日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信

【アメリカ通信】ウクライナ問題を「地政学」的に考えてみた

┠──────────────────────────────────
┃日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信  ┃ http://www.realist.jp
┠──────────────────────────────────
├ 2014年3月3日 ウクライナ問題を「地政学」的に考えてみた
┠──────────────────────────────────

おくやまです。

ソチオリンピックが一段落して
(といってもパラリンピックはこれから開催ですが)、
いきなりウクライナ情勢が大変なことになっておりますので、
これについて地政学の見地から簡単な分析を。

現在のウクライナの状況については、
すでにメディアなどで色々な分析がされておりますので、
細かいことについては、今回はあえて述べません。

今回、強調したいのは、以下の3つの点です。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

1.ウクライナは「リムランド」にある。

当たり前ですが、ウクライナは
ソ連が崩壊した後に独立した国々の中でも
地理的に非常に微妙な場所にある国です。

ロシアの影響を逃れるために、
アメリカから支援(陰謀?)を受けた「オレンジ革命」によって、
2005年からのユーシェンコ政権では親欧米路線に転換。

ところが2010年に選挙でヤヌコビッチ政権に変わると
「親露」路線に転換。

そして今回の2014年のデモを契機とした政変では、
再び「親欧米」路線に転換しております。

「なんか安定しないなぁ」
とお思いの方もいらっしゃるとは思いますが、
その理由は地理的な意味合いがかなり強く、
「地政学」でお馴染みの用語を使えば、

< ロシアのハートランド VS  欧米のシーパワー >

という形で、大きなパワーが激突する要衝に
位置しているわけですね。

具体的に言えば、ロシアに接している東部や南部は
ロシアの「ハートランド寄り」の地域であり、反対に
ポーランドやルーマニアに近い北部や西部は
欧米の「シーパワー寄り」の地域、ということです。

さらにウクライナは、「リムランド」の特徴である、
人口の多さ(元ソ連諸国では二番目の規模)や
農業生産量の高さ(世界有数の穀倉地帯)
という特徴を持っております。

「そんな単純なものなの???」
と感じた方もいると思いますが、
この「ロシアvs欧米」、そして「陸vs海」という、
いかにも"地政学的"な構図を頭に思い描いておくのは
とりあえずは有益なのです。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:

2.クリミア「半島」にカギがある

ウクライナが「リムランド」にあるということは
読者の皆さんにお分かり頂けたと思いますが、
ここで一つ気になることが出てきます。

それは、黒海に面しているウクライナ領内の、
クリミア半島の南端に、
ロシアの黒海艦隊の軍港(セバストーポリ)があることです。

さらにロシアは、このクリミア半島にある
クリミア自治共和国の人口の約60%を占める
ロシア系住民の一部に、ロシアのパスポート(!)を
配布したりもしているのです。

これはいわば、「リムランド」であるウクライナの
海側に突き出た半島の先端に、
ロシアの「シーパワー」の一大拠点がある
ということを意味するわけわけです。

そして、この地政学的要衝の貸借関係をめぐって、
ロシアとギクシャクした関係が続いてきたことは
報道でもすでに論じられている通り。

先日崩壊したヤヌコビッチ政権は、ロシアとの間で
この基地を2042年まで貸すことに合意しておりまして、
ここ数日では、ここの軍港を拠点として、
ロシア側の軍事介入が始まったとも報道されております。

「地政学」をよくご存知の「アメ通」読者の皆さんは
ここでお気づきだと思いますが、
このセバストポリ軍港が現実に存在している、ということは、

「ロシアはランドパワーである」

という単純なテーゼが成り立たず、
そこには地政学の理論がねじれている
とお感じかと思います。

ですが、これはロシアが、
すでに黒海を「内海化」しており、
陸側の拠点になっているとして解釈すれば、
大枠では間違っておりません。

地政学的な基本として、重要な認識は、

そもそも「半島」というのは、
必然的に海と陸のパワーが衝突するリムランドに属しているために、
常に紛争が起こりやすくなる。

ということです。

「半島」というのは、地政学においては「鬼門中の鬼門」で、
日本にとっての朝鮮半島や満州、
イギリスにとっての対岸の低地国(オランダ、ベルギーなど)
更に、フランス、
そしてアメリカや中国にとってのベトナム、
などの例でもよくわかります。

つまり大国同士の権益がぶつかったところという意味では、
「半島」というのは政治的に火種を抱えやすいわけです。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:

3.ウクライナは「通り道」である

日本国内のメディアではあまり報じられていないようですが、
ウクライナは、ロシアとヨーロッパをつなぐ
いくつもの重要なパイプラインの「通り道」です。

ロシアはEUへのガスの輸出を大部分を
ウクライナを通るパイプラインを通じておこなっております。

そして地政学では、

「通り道」(Lines of Communication)を誰がコントロールするのか?

ということが、極めて重要な意味を持ちます。

実際のところ、プーチン大統領自身は
このウクライナ・パイプラインの買い取りを目指しております。

ウクライナは、歴史的にヨーロッパの周辺の大国
(ロシア、ドイツ、オーストリア、トルコ)に「通り道」のように
何度も蹂躙されてきております。

似たような「通り道」にあったポーランドが、
今回のロシア側の動きを異様に警戒して批判しているのも、
このような歴史的な事情の現れです。

このような「ロシアの通り道」に対して、
アメリカは一体何ができるかというと、
正直なところ、何もできません。

なぜかと言えば、
「アメリカにはウクライナには利害がない」からです。

※参照※---

▼ロシア、ウクライナ軍事介入へ 米、抑止手詰まり
 大統領警告も対抗策なし (産経新聞 3月2日)
http://goo.gl/ARZTDV

>>ウクライナに関する米国の国益は「ロシアに比べてはるかに小さい」
>>(政治学者のイアン・ブレマー氏)との指摘も根強く、
>>オバマ政権の及び腰に拍車をかけている。
>>軍事介入の可能性も、ほぼ皆無に等しい。

-------

そして、ロシア側の意志としては、
この地は欧米側には絶対に引き渡さない!
という固い決意を持っております。

プーチン大統領は2008年の4月に、当時のブッシュ大統領に対して、
「ジョージ、君はわかっていない。ウクライナは国家ではないんだ」
と言っていますが、このプーチンの「世界観」がミソなわけです。

今回のウクライナ問題でも、
アメリカ側としての「切れるカード」は、
かなり限られていると言えるのではないでしょうか。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:

以上、現段階での情報に基いて、
ウクライナ情勢についての
地政学的なポイントを3つ上げてみました。

80年代に核戦略についての優れた本を書いた、
フレッド・カプランという人物が、最近ある記事の中で、

「冷戦が始まる前から、国際政治はチェスのような性格を持っていた。
その点は永遠に変わらないだろう」

と述べておりまして、さらに、

「プーチンは…ウクライナへの影響力をめぐる目下の争いを
チェスのゲームのように見ていることは間違いない」

と断言しております。

このことは、プーチン大統領が率いるロシアだけのことではなく、
中国やアメリカのような「大国」にとっては
ごく当然のこと。

それは、「アメ通」読者の皆さんもよくご存知の通りです。

チェスゲームのような国際政治の中で
日本は何としても逞しく生き残ってゆかないといけません。

ユーラシア大陸の反対側で、
今、リアルタイムで展開されているこのパワーゲームは、
まさに「リアリズム」そのままに進行していることは、
各種の報道などから、皆さんも痛感しておられると思います。

そして、上述の3点のように、非常に「地政学」的な動きでもあります。

ここに、東アジアのパワーゲームの今後を占う上で、
日本人がしっかり考えるべき、極めて重要なヒントがあるわけです。

( おくやま )

□■□■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

戦後、封印された学問となっていた地政学ですが、
日本に軍事学部がない以上、防衛大にでも行かないと
なかなか学ぶ事ができません。
といいますか、防衛大でもそれほど専門的に
教える講座はないと聞いています。

そこで、日本人がより戦略的思考を持つためにと
2013年4月よりCD教材で10回に渡る地政学講座を開設しました。

「日本で地政学を本格的に学ぶ教材はこれしかない」

というものです。

今回、「地政学講座の第10回、未来の地政学だけ」を
特別に販売することに決めました。

なぜ、第10回だけか?
それは、第10回のテーマが「未来の地政学」だからです。

▼「奥山真司の地政学講座」:未来の地政学
http://www.realist.jp/geopolitics10.html

□■□■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

(編集後記)

管理人です。

「アメ通」読者の皆さまも、現在の「ウクライナ」情勢に
文字通り"釘付け状態"状態ではないでしょうか。
管理人などは、ほぼネットに繋ぎっぱなしで、
仕事になりません…(泣)

ただ、今回、おくやまさんが鋭く仰っている通り、
この問題は、まさにリアルタイムで進行している、
地政学やリアリズムのケース・スタディとも言えます。

ケース・スタディと言いますか、
当事者にとっては、まさにこれが「現実」・・・。
そして、これは我々日本人にとっても、
決して他人事ではない・・・
というのもおくやまさんが仰る通りです。

本文最後にチェスのお話が出てきましたが、
この「チェス」という言葉を耳にして、
管理人の脳裏をいつも過るのはこの本です。

▼ブレジンスキーの世界はこう動く
―21世紀の地政戦略ゲーム [単行本]
ズビグニュー ブレジンスキー (著),
http://goo.gl/0QntOv

※この本、文庫化もしてたのですが、
  どちらも絶版状態のようです・・・

この本の原題が、まさしく・・・

▼The Grand Chessboard: 
 American Primacy And Its Geostrategic Imperatives
http://goo.gl/wpYOHl

「グランドチェスボード」なのです。
しかも、この本の中に日本のことが書かれておりまして、
それが・・・。

日本のことをハッキリと「アメリカの保護国」と・・・。

管理人がこの本を読んだのはだいぶ前ですが、
その当時、正直、ここまで身も蓋もなく言われてしまって、
ちょっとした衝撃でした…。
しかも、これはある意味、否定出来ないことでもあり・・・。

そんなわけで、それ以来、管理人としては、
このブレジンスキーさんの印象がすこぶる悪いです。(笑)

ブレジンスキーさんについては、
おくやまさんの最近のブログでも、取り上げられておりました。
相変わらずお元気なご様子で・・・(笑)

▼ブレジンスキー:ウクライナを「フィンランド化」せよ 
 http://geopoli.exblog.jp/22166015/

いずれにせよ、「地政学」、そして、「リアリズム」の知見は、
私達日本人に、絶対に必要なものですね。

(管理人)

□■□■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

▼「リアリズム」の理論とは何か?
~ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』から読み解く~
http://www.realist.jp/mea2.html

勃興する中国、混迷を続ける欧州、
そして、冷戦終結後の世界で覇権を握ったかと思いきや、
ここに来て、衰退の兆しも見え始めた米国。

その米国が、東アジアから撤退する可能性すら囁かれている現在、
これを読んでいるあなたは、
日本が大変な岐路に立っている、大変な状況に置かれている。
と言われれば、必ず納得するはずです。

では、そんな厳しい現状で、私たち日本人は何をすべきなのでしょうか?
それは・・・
古今東西、国際政治の底流に脈々と流れ続ける、
学問・学派としての「リアリズム」を真摯に学ぶことです。

しかし・・・
日本国内で一般的に言われているような、
ともすれば、"世俗主義"的な意味合いで語られる
いわゆる<現実主義>ではない、本当の意味での「リアリズム」を
しっかり学べる素材があまりにも少ない・・・
そんな想いの元に、今回のCDを企画・制作しました。

▼「リアリズム」の理論とは何か?
~ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』から読み解く~
http://www.realist.jp/mea2.html

□■□■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
※このメルマガは転送自由です。(ただし出典を残して下さい)

▼『管理人Twitter』
https://twitter.com/media_otb

▼「THE STANDARD JOURNAL ~『アメリカ通信』」
http://ch.nicovideo.jp/strategy

▼FacebookPage:「THE STANDARD JOURNAL」
 https://www.facebook.com/realist.jp

★奥山真司への講演依頼・執筆依頼は、
【webmaster@realist.jp】までお問合せ下さい。

┠──────────────────────────────────
┃日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信  ┃ http://www.realist.jp

日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信

発行周期: 週刊、不定期 最新号:  2018/12/13 部数:  13,047部

ついでに読みたい

日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信

発行周期:  週刊、不定期 最新号:  2018/12/13 部数:  13,047部

他のメルマガを読む