ひろえのキャズ便り

「ひろえのキャズ便り2017年05月30日号」

ひろえのキャズ便り2017年05月30日号です。

 あ〜なんだか私、超イケてない……そんなふうに鏡のなかの自分にがっかりす
るたびに、舟田さんは女性ファッション誌に没頭するんだという。そうして、あ
こがれの高級ブランドの今年の傾向は?みたいなことをリサーチしたりなんかす
るうちに、たまりにたまった雑誌のスクラップ。そういうものが捨てられないの
もまた彼女の性分のようで、本人いわく、子どものころは、きっと結婚できると
信じて大好きなジャニーズ系アイドルのポスターや雑誌の切り抜きを集めまくっ
ていたんだとか。そんな調子で、欲望をかき立てるものへの感受性がハンパない
舟田さん。いまは見てるだけでも、いつかお金をためたらハンドバッグのひとつ
やふたつ買えるのだからと、念じるように自分に言い聞かせてきたわけですが……
ある日、彼女は気づいてしまったんですね。ホントに欲しいのは、モノそのもの
ではなくて、グラビアの中にしかない夢の世界にほかならないのだと……。かく
して生まれた舟田さんの作品なのですが、このたびのキャズでの個展『Catch the 
pie in the sky』では、彼女が求め続ける「どこにもない世界」が、彼女自身の
手で再構成され、その場所なき場所を妄想で旅する感覚を、見る楽しさ満載の展
示でもって体験させてくれます。
 その展示空間には、流行りのファッションに身を包む女性モデルの写真が並び、
そこかしこに匂い立つような甘い雰囲気がただよっています。若く魅力的な女性
たちの姿は、もうそれだけでみるひとの気持ちをつかんで離さないところがあり
ますが、よくあるグラビア風に見えるそれらに妙な違和感があるのは、モデルが
身に着けているワンピースや靴が、ファッション雑誌から切り抜かれたもの、つ
まり、物自体の厚みがない平面だから。しかも驚きなのは、それらはすべて画像
処理されたものではなく、舟田さん秘蔵のスクラップからトレースされたものだっ
たりするという、かなり手の込んだ作品です。どういうことかというと……まず
は、これぞと思う洋服や靴を選び、そのアウトラインをなぞってはスキャニング
し、カラフルに色付けしてから原寸大に拡大してパネルに加工する……そうして、
芝居小屋の書き割りよろしく仕上がったワンピースや靴を身に着ける(?)とい
うか、からだに貼り付けたモデルたちは、いわば紙の着せ替え人形的存在なわけ
ですが、彼女たちのお人形のように完璧なかわいらしさとも相まって、その夢の
世界はいっそうリアリティを失ってみえます。もっといえば、描かれた実物大パ
ネルが、記号でありながらも実体をもってそこにあるという奇妙な状況は、モノ
としてではないところで価値がふくらみ、だからこそ欲望のままに消費されもす
る高級ブランド品の、虚ろな存在様式そのものでもあるような……。こうして、
記号に置き換えられるまでもなく、もともと記号として消費されているに過ぎな
いことを暴露された美しきモノたちは、作品として閉じられた記号の王国で、そ
れでも満面の笑みでもってこちらに語りかけてくるんですね。美しさを崇高の価
値と信じて疑わない、神なき時代のわれわれの、漠然とした不安につけいるかの
ように……。
 決してそこに住まうことはかなわないけれど、だからこそ魅惑的だったりする
高級ブランド品の世界。そして、そこへ消費者を誘い込もうと過剰なまでに夢を
演出するメディアは、舟田作品の実物大パネル同様、ことごとく現実的な意味を
欠いている……そんなことを思うにつけ、彼女が力わざで切り出した絵に描いた
餅たちは、欲望をかき立てることで延命し続ける、生産と消費のシステムに対す
る内部告発(?)ではなかろうか……なんてことを考えてみたくもなります。もっ
とも、そんなことは百も承知で、破綻しつつあるシステムの次をだれもが考えあ
ぐねているようでもある昨今、舟田さんの作品自体も、彼女のブランド愛ゆえか、
大好きな夢の世界を破壊するよりは、その甘い空気をいとおしんでいるようにも
みえます。ただし、パネルのなかで個性を失い、作り物としてふるまっているよ
うにみえるモデルたちの涼し気な表情からは、もっと冷めた目で自分の(女性の?)
置かれた状況をみつめているような、したたかな戦略みたいなものを感じてしま
うんですね。個であることを放棄することで、消費し続けることの呪縛からのが
れようとする、ひそやかな決意というか……。
 結局のところ、よき消費者である限りで称賛される個性の類は、消費によって
差異化し続けることで自らを更新することでしかないことを思うと、そんなもの
をよしとする時代の空気とはつまり、出どころの知れない呪文のようなものに過
ぎないようにも思えてきます。一方、その抗いがたい魔法でもって、そこから生
み出されるゆがんだ美しさを作品にしたともいえる、舟田さんの『Catch the pie 
in the sky』。お人形遊びの無邪気さは、自らの欲望が無からよきものを生み出
す奇跡を武器に、しなやかにこの世界と戦い続けるものなのかもしれません。

___展覧会のご案内_______________________________________________________

舟田亜耶子展 "Catch the pie in the sky"

キュレーション:八木宏昌(富山県美術館学芸員)

http://cas.or.jp/2017/FUNADA/index.html

■会期 2017年5月13日(土)~6月3日(土) 14:00-19:00 火・水休み

●アーティストトーク、聞き手 八木宏昌:6月3日(土) 16:00-(参加費¥500)

___次の展覧会のご案内___________________________________________________

大寺俊紀+乙うたろう「やわらかな脊椎」

キュレーション:長谷川新 (インディペンデントキュレーター)
協力:土方大(インストーラー)

http://cas.or.jp/2017/Sekitsui/index.html

■会期 2017年7月1日(土)~7月22日(土) 14:00-19:00 火・水休み

●アーティストトーク:7月1日(土)16:00~¥500(定員20名)
●オープニングレセプション:7月1日(土)18:00頃~¥500(1ドリンク付き)
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特定非営利活動法人キャズ(CAS)
大阪市浪速区元町1丁目2番25号
A.I.R.1963 3階
TEL/FAX 06-6647-5088
Web http://cas.or.jp/
E-mail mailto:info@cas.or.jp
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ひろえのキャズ便り

発行周期: 不定期 最新号:  2018/09/21 部数:  106部

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