ひろえのキャズ便り

「ひろえのキャズ便り2016年7月13日号」

ひろえのキャズ便り2016年7月13日号です。


 窓のない壁から陽が差し込んでいるかと思うと、壁のふちからお隣の部屋の灯

りがもれているように見えたりなんかして、驚き半分、疑い半分の気持ちで、見

慣れているはずのキャズ空間をしげしげと眺めてしまった、徳重道朗展『風光』。

ないはずの窓の作品は「内光派風」、壁のふちの隙間をみせるほうは「すきまの

光風」、ほかにもエアコンの動きにあわせて金属の鍋蓋がときおり大きな音をた

てる「雷鳴」……といった具合に、風光を屋内に取り込んだ作品のようですが、

キャズの展示台と同じものをわざわざ作ったという「キャズの展示台風」なんて

ご苦労な作品も一緒に置かれているあたり、単に人工の風光というわけでもなさ

そうです。そして、そんな期待に応えてくれる、別の展示室にある作品たちをご

紹介すると……まず、目に入るのは、室内が360度逆さまに写り込むガラス玉(?)

と、縦半分に切断された布袋像。これらがなぜか組み合わされて、縦長の二つの

展示台に挟まれた状態で天井にまで届いています。人型が激しくストレス(?)

というか圧力を受けているこの様子に、なんとなく心穏やかでないものを感じて

しまうのですが、どうも「置く」のではなく「挟む」ことが、「逆さま」ととも

にキーワードのようではあります。そして、意識的に回り込まないと見えない奥

の展示台の内側にも作品が置かれている……というかこちらもやっぱり挟まれて

いて、もとの用途を剥がされたうえで、二つの展示台の間の20センチ足らずの空

間に、つっかえ棒状態でぎっしりつめ込まれているという徹底ぶり。しかもそれ

らは、大人のおもちゃ的なものと組み合わされた女性のフィギュアだったり、目

をくりぬかれた人形の頭部や、足を切断された動物の置物だったりして、言葉で

切り分けると暴力的というか、ややグロテスクな印象さえあります。

 でも、よくよく考えてみると、それらが転倒する前に向けられていたまなざし

が、そう判断させるだけという見方もできるんですね。徳重さんによると、オブ

ジェたちの多くは古道具屋的なところでみつけたもので、入手した時点ですでに

本来の用途を終えており、作品化することでそれらにもう一度新たな命を吹き込

むという意図もあるようです。なんというか、こんなに軽やかで自由な目的外使

用ってありなのか?!って感じですが、重力にしばられ、地に足着いてしか生き

られない私たちであってみれば、せめて心根だけでもしなやかに、あるいは逆立

ちするくらいの気概でもって、この世界と向き合ったっていいんじゃないのか─

なんて勢い込んでみたついでに思い起こされたのが、上部構造と下部構造を転倒

させて世界を論じたマルクスの議論も、その出発点のところでは、ものごとを徹

底的に新しい仕方で眺めようとする、野心に満ちた力技だったのではないか!?

ということ。これもまぁ、ものは考えようといってしまえばそれまでなのですが……。

 そんな妄想はともかく、冒頭でご紹介した人工の風光の作品について補足する

と、キャズのある壁の向こう側に開かずの窓があったり、ある事情から壁に多少

の隙間があったりという事実を踏まえてのものだったりします。というわけで、

みための破天荒な印象に反して、実は周到な下調べのもとで場に介入しており、

作品そのもの以上にそれを支える背景を意識させようとするところがある徳重作

品。それは、作品を作品としてみる私たちのあたりまえに疑問を投げかけ、思考

にアクロバティックにふるまうことをそそのかしている(?)ようでもあります。

もしかすると、そこから人間がよく生きる技術としてのアート、みたいなものを

考える手がかりが得られるかもしれない……というか受け手次第といったところ

でしょうが、少なくとも、八方ふさがりの世界情勢や、明日に希望がもてない閉

塞感をものともしない、強靱な思考のひとつのありようだけは、そこかしこに指

し示されているような気がしています。


___展覧会のご案内_______________________________________________________

徳重 道朗展 「風光」
キュレーション:天野 一夫(豊田市美術館)

http://cas.or.jp/2016/TOKUSHIGE/index.html

■会期 2016年6月25日(土)~7月16日(土) 14:00-19:00 火・水 休み

●アーティストトーク 聞き手、天野 一夫
 7月16日(土)16:00~(参加費¥500)

___次の展覧会のご案内___________________________________________________

明楽 和記展
キュレーション:平田 剛志[美術批評]

http://cas.or.jp/2016/AKIRA/index.html

協力:今井 祝雄、越野 潤、椎原 保、冨井 大裕、福田 真知(敬称略)

■会期 2016年8月27日(土)~9月10日(土) 14:00-19:00 火・水 休み

●オープニングレセプション:8月27日(土)17:00~¥500(1ドリンク付き)
●アーティストトーク:9月10日(土)16:00~(参加費¥500) 聞き手、平田 剛志

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ひろえのキャズ便り

発行周期: 不定期 最新号:  2018/12/13 部数:  108部

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