ひろえのキャズ便り

「ひろえのキャズ便り2017年02月03日号」

ひろえのキャズ便り2017年02月03日号です。

 さて、どんな作品が登場するんだろう!?と毎年楽しみだったりする、新春恒
例のキャズのグループ展『Pilot Plant』。キャズにゆかりのある作家さんに小品
を募り、最終日にはアーティストトーク&オークションも予定されていて、アー
トの描き初め(?)あるいは初売り(!)みたいな意味合いもありそうな本展。
今年は総勢26名(組)の作家さんたちが、「Marcel Duchampに」というお題に取
り組んでくださいました。彼の代表作『Fountain(泉)』を思わせるミニ小便器
あり(『Here』、疋田淳喜)、サインだけで壁を作品にしてしまった大作あり
(『Noir』、明楽和記)、ひげが描き加えられたメス犬の絵あり(『くしゃみ』、
青木万樹子)と、デュシャン的なもの(?)が思い思いに盛り込まれた作品に囲
まれながら、とにかく現代アートを存分に楽しめる展覧会といった印象……とい
いながら、私自身、実はデュシャンが何者なのかよくわかってなかったりするの
ですが、ともかくいくつか作品をたどってみたいと思います。
 まずは、見た目がいかにもデュシャンといったおもむきの、『37°2』(笹岡
敬)。木製の丸椅子の上に車輪ならぬ温度計が突きささっていて、37度あたりの
メモリを指すように、座面がヒーターで温められているという作品です。タイト
ルにある37°2分という数字の意味は不明ですが、なんでも「ひとが立ったばかり
の座席のぬくもり」といった微妙な存在感を、「アンフラマンス」という造語で
デュシャンが表現しようとしたことにならったものなんだとか。そんな限りなく
無意味な電力の消費(?)と、「それがどうした?」といわれたら元も子もない
この作品の存在の軽さは、まさにアンフラマンス的(!?)といっていいのかど
うか迷うところではありますが、不在の存在感こそがエロチシズムの源泉であり、
人間の性欲ほど無意味で非生産的なものはないことを思うと、椅子と温度計とい
う乾いた存在でありながら、なんとはなしに親近感のようなものを感じさせるあ
たりが、この作品の強度といえるのかもしれません。
 エロチシズムといえば、皮膚で感じるそれを視覚的に落とし込んでいるように
思うのが、ハトロン紙に蜂蜜で描かれた『甘い形跡』(澤登恭子)。レコードに
蜂蜜を垂らし、舌でなめながらDJをするという、前代未聞のパフォーマンスでデ
ビューした澤登さんであってみれば、おそらくこのたびの作品もなめたに違いな
い!?という期待通り、素材にはちゃんと「唾液」とありました。聞くところに
よると、デュシャンも自分の体液で描いた作品をいい仲になった女性にプレゼン
トしたことがあるようで、女性からの返歌としてはこれ以上にふさわしいものは
ないかもしれません。それはともかく、魅惑の対象を舌で確かめたいという衝動
の痕跡以外のなにものでもないそれは、理性という名のもとに手なずけられてい
るなにかを目覚めさせ、とまどいでもあり解放感でもあるようなくすぐったさと、
これでいいのだ!的な奇妙な肯定感とともに、しめりけのある清々しさをふりま
いているようなところがあります。
 そんな、デュシャンにならった部分を強く感じさせる作品が多いなか、ならう
というよりは乗り越えんとするたくらみのようであり、作家の決意ともとれるタ
イトルが添えられているのが、3分あまりの映像がループし続ける『I am Duchamp』
(平松伸之)。どこかで見たことがあるようなないような、ある意味お決まりの
デュシャンの肖像写真が、切れ目なくうねるようなスピード感でもって映し出さ
れる作品です。同一性を保ちながらも変化しつつ連なる映像の面白さが、いまもっ
て謎に満ちた彼の思わせぶりな作品群や、遺作からその謎解きが振り出しに戻っ
たような、生涯をかけたはぐらかしを連想させる、デュシャンそのものともいえ
そうなこの映像。しかも、それだけで終わらないのがこの作品のうまいところで、
一瞬、デュシャンのなかに平松さん自身が紛れ込んでいるのを目にしたとたん、
はたと考え込んでしまったんですね。デュシャン以後、現代アートと呼ばれるも
のは、すべからく彼が仕組んだ罠にとらえられており、永遠に終わらないゲーム
のプレーヤーのように、底の抜けた中心のまわりを、ひたすらなぞり続けている
ようなところがあるのかなと……。
 そうして、まるでデュシャンにのろわれたような気分にもなったのは、展覧会
場のBGMよろしく、デュシャン自身がなにかを語る声が、まるで呪文のように空間
を満たしていたからでもあったでしょうか。なんにせよ、ひとりの作家をカバー
したともいえるグループ展が成立すること自体、彼の現代性というか得体の知れ
ないすごさを証明しているように思われる本展。いまもって古びないというより
は、終わりの始まりを見すかす老練さこそが、作家デュシャンであったのかもし
れません。

___展覧会のご案内_______________________________________________________

パイロットプラント展 Marcel Duchampに

■会期 2017年1月21日(土)~2月4日(土) 14:00-19:00 月・木休み

■参加作家(50音順)
青木万樹子、明楽和記、池上あさこ、今井祝雄、大野浩志
岡野香織、金沢健一、川村元紀、国谷隆志、小松敏宏、笹岡敬
澤登恭子、下山由貴、末永史尚、杉村順、瀧弘子
つかもとやすこ、豊嶋康子、中前寛文、ニュートラルプロダクション
林彩子、林勇気、疋田淳喜、平松伸之、藤木正則、舟田亜耶子

●アーティストトーク/オークション:2月4日(土)16:00~(参加費¥500)
 オークションの詳細は http://pilotplant.net/2017Namba/index.html

___次の展覧会のご案内___________________________________________________

笹岡敬展

http://cas.or.jp/2017/SASAOKA/index.html

■会期 2017年2月11日(土)~25日(土) 14:00-19:00 月・木休み

●オープニングレセプション:2月11日(土)17:00~¥500(1ドリンク付き)
●アーティストトーク:2月25日(土)16:00~(参加費¥500)
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特定非営利活動法人キャズ(CAS)
大阪市浪速区元町1丁目2番25号
A.I.R.1963 3階
TEL/FAX 06-6647-5088
Web http://cas.or.jp/
E-mail mailto:info@cas.or.jp
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ひろえのキャズ便り

発行周期: 不定期 最新号:  2018/12/13 部数:  106部

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