西行辞典

西行辞典 第384号(181117)

カテゴリー: 2018年11月17日
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・384(不定期発行)
                   2018年11月17日号

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          今号のことば    

         1 山おろし 
         2 山がつ
         
山城→第362号「みづ・みつの」参照
山田のくろ→第256号「萩(01)」参照
山田のひた→第263号「ひた」参照
山鳩→第287号「ひはらの峯」参照
山時鳥→第326号・327号「ほととぎす」参照
山たちばな→第213号「たちばな」参照

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       ◆ 山おろし ◆

【山おろし】

山から低地に向かって吹きおろす風の事です。颪(おろし)は冬の
季語でもあり、普通は冬季に山から吹きおろしてくる強く冷たい風が
印象的です。
しかし本格的な春の到来を告げると言われている滋賀県比良山地の
「八講おろし」などもあります。神戸市の「六甲おろし」でも季節は
関係なく吹き下ろしてくる強い風を言うようです。
西行歌でも季節に関わりなく「山おろし」の名詞が使われています。

「山おろし」のフレーズはありませんが、同じ意味の「伊吹おろし」の
歌もここで取りあげます。

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      月前落葉

01 山おろしの月に木葉を吹きかけて光にまがふ影をみるかな
          (岩波文庫山家集91P冬歌・新潮499番・
                西行上人集・山家心中集) 

○月に木葉を吹きかけ

夜の月光の輝く中で、強風が木の葉を吹き舞わせている情景。

○光にまがふ

「光」とは月光のこと。「まがふ」は月光と、月光に照らされて、
風に舞う木の葉が入り乱れている様子を表現したものです。
木の葉も月光に照らされて輝いている状態が、月光そのものと
間違えそうだということ。

○影をみるかな

「影」は木の葉が月光に照らされてできる陰影。木の葉と月光が
混然と一体になって見えるような感覚だと解釈できます。

(01番歌の解釈)

「山颪が木の葉を月光に吹きかけるように吹く。紅葉は光を受けて、
月と紅葉と見分けられないほど美しく光り輝いた。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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02 山おろしに鹿の音たぐふ夕暮を物がなしとはいふにやあるらむ
           (岩波文庫山家集69P秋歌・新潮433番)

○鹿の音たぐふ

鹿の鳴く声と、山おろしの風の音が一緒に重なっているということ。
    
自動詞ハ行四段活用及び他動詞ハ行下二段活用です。
「たぐふ」は連体形と終止形、「たぐへ」は未然形と命令形です。
「類ふ・比ふ」「類へ・比へ」と表記し、並ぶ、一緒になる、共に
行動する、合せる、などの意味合いを持つ言葉です。

○あるらむ

動詞「あり」の連体形「ある」に、推量の助動詞「らむ」が接続した
言葉です。「・・・だろう」という程の意味です。
「あるらむ」は西行歌に12首あります。

(02番歌の解釈)

「山おろしの風に伴って鹿の哀音の聞えて来る夕暮にこそ、
他はものの数でなく、もの悲しいとはいうのであろう。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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03 山おろしに乱れて花の散りけるを岩はなれたる瀧とみたれば
      (岩波文庫山家集33P春歌・新潮156番・万代集)

○岩はなれたる瀧

桜の花びらが強風によって盛んに梢を離れて吹き飛ばされている
情景を、落下する瀧の水の飛沫になぞらえたものです。
私には少し作為性が強いかな?とも思います。

(03番歌の解釈)

「岩壁を離れ飛沫となって落下する滝と見たのであるが、よくよく
見ると山おろしのために桜の花が乱れ散っているのであった。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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04 山おろしの木のもとうづむ花の雪は岩井にうくも氷とぞみる
         (岩波文庫山家集36P春歌・新潮112番)

○花の雪

山桜の花弁を雪に見立てた表現は西行歌に多くあり24首を数えます。

○岩井

岩間から自然に湧き出る泉のこと。岩で囲まれた泉のこと。
わざわざ深く掘っている井戸とは違って、自然に湧き出てくる
泉という意味合いで使われている言葉です。

○氷とぞみる

ふつうは気温が氷点下になり、水分が凝固して固体になること。
また、液体から固体になったものを氷といいます。

(04番歌の解釈)

「山から強い風が吹き下して木の下を花が埋めると雪が
積もったように見えるが、岩間の清水に花が浮かべば氷が
張ったように見える。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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     かへりまうで来て、をとこのもとへ、なきかげにも
     かくやと覚え侍りつると申しつかはしける

05 思ひいでてみ山おろしのかなしさを時々だにもとふ人もがな
            (岩波文庫山家集241P聞書集112番)

○かへりまうで来て

この歌は聞書集107番からの連作です。
「浅からず契り…」という聞書集107番詞書によって、かつて浅からぬ
縁のあった女性の墓参りに行き、帰ってきたということがわかります。

○をとこのもとへ

亡くなった女性の夫だと思わせます。

○なきかげにもかくやと

亡くなった女性も西行と同じように思っているという推量の言葉。

○み山おろし

深山おろしのこと。高い山から吹き下ろす風。
この場合は「御山」というよりは「深山」と解釈するのが自然です。

○とふ人もがな

尋ねていく人がいて欲しいという願望。

(05番歌の解釈)

「思い出して、深山おろしの悲しい墓を、せめて時々だけでも
たずねてくれる人があったらよいのになあ。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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      待賢門院の中納言の局、世をそむきて小倉の麓に
      住み侍りける頃、まかりたりけるに、ことがら
      まことに優にあはれなりけり。風のけしきさへ
      ことにかなしかりければ、かきつけける

06 山おろす嵐の音のはげしきをいつならひける君がすみかぞ
     (西行歌)(岩波文庫山家集135P羈旅歌・新潮746番・
           西行上人集・山家心中集・西行物語)

○待賢門院中納言の局

待賢門院は藤原公実の娘の璋子のこと。1101年から1145年まで在世。
藤原実能の妹。白河天皇の猶子。鳥羽天皇中宮。崇徳天皇・後白河
天皇・上西門院などの母です。1101年から1145年まで在世。

待賢門院中納言の局は待賢門院に仕えていた女房のの一人です。
待賢門院の落飾(1142年)とともに出家、待賢門院卒(1145年)
の翌年に門院の服喪を終えた中納言の局は小倉に隠棲したとみな
されています。
西行が初度の陸奥行脚を終えて高野山に住み始めた31歳か32歳頃
には、中納言の局も天野に移住していたということになります。
待賢門院没後5年ほどの年数が経っているのに、西行は待賢門院の
女房達とは変わらぬ親交があったという証明にもなるでしよう。

中納言の局は215Pの観音寺入道生光(世尊寺藤原定信、1088年生)
の兄弟説があります。それが事実だとしたら西行よりも20歳から
30歳ほどは年配だったのではないかと思います。金葉集歌人です。

○世をそむきて

出家することです。在俗ではなくなったということ。
待賢門院は1142年に落飾していますが、それに殉じて堀川の局と
中納言の局は落飾して尼となり、待賢門院没後一年間は三条高倉第
で喪に服してから、その後に中納言の局は小倉山の麓に隠棲した
ものでしょう。

○小倉の麓

京都市右京区小倉山の麓のこと。

○まかりたり

尋ねて行くことです。

○優にあはれなり
 
痛ましいほどに哀感を誘い情趣が深いということ。

○嵐の音

強く吹く風の音。嵐山の「嵐」に掛けています。

(06番歌の解釈)

「小倉山から吹きおろす嵐の音の激しさに堪え、いつの間に住み
慣れるようになったあなたのお住居なのでしょうか。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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07 おぼつかないぶきおろしの風さきにあさづま舟はあひやしぬらむ
          (岩波文庫山家集169P雑歌・新潮1005番・
             西行上人集・山家心中集・夫木抄)

○おぼつかな

「覚束無し」のこと。
対象がぼんやりしていて、はっきりと知覚できない状態。また、
そういう状態に対して抱くおぼろな不安、不満などの感情のこと。
心もとなさを覚える感情のこと。
「おぼつかな」は西行の愛用句とも言えます。歌は11首、詞書に
一回あります。

○いぶきおろし

近江(滋賀県)と美濃(岐阜県)の国境にある伊吹山から冬に吹き
降ろす冷たく強い風のこと。

○あさづま舟

朝妻港は琵琶湖の東岸の北の方にあった港です。現在の米原市です。
朝妻港から大津港などを往復して木材を運んだ舟ですが、遊女を
乗せていた舟でもありました。

○あひやしぬらむ

「遭うのではなかろうか?」と疑問に思う言葉。

(07番歌の解釈)

「心配だな。伊吹颪の吹きおろす矢面に、朝妻舟が
遭遇するのではないか。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

「いぶき」と「あさづま」のフレーズのある歌はもう1首あります。

 くれ舟よあさづまわたり今朝なせそ伊吹のたけに雪しまくなり
     (岩波文庫山家集169P雑歌・新潮1006番・夫木抄)

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       ◆ 山がつ ◆

【山がつ】

山間に住んで樵や木地師などの職業をしている人々を指します。
身分的には蔑まれていた人々でした。
漢字表記では山賤で「やまがつ・やましず」と読みます。山家集には
「しづ=賤」の言葉のある歌も多いのですが、ここでは割愛します。

「山賤」によく似た文字で「山賊」がありますが、これは悪事を働く
山賊の事であり、山家集では「山だち」と表記されています。よって、
「山だち」は「山がつ」のことではありません。

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01 山がつの荒野をしめて住みそむるかた便なる恋もするかな
    (岩波文庫山家集151P恋歌・新潮655番・西行上人集)

○荒野をしめて

山がつの一人が、荒れている野を自分のものにして…の意味。

○住みそむる

住み始めたこと。「そむる」は「初むる」。

○かた便なる

一方的な恋のこと。片思いのこと。
「…住みそむる」までの上句と、「かた便…」からの下句との関係
性がよく分からないままです。

(01番歌の解釈)

「山人が荒れた野を占めて住みはじめた堅田ではないが、こちらから
だけで、一向に返事の貰えない片便りの恋をもすることだなあ。」
            (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

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     山里の柳

02 山がつの片岡かけてしむる庵のさかひにたてる玉のを柳
(岩波文庫山家集23P春歌・新潮52番・西行上人集・山家心中集・
        御裳濯河歌合・新古今集・御裳濯集・西行物語)

○片岡かけて

独立した小高い丘を言います。和歌文学大系21では「こちら向き
の丘」とありますが、片方になだらかに傾斜している丘という意味
でもあるでしょう。

○しむる庵

「占める」のことです。占有していることを表しています。

○玉のを柳

「玉」という言葉は美しいものを表す美称です。「を柳」は小柳の
ことで小さい柳の木をいいます。柳の木を慈しんでいるような想いが
伝わってくる表現です。

(02番歌の解釈)

「山人が片岡の野を領有するしるしに立てた小柳の枝が、玉を
貫いた糸のように美しい。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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03 秋暮るる月なみわかぬ山がつの心うらやむ今日の夕暮
           (岩波文庫山家集89P秋歌・新潮489番)

新潮版では「月なみわかぬ」は「月なみ分くる」とあり、意味が
逆になります。

 秋暮るる月なみ分くるやまがつの 心うらやむ今日の夕暮
                (新潮日本古典集成489番)

○月なみわかぬ

「月なみ」とは移ろいゆく「月ごと」のこと。月ごとの季節や行事の
移り変りとは関係なく生きているということ。

○心うらやむ

山人のそういう心理や生き方がうらやましい・・・。

(03番歌の解釈)

「今日のこの夕暮れで秋が終わる。この悲しさと無関係に生きて
いる山人の心が今日はとっても羨ましい。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

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04 山がつの住みぬと見ゆるわたりかな冬にあせ行くしづはらの里
      (岩波文庫山家集172P雑歌・新潮1548番・夫木抄)

○わたり

住んでいる場所。または平面的に広がっている空間を指すことば。

○あせ行く

褪せ行くこと。風景や色彩が移ろい変わり、色あせていくこと。
冬枯れのためにモノトーンの世界に向かうということ。

○しずはらの里

左京区静原町のことです
静原は鞍馬と大原の中間に位置する山の中の町です。現在も京都
の街中から取り残されたような山あいの町です。ここから大原に
向かう道があります。静原から江文峠を越えると大原です。
江文峠を越えて後白河院は寂光院に住む建礼門院を訪ねました。
大原御行として平家物語の巻末を飾っています。

(04番歌の解釈)

「木樵のような身分賤しい者が住んでいたと思われる辺りだよ。冬と
ともに荒涼とした景色になって行く静原の里は」
              (新潮日本古典集成山家集より抜粋)

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05 山がつの折かけ垣のひまこえてとなりにも咲く夕がほの花
           (岩波文庫山家集53P夏歌・新潮欠番・
            西行上人集追而加書・六花和歌集)

○折かけ垣

柴や竹などを垣根用に折り曲げて使って作られた垣根。

○ひまこえて

ここでは空間、隙間のことです。

○夕がほの花

ウリ科のツル性植物。「ヨルガオ」とも言います。
初夏に朝顔に似た白い花が咲きます。この花は夕方に開いて翌朝
には萎みます。実は干瓢の原料です。

(05番歌の解釈)

「山がつ(木樵人など)がつくっている折りかけ垣(柴、竹などを
折り曲げて作った垣)の空間をこえてとなりまでのびて花の咲く
夕顔の花よ。」
          (渡部保氏著「山家集全注解」から抜粋)

【六花和歌集】

完成年も撰者名も不明なままの撰集です。
一応の成立年代は南北朝時代の1360年代、撰者は冷泉派に近い人物と
みなされている撰集です。
新拾遺和歌集以前の勅撰集や私家集などから1934首を抄出して、
各季節及び恋・羈旅・雑・神祇・釈教に部分けされています。
西行歌は50首あまりが撰入しています。

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  (後記)

本日の旧暦は10月10日。小春の内ですが、この数日は寒くなった感じ
です。今年は北海道の降雪も記録的な遅さとのことです。しかし、
これからは冬型の季節の到来を予感させます。

この時期は紅葉シーズンです。11月14日に大原地区。次の15日には
嵯峨野地区に行って来ました。ところが少しは期待した紅葉には出会え
ませんでした。くすんだ紅葉や青葉のままのものが多くて、感動を覚え
るような鮮烈な紅葉はまだまだでした。一日における寒暖差や秋時雨が
紅葉の色を深めると言います。寒暖差も強くはなく、しかも秋時雨も
乏しいものだったので、今年の京都の紅葉の見頃はもう少し先の月末
頃なのでしょう。ただ呆けたように見入るしかない素晴らしい紅葉に、
今年もなんとか出会いたいものです。

パソコンがかなり不調です。メーラーのアウトルック10は立ち上がっ
ても数秒でダウンします。その繰り返しです。エラー表示も出ないの
ですが、これはウインドウズ10の自動更新が原因と断定できます。
この回復に苦慮しています。パソコンスキルがあるわけでもなくて、
今後どうなることか、予測もできません。困ったことです。

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  ◎ 「西行辞典」第384号 2018年11月17日発行 

   「西行辞典創刊号発行 2005年08月10日」 

  ◎ 発行責任者 阿部 和雄
   http://sanka11.sakura.ne.jp/

  ◎ 発行システム インターネットの本屋さん「まぐまぐ」を
     利用させていただいています。
   『まぐまぐ』 URL: http://www.mag2.com/

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発行周期: 不定期 最新号:  2019/02/09 部数:  134部

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