ひろえのキャズ便り

「ひろえのキャズ便り2018年09月21日号」


ひろえのキャズ便り2018年09月21日号です。

 ともに人間の想像力をかき立てるという意味では双子のきょうだいのようであ
りながら、それぞれ目指すところを異にするとされてきたアートとサイエンス。
そんな、両者の間にある古くて新しい問題を引き受けるべく企画されたグループ
展、『The Astrologer Who Fell Into A Well』(井戸に落ちた占星術師、以下
『The Astrologer』)について、私なりに考えをめぐらせてみたいと思う。
 「Outer space」(宇宙空間)という共通テーマはあるものの、国籍も人種も違
うなど、文化的アイデンティティをそれぞれ異にするアーティスト7名(5組)に
よる本展。さまざまな視点から表現された個々の作品の面白さはもちろんあるの
だが、なにより展覧会全体を見わたすためにも、まずはタイトルに掲げられたイ
ソップ物語が参照された意味合いを確認しておきたい。古代ギリシャに生きた占
星術師にとって、星空は目の前にある危険を見えなくするほど甘美なものであり、
そこに没頭し、幸せな未来を占う限り、彼を夢の世界に誘ってやまないものだっ
た。ひるがえって、われわれが生きる現代はというと……だれもが宇宙を旅行で
きるようになるのはまだ遠い先のことだとしても、人工衛星などのテクノロジー
が可能にした日常が自明のものとなり、あまりに精巧になったメディア表現によ
る疑似的な宇宙体験は、もはや宇宙に行くことさえ必要ないのでは(?)と思わ
せるところにまで到達した感がある。そんな状況にあって、目に見えないところ
で身近になったリアルな宇宙と、目に見える仕方で手の届くところにあるフェイ
クな宇宙。これはどう考えても、「outer space」という概念そのものをゆるがす
事態ではないかと思われる。というか、この「わたし」の外側にひろがる空間の
すべてが、そもそも「outside」(外)であるともいえるのだが……。そう考える
と、作家個人のアイデンティティが表出されているようにしか見えないシーナ・
ローズのパフォーマンス映像『The Astronaut 2018』も、実はきわめて現代的な
(という意味では普遍的な)、個の居心地の悪さを表現しているように思えてく
る*注)。
 ところで本展には、(あまり注目されなかったのだが)タイトルの
『The Astrologer』とは別に、サブタイトルとして短い英文が添えられている
(Cosmic evocations in time space parenthesis)。詩的で訳しにくいのだが、
私自身はとりあえず、「宇宙の神秘を時間的・空間的にかっこに入れてみる」と
解釈してみた。本展キュレーターのジュリア・ウォーに「parenthesis」のことを
たずねると、「かっこの中はあくまでも謎であり続ける」みたいな答えが返って
きたので、あながち間違いではないようだ。そして、そういったいわば思考実験
のための「かっこ」として機能するような作品が選ばれているのが
『The Astrologer』だと考えると、個々の作品についても、また違った見方がで
きるのではないかと思う。たとえば、宇宙を映像として採集しただけにみえてし
まうセミコンダクターの作品や、「Ancient Light」(古代の光)といっても、何
億光年も離れてるんだから当然では(!?)と思ってしまうメラニー・キングの
夜空の写真。なんとなく古風な彼らの表現に今日的な意味があるとしたら、サイ
エンスなのかアートなのかわからないギリギリのアプローチを、粛々とこなし続
けている身振りではないかと思う。そして、その顕著な例が、あらゆる人文学を
さまようように吸収したうえで、なにものでもない知のありかたを再提示してい
るように思われるエリック・ラスディマ。「Isotechnography」という自身の造語
をテーマとする研究者でもある彼は、あらゆる先入見から解き放たれた自由と、
常識に守られないという意味では孤独(isolation)なまなざしでもって世界にア
プローチする。そんな彼による著作、『Drowning The Moon』の展示は、その本の
静かなたたずまいと淡々と流れる朗読によって、なにものでもない者がなにもの
でもない世界を記述したような、独特の気配をただよわせていた。きわめつけ
は、ジェーン& ルイーズ・ウィルソンの、カザフスタンで撮影したというロケッ
ト発射までの記録映像。『2001年宇宙の旅』よりもレトロに見えたあの作品世界
には、宇宙に向けられた人類の欲望そのものを振り出しに戻したような、奇妙で
空疎などこでもない雰囲気がただよっていたように思う。
 もう一度、タイトル『The Astrologer』に戻ると、夜空に魅入られて現実を見
失った占星術師にしても、天空に世俗を重ね合わせていた限り、天に住まう神を
失っている現代人と地続きのところに生きていたといえるかもしれない。そのあ
たりのことを考えるうえで、英国人とわれわれとでは決定的に事情が異なること
は、やはり避けて通ることはできないだろう。神の死に立ち会い、産業革命を経
て、ターナーが天空に描いた天国への階段をもはや感じ取ることができないと嘆
く(ジュリアが語ってくれた)英国人の感性を、残念ながらわれわれは持ち合わ
せていないのだから。それでも宇宙(universe)の闇は、人類共通の普遍的
(universal)な価値に気づかせてくれるものなのだろうか……。われわれは、光
に照らされた世界の背後に広がる無限のはてしなさに、いまいちど向き合うべき
なのかもしれない。
 
注)シーナ・ローズは東カリブ海、バルバドス島出身のカリビアン。本展では、
奇抜なファッションによるパフォーマンス映像が発表されたが、カリブの自然も
含めた土着的なものが、視覚的に解体されたうえで取り込まれた彼女の絵画作品
なども考え合わせると、その表現は、アイデンティティやジェンダーといった枠
組みを破壊したところで自己を再定義しようとする試みではないかと思われる。
また彼女は、パフォーマンスする自分のことを、「シュールで恐ろしい不思議の
世界に生きる……モンスターであり、よそ者であり、astronaut(宇宙飛行士)で
もあるように感じる」と語っている。

__展覧会のご案内________________________________________________________

The Astrologer Who Fell Into A Well 展

http://cas.or.jp/2018/Astrologer/index.html

企画:ジュリア・ウォー
コーディネーター:川口珠生
共催:特定非営利活動法人キャズ
協力:萬福寺、Waugh Office
助成:グレイトブリテン・ササカワ財団、大阪市芸術活動助成事業

会期 2018年9月8日(土)-9月22日(土) 14:00-19:00 火・木休み

------------------------------------------------------------------------
特定非営利活動法人キャズ(CAS)
大阪市浪速区元町1丁目2番25号 
A.I.R.1963 3階
TEL/FAX 06-6647-5088
Web http://cas.or.jp/
E-mail info@cas.or.jp
________________________________________________________________________

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