週刊マガジン・ワンダーランド

週刊マガジン・ワンダーランド 第184号

カテゴリー: 2010年03月31日
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   マガジン・ワンダーランド(小劇場レビューマガジン)

   2010年 3月31日発行 第184号                        毎週水曜日発行
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【目次】
◇充実したワークショップやディスカッション
 「千種セレクション」報告(前編)
 カトリヒデトシ

◇3人で語る「2010年4月はコレがお薦め!」

◇テレビで見る演劇(~4月末)

◇劇評セミナーのお知らせ
「劇評を書くセミナー こまばアゴラ劇場コース」開催によせて
 北嶋孝(ワンダーランド代表)

□web wonderland から===================== http://www.wonderlands.jp/ 

◇精華小劇場製作作品「イキシマ breath island」
 「どこでもないここ」のリアル
 高橋宏幸
◇韓国・芸術経営支援センター設立の経緯と役割
 張智盈(ジャン・ジヨン)
◇クロスレビュー
 チェルフィッチュ「わたしたちは無傷な別人であるのか?」
◇芸術選奨新人賞に前川知大さん(イキウメ)と中島諒人さん(鳥の劇場)
[ニュース&報告]
◇突劇金魚『ビリビリ HAPPY』
  サリngROCKの優美な凶暴さ
  岡野宏文
◇OM-2/黄色舞伎團『作品No.7』
 身体に降り注ぐ言葉の雨
 芦沢みどり
◇女魂女力『しじみちゃん』
  告発し続ける「想像力の欠落」
  高木登

◇ワンダーランド支援会員を募集中!
http://www.wonderlands.jp/info/members2009-1.html

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◇充実したワークショップやディスカッション
 「千種セレクション」報告(前編)
 カトリヒデトシ

 昨年から、時折名古屋や三重、関西方面へ芝居を見に行くようになった。
 今回は名古屋で1月から2月にかけて行われた、千種文化小劇場の自主企画
「千種セレクション」に通った。その報告をしたい。

 「千種セレクション」を企画した、千種文化小劇場は「ちくさ座」という全
国的に見ても特筆すべきすばらしい円形劇場をもつ施設である。251席という
適度なキャパシティで、駐車場や練習室もある。八角形の舞台面の周りに最大
9面の客席が設置可能で、各ブロック5段の固定の客席が組まれている。高低
差があるため、実に見やすい環境である。
 今回の企画は、「あなたは劇場と恋をする」というキャッチコピーで、名古
屋の劇団と名古屋で活動する作・演出家、東京のカンパニー2つによる計4団
体が2週間に渡り公演を行うのがメイン。「ちくさ座」の自主企画だが、複数
カンパニーによる合同公演は初めての試みで、準備に2年もの期間をかけ実現
したものである。十分な準備により、関連企画も充実したものになった。
 参加演出家は、実行委員長として地元「よこしまブロッコリー」の にへい
たかひろ。彼は名古屋で演劇の専門学校の講師も務める作家、演出家、俳優。
「NEVER LOSE」の片山雄一は東京人だが名古屋で活動しすでに7年になるとい
う。今回は休止中のカンパニーから離れ、個人ユニット「トライフル」を立ち
上げた。作・演出家の彼が名古屋の若い役者たちを集め作品づくりをしていく
主旨のユニット。東京勢は「shelf」矢野靖人。演出家の彼は出身が名古屋で
ある。そして「第七劇場」の鳴海康平。矢野、鳴海の二人は古典の構成劇を得
意とする「純」演出家、共に「スズキメソッド」を基に役者を鍛え、本拠地を
東京に置きつつも、「首都」にだわらず、「地方」での活動や公演を積極的に
行っている共通点を持つ。また、第七は野外での公演を得意とし、劇場での本
公演がかえってめずらしいという明確な特徴を持つ。以前にも二人は名古屋七
ツ寺共同スタジオで公演やワークショップを開いている。

 1月21-24日に4人の演出家が市民向けワークショップを行ったところから企
画は始まった。2時間半2コマのWSは短歌会館や演劇練習館アクテノンで行っ
た。発表会を最後に行うという作品づくりのWSだったが、「ロミオとジュリエ
ット」のバルコニーのシーンをテキストとする「縛り」で演出家たちの持ち味
も試される趣向。キャリアもまちまちなほぼ素人の参加者たちと20分程度の作
品をつくるというなかなか厳しい条件である。興味津々で見学に訪れた。
 にへいクラスは60代男性(過去にWS参加1回のみという方)、60代女性(仕
事をリタイヤしてからこの2年ほどいろいろなWSを受けるかつての「演劇少
女」)、20代男性(声優系の専門学校に通っていた)の3名。男二人のロミオ
がジュリエットに熱烈にアプローチをかけ、最後に選ばれるという構成。にへ
いの指導は明るく柔らかい雰囲気だがきちんと演劇的約束事を的確に伝え、動
きからくみ取れる心情をフィードバックさせ本人に納得させ進んでいく点がい
わゆる「素人」へのWSとして適切なものであった。
 ロミオが選ばれるジャッジの場面は、2カ所。最終的にロミオを獲得するの
はジュリエット役のおばさまの気分次第という仕掛けでその都度ごとのおもし
ろさがある。60代おじさまの不可思議なたたずまいが想像を超える魅力を醸す
作品となった。
 片山クラスは40代男2名(40過ぎから演劇を始めた方と15年のブランクのあ
る社会人)40代女性2名(市民劇団加入者と全くの初心者)、20代女性(WS1
回のみ)の5名。
 この手のWSは「誰が、誰のために」行うのかという目的意識を共有できるか
どうかが肝腎な所であるが、呼吸法から入り基礎を教えているようであっても、
片山はとにかく自分が楽しくなるようにWSを進めていく。受講生は多少の「?」
が浮かんでも、ひたすら受けて笑いながら次々と指示を出す片山にあおられ乗
せられ、体を動かしているうちに自然と本人が思う以上に潜在的な魅力を引き
出していく。ちゃぶ台をバルコニーにみたて、浮気がばれたロミオがジュリエ
ットに怒鳴られるペア、のりがよすぎてジュリエットに見放されるペア、気ま
ぐれなジュリエットに翻弄されるペアと二役が交代されていき、場面が構成さ
れる。素人も含め、それぞれの持ち味が発揮されるのは、片山の持つ明解なプ
ランに巻き込まれているからで、その結果参加者は思っても見なかった(はず
の)飄々とした軽みあるロミジュリを作り上げ、WSのおもしろさを堪能できた
ことであろう。
 矢野クラスは20代男性と女性各1名。30代女性が1名。40代女性が2名、男
性が2名、60代女性が1名。プロは一人もおらず、学生時代にやっていたり、
WSやその発表会への参加経験があるぐらいだったりというメンバーである。ま
ず矢野の「読む」ことを「演技」することとするため呼吸をコントロールしな
ければならないという講義が行われる。
 テキストを大事にする「テキスト原理主義者」矢野は、椅子を一列にならべ
リーディング形式ですすめる。起立、着席をくりかえし、ロミオとジュリエッ
トが入れ替わるだけでなく、複数の同時発話もおこなう。リーディングとは異
なる発声とによる「劇空間」の創出が感じられる。発声から発話へさらには発
話行為へと関心を広げることにより、パフォーマティヴな「声」はどのように
可能かという矢野のこだわりの表出する意欲的な作品にしあがった。
 鳴海クラスは20代女性(名古屋の劇団に所属)、40代女性2名(OLをしつつ
芝居好きで東京まで見に行く方、知り合った演劇人に誘われ芝居をはじめた方)
という面々。
 自己紹介を3万人の大劇場でやったらどうなるかと始まり、見る/見られる、
場、勢いなどの変化を実感させるところから、鳴海のいう「体のボキャブラリ
ー」を感じるために、他に体をゆだねたり、外の音に集中して体を動かしたり
することにより、短時間で「身体性」への気づきへと導くところは秀逸である。
その上で、自分の意識とコミュニケーションとのじょうずな扱いとは何かと投
げかけていくのである。作品はテキストから演技者がこだわったことばを抽出
し、発話する。ロミジュリのストーリーとはまったく切り離されたパフォーマ
ンスとして、身体のゆるやかな動きで終始していく。即興とも、ダンスとも異
なる何とも「第七劇場」風の作品となった。
 発表会ではそれぞれ短時間での制作というハンデを越えた、クオリティをも
った、強度のある、さらには演出家の個性を十二分に発揮した作品たちになっ
た。発表会は、矢野、鳴海、片山、にへいの順番。最初にテキストをほぼその
まま行う矢野クラスが筆頭となり、課題シーンの全体像を展示し、そのあとに
パフォーマンス、解釈の異なる芝居を2本行うことにより、だれでも知ってい
るはずの「ロミオとジュリエット」が全く異なる相貌をみせることにより演劇
のもっている表現や、テキストの自由な読み取りによるパフォーマンスの可能
性の外延の広がりを感じるものとなった。
 次の企画は2月4日(木)にプレイベントとして行われた、「ちくさ会議-ち
くさ座を変えよう。」という市民を交えたパネルディスカッション。筆者は参
加できなかったが、参加者の話を聞くと、普段ちくさ座を見守る地域の人たち
からの具体的な意見や、他の公共劇場のスタッフからの「公共劇場」としての
これからのあり方などの議論が交わされたようだ。
 さて、その後本公演がABの2週に分かれ1時間作品2本上演という形で行
われた。まず18日(木)-20日(土)3日間4ステージは、よこしまブロッコリー
「惑星の軌道」、shelf「エピソード、断片-鈴江俊郎中期テキストから-」。
B週は翌2月25日(木)-27日(土)に同じスケジュールでトライフル「地上から
110cm」と、第七劇場「かもめ」が上演された。
 さらにA週19日(金)の公演の前には「地域はさらに近づいていく」という
演題で参加4演出家と主催者が名古屋演劇の可能性について語るという主旨の
シンポジウムが行われた。筆者も要請され話に加わったが、司会の鳴海が名古
屋演劇の状況について聞くという進行で、東京から来たものに名古屋の演劇環
境がどのように映るか、から始まり名古屋、東京それぞれの環境の話やそれぞ
れが抱える問題点や困難について語っていった。
 後編ではその話から始め、各作品のレビューを書いていきたい。

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◇3人で語る「2010年4月はコレがお薦め!」

3人共通のお薦め
★鰰(はたはた)「動け!人間!」(アトリエ春風舎4月16日-5月5日)
http://hatahata.sitemix.jp/

カトリヒデトシさんのお薦め
★世田谷シルク「春の海」(シアター711 4月8日-11日)
http://www.setagaya-silk.com/next.html
★箱庭円舞曲「とりあえず寝る女」(駅前劇場4月2日-6日)
http://www.hakoniwa-e.com/next.html
★柿喰う客「八百長デスマッチ/いきなりベッドシーン」(タイニイアリス
4月15日-18日
<大阪公演>八百長デスマッチ  4月23日-25日
in→dependent theatre 2nd
いきなりベッドシーン 4月26日-28日
in→dependent theatre 1st)
http://kaki-kuu-kyaku.com/main/

鈴木励滋さんのお薦め
★青年団リンク 口語で古典「武蔵小金井四谷怪談」(こまばアゴラ劇場
4月17日-29日)
 http://hi-bye.net/room/otherworks
★コマツ企画「背伸び王」(下北沢 楽園4月21日-25日)
http://komatsukikaku.com/site.html
★風琴工房「おるがん選集 春編」(浅草橋ルーサイトギャラリー
4月26日-29日)
※二作品ずつ「桜編」「藤編」があるため、劇団ホームページで上演時間ご確
認を。
(【桜】「寡婦」原作 ギ・ド・モーパッサン 「?東綺譚」原作 永井荷風
【藤】「親友交歓」原作 太宰治 「流刑地にて」原作 フランツ・カフカ)
http://www.windyharp.org/selection-s/

徳永京子さんのお薦め
★「BLUE/ORANGE」(ワーサルシアター4月22日-5月2日)
http://www.stagegate.jp/performance/2007/blueorange/index.html
★シス・カンパニー「2人の夫とわたしの事情」(Bunkamuraシアターコクーン
4月17日-5月16日)
http://www.siscompany.com/03produce/27futari/
★ 文学座「わが町」(全労済ホール/スペース・ゼロ4月9日-18日)
http://www.bungakuza.com/wagamati/index.html


鈴木励滋 4月はなあ。
カトリヒデトシ 3月が終わるとチラシががくんと減るね。でもそれも、今年
までですよ(笑う)。来年度になると、情勢からみて、助成金が減るだろうか
ら…。
徳永京子 私がまず推したいのはこれ、鰰(はたはた)の「動け!人間!」な
んですけど、おそらくみなさん……。
鈴木 ああ、それですね、僕も推します。
カトリ 私も。じゃあ、3人共通のお勧めですね。神里雄大(岡崎藝術座)と
白神ももこ(モモンガコンプレックス)のユニットです。このユニットは去年
の「キレなかった14才りたーんず」の時に結成しているから、1年近く準備し
ていたんですね。
鈴木 何でも、二人とも名前に「神」という字が入るので、「神」というユニ
ット名も考えたけど、日和った(笑)というウワサも…。
徳永 今回の第一回公演は、バージョンが3つ、「は」バージョン(「なんとな
く『深海魚』と呼ばれている方」)、「た」バージョン(「なんとなく『淡水
魚』と呼ばれている方」)、「ハタ」バージョン(「『出世魚』となんとなく
呼ばれているもの」)とあって。
カトリ 「た」バージョンは午後4時半から始まって、最初3時間は稽古で、そ
のあと出来上がったのをかけるっていう。ちょっと…(笑)。出るメンバーも
すごいんですよ。稽古からずっと使える春風舎じゃなきゃできない企画ですね。
徳永 公演日数もだいぶありますし、実験的なことができそうですね。
カトリ 「は」が一番ちゃんと作るようです。いわばスタンダード。武谷公雄
さん、兵藤公美さん(青年団)とすごいメンバーですね。「た」がぐしゃぐし
ゃ、「ハタ」はシークレット企画。全くわかりません。
徳永 チラシには「演劇でもダンスでもない新しい?新型の?パフォーミング
アートを目指している。」と。何が出てくるか全くわからないし、評価軸が普
通と違う二人なので。
カトリ 言葉も出てこないのですが、でもともかく行く。
鈴木 神里さんの「リズム三兄妹」白神さんの「ウォールフラワーズ。」とも
存分に楽しめたので、今回も楽しみだなあ。

鈴木 私のお勧めの一番目はハイバイの作・演出の岩井秀人さんの「武蔵小金
井四谷怪談」。
カトリ ハイバイ俳優陣は全く出てないんですよね。
徳永 ハイバイ公演じゃないんですか。
カトリ 青年団リンクの「口語で古典」という企画です。
徳永 このチラシ、かなり凝っているんだそうです。フェルトを伸ばして貼っ
て、スパンコールやビーズを付けたという。私はまったくわからなくて、黒い
画用紙にクレヨンで描いたと思い込んでいたのですが(笑)。
鈴木 四谷怪談も好きだし、岩井さんの公演とあれば、もう僕は行きます。
カトリ 2月に岩井さんが役者として出演したAGAPEstoreの「残念なお知らせ」
もよかったものね。
鈴木 ええ。普段僕は行かない価格帯でしたが、行ってよかった。でも今回は
岩井さんは出ないんですね(残念)。
徳永 今回、キャストは青年団のキャリアのある方たちばかりですね。そこに
フリーの猪股俊明さん。
カトリ 変なおじさんを演じるといい役者さんですね。
鈴木 「て」の暴君な父親役が秀逸でした。二つ目は、コマツ企画の「背伸び
王」。役者が面白いんです。本井博之、浦井大輔、川島潤哉と、どうしてこん
なにいい役者がそろったのかな。
カトリ 客演の佐野功くんは柿喰う客の公演や他で殺陣を付けたりしている人
で、身体性に優れている。作・演出の小松美睦瑠(みむる)さんは今回は出な
いんですね。
徳永 いつもは出ていらっしゃるんですか。
カトリ いつもは主演級で。
鈴木 え、また名前変えたの?「こまつみちる」とひらがなだったのに。しか
もみちるですらない、「みむる」!
徳永 わたし、コマツ企画見たことないんですよ。
鈴木 コマツ企画の作品は、人との距離や関係のかけがえのなさを、説教臭く
なく、非常にくだらないバカバカしさで見せてしまうので、変に響いちゃうこ
とがあります。ぜひ見にいってみてください。
そして最後は風琴工房「おるがん選集 春編」を推します。
カトリ 主宰の詩森ろばさんは、女性をとても柔らかく可愛く描きますね。
鈴木 日常の人間の機微というか、感情の揺れを丁寧に作れる人です。昨年の
秋編(「春は馬車に乗って」 原作 横光利一「痩せた背中」原作 鷺沢萠)
も良かったので期待です。
徳永 美しいセリフや迫力あるセリフがありますよね。

カトリ 私の1本目は、「折込」(劇場で配布されるチラシの束)を止めたカ
ンパニー、堀川炎が主宰する世田谷シルクの「春の海」。他劇団からの折り込
みも受けず、ただ「置きチラシ」(劇場のロビーなどに並べたりつるされたり
するもの)と上演前にプロジェクターでチラシの画像を映写するということで
す。資源節約の問題と、チラシ代でチケット料金が上がるのはバカバカしいと
いうことで…。OL出身の堀川ならではでしょう。 
出演者の中では何と言っても堀越涼。花組芝居の秘蔵っ子ですから演技のレベ
ルがすごい。DULL-COLORED POPの「SHORT 7」で「藪の中」を一人で7役やった
んですが、稽古場をのぞいたら、一つの役を7パターンぐらいすぐやっちゃう
んですよ。演出の谷賢一がそれを見て「じゃあ3番目で」と言ったらすぐにそ
れが出てくるという(笑)。伝統的な女形顔で、本当にきれい。おばさま方の
追っかけもいるというすごい役者です。
徳永 小劇場界の早乙女太一ですか。
カトリ 2本目は箱庭円舞曲の「とりあえず寝る女」。カンパニーの俳優は3人
しかでませんが、須貝英くんの親友で「柿喰う客」の玉置玲央くん(柿喰う客)
も出ます。片桐はづき、村上直子(ホチキス)も他で見るよりいい仕事をしま
す。わがままな嫌な女がカッコいい。小林タクシー(ZOKKY)、青年団(入団
予定)のリアルJK(女子高生)井上みなみちゃんも出ます。本は遅れているみ
たいですが、いつものように丁寧な完成度の高いものをつくるでしょう。なん
といってもこのキャストは要注目ですね。
徳永 なるほど。
カトリ このカンパニーの作品は社会問題も折り込まれているんですが、作・
演出の古川貴義はそれを表に出さないで、普通の人間ドラマのつもりで書いて
います。しかし、きちんと裏付けられた社会性があって、演出もかっちりして
います。
3本目は柿喰う客の「八百長デスマッチ/いきなりベッドシーン」。「いきな
りベッドシーン」は七味まゆ味の一人芝居で再演です。イタい女の子の話なん
ですが、よく出来ていたし、彼女の身体性がよく生きていた。精華劇場の公演
が大変好評で、それをきっかけに昨年、大阪で3本も客演をしました。「八百
長デスマッチ」は玉置玲央と村上誠基の2人芝居の新作です。玉置くんは先ほ
ど触れたmonophonic orchestraのストレートプレイもとてもよかった。村上く
んは去年柿喰う客に入りましたが、長年客演として出演していて、最強の「外
人部隊長」と言われていた。軽みのあるとても優れた俳優です。この2人だけ
という芝居はとても楽しみです。

徳永 私の1本目は「BLUE/ORAGE」。千葉哲也さんの演出です。千葉さんは役
者さんとしても大活躍されていますが、数年前からTPTで演出されるように
なり、地道に本数を増やしている。直接聞いたことはありませんが、2009年に
読売演劇大賞の優秀演出家賞を受賞されて、演出家として腹をくくってきたよ
うな気がしています。この後にもシス・カンパニープロデュースで堤真一さん、
小泉今日子さん、大森南朋さん出演という注目作(エドワード・オルビー作
「アット・ホーム・アット・ザ・ズー」)を演出されるんですよ。演出のスタ
イルとしては、役者さんの生理に寄り添うタイプで、千葉さん自身、演出を始
めてから役者としても膨らんできている印象です。役者をしながら演出家とし
て大きくなっている人って、日本ではあまり思い付かないのですが、千葉さん
がこれからどのような道を歩んでいくのかとても楽しみです。
今回の作品の出演は千葉さん本人のほか、中嶋しゅうさん、チョウソンハさん
で、世代別セクシー男優と言うべきところを抑えてますよね。
カトリ 出演者が演出をするとあまりよくない例も多いのですが、これはちょ
っと違うのかなあという気がします。千葉さんは、2月に出演したモダンスイ
マーズの「凡骨タウン」がとんでもなく素晴らしかった。続きものだったので
すが、前作に出ていたスイマーズの5人が何だったのかという気にさせられる
ほどで、圧巻でした。
徳永 「凡骨タウン」作・演出の蓬莱竜太さんにお話しをうかがった時に、戯
曲の中に演じ手が舞台に立つ必然性のある言葉を書くことが必要なんだという
ことを、役者としての千葉さんに教えられた、と言っていました。とすると、
役者としても劇作家・演出家を育てられる人なんだなあと思って。
2本目は、シス・カンパニーの「2人の夫とわたしの事情」。サマセット・モー
ムの戯曲をケラリーノ・サンドロヴィッチさんが本邦初上演します。プロデュ
ーサーの北村明子さんがモームが好きで、戯曲を探していたらこれがあったと
いう。最初に日本で訳された時は「夫が多すぎて」(岩波文庫)というタイト
ルだったのを訳しなおして、このタイトルに。KERAさんの意見も相当反映して、
翻訳劇っぽくない言葉に直してやっているそうです。
正直、個人的には不安材料も感じています。出演の渡辺徹さん、段田安則さん
が好きな笑いの質と、KERAさんの笑いの質が違う気がするので、どうなるのか
な、と。モームの原作は、昔のよく出来たコメディなんですね。戦争未亡人の
主人公が夫の親友と再婚して、子供も生まれて暮らしていると、実は夫が生き
ていて戻ってくるという。機を見るに敏で超わがままな美人を松たか子さんが
演じます。
カトリ 池谷のぶえ、西尾まりが楽しみだなあ。あ、皆川猿時さんもこんなと
ころに出られるようになって…(笑)。
徳永 それに新劇の大ベテランの新橋耐子さんがKERAさんの舞台に出るという
のも面白そうですね。チケット代が高いのですが、それだけのものを見せてい
ただけると期待しています。
カトリ 最近KERAさんはカフカやったり、翻案ものが増えてきましたね。
徳永 3本目は文学座「わが町」。
カトリ わー文学座の立ち上げメンバーの戌井市郎さんも出るんですね。93歳
ですよ!元気だなあ。
徳永 柴幸男さんが1月にやったワークショップが「ワイルダーで、ままごと」
でワイルダーを扱ったり、「わが星」というタイトルも「わが町」から付けた
と言いますし、最近、ワイルダーの名前を聞くことが増えていますね。新国立
劇場でも2011年1月に「わが町」の上演を予定しています。
カトリ 何かの周年なんですか。
徳永 偶然のようです。
カトリ 池袋でも2008年と2009年にワイルダーをヒントにした「池袋わが町」
(作・演出ジェームズ三木)というのをやりましたね。
徳永 同じ作品やひとりの作家に、違う役者・演出家さんが取り組むのを短い
期間に見比べられるのはすごくいいことだと「ヘンリー六世」で改めて実感し
ました。戯曲の理解も深まりますし、演出家やカンパニーの個性なども多角的
に見えてきますよね。その階段の大切な一段目として観に行きます。
(3月14日 東京都渋谷区内にて)

【出席者略歴】
カトリヒデトシ(香取英敏) 
 1960年、神奈川県川崎市生まれ。大学卒業後、公立高校に勤務し、家業を継 
ぎ独立。現在は、企画制作(株)エムマッティーナを設立し、代表取締役。 
個人HP「カトリヒデトシ,com」(http://www.katorihidetoshi.com/)を主宰。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/index.php?catid=3&subcatid=63

鈴木励滋(すずき・れいじ)
 1973年3月群馬県高崎市生まれ。栗原彬に政治社会学を師事。地域作業所カ
プカプ(http://kapukapu.org/hikarigaoka/)の所長を務めつつ、テルテルポ
ーズ(http://d.hatena.ne.jp/tel-po/)やダンスシード(http://www.danceseed.com/)
などで、演劇やダンスの批評を書いている。『生きるための試行 エイブル・
アートの実験』(フィルムアート社)に寄稿。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/index.php?catid=3&subcatid=48

徳永京子(とくなが・きょうこ)
 1962年、東京都生まれ。演劇ジャーナリスト。小劇場から大劇場まで幅広く
足を運び、朝日新聞劇評のほか、『シアターガイド』『FIGARO』『花椿』など
の雑誌、公演パンフレットを中心に原稿を執筆。東京芸術劇場運営委員および
企画選考委員。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/index.php?catid=3&subcatid=42

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◇テレビで見る演劇(~4月末)

 2月と3月に北九州と東京で上演された、北九州芸術劇場プロデュース「ハ
コブネ」が、早速テレビに登場します。当劇場のプロデュース作品としては、
「青春の門 放浪篇」(五木寛之原作、鐘下辰男脚本・演出)、「風街」(東憲
司脚本・演出)に次ぐ第3弾 。気鋭の劇作家・演出家であり、劇団「サンプル」
を主宰する松井周の新作書き下ろしです。ワーキングプア、派遣社員・フリー
ターといった今日的な問題が、小林多喜二『蟹工船』のイメージをバックに描
かれ、オーディションで選ばれた地域の出演者のインタビューが脚本に反映さ
れているというのも興味深いところでしょう。
(場合により、番組内容、放送日時などが変更になることがあります。また、
地上波デジタル放送の番組表は関東地区のもので、地域により一部番組が異な
ります)

4月2日(金) 深夜0:45~2:55 NHK BS2
ミッドナイトステージ館「北九州芸術劇場プロデュース『ハコブネ』」
【作・演出】松井周
【出演】今村妙子、加賀田浩二、木村健二、古賀陽子、篠原美貴、白石萌、
上瀧征宏、高野桂子(village80%)、田口美穂、田中克美、谷村純一、寺田剛
史、中嶋さと、波田尚志(劇団夜劇)、藤尾加代子(飛ぶ劇場)、細木直子
(劇団びっくり箱)、宮脇にじ 古舘寛治(サンプル、青年団)、古屋隆太
(サンプル、青年団)
http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp/event/2009/0223hakobune.html
http://www.nhk.or.jp/bs/mdstage/

4月9日(金) 早朝 3:17~6:00  WOWOW
「鴨川ホルモー」(再放送)
【原作】万城目学 【脚本・演出】鄭義信
【出演】石田卓也、芦名星、中川真吾、秋山奈々
http://www.duncan.co.jp/web/stage/horumo/
http://www.wowow.co.jp/pg/detail/075429001/index.php

       22:00~深夜1:45 NHK 教育
芸術劇場
▽「アイルランド演劇『海をゆく者』の魅力」
▽劇場中継「海をゆく者」
【作】コナー・マクファーソン 【演出】栗山民也
【出演】小日向文世、吉田綱太郎、浅野和之、大谷亮介、平田満
http://www.parco-play.com/web/play/seafarer/index.html
http://www.nhk.or.jp/art/current/drama.html

       深夜0:50~2:45  NHK BS2
ミッドナイトステージ館「星屑の会『星屑の町・東京 砂漠編』」
【作・演出】水谷龍二
【出演】戸田恵子、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、菅原大吉、
三田村周三、新納敏正、平良政幸、築出静夫、朝倉伸二、清水宏、江端英久、
柏進、星野園美
http://www.nhk.or.jp/bs/mdstage/

4月16日(金) 深夜0:45~2:50 NHK BS2
ミッドナイトステージ館「何日君再来(イツノヒカキミカエル)」
【作】羽原大介 【演出】岡村俊一
【出演】筧利夫、黒木メイサ、藤原一裕、石川梨華、遠山俊也、清家利一、
ちすん、en-Ray、山本亨、彩輝なお
http://www.rup.co.jp/backnumber/itsunohikakimikaeru.html
http://www.nhk.or.jp/bs/mdstage/

4月23日(金) 22:00~深夜1:05 NHK 教育
劇場への招待「わらび座『火の鳥』」
【原作】手塚治虫 【演出】栗山民也 
【出演】パク・トンハ、戎本みろ、椿千代、今泉由香、岡村雄三、安達和平、
平野進一、本間識章、荒川洋、長掛憲司
http://www.warabi.jp/hinotori/

        深夜 0:45~2:50 NHK BS2
ミッドナイトステージ館「文学座『ゆれる車の音』」
【作】中島淳彦 【演出】鵜山仁
【出演】角野卓造、塩田朋子、栗田桃子、たかお鷹、浅野雅博、鵜澤秀行、
田村勝彦、太田志津香
http://www.bungakuza.com/yurerukuruma06/index.html
http://www.nhk.or.jp/bs/mdstage/

4月30日(金) 深夜0:45~2:55 NHK BS2
ミッドナイトステージ館「劇団♪♪ダンダンブエノ 双六公演『砂利』」
【脚本】本谷有希子 【演出】倉持裕
【出演】坂東三津五郎、田中美里、片桐はいり、酒井敏也、山西惇、近藤芳正
http://www.kondoyoshimasa.com/dan-dan-bueno/program/zyari/

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◇劇評セミナーのお知らせ

 すでにチラシ等でお知らせしておりますが、ワンダーランドでは4月17日か
らこまばアゴラ劇場のご協力を得て「劇評を書くセミナー」を開講いたしま
す。平田オリザさんが劇場、劇団と劇評の関係について語る講演、劇評を巡る
批評家(佐々木敦さん、武藤大祐さん)と作り手(松井周さん、多田淳之介さ
ん、岩井秀人さん)の双方による連続シンポジウム、さらにアゴラ劇場で同期
間内に上演される3作品を題材として、参加者が劇評を書き、その合評会が開
かれます。実に盛りだくさんの刺激的な内容です。
 詳細とお申込みは以下のページからお願いいたします。
http://www.wonderlands.jp/info/seminar2010/agora01.html

 さて、今週は、先週のアゴラ劇場制作野村政之さんに続き、ワンダーランド
代表北嶋孝より、開催に向けての言葉をお送りします。

                 * 

「劇評を書くセミナー こまばアゴラ劇場コース」開催によせて
 北嶋孝(ワンダーランド代表)

 劇評を書くセミナーを始めて3年になります。新しい書き手に出会いたいと
思ってスタートしたのですが、期待以上の手応えがありました。隠れた書き手
はぼくの予想を超えて現れ、いまワンダーランドで書き継いでいる方々の中に
はセミナーで一緒に語り合った人たちが少なくありません。
 セミナーを開催して得たのはそれだけではありません。続けていくうちに
演劇の核となる要素をあらためて考えさせられました。
 ぼくたちが劇評やレビューを書くとき、もっぱら戯曲や演出、俳優の動きな
どを対象にします。舞台に現れた言葉と身体、響きと動き、時代と精神などの
交錯を捉えようと努めます。しかしその切り口も色合いも、根拠も展開も多種
多様なのです。書き手が違えば別の文章ができあがることは容易に想像ができ
ますし、マガジンの編集・発行を続けていたら、そういうことは日常茶飯の出
来事だと思っていました。しかし、同じ舞台をみた十数人の原稿を何度も何回
も読むにつけ、客席の側でも多種多様なドラマが起きているのだと、つくづく
実感しました。関心と集中力の注がれる言葉が違い、記憶される場面や耳に残
る音楽の振幅は広く、感じ方考え方はそれこそ年齢性別も含めて個別性を刻印
されて浮かび上がってくるのです。もちろん書き方や展開の仕方などに巧拙は
あり、他者を説得する仕上がりかどうかに出来不出来はみられます。しかしそ
のデコボコに表される客席の側のありようから目をそらせなくなりました。
 演劇の基本的要素としてよく、「俳優」と「観客」の存在が挙げられます。
両者がそろって初めて「演劇」が作動するというわけです。しかしこれまでは
舞台上の出来事だけがほぼすべてで、観客は動員やサービスの対象にされるケ
ースが多かったような気がします。時には「観客参加」などと言って「いじら
れる」ときもあれば一方的に「攪乱」「挑発」される側でもありました。
 しかしセミナーで書かれた幾編もの原稿の束を読み続けていると、客席から
立ち上がるさまざまなドラマの集積もまた演劇を構成する一方の要素なのだと
確かな手応えを感じます。
 涙や拍手で舞台を後押しするのも演劇参加の伝統的方法でしょう。終演後の
アンケートに感想を書いたり、自分のブログにコメントをつづることだってO
Kです。それに加えて、舞台と格闘して原稿に仕上げるとともに、同じ舞台を
さまざまな形で言葉にとどめた他の人びとの原稿を併せて読み、その多様なあ
り方にふれつつともに語るとき、客席側のダイナミズムを実感できるような気
がします。舞台は観客によって耕され変形され、豊かにもなり時には無視され
削られもします。その集積が「演劇」を構成するのではないでしょうか。
 考えてみれば当たり前のことかもしれません。最近やっと、この当たり前が
身に沁みてきました。
 このセミナーではできればみなさんに書き手となって登場してほしいのです
が、劇評・レビューの多種多様、多重多層のありように触れていただくだけで
も、セミナー主催の狙いは半ば達成されたと言えるかもしれません。
 多くの観客のみなさんとこのセミナーで出会い、舞台を語りたいと思います。
みなさんの参加を心から待っています。

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【編集日誌】
☆184号をお届けします。お薦め鼎談でおなじみのカトリヒデトシさんは東
京以外の地域の演劇の動きにも関心が高く、東京の演劇関係者の目を地方に向
けて開くことを、ご自分の重要な仕事と考えておられます。今週掲載した名古
屋の「千種セレクション」報告はそうしたカトリさんの試みの第一弾です。カ
トリさんの地方演劇報告は今後も続々ワンダーランドに登場することになりそ
うです。ご期待ください。

☆3人で語る「2010年4月はコレがお薦め!」とテレビで見る演劇(~4月末)
を掲載しました。演劇界のすべてに通じる3人の鼎談は実に話題豊富で、演劇
を見る楽しさがいっぱい。鼎談の場では思わぬ裏話も飛び出し、掲載できない
ことも多々ありますが、それでも作・演出家や出演者の横顔など、他ではなか
なか読めない内容満載の鼎談になっていると自負しています。
 
☆劇評セミナーはおかげさまで徐々に参加者も増えています。特に平田オリザ
さんの講演と劇作家・批評家によるシンポジウムが予定されている1~3回目
については既にキャンセル待ちという状況になっているようです。本当にあり
がたいことですが、結果としてご参加いただけないことになる方々には申し訳
ないことです。お申込みはお早目にどうぞ。
(水牛健太郎)

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発行 ワンダーランド
〒202-0002 東京都西東京市ひばりが丘北4-1-9
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