キャリアデザインマガジン

日本キャリアデザイン学会 キャリアデザインマガジン第99号


カテゴリー: 2010年07月29日
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□    キャリアデザインマガジン 第99号 平成22年7月26日発行
     日本キャリアデザイン学会 http://www.career-design.org/

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 「キャリアデザインマガジン」は、キャリアに関心のある人が楽しく読める
情報誌をめざして、日本キャリアデザイン学会がお送りするオフィシャル・
メールマガジンです。会員以外の方にもご購読いただけます。
 ※等幅フォントでごらんください。文中敬称略。

□ 目 次 □-----------------------------------------------------------

1 キャリア辞典「セーフティネット」(2)

2 私が読んだキャリアの1冊 野田知彦『雇用保障の経済分析』

3 キャリアイベント情報

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【学会からのおしらせ】

◆関西支部2010年度第1回研究会が開催されます。

 日 時  平成22年7月24日(土)15:30~18:00
 テーマ  「正社員就職とマッチング・システム
         ~ 大学生の就職とキャリアセンター」
 講 師  林 祐司(首都大学東京大学教育センター准教授)
 参加費  会員/無料 非会員/3,000円
      *なお、研究会終了後、懇親会を予定(※懇親会 3,000円程度)
 会 場  新大阪丸ビル新館 9階904会議室(大阪市東淀川区)

 ※詳細は学会ホームページをごらんください。
  http://www.career-design.org/content/view/179/41/

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1 キャリア辞典

 「セーフティネット」(2)

 「セーフティネット」という用語が普及する大きなきっかけとなったのは、
小泉政権発足後の2001年6月に閣議決定された経済財政諮問会議の「経済財政
運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」、いわゆる「骨太の方針」で
あろう。これには随所で「セーフティーネット」が登場する。

 その背景には、当時大きな問題となっていた不良債権の最終処理があった。
バブル崩壊後、日本企業の過剰債務と、それと裏腹の金融機関の不良債権とが
日本経済の大きな重石となっていた。2001年に発足した小泉政権はそれを除去
すべく不良債権の最終処理を意図したが、それにともなって相当数の企業倒産
や失業が発生するものと危惧されており、失業者については数万人から百万人
を超えるとの試算も提示されていた。

 これに対して「骨太の方針」では、具体的なセーフティネットとして金融面
では「連鎖倒産等の防止のため、信用保証協会の保証や政府系金融機関の貸付
を活用するなど、金融面で適切に対応」、雇用面では「雇用への影響を最小限
に抑えるため、雇用対策法、雇用保険法、離転職者向け教育訓練、緊急雇用創
出特別奨励金等の制度・施策を活用する。また、離職後失業期間中の住宅ロー
ン負担・教育費負担に対する支援、起業者に対する支援など、制度横断的な施
策の拡充を行う。さらに、雇用情勢によっては、モラルハザードに留意しつつ
セーフティーネットの一層の充実を図る」とされている。雇用に関していえば、
セーフティネットを整備することで失業防止より不良債権処理を優先したいと
の考えを示したとみられる。

 その後、りそな銀行の国有化や東京三菱とUFJの合併などを経て不良債権処
理は進展したが、ちょうど景気が回復していたこともあって懸念されたほどの
大規模な失業の発生をみることはなかった。実際、「”バブル後”を抜け出し
た」と述べた2005年の「骨太の方針」ではセーフティネットは姿を消す。

 2001年の「骨太の方針」では、社会保障に関しても「セーフティーネット」
との表現を用いている。たとえば「社会保障制度は国民にとって最も大切な生
活インフラ(基礎)である。年金、医療、介護、雇用、生活扶助等で構成され
る社会保障制度は、国民の生涯設計における重要なセーフティーネットであり、
これに対する信頼なしには国民の「安心」と生活の「安定」はありえない」と
いった具合だ。これはもちろん、社会保障支出の膨張が続く中でその改革が急
務であったことが背景にあるが、こちらのほうがむしろ「セーフティネット」
本来の意味に近いといえるだろう。とはいえ、それまでも社会保障改革の議論
はあったわけだが、「セーフティネット」が頻用されていた気配は乏しく、こ
の意味でも「骨太の方針」が事実上のメジャーデビューとなったようだ。いず
れにしても、その後に続いたさまざまな社会保険制度に関する議論の中では、
2006年には「ワーキングプア」が世間の注目を集めたことともあいまって、そ
のセーフティネットとしての役割は常に意識されてきた。いっぽう、雇用の
セーフティネットがあらためて注目を集めるのは2008年、サブプライム問題か
らリーマン・ショックで急激に雇用失業情勢が悪化した時期になる。

                        (編集委員 荻野勝彦)


2 私が読んだキャリアの1冊

 『雇用保障の経済分析-企業パネルデータによる労使関係』
                野田知彦著 ミネルヴァ書房 2010.5.31

 2001年、深刻な業績不振に陥った電機大手各社は、軒並み5桁オーダーの人
員削減計画を打ち出した。続く2002年、鉄鋼労連と電機連合が春闘の統一ベア
要求を見送った。この年は他産業の主要企業でもベアゼロ回答が相次ぎ、世に
「ベアゼロ春闘」と呼ばれた。それ以降、2005年まで多くの産別がベア要求を
見送った。この時期の日本経済は金融危機後の不況を克服し、多くの企業が過
去最高益を更新していた時期であったにもかかわらず…である。それ以降も、
ベアは復活したもののかつてに較べれば小額であり、2008年後半に急激な雇用
調整が行われたことも周知のとおりだ。

 『労働組合は役に立っているのか』。雇用を守れない、ベアも獲得できない
ということで、労組の存在意義はあるのか、社会から厳しく問われている。と
りわけ、わが国では過去の実証研究の成果から、労働組合が賃金を引き上げる
効果は観察できないというのが定説になっているといってよい。であれば、労
組はどのような役割を果たしているのか。

 著者は本書で「雇用保障」に着目する。労組は雇用保障にどのような効果を
与えているのか。それを通じて生産性や新卒採用・人事管理にどのような影響
を及ぼしているのか。本書ではこれらが計量経済学の手法によって広汎に分析
される。

 発見は実り多い。労組の存在は黒字期には雇用調整速度を遅らせ、雇用の安
定をもたらす。これは労使の信頼関係を強め、人的資本の蓄積を通じて企業の
生産性を高める。いっぽう、赤字期、さらにはいわゆる「失われた10年」以降
は赤字以前の経営悪化期には労組、とりわけ上部団体に加入している労組はむ
しろ雇用調整を速め、企業倒産を回避することで雇用保障をはかる。逆に、強
い雇用保障は不況期における新卒採用の抑制、非正規雇用比率の上昇などをも
たらしている。雇用保障や経営参加などを通じて、たしかに『労働組合は役に
たっている』。

 これらの発見をもとに、著者は「人的資本の関係特殊性が強い場合には正社
員の雇用保障を緩めることは慎重に」「非正規雇用の活用は必要だが、技能・
能力を蓄積してキャリアを形成し、長期間勤続すれば賃金の上昇や雇用の安定
が得られるシステムを構築すべき」と述べる。具体的には「正社員と非正規社
員との中間の雇用形態を設ける」ことを提案し、制度設計には「非正規労働者
も何らかの形で参加すべき」であり、「組合への組織化が求められる」として
いる。そして「労働組合が経営側にとって必要不可欠なパートナーとして認識
され」るべきことを指摘している。

 本書は高度な計量分析が駆使された研究書であり、実務家が読みこなすには
たしかに困難がともなう。しかし、実務家にとっても大きな意義を有する本で
あることもまた間違いない。現状、企業の人事管理や労働法制についてさまざ
まな議論があるが、近年の労使関係や労働組合と雇用、生産性、労働市場など
との関係についてまとまった形で実証された業績はそれ自体貴重だが、それに
加えて得られた結果が労使関係の現場にいる実務家の実感にもまことによく一
致している。とりわけ、本書中でも言及されている生産性運動、雇用確保・労
使協議・適正配分の三原則に基づく労使協調での生産性向上活動に取り組んで
きた企業労使にとってはなおさらだろう。もちろん、現状の問題点として指摘
されている事項も、多くの実務家が共有するものに違いない。

 実際、著者の提言への取り組みもはじまりつつある。多くの労組において非
正規労働者の組織化は自覚的に進められているし、その相当部分は経営の理解
の上に行われているだろう。今回の雇用調整期に入る前には、非正規の正社員
登用もかなりの規模に拡大していた。ただし、正社員と非正規の中間形態につ
いては、法制度上の制約があり進展しておらず、環境整備が望まれるところだ。
いずれにしても、本書の分析は企業労使の向かっている方向と一致する結果を
示してくれている。労使の実務家に自信を与えてくれる本といえるだろう。

 組織率が低下し、労組の存在感が弱まるにつれて、労組の分析に取り組む研
究者も減少しているといわれる。しかし、産業・経済の複雑化や多様化が進む
中にあって、労使自治、集団的労使関係への期待は国際的にも高まっているの
ではないか。こうした分野での研究が広く進むことと、著者にはその牽引車と
して貢献していただくことを心から期待したい。

                        (編集委員 荻野勝彦)

 ※「私が読んだキャリアの一冊」は、執筆者による図書の紹介です。
  日本キャリアデザイン学会として当該図書を推薦するものではありません。


3 キャリアイベント情報
  ~キャリアデザインに関係するイベントの開催予定などをご紹介します~

◆自治体職員有志の会第7回シンポジウム「地域主権を担う自治体の変革と
 プロ職員の条件」
 平成22年7月31日(土)13:00-17:30
 於 エソール広島(広島県女性総合センター、広島県広島市)
 http://www.geocities.jp/ksiget/220731hiroshima/

◆京都大学高等教育研究開発推進センター・(財)電通育英会 大学生研究
 フォーラム2010「企業人材教育の現在-大学には何ができるのか?」
 平成22年8月2日(月)10:30-17:30
 於 京都大学百周年時計台記念館(京都府京都市)
 http://www.dentsu-ikueikai.or.jp/forum/forum2010.html

◆東京都労働相談情報センター労働セミナー「子育てを応援!企業のための
 実践ワークライフバランス」
 平成22年8月2日(月)、5日(木)14:00-16:00
 於 東京しごとセンター地下講堂(東京都千代田区)
 http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/seminarform/index/detail?kanri_bango=seminar-zchuo-000083

◆日本生産性本部メンタルヘルス研究所第32回メンタルヘルス大会「働きがい
 のある職場・希望が持てる組織」
 平成22年9月2日(木)13:00-17:20、3日(金)9:30-16:30
 於 ホテル ラングウッド(東京都荒川区)
 http://www.js-mental.org/images/04/taikai32.pdf

◆学習院大学経済経営研究所(GEM)第3回公開ワーク・ライフ・バランス(WL
 B)カンファレンス「勤務医・看護師におけるWLB」
 平成22年9月9日(木)13:30-17:00
 於 学習院大学 目白キャンパス 西2号館 2F 201教室(東京都豊島区)
 http://www.gakushuin.ac.jp/univ/eco/gem/wlb_20100909.html


【編集後記】

 日本キャリアデザイン学会では、中京支部設立の準備をしています。名古屋
大学の金井篤子先生に準備委員長になっていただき、次回総会での設立承認を
目指しています。関西支部に続き、中京地区でのキャリアデザイン研究や実践
の助けとなれるよう努力したいと思います。(O)


【日本キャリアデザイン学会とは】

・キャリアを設計・再設計し続ける人々の育成を考える非営利組織です。
・キャリアに関わる実務家や市民と研究者との出会い・相互啓発の場です。
・多様な学問の交流からキャリアデザイン学の構築を目指す求心の場です。
・キャリアデザインとその支援の理論と実践の連携の場です。
・誤謬、偏見を排除し、健全な標準を確立する誠実な知的営為の場です。 
・キャリアデザインに関わる資格、知識、技法、専門の標準化の努力の場です。
・人々のキャリアの現実に関わり、変えようとする運動の場です。

 学会の詳細、活動状況はホームページに随時掲載しております。
 ◆日本キャリアデザイン学会ホームページ◆
   http://www.career-design.org/

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  日本キャリアデザイン学会(CDI-Japan)発行
  オフィシャル・メールマガジン【キャリアデザインマガジン】
  
  このメールマガジンは『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/ を利用して発
行しています。
 配信中止はこちら http://www.mag2.com/m/0000140735.htm
  無断転用はお断りいたします。

 編集委員:荻野勝彦(トヨタ自動車株式会社人事部担当部長)

   日本キャリアデザイン学会事務局連絡先
    e-mail cdgakkai@hosei.org
   〒102-8160 東京都千代田区富士見2-17-1

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