西行辞典

西行辞典 第27号(061026)

カテゴリー: 2006年10月26日
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      ◆◆◆◆  西行辞典  ◆◆◆◆
                        
                  vol・27(不定期発行)
                   2006年10月26日号

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          今号のことば    
 
          1 ありのとわたり
             2 淡路島・淡路潟
         3 いくの 

        家成・中納言家成→ 藤原家成 
        ゐがひ→「あこやのむね」参照
        
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       ◆ ありのとわたり ◆

【ありのとわたり】
 山の尾根の両側が切り立った崖となっている狭い尾根道のこと。
 山岳修験者の修行の場として利用されてきました。長野県
 戸隠山の「ありのとわたり」が有名です。
                (日本語大辞典を参考)
 
 ここでは大峯山中にある行場の(ありのとわたり)を指します。

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    ありのとわたりと申す所にて

1 笹ふかみきりこすくきを朝立ちてなびきわづらふありのとわたり
      (岩波文庫山家集123P羇旅歌・西行上人集追而加書)

○きりこす
 霧が越すということ。山中なので霧が深く立ち込めたまま移動
 している情景が想像できます。

○くき
 山中の洞穴のある場所。
 また、峰や山の頂のことも(くき)といいます。

○なびきわづらふ
 なびく事。根本はしっかりと保っておきながら、先端にかけて、
 たおやかに、しなやかに揺れる様が靡くということです。
 
 「靡は路の義、一里をもいい、やがて行場の称となる」
             (新潮日本古典集成山家集から抜粋)
 
 「靡とは学説には距離から変じて道筋を表す言葉ともされるが、
 信仰上は役の行者の法力に草木もなびいたという意味を持つ山中
 の行所などを指し、修験道に関わる神仏の出現の地、あるいは居所
 とされる。大峯修行の成立時、山中には100〜120の拝所や霊地が
 定められていたようであるが、やがてそれは75靡としてまとめら
 れていった。今日我々が言う大峯75靡である。」
     (山と渓谷社刊「吉野・大峯の古道を歩く」から抜粋)
 
 (なびきわずらふで)行くことが困難で難渋すること。
 行きなやむこと。

(歌の解釈)

「蟻の門渡りは笹が深いので、朝になってから出発しても、霧に
 巻かれて何も見えない尾根道は通り抜けるのに大変な難儀を
 する。」
               (和歌文学大系21から抜粋)

「笹が深いので、霧が越えてゆく洞穴の多い山を行くべく朝早く
 出発しても、笹と霧のために行きなやむ蟻の門渡りだよ。」
           (新潮日本古典集成山家集から抜粋)

大峰修行の時の一連の歌の中の一首です。
尚、人間の胴体の最下部にある会陰も、「ありのとわたり」と
言います。

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       ◆ 淡路島・淡路潟 ◆

【淡路島・淡路潟】
 大阪府、香川県、及び兵庫県の明石市や神戸市に近接する瀬戸内
 海東端の島。現在の行政区としては兵庫県に属します。島の中心
 は洲本市。
 本四連絡橋が通じてから、兵庫県から淡路島を通って香川県まで
 車で通行できるようになりました。

 記紀にある国作り神話で最初に作られた島が淡路島。和歌でも
 万葉の時代から「淡路潟」「淡路の瀬戸」「淡路島山」などと
 詠まれてきました。千鳥を詠み合わせた歌が多いのですが、
 「淡」という文字に掛けて、あわあわとした情景を詠んだ歌も
 あります。

 95ページの「絵嶋の浦」と、116ページの「しほさきの浦」も
 淡路島にある地名とみられています。
 尚、新潮版の山家集では「あはぢ潟」はなく、すべて「あはぢ嶋」
 として記載されています。岩波文庫の類題本とは伝わり方が違い
 ますから、それが「潟」と「嶋」の違いの出た原因でしょう。

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1 あはぢ嶋せとのなごろは高くとも此汐わたにさし渡らばや
                (岩波文庫山家集168P雑歌)

2 あはぢ潟せとの汐干の夕ぐれに須磨よりかよふ千鳥なくなり
     (岩波文庫山家集94P冬歌・西行上人集・山家心中集)

3 淡路がた磯わのちどり聲しげしせとの塩風冴えまさる夜は
                 (岩波文庫山家集94P冬歌)

○せとのなごろ
(なごり=余波)
 海上の風がないだ後、波のまだ静まらないこと。
(なごろ=余波)
 風が荒く波が高く、潮のうねること。また、そのうねりのこと。
                 (広辞苑第二版から抜粋)

 広辞苑第二版では「なごり」と「なごろ」の意味が違いますが、
 1番歌は(なごり)の意味で用いられています。
 風や波が最も強く荒れている状態から脱して、風はおさまった
 けれども波はなお高いという情景を指しています。

 (せと)とは明石海峡を指します。81ページに「月さゆる明石の
 せとに風吹けば・・・」の歌があります。

○此汐わたに
 (わた)は(わた=曲)のことで湾曲している所のことです。
 (この潮曲に)は和歌文学大系21では
 「塩曲ー海水が陸地に入り込んだ所。湾。」としています。

○せとの汐干
 明石海峡の干潮のこと。潮が引いてくれば沖合いに向かって浜が
 長くなります。
 
○須磨
 神戸市の西部にある地名。瀬戸内海に面していて、淡路島とは
 指呼の間にあります。古代は須磨に関がありました。須磨までは
 摂津の国、それ以遠は播磨の国でした。
 万葉集にも詠まれ、また源氏物語にも「須磨」の巻があって、
 古い時代から有名な所です。
 
○磯わ
 「磯回=いそみ・いそわ」で、磯に沿って行き巡ること。また、
 磯が曲がり続いているような湾のこと。入り江のような場所。

(1番歌の解釈)

 「ようやく風が静まった。淡路島の瀬戸はまだ名残の波が
 治まっていないが、この湾曲に沿って一気に渡ってしまおう。」
                (和歌文学大系21から抜粋)

(2番歌の解釈)

 「淡路島と須磨との間の瀬戸(海峡)の潮が引いて、その間の
 狭くなった夕暮に須磨から通うてくる千鳥が鳴いているよ。」
          (渡部保氏著「山家集全注解」から抜粋)

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◎ あはぢしまゑじまがいそにあさりするたななしをぶねいくよへぬらん
                  (藤原師頼 堀川百首)

◎ あはぢしま千鳥しばなくあさぼらけのこれる月のかげぞさびしき
                     (慈円 拾玉集)  

◎ 淡路島かよふ千鳥の鳴く声に幾夜寝覚めぬ須磨の関守
               (源兼昌 金葉集・百人一首)

◎ 淡路にてあはとはるかに見し月の近きこよひはところがらかも
            (凡河内躬恒 新古今集・源氏物語)

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        ◆ いくの ◆

【いくの】
 丹波の国にある地名。現在の京都府福知山市生野。国道9号線
 沿いにある地名です。福知山市市街地よりはかなり京都寄りに
 ある山間の地です。生野は、かつては山陰道(京街道)の宿場町
 として栄えました。
 和泉式部の娘である小式部内侍の歌で有名になりました。
          
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1 錦をばいくのへこゆるからびつに收めて秋は行くにかあるらむ
            (岩波文庫山家集89P秋歌・夫木抄)

○錦
 金糸銀糸などを用いて華麗に織り込まれた絹織物を指す言葉ですが、
 その豪華さゆえに、紅葉も錦に見立てられます。

○からびつ
 衣類などを収納する櫃のことです。足の付けられた櫃を「唐櫃」
 といいます。

(番歌の解釈)
 
 「紅葉の錦を幾つもの野辺をこえて、生野へはこぶような大きな
 唐櫃におさめて秋は去りゆくのであろうか。」
           (渡部保氏著「山家集全注解」から抜粋)

この歌は新潮版の山家集にはありません。ただし岩波文庫山家集の
底本である山家集類題にはあります。

(小式部内侍)

生年不詳。没年は1025年頃、26.7歳で没のようです。陸奥の守橘道貞
と和泉式部の間に生まれた女性です。
関白の藤原教通との間に静円、滋井公成との間に頼仁を産みましたが、
まもなく病没。その早逝に対して、母の和泉式部の悲嘆は甚だしくて、
和泉式部集にたくさんの哀傷歌が遺されています。

 ひきかくる涙にいとどおぼほれて海人の刈りける物もいはれず
                (和泉式部 和泉式部集515番)

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◎ 大江山いく野の道の遠ければまだふみもみず天の橋立
            (小式部内侍 金葉集・百人一首60番)

◎ 大江山越えていく野の末とほみ道ある世にも逢ひにけるかな
                (藤原範兼 新古今集752番)

◎ 草枕夜半のあはれは大江山いくのの月にさを鹿の声
                 (後鳥羽院 後鳥羽院集)

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     (後記)

今号で「あ」で始まる言葉がおわって「い」に入りました。「あ」
の言葉のみで27号、1年2ヶ月を要したことになります。この調子
だと完結するのは7.8年もかかるでしょうか。そんなに長くは発行
し続ける気持も持続するものなのかどうか、また体調不安も抱える
ことでしょう。
先のことはどうなるか分かりませんが、ともかくは続けてみます。
しょうもないマガジンかも知れませんが、ご高覧願えればうれしい
ことです。

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