偉人たちの一日一言 ~致知出版社が贈る人生を養う言葉~

この人は、特別力持ちのお母さんだったのでしょうか。

カテゴリー: 2018年08月09日

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2018.08.9 偉人メルマガ
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「日本教育界の至宝」と讃えられた
東井義雄先生がある講演の中で、
長崎に原子爆弾が落ちた時、
10才だった荻野美智子さんの
作文を紹介されています

※『自分を育てるのは自分』(致知出版社)より
https://online.chichi.co.jp/item/831.html


 ・ ・ ・ ・ ・


雲もなく、
からりと晴れたその日であった。

私たち兄弟は、家の二階で、
ままごとをして遊んでいた。
お母さんは畠へなすをもぎに行った。
出かけに、11時になったら、
ひちりんに火をおこしなさいよ、
と言いつけて行った。

けれども、私たちは遊びが面白いので、
時計が11時になったのに、
一人も腰を上げず、
やっぱりままごとに夢中になっていた。


その時、ピカリと稲妻が走った。

あっと言うた時はもう家の下敷になって、
身動き一つできなかった。
何とかして
出ようとすればするほど苦しくなる。
じっと外の様子をうかがうより
仕方がなかった。

二人の姉の姿が外に見えた。

大喜びで「助けて、助けて」とわめいた。

姉たちは、すぐ走り寄って来て、
私を助け出そうとした。
しかし土壁の木舞いの組んだのが
間をさえぎっていて、
押しても引いてものけられなかった。

大きい姉が、

「我慢しろ。ねえ、もうじきお母ちゃんも
 お父ちゃんも帰ってくるけんね。
 姉ちゃんは誰か呼んでくるけんね」

励ましておいて、向こうへ走って行った。


私は、縦横に組んだ木舞いの隙間から、
わずかばかり見えてる外を、
必死に見つめて、
お母ちゃんが来るかお父ちゃんが
来るかとまっていた。

やがて、大きい姉ちゃんが、
水兵さんを四・五人連れて走って来た。
その人々の力で、私は助け出された。

フラフラよろめき、
防空壕の方へ行こうとした。
家の下から、
助けてえ助けてえと
叫ぶ声が洩れてきた。


弟の声であった。


大きい姉ちゃんが一番先に気付いて、
沢山の瓦を取りのけて、
弟を引き出した。

その時、また向こうのほうで、
小さな子の泣き声が洩れてきた。

それは二つになる妹が、
家の下敷になっているのであった。

急いで行ってみると、
妹は大きな梁に足を挟まれて、
泣き狂っている。

四・五人の水兵さんが、
みんな力を合せて、
それを取りのけようとしたが、
梁は四本つづきの大きなもので、
びくともしない。

挟まれている足が痛いので
妹が両手をばたつかせて
泣きもがいている。

水兵さんたちは、
もうこれはダメだと言い出した。

よその人が水兵さんたちの
加勢を頼みに来たので、
水兵さんたちは向こうへ
走って行ってしまった。

お母さんは、
何をまごまごしてるんだろう、
早く早く帰って下さい。

妹の足がちぎれてしまうのに。

私はすっかり困ってしまい、
ただ背伸びして、あたりを
見まわしているばっかりだった。

その時、向こうから
矢のように走って来る人が目についた。

頭の髪の毛が乱れている。
女の人だ。裸らしい。むらさきの体。
大きな声を掛けて、私たちに呼びかけた。
ああ、それがお母さんでした。

「お母ちゃん」

私たちも大声で呼んだ。
あちこちで火の手があがり始めた。
隣りのおじさんがどこからか現われて、
妹の足を挟んでいる梁を取りのけようと、
うんうん力んでみたけど、
梁はやっぱり動かない。

おじさんはがっかりしたように
大きい溜息をついて

「あきらめんばしかたのなか」

いかにも申し訳なさそうに言って、
おじぎをしてから
向こうへ行ってしまった。

火がすぐ近くで燃えあがった。
お母さんの顔が真青に変わった。
お母さんは小さい妹を見下している。
妹の小さい目が下から見上げている。

お母さんは、ずっと目を動かして、
梁の重なり方をみまわした。

やがて、わずかな隙間に身を入れ、
一ヶ所を右肩にあて、
下くちびるをうんとかみしめると、
うううーと全身に力を込めた。
パリパリと音がして、梁が浮きあがった。

妹の足がはずれた。
大きい姉さんが妹をすぐ引き出した。
お母さんも飛びあがって来た。
そして、妹を胸にかたく抱き締めた。

しばらくしてから
思い出したように私たちは、
大声をあげて泣き始めた。

お母さんはその声を聞くと、
気がぬけたのか、そのままそこへ、
へなへなと腰をおろしてしまった。


お母さんは、なすをもいでいる時、
爆弾にやられたのだ。
上着ももんぺも焼き切れちぎれ飛び、
ほとんど裸になっていた。

髪の毛はパーマネントウエーブを
かけすぎたように赤く縮れていた。
体中の皮は大火傷で、
じゅるじゅるになっていた。

さっき梁を担いで押し上げた
右肩のところだけ皮が
ペロリと剥げて、肉が現われ、
赤い血がしきりににじみ出ていた。

お母さんはぐったりとなって倒れた。

お母さんは苦しみ始め、
悶え悶えてその晩死にました。



◆この作文を受けて東井さんは
 子供たちにこう話されています。

「これは、特別力持ちの
 お母さんだったでしょうか。
 四人も五人もの水兵さんが、
 力を合せても、
 びくともしないものを動かす、
 力持ちのお母さんだったでしょうか。

 皆さんのお母さんも皆さんが
 このようになったらこうせずにおれない。
 しかもこの力が出てくださるのが
 お母さんという方なんです」

『自分を育てるのは自分』(致知出版社)より
https://online.chichi.co.jp/item/831.html


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発行周期: 日刊 最新号:  2018/12/14 部数:  5,759部

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