ひろえのキャズ便り

「ひろえのキャズ便り2016年6月17日号」

ひろえのキャズ便り2016年6月17日号です。

 親しい友人に呼びかけるようなタイトルながら、中身はがっつり「現代美術と
は?」という問いをめぐって構成されている、下山由貴制作によるドキュメンタ
リー『こっちへおいでよ』。下山さん(1988年生まれ)と同世代のアーティスト
が、現代美術(と呼ばれるもの)への素直な思いを語っている様子が、彼らの制
作現場や展覧会風景とともにおさめられている記録映像です。
 かつて、同じギャラリーに出入りしていた知り合いではあるものの、「わたし
とは別の視線をアートに向けている」と下山さんがいうところの、原田ちあき、
ニロタカ、SHIZUKAの3人。それぞれに現代美術(の側にいるひとたち?)へのざ
わつき感を吐露する彼らなのですが、そんな彼らの立ち位置が「あっち」だとす
ると、「こっちへおいでよ」と彼らに呼びかける下山さんにとっての「こっち」
とは、ひとまず現代美術(とされているもの?)ということになると思われます。
あっちはあっち、こっちはこっちという両者のすみわけみたいなものも現に存在
するなかで、それでも「わたしは彼らを無視できなかった」といい、結果として
彼らにカメラを向け作品にしてしまったという下山さん。その原動力は、昔の同
志(?)に対するシンパシー、あるいは「こっち」へと自ら向かったその場所に
なじみきれない、彼女自身の違和感なのかは正直わかりません。ですが、「現代
美術は勉強しないとわからないんだよ~」(下山さん)注1)みたいな発言が挿入
されていたりもすることを考え合わせると、下山さんは結局のところ、あっちで
もこっちでもない場所にいるのかもしれないという予感はあります。というか、
「現代美術とは?」と問うことは、こっちは現代美術であっちはサブカルチャー
みたいな境界自体を問題にせざるを得ないはずなんですね。大枠ではそれほど表
現としての差はないにもかかわらず存在する線引きが、ちょっと自分とは趣味の
違う隣人へのアンチでしかないのなら、なんだかお互いに不幸だなと思ってしま
うのですが、それ以上に気になるのが、「いま」という時代が表現され、それな
りに現実に対して力を持ち得るようなアートがどれほど存在するのかということ。
単に〈わたし〉の気分が表現されているだけの作品を比べたところで、しょせん
好き嫌いの話にしかならないわけですから……。
 そんなことをにわかに考えはじめたのは、下山さんが切り取った若きアーティ
ストたちのもやもやした日常と、そこにかなり唐突な仕方で挿入されている国会
前のデモ風景との隔たりに、わたしたちが置かれているあるやりきれない状況が
視覚化されているような気がしたからでもあります。少しずつなにかが変わりつ
つあることへのぼんやりした不安を感じながら、それでもこの日常が永遠に終わ
らないことを祈るしかない無力感……とでもいいましょうか。そんな、個を公に
接続する手だてを持たないまま生み出される表現は、往々にして私的なものの輪
郭をなぞることに終始するという事情があるのだとしたら、それこそ「あっち」
でも「こっち」でも違いはないはず─そう、下山さんがいうように、「彼らの問
題は、わたしたちの問題」でもあるのです。
 「9条壊すな!」のプラカードほどではないにせよ、やっぱりいきなり感のあ
る阿波踊りと祭りのひとだかりの風景が、国会前のデモのそれと大差なく見える
ことに驚かされもした『こっちへおいでよ』注2)。もしかすると下山さんは、美
術の世界にある「あっち」と「こっち」をこんなふうに眺めているんだろうか……
なんてことを考えたりもしながら、そんなさめた映像の向こう側に、とある勉強
会で「結局、学生運動ってなんだったんですか?」と食い下がっていた、下山さ
んの真摯なまなざしがあることを書き添えておきたいと思います。

注1) 原田ちあき&下山由貴で、かつてニコ生のために語り合ったときの下山さ
んのことば。本編中では、このときの映像とともに、「下山さんとニコ生して色々
考えるようになった」(原田ちあき)という発言がなされている。

注2) 原田ちあき展の打ち合わせ中に話題になっている、東京の某所で行われた
阿波踊りの映像。

__上映会のご案内________________________________________________________

下山由貴「こっちへおいでよ」上映会

制作:下山由貴
出演:原田ちあき、ニロタカ、SHIZUKA

http://cas.or.jp/2016/SHIMOYAMA/index.html

■会期 2016年6月11日(土)~6月18日(土) 火・水 休み
  各日15:00~/17:30~ (約90分、最終日の18日は15:00~のみ) 

●アーティストトーク 「現代美術は正しいか?」:6月18日(土)17:00~(参加費¥500)
    下山由貴、辻大地、前田裕哉、ニロタカ、SHIZUKA

__次の展覧会のご案内____________________________________________________

徳重道朗展 「風光」
キュレーション:天野 一夫(豊田市美術館)

http://cas.or.jp/2016/TOKUSHIGE/index.html

■会期 2016年6月25日(土)~7月16日(土) 14:00-19:00 火・水休み

●オープニングレセプション 6月25日(土)17:00~¥500(1ドリンク付き)
●アーティストトーク 聞き手、天野 一夫
 7月16日(土)16:00~(参加費¥500)

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Web http://cas.or.jp/
E-mail info@cas.or.jp
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ひろえのキャズ便り

発行周期: 不定期 最新号:  2018/12/13 部数:  106部

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