石平(せきへい)のチャイナウォッチ

無意味となった中国の「追加金融緩和」

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2012.05.15 No.180号 
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~誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考~
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■ 無意味となった中国の「追加金融緩和」
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5月12日、中国人民銀行(中央銀行)は
市中銀行から強制的に預かる資金の比率を示す預金準備率を
18日から0.5%引き下げると発表した。昨年12月、今年2月に続く
3度目の引き下げであるが、その狙いは当然、
深刻な減速局面に入った中国経済の景気を下支えることにある。

今年の1~3月期における中国経済の成長率は
近年以来希有の8.1%に沈み、5四半期連続で減速してきている。
4月に入ると、経済の沈みはよりいっそう鮮明な傾向となった。
国家統計局は5月11日発表した4月の経済統計によると、
工業生産は前年同期比9.3%増と、約3年ぶりの低水準に沈んだという。
そのうち、軽工業は10.3%増だが、重工業は8.9%増に止まった。
全体で9.3%増という水準は実は、
リーマン・ショック後の2009年5月以来の低水準なのである。
そのままでは、第2四半期においては景気のよりいっそうの低迷と、
成長率のよりいっそうの減速は避けられないのであろう。

まさにそうなるようなことを危惧して、
中国政府は上述の追加金融緩和の実施に踏み切った。
預金準備率が引き下げられることで銀行は貸し出しに回す資金が増え、
0.5%の引き下げは約4000億元(5兆円)相当の
緩和効果を生むと見込まれるから、
それで中国の景気は回復の方向へ転じていくのではないか
との期待が持たれるのである。
現に、日本の一部の経済学者の間では「中国経済はそれで上昇局面に入るだろう」
との楽観的な観測が広がりつつある様子である。

しかし、このような楽観的な観測は果たして当たるのであろうか。
つまり、「政府が追加の金融緩和をやれば景気は直ちに良くなる」
という単純な構図は果たして成り立つのだろうか。
実は、問題はけっしてそう簡単ではないのである。
預金準備率の引き下げは確かに、貸し手としての銀行の貸し出し資金が
増えることを意味するのだが、しかしもし、肝心の借り手としての企業は
それを借りようとはしなければ、金融の追加緩和には何の意味もないからである。

実は今、中国経済の現場ではまさに、
銀行が企業に対する融資を増やそうとしても、
企業は別にそれを欲しがらないという現象が起きているのである。

中国人民銀行は5月11日に発表した数字によると、
4月における人民元立ての新規融資総額は6818億元となっているが、
それは前年同期比では612億減で、
当初予測されていた8000億元を大幅に下回った数値である。
そして、専門家たちの大方の分析としては、
これぼと鮮明な新規融資の減少はけっして銀行の貸し渋りから生じたものではなく、
むしろ借りる方の企業の「借り渋り」に原因があるという。

たとえば中国社会科学院金融実験室の劉輝主任は
「大企業による借り入れの意欲は明らかに減退している」と分析し、
国内大手証券会社の国泰君安社固定収益部研究主管の周文淵氏は
「新規融資総額の減少はわが国の企業全体における資金需要が弱まっていることの現れだ」
との見解を披露している。あるいは中国農業銀行の「マクロ経済高級分析師」である
袁江氏は上述の預金準備率引き下げの発表を受け、
「今、企業の経営環境が良くないから、(企業の)融資に対する需要自体は不足している。
したがって、預金準備率が引き下げられたとしても、
それが実体経済に何かの良い影響を与えるとは限らない」
と指摘しているのも、まさに正鵠を射た見方であろう。

とにかく今、借り手としての企業は
そもそも銀行から大量の融資を受け入れる意欲がないから、
政府がいくら金融緩和をやろうとしてもたいした意味もない、
ということになっている。しかし一体どうしてそうなったのだろうか。
「企業が金を借りたくない」という現象の背後に一体何かあるのだろうか。

その答えは、「中国証券報」という国内経済専門紙が
3月2日付で掲載した一通の記事にある。実は今年の2月当たりから、
銀行の新規融資総額の減少傾向はすでに鮮明となっていたから、
こうなったことの原因について、上述の中国証券報記事は
「国内大手銀行幹部」の話を引用して、次のような分析を行っているのである。

「貸し出しに対する企業の需要は確実に減っている。
銀行に融資枠が十分にあっても借り手がないから貸し出せない状況となっている。
その原因は二つがあろう。一つは固定資産投資が減少する傾向にあることであり、
もう一つ欧米経済の低迷で中国の対外輸出が減り、
多くの輸出関連企業が生産規模の縮小を図っていることである」という。

つまり、投資と輸出が減少している中で、一般企業の投資資金にたいする需要の低減と、
輸出関連企業の稼働資金にたいする需要の低減の両方が原因となって、
「企業が銀行からお金を借りようとしない」現象を生んでしまった、
という分析であるが、それは至って正しい分析であると思う。

たとえば今年に入ってからの中国の固定資産投資の状況を見てみると、
国家統計局が5月11日に発表した数字では、
1~4月の固定資産投資(農村部除く、設備投資や建設投資の合計)は
前年同期比20.2%増とはなっているが、
それは実は、2003年以来の10年ぶりの最低水準であるという。
この10年間、中国経済全体はずっと、
25%以上の固定資産投資の「驚異的な」伸び率を維持してきたが、
今年に入ると、それが大幅に下落したことで、企業の投資資金にたいする需要が減り、
結果的には銀行の貸し出しに対する企業の需要も大幅に減った、ということである。

その中で、投資資金に対する需要がもっとも激しく落ちたのは
不動産開発業界のそれである。4月26日付の「新京報」の掲載記事によると、
中国人民銀行(中央銀行)は25日、今年第1四半期の各金融機関の行った
新規融資の明細を発表しているが、
そのうち、不動産開発にたいする新規融資の総額は
2427億元で、前年同期と比べれば実は5割も減少したという。
つまり、全国の不動産バブルが崩壊しかけている現在、
開発業者たちの不動産投資が急速に減少した結果、
不動産開発向けの銀行融資も激減した、というわけである。

このようにして、不動産投資を含めた全国の固定資産投資は
今年に入ってから大幅に減少した結果、投資資金に対する市場の需要が減り、
銀行融資への「借り渋り」が生じた。その一方、
輸出が不振に陥っている中で関連企業の生産意欲が減退して
稼働資金に対する需要も減ったから、
企業の「借り渋り」にいっそうの拍車をかけた。

その結果、今ではむしろ、政府が貸し出しの拡大を奨励するような
金融緩和政策を実施しても、企業は別にそれ以上に金を借りたくない、
という前代未聞の状況が生じてきている。
つまり、景気回復のための政府の金融緩和は
すでに無意味なものとなってしまった、ということである。

このような状況は実は、中国の高度成長が
重大なターニングポイントを迎えたことを意味している。
今ままで、中国政府はまさに紙幣の乱発と言って良いほどの
信用供給の継続的拡大を行い、そこから放り出される大量の資金を
固定資産投資に回すことによって経済の高度成長を維持してきた。

景気がちょっとでも悪くなると、
直ちに財政出動を行ったり新規融資の拡大作戦を実施したりする
というのは政府の経済運営の常套手段ともなっていた。
とにかく資金を拠出して鉄道を造ったり不動産を作ったりさえすれば
表面上の好景気と高い成長率が維持できるのである。

しかし今、政府は金融緩和で信用供給を拡大しようとしても、
肝心の企業にはそれを借り入れて投資の拡大を計る意欲がない、
ということとなれば、その意味するところはすなわち、
「紙幣の増発をもって投資を増やして景気を維持する」という
中国政府の経済運営の「必勝策」が完全に失効してしまったことであり、
このような方法で支えられてきた中国の高度成長そのものは限界となったのである。

その結果、今、中国の高度成長は今や、
確実にその終焉を迎えつつある。一つの時代はそれで終わったのである。

( 石 平 )

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