日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信

【アメリカ通信】森本敏氏の「オフショア・バランス」論はカン違い?!


カテゴリー: 2014年02月07日
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├ 2014年2月7日 森本敏氏の「オフショア・バランス」論はカン違い?!
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おくやまです。

さて、以前から気になっていた
森本敏氏の「オフショア・バランス」論について一言。

森本氏と言えば、自衛隊出身ながら
外務省に行って外交官になり、拓大教授を長年つとめ、
なおかつ民主党野田政権では防衛大臣もつとめた
「安全保障・防衛・国際政治・外交問題のスペシャリスト」
であります。

私自身も彼の発言については以前から注目しておりまして、
実にさまざまなことを勉強させてもらっているわけですが、
私が最近とても気になっていたのが、彼が数年前から提唱している(?)
「オフショア・バランス」論とでもいうべきもの。

なぜ私が気になるのかというと、
おそらく「オフショア・バランシング」(offshore balancing)
という、アメリカの極めて地政学的な大戦略の概念を、
森本氏が勘違いして使っているのではないか、
という疑惑があるからです。

ちなみにこの「オフショア・バランシング」については、私は

▼『大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する!』(ジョン・J・ミアシャイマー)
http://goo.gl/AaSyeq

▼『米国世界戦略の核心』(スティーブン・M・ウォルト)
http://goo.gl/syhiqR

▼『幻想の平和』(クリストファー・レイン)
http://goo.gl/DAXzBT

というこの概念を提唱している三人の学者の本を翻訳しておりますので、
多少は「知っている」と言える人間のつもりです。

ところが森本氏が提唱しているのは
「オフショア・バランス」
という似ているような、似てないような、ちょっと微妙な概念。

おそらく森本氏が公式の場でこれを述べたのは、
去年の1月に産経新聞のコラムに載せたものだと思われます。
まずはこれを引用してみましょう。

▼米新国防戦略、同盟国日本の対応は 
森本敏・拓殖大大学院教授(2012年1月7日(土)| 産経新聞)

(転載はじめ)

米国が有効な抑止機能を発揮できるかどうかは
同盟国・友好国の協力次第である。

特に、米中間のオフショア・バランス(海洋における勢力均衡)
がアジア安定のカギになる。

その中で日本の果たすべき役割は決定的だ。
日本が外洋に出ようとする中国の出口を占める
戦略的位置にあるからであり、
今ほど日本が確固とした対中戦略や海洋戦略を構築すべき時はない。

(転載おわり)

この森本氏の発言ですが、
第一の問題は「オフショア・バランス」を、
元来の意味と勘違いして取り違えてしまっているのではないかということ。

上の引用記事の文面から察するに、森本氏が本当に言いたいのは、

「日本とアメリカが協力して(主に海軍力を通じた)軍事力を高めれば、
それが中国の海洋進出に対する抑止力になる。
だから日本は軍事力を高めなければならない」

ということでしょう。

これはこれで、日米同盟や自衛隊というものの
成り立ち的なことを考えると、それなりに理解できるものです。

つまり、森本氏は「海洋軍事バランスの重要性」を強調するために
あえて「オフショア・"バランス"」という言葉を使って説明している、
とも考えられるわけです。

ところが、彼がおそらく元ネタとして参考にしている
「オフショア・"バランシング"」(offshore "balancing")
というものは、その考え方が根本的に違います。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:

では元祖の「オフショア・バランシング」の論者たちは
何を言っているのかというと、
「前方展開した米軍を地域(この場合は東アジア)から撤退させ、
域内における勢力均衡の維持を(日本をはじめとする)地域諸国にやらせろ」
という「大戦略」を提案しているのです。

この大戦略を使えば、
アメリカは海を越えたところで無駄な血を流すこともなく、
自国のパワーを温存できることになって安泰だ、
ということなのです。

つまり「オフショア・バランシング」というのは
あくまでも「アメリカにとって都合の良い戦略」
なわけでありまして、その底に
「同盟国を犠牲にしながら国力を温存せよ」
という「恐ろしい前提」が潜んでいるわけです。

具体的にいえば、「オフショア・バランシング」というのは
「中国という脅威が東アジアから出てきたなら、
アメリカが直接抑えこむのではなく、
日本をはじめとする周辺国たちにぶつけておけ!」
ということを教えているわけです。

これを別の言い方でいうと
「バックパッシングしろ!」
ということになります

※この「バックパッシング」という概念については、
  前述の私の訳書などもご参照下さい。

「アメ通」読者の皆さんならば、既にお気付きかと思いますが、
上記の森本氏の議論だと、まるで

「日本はアメリカの手先となって、
自ら進んで真っ先に中国にぶつけられましょう!」

といった、なんとも珍妙な説を唱えておられる?!
とも受け取られかねません・・・。

「いやいや、あの森本さんが
わざわざアメリカの手先になって中国とぶつかろう
なんて思ってるわけないじゃん!」

と、読者の皆さんはお思いでしょうし、
こうして書いている、私としても
「彼自身はそのようなことを意図しているわけではない」
と思いたいところなのですが・・・。

ちなみに、最近では反米派として有名になった
元外務省高官の孫崎享氏のほうが、
森本氏よりも正確にこの戦略について理解できているようで、

「米国としては日本をオフショアバランスに使いつつ
 台頭する中国の力も利用したい」
(※ https://twitter.com/magosaki_ukeru/status/248067781793296384 )

という発言をTwitter上で行っておりました。

ただし、彼も「オフショア・バランシング」という正式名称ではなく
「バランス」と言ってしまってところでミソつけているわけですが・・・。

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さて、結論からいえば、おそらく森本氏は
本来、「オフショア・"バランシング"」という概念のもつ
日本にとっての危険性を知らずに、
どうも勘違いしたまま「オフショア・"バランス"」という
(森本氏のオリジナルな?)大戦略を提唱しているではないか、
と推察されます。

つまり森本氏は、
「私はアメリカの走狗となって、
中国にぶつけられる役割を果たしたいです!」
と宣言していると見られてしまうリスクを抱えているという点について、
もう少し自覚しておかないとまずいのでは、
というのが私の懸念であります。

読者の皆さんにとっては、
耳にタコ…状態かと想いますが、
大事なことですので、何度でも言わせて頂きます。

やはり、日本人に必要なのは、
アメリカが陰に陽に実践していることを見習い、
「リアリズム」や「地政学」などの"知恵"を正確に理解し、
現実の政策に反映させる術を学ぶことではないでしょうか。

( おくやま )

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編集後記

管理人です。

ちなみに「オフショア・バランシング」については、
管理人は、"「アメ通」おくやまゼミ"の筆頭を自認しておりますので、

▼『大国政治の悲劇 米中は必ず衝突する!』(ジョン・J・ミアシャイマー)
▼『米国世界戦略の核心』(スティーブン・M・ウォルト)
▼『幻想の平和』(クリストファー・レイン)

というこの概念を提唱しているこの3冊の本は読みましたが・・・。
まだまだ理解が足りません・・・。(笑)

さて、今回の「アメ通」は、おくやまさんにしては珍しく辛口?!
の見解でしたが、管理人はこのテキストを読んで、
まずは、素朴にビックリした・・・と言いますか、
さすがに上記3冊の本は読みましたので、
「オフショア・バランシング」という【Term】の定義といいますか、
意味合い、というのは、なんとか理解出来ているつもりです。

なので、この日本を代表する?と言っても過言ではない
専門家の方がこういう勘違いをしている・・・
ということにまず驚きました。
かつ、周囲にこういう「学問的な定義」の誤りを指摘する人、
指摘できる人は居なかったのかな?
(もしかして「裸の王様」・・・)

などと、そんなことを想ってしまいました。

管理人が、ネット上などを徘徊している際にも、
例えば、「リアリズム」という【Term】を、
この方は明らかに誤解されておられそうだな・・・、
というテキストに出会うことが多々あります。

まずは、言葉の正確な「定義」をして、
お互いの認識を同じ土台の上に上げてからでないと、
いかなる建設的な議論も成り立たないのでは・・・?

と想ってしまうのですが、
「アメ通」読者の皆様はどのようにお想いでしょうか?

( 管理人 )

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▼「リアリズム」の理論とは何か?
~ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』から読み解く~
http://www.realist.jp/mea2.html

勃興する中国、混迷を続ける欧州、
そして、冷戦終結後の世界で覇権を握ったかと思いきや、
ここに来て、衰退の兆しも見え始めた米国。

その米国が、東アジアから撤退する可能性すら囁かれている現在、
これを読んでいるあなたは、
日本が大変な岐路に立っている、大変な状況に置かれている。
と言われれば、必ず納得するはずです。

では、そんな厳しい現状で、私たち日本人は何をすべきなのでしょうか?
それは・・・
古今東西、国際政治の底流に脈々と流れ続ける、
学問・学派としての「リアリズム」を真摯に学ぶことです。

しかし・・・
日本国内で一般的に言われているような、
ともすれば、"世俗主義"的な意味合いで語られる
いわゆる<現実主義>ではない、本当の意味での「リアリズム」を
しっかり学べる素材があまりにも少ない・・・
そんな想いの元に、今回のCDを企画・制作しました。

▼「リアリズム」の理論とは何か?
~ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』から読み解く~
http://www.realist.jp/mea2.html

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戦後、封印された学問となっていた地政学ですが、
日本に軍事学部がない以上、防衛大にでも行かないと
なかなか学ぶ事ができません。
といいますか、防衛大でもそれほど専門的に
教える講座はないと聞いています。

そこで、日本人がより戦略的思考を持つためにと
2013年4月よりCD教材で10回に渡る地政学講座を開設しました。

「日本で地政学を本格的に学ぶ教材はこれしかない」

というものです。

今回、「地政学講座の第10回、未来の地政学だけ」を
特別に販売することに決めました。

なぜ、第10回だけか?
それは、第10回のテーマが「未来の地政学」だからです。

▼「奥山真司の地政学講座」:未来の地政学
http://www.realist.jp/geopolitics10.html

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