景清』 
第十回 『羽衣』 
第十一回 『邯鄲』 
第十二回 『道成寺』


……………《編集後記》………………………………………………………………
年末に映画、「こんな夜更けにバナナかよ」を鑑賞。予告編で感じていた印象とは、まったく違う作品だった。心から共感を覚え、生きることの尊さが肌身に染みる。前田哲監督も原作を読むまでは、よくある感動実話、悪く言えばお涙頂戴ものかと勘違いしていたそうな。実力派俳優の渾身の演技とあいまって、命とは何か、生きるとは何か、与えることが実は与えられることである、と確信した。障がいをもたぬがゆえ、心を損じた者どもに、強制的に見させたいと思う。

欠け茶わん われと年こせ底の虫
 (庵主 平成末歳)
                              (言)
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■編集長 水野 聡    info@nobunsha.jp 
■発 行 『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/
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発行周期: 隔週刊 最新号:  2019/01/01 部数:  318部

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