ひろえのキャズ便り

「ひろえのキャズ便り2017年11月16日号」


ひろえのキャズ便り2017年11月16日号です。

 複数の物語のレイヤーの重なりとズレが、みるひとの気持ちをざわつかせなが
ら、新たな意味を生成させていく……そんな、はてしない物語の序章をインスタ
レーションにしたような川口珠生展。キャズでは初個展ということで、まずは空
間との格闘だったと思われるところを、すったもんだの痕跡よりも、なにかが終
わったあとの静けさのほうを感じさせるのは、川口さんのこだわりである「絵画
的インスタレーション」が持つあるつつましさ、それ自身も現実でありながら、
あくまでも表現すべきなにかの代替物であるという性格によるのかもしれない。
というか、だからこそ展示空間に置かれた雑多なものたちは、なにかのように見
える自分をそれぞれに主張してもいるのだが、その見立ての世界的な空間を、私
なりに少したどってみたいと思う。
 まず、風景画でいうと遠景にあたる位置には、白いキューブの積み重ねが集合
住宅のように置かれ、盛り塩は雪山、梁の影が照明で移り込んだ壁にはかなたの
山並みが見え、そんな作りものの世界を補完するように、なぜかその奥の壁には、
ひとけのないマンションが描かれた小品が展示されている。そこだけは、いわば
入れ子状にもうひとつの架空の世界が顔をのぞかせているようでもあり、ちょっ
とした不気味さを感じながら視線をずらすと、絵を志すひとにとってはデッサン
の友的存在(?)であるはずのトルソが数体置かれていて、しかもなぜか本来の
役割を放棄したかのように横たわり、かといってぞんざいに扱われているかとい
うとそうでもなくて、透明の素材でラッピングされ、それなりに居場所を確保し
ているようでもある。現実と絵画空間の境目のところ、世界を眺めようとする視
線の先にあるはずのそれらは、川口さんの絵画的空間のなかで、いったん、ある
呪縛から解き放たれようとしたのかもしれない。一方、それが徹底しなかったこ
とを思わせるのが、まなざしの中心であることをやめたトルソたちを見下ろして
いる、小ぶりの石膏デッサンの習作。学生時代からともにアートを志してきた同
志的友人(?)の近作らしく、その友人とは、このたびの搬入の最終段階で、作
品に囲まれつつ祝杯(?!)を上げたのだという。そのパーティのあとなのか、
オープニングレセプションの先取りだったのかはわからないけれど、パーティの
途中でいきなり誰もいなくなったみたいなテーブルのような設えもある。そして、
その横のテーブルには、壁の(影の)山並みと重なる木切れのオブジェ。川口さ
んにたずねると、「ブリューゲルの絵にあるような、それぞれに別々の時空間を
生きているようにも見える登場人物がともに描かれている感じ」を空間に展開し
たかったとのこと。崩れてしまったにせよそびえ立つ塔が描かれたブリューゲル
の絵画空間と、石膏像さえ倒されてしまう川口さんの作品との隔たりに、彼女が
模索してきた絵画の新しい可能性があらわれているかどうかは定かではないが、
彼女のインスタレーションの、どこにも中心のないうつろな感じは、ネット空間
を漂う今日的な所在なさに、限りなく親和性があるように思ったりもする。
 そんな、作家の詩的(私的?)なイマジネーションが充満した空間が展開され
る一方で、同じくひそやかな企みではあるものの、描くことで場と直接的にコミュ
ニケーションすることをこころみるパフォーマンスも日々行われている。これは、
英国留学中だった2004年をかわきりに、門真市(2009年)、ベルリン(2010年)、
バンクーバー(2015年)、ハノイ(2016年)など、川口さんが訪れた国内外の場
所で、その地にゆかりのある虫をひたすら描くというもの。トレーシングペーパー
が全面に貼られているため、外からはかろうじて人の気配だけはわかるという閉
じられた空間で、自らも白い防護服で身を包み、黙々と、ときに来場者とお喋り
しながら描かれていくさまざまな虫たち。今回は会場がキャズということで、キャ
ズによく出没する虫と称して、キャズを取り巻くひとたちのアイコンのようなも
のも登場している。ちょっと残念なのは、トレーシングペーパーに内側から描か
れるため、外からは反転した像を見ることになること。そのため、顔写真がもと
になっていると、若干、本人とわかりづらかったりしてツッコミどころ満載なの
だが、コミュニケーションということでいえば、そんなことも作品にいろどりを
添えているように思われる。
 今回はトレーシングペーパーに描かれているが、以前はビニール素材が用いら
れていて、会期終了後は、すべて「思い出のコート」として縫製し保管されても
いる。もちろん、それらが着用されることはなく、かといって、ビニールの劣化
もあり永久保存というわけにはいかないようだ。それでも、衣装ラックに勢ぞろ
いしているコートたちをみていると、川口さんにとっては、絵の具の痕跡ととも
に古びていくものたちこそがリアルであり、ある時間、ある空間に存在した出来
事を、ある手応えでもって確認できるアルバムのようなものなのだろうと思えて
くる。メディアそのものの新しさに頼れないだけに、絵画の可能性を探るといっ
てもことばで言うほど簡単ではないはずだが、トレーシングペーパーの向こうか
ら少しずつあらわれてくる虫たちに、手作りのアニメーションみたいな温かみを
さりげなくまとわせるあたりが彼女の個性であり、絵画にこだわり続ける作家と
しての矜持でもあるに違いない。

___展覧会のご案内_______________________________________________________

CAS ACTION COMMITTEE
川口 珠生 展 

http://cas.or.jp/2017/KAWAGUCHI/index.html

■会期 2017年11月4日(土)~11月18日(土) 14:00-19:00 火・木休み

    ペインティングパフォーマンス:水曜日と休みの日を除く

___次の展覧会のご案内___________________________________________________

ファルマコン -医療とエコロジーのアートによる芸術的感化-
参加作家 エヴォー、フロリアン・ガデン、アンヌ=ソフィ・ヤコノ、ジェレミー・セガール、
       石井友人、犬丸暁、大久保美紀、田中美帆、堀園実
企画 大久保美紀(パリ第8大学造形芸術学部講師、キュレーター)
共催 特定非営利活動法人キャズ
協力 The Terminal Kyoto 京都大学こころの未来研究センター
助成 公益財団法人ポーラ美術財団 公益財団法人朝日新聞文化財団

http://cas.or.jp/2017/Pharmakon/index.html

京都会場 The Terminal KYOTO 
■会期 2017年12月1日[金]-23日[土] 9:00-18:00 無休

    オープニングレセプション:12月1日[金]18:00-21:00 無料
    ワークショップ「nanimo nai, demo nanika aru」(提案:フロリアン・ガデン、主催:FSRP)
    11月23日、12月18日、その間の任意の日時
    現代のエコロジーと身体と環境のあたらしい関係性に着目するワークショップ 参加無料
    申し込み・詳細は大久保美紀(garcone(@)yahoo.co.jp)までお問い合わせください
    シンポジウム「ファルマコンとしてのアート:医療・エコロジーのアート再考」
    日時:12月1日14時-18時 会場:ターミナル京都
    講演:吉岡洋/加藤有希子/大久保美紀/ジェレミー・セガール/エヴォー/フロリアン・ガデン


大阪会場 CAS
■会期 2017年12月2日[土]-23日[土] 14:00-19:00 火木休

    オープニングレセプション/アーティストトーク:12月2日[土]16:00から 参加費500円

________________________________________________________________________

特定非営利活動法人キャズ(CAS)
大阪市浪速区元町1丁目2番25号
A.I.R.1963 3階
TEL/FAX 06-6647-5088
Web http://cas.or.jp/
E-mail mailto:info@cas.or.jp
________________________________________________________________________

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