こころをめぐる話-内観に学ぶ

内観で得られる人間観の一端など


カテゴリー: 2015年12月16日
こころをめぐる話ー内観に学ぶ NO128
                      内観で得られる人間観の一端など
                                        
                発行者 白金台内観研修所 本山 陽一
                                    Mail to: zan25224@nifty.com
                       http://www.shirokanedai-naikan.com/index.html

6月24日の朝日新聞の朝刊に、二つの似たような記事があった。内観法とも無
縁ではなさそうなので、今回はこのことについて考えてみたい。

朝日新聞は、沢木耕太郎さんの『春に散る』という小説を連載中だ。普段はあ
まり読まないのだが、その日は何気なく目を通していた。すると、興味あるシ
ーンが描かれていた。その内容を要約すると、

初老の元ボクサーが、定食屋のテレビでオリンピックでの過去の有名なシーン
を次々と流す特別番組を見ていた。すると、2012年のロンドン大会の開会式で
モハメッド・アリが、最後の聖火ランナーとして紹介される映像が流された。
オリンピック旗が会場を一周し、最後にアリのところにやって来る。しかし、
アリは立っているのがやっとで、手さえ動かすことができない。付き添いに助
けられて、やっと旗に触れることができるほどだった。

そのシーンを見て、建設関係の仕事をしているらしい若い四人連れの男たちが
アリを口汚く嘲りはじめた。それを聞いていた元ボクサーは、どうしても黙っ
ていられなくて反論して口論になった。やがて口論は喧嘩に発展し、外に出る
ことになった。相手のパンチをかわすと、元ボクサーのパンチが脇腹に一発当
たった。後の三人はひるみ、そのすきに彼は立ち去った。ところが、老いたり
とは言え元ボクサーである彼のパンチは脾臓を損傷させており、傷害事件にな
って刑務所に入れられることになる。

といった話である。もう一つの記事は、読者投稿の欄にあった。そちらも要約
すると

言語療法士の男性がスーパーに買い物に行くと、70代くらいの女性が背の高い
男子高校生二人に一生懸命何か話しかけていた。その内容はまとまりがなく認
知機能の低下が疑われた。高校生が困っているのではないかと思い、普段認知
症患者と向き合っている者として声をかけるべきか、と投稿者は考えた。

ところが次の瞬間、高校生の様子を見て言葉を失う。一人が女性に対応して、
もう一人は話し続ける女性をにやにや笑いながら、スマートフォンで撮影して
いたからである。誰かと見て笑いのネタにすのだろうか、インターネットにア
ップするのだろうか、と投稿者は信じられない気持ちを抱いたという。恐ろし
い、とも感じたようであった。

私は、同じ日に偶然読んだ二つのエピソードを前に考え込んでしまった。最初
の印象では四人の男連れや高校生たちを非難しそうになるが、よく考えると私
自身もどちらの立場にもなり得る可能性を感じたからである。元ボクサーと四
人連れの男たち、言語療法士と二人の高校生、この両者の態度の違いはどこか
らくるのだろうか、と考えざるを得なかった。

私たちは外部の情報の9割を視覚で得るという。テレビに映るモハメッド・アリ
は、視覚的に見ると、確かに四人連れの男たちの言うように、ただの廃人寸前
の大きな黒人男性である。モハメッド・アリの全盛期を知らない四人の若い男
たちにとっては、アリがかつてすごいボクサーと聞かされても、実際に見てい
ないので頭で分かっていても実感が湧かないのも道理で、目の前の情報から判
断しても無理はない。

一方、アリの過去の栄光を知る元ボクサーから見れば、アリはあこがれの存在
であったに違いない。「蝶のように舞い、ハチのように刺す」と表された華麗
なファイティングスタイルで、相手のガードするミットの上からもたたみかけ
る強烈なパンチと相手のパンチをかわすステップワークは芸術的でさえあった。
ボクシングに素人の私でさえその華麗さに興奮するほどであった。

多くの人に感動や夢を与えてきたかつての英雄モハメッド・アリが年をとり、
パーキンソン病という難病をわずらっている現在の姿は、過去の栄光を知る私
たち世代にとっては人生の残酷さ、人間の悲しさを目の前に叩きつけられたよ
うな気さえするのである。たいしてボクシングを知らない私でさえそう思うの
だから、かつてボクシングに打ち込んでいたこの元ボクサーの心境は、推して
知るべしである。

二人の男子高校生にとっても、70代の女性はただの認知症の老人でそれ以外何
も感じなかったのだろう。まるで生まれたときからの認知症の老人のように感
じていたかもしれない。目の前の光景を視覚的だけに捉えればそう考えても仕
方がない。最近のSNSブームは、若者の自己主張や交流の場としてめざましく、
何でもいいから目立ちたいという若者で溢れている現代では、たいしたことで
はないのかもしれない。

しかし、当然のことだが、この女性にも歴史があるのである。可愛かった幼少
時代から華やかな娘時代もあったのだ。もし、この女性の高校時代に二人の高
校生が出会っていれば恋心を抱いたかもしれない。そんな時代を経てさまざま
な人生の苦難を乗り越えてきたに違いない。日頃認知症患者に接している言語
療法士は、そんな彼女の認知症に至るまでの人生や現在のご家族のご苦労を察
していたのかもしれない。

こう考えてくると、元ボクサーと四人連れの男たち、言語療法士と二人の高校
生、この両者の態度の違いは、対象に対する理解の深さの違いから来ているこ
とがわかる。元ボクサーはボクシングやアリに対する理解が四人連れの男たち
より深い。言語療法士も認知症患者に対する理解の深さが、高校生とは明らか
に違う。

対象に対する理解の深さは、自然に対象を肯定的に感じさせる、ということだ
ろう。現在人間関係に悩む人、身近な肉親や会社や学校での人間関係に悩む人
には大きな参考になると思われる。現在関係がうまくいってない人や嫌いな人
がいるということは、その人に対する理解が浅いとも考えられる。批判的な視
点で相手を見て、相手の本質に触れようとしていない状態とも言える。

そうだとすると、相手への理解を深めることで、周りの状況を肯定的に捉える
ことができるかもしれない。ところが、嫌いな人のことを考えたり、関係の悪
い相手を理解することは、実際はとても難しい。理性や知性で考えようとして
も感情が抵抗するからである。「わかっちゃいるけど、できない」というわけ
だ。ところが内観法のような組織的な方法論を使うと比較的簡単に解決する。

内観法は、両親を初め自分の周りの身近な人々に向き合い、幼い頃からの関係
を客観的立場から丁寧に見直す。しかも「していただいたこと」「して返した
こと」「迷惑をかけたこと」の三つの視点から見直すので、自然に相手の立場
や気持ちになって考えられるようになる。それは相手への理解を深めることを
意味し、いつの間にか相手に対するネガティブな感情がなくなり、ストレスか
ら解放される。

そんな体験例は、内観法の世界では山のようにあって、ほとんど日常的と言っ
ても過言ではない。そして、相手に対する理解の深さは、そのまま自分への理
解の深さを生み出し、今の自分を肯定的に捉えるようになって自分を好きにな
る。そうなると、周りの雑音や少々の困難に振り回されないで、自分で納得で
きる有意義でマイペースな人生を歩めるようである。

「一人でも多くの人に幸せになって欲しい」とは内観創始者吉本伊信の口癖で
あったが、身の回りの人や社会に対する理解を深めることによって、居心地の
いい空間を創り出す人が一人でも多く増えて欲しいものである。そうなると、
やさしい人々が増えて、今回の記事のような出来事が減るのではないか、と考
えた次第である。
                         ★★★

早いもので今年ももう終わろうとしています。
来年も皆様にとりましてよい年でありますように。




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