ひろえのキャズ便り

「ひろえのキャズ便り2016年12月22日号」


ひろえのキャズ便り2016年12月22日号です。

 二人展が決してめずらしくないキャズでも、このネーミングはなかったかも!?……
とそのタイトルにまずは引っかかりを感じた展覧会『前橋の二人』。なぜに前橋?
と問うまでもなく、もちろん群馬にも紹介すべきアートシーンがあるのだと思い
ますが、本展の企画者である三井さんによると、彼自身がかつて彼の地に暮らし
た経験から、その風土や気風をよく知っていることも、このたび前橋で活躍する
二人を大阪で紹介することにした動機(事情?)だったりするようです。ならば、
私自身の前橋体験も……というわけでかすかな記憶をたどってみると、初めて乗っ
たJR両毛線の閑散とした車中や、そのとき目にした真っ暗な車窓の風景だけが、
なぜかぼんやり思い起こされたりします。タイトな出張スケジュールのせいで、
食事をする間もなく宿にたどりついたのが真夜中だったという、ただそれだけの
ことなのですが、ひとり心細かった旅の気分とともに、ひとけのない原野みたい
にインプットされてしまった私の(?)前橋。そして、そんな前橋からやってき
た二人は、展覧会初日、私のゆがんだ期待を裏切らない迫力で、渾身のパフォー
マンスを披露してくれたのでした。
 まずは、ボールペンを片手にベニヤの合板と格闘するようだった村田峰紀。こ
れも一種のドローイングなのかも(?)ですが、全身全霊で発散されるエネルギー
が合板の表面を削り、ペン先が完全に板を突き抜けたころには、木くずばかりか
汗も唾液も飛び散って、うなり声とも叫びともつかない声が、声明(しょうみょ
う)の倍音さながらにもれ聞こえてきたという、なんとも形容しがたい光景がそ
こにはありました。ことばを貼り付けようのないところでなにかが表現されたと
きに現れる、人間のあまりに動物的な部分とでもいいましょうか。既存のカテゴ
リーで切り分けようとする態度を徹底的に寄せ付けないところが、村田さんのパ
フォーマンスにはあるように思います。おそらく、作家自身が「やっているうち
に自ずとこうなった」というそのふるまいに、わかったような理屈をつけたって
仕方ないんですね。そんな、あっけにとられる30分超のパフォーマンス中に、
10本ほどのボールペンがダメになったのですが、ごく一般的な製品ながら、こ
れでなければというブランドの指定があるあたり、ただの力業というわけではな
さそうです。そしてなんといっても、その行為によって形を変えた合板の不定形
なフォルムや、荒々しいけれども繊細な肌理のあらわれが、まるで無心の祈りの
さなかに降りてきた造形物のようで、圧倒的な存在感を放っていたりするのがま
た不思議なんですね。
 一方、そんな村田さんの様子をまるで風景のように眺めながら、ゆうゆうと自
作のバスタブに湯をためて入浴していたのが、棺桶のようにも見えるそれをかつ
いでどこにでも出かけて行くという八木隆行。鑑賞者が注視するなか、おもむろ
に衣服を脱ぎだしたかと思うと、湯船につかってビールを飲み始めた八木さん。
風呂に入りたいから入る……といわれて納得してしまったらそれまでなのですが、
発想の原点は、山でのキャンプ中に風呂に入れたら最高じゃないか!?みたいな
ところにあったようです。雨つゆをしのぐテントに寝袋、食料、ガスボンベ、煮
炊きするコンロ等々……自然に包まれるためにこそシェルターを万全に整える必
要があるアウトドアのレジャーは、一見、ワイルドのようでいて、実はすこぶる
人工的だったりする……そう、安心して自然を楽しむためには、ほどよく持続す
る人間にとっての世界を設える必要があるんですね。そこに八木さんは、普通は
なしですませるしかないお風呂を追加することにした─そう考えると、ときに雪
山で風呂に入ったりする八木さんのあり得ないパフォーマンスも、自然への挑戦
というよりは、人工的(artificial)な世界を完璧にしたいという、人間のはて
しない欲望をアートとして提示してみせる、過激だけれどもまっとうな行為のよ
うにも思えてきます。
 人間の理性的な部分を、徹底的にゼロに近づけようとしているように思われた
村田さん、そして、あくまでも理性が制御する世界の完成を目指して突き進んで
いく八木さん。いずれも体当たり過ぎるところを除いては、あまりに違い過ぎる
二人なのですが、そんな彼らがともに大阪で集う口実(?)としての前橋……と
いうわけで、結局、なぜに前橋?というところは謎のままなのですが、私にとっ
て、訪れてみたい場所がまたひとつ増えたことだけは確かなようです。

___展覧会のご案内_______________________________________________________

前橋の二人:村田峰紀・八木隆行

キュレーション:三井知行(大阪新美術館建設準備室学芸員)

http://cas.or.jp/2016/Maebashi/index.html

■会期 2016年12月3日(土)~12月24日(土) 14:00-19:00 月・木休み

●アーティストトーク 聞き手:三井知行:12月24日(土)16:00~(参加費¥500) 
 

___次の展覧会のご案内___________________________________________________

「パイロットプラント/Marcel Duchampに」

■会期 2017年1月21日(土)~2月4日(土) 14:00-19:00 月・木休み
________________________________________________________________________

特定非営利活動法人キャズ(CAS)
大阪市浪速区元町1丁目2番25号
A.I.R.1963 3階
TEL/FAX 06-6647-5088
Web http://cas.or.jp/
E-mail mailto:info@cas.or.jp
________________________________________________________________________

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