こころをめぐる話-内観に学ぶ

自分だけの自分じゃない

カテゴリー: 2007年06月06日
こころをめぐる話ー内観に学ぶ NO108
             自分だけの自分じゃない
                     
                発行者 白金台内観研修所 本山 陽一
                    Mail to: zan25224@nifty.com
                                    http://homepage3.nifty.com/shirokanedai/

今回の表題は何だかわけのわからないものになりましたが、最近いろいろと考えさ
せられることがありましたので、こんな題をつけてみました。同じ年頃の二人の青
年の話が、わたしにこんな表題を書かせたのです。

Aさんの息子さんが、結婚することになったそうです。すでに独立して生計を立て
ていた息子さんは、結婚式の費用をはじめ、結婚に関するあらゆることを婚約者と
二人だけで準備を進めていました。子どもの自主性と独立心を尊ぶAさんは、そん
な息子を頼もしく思っていたようでした。何もすることがないAさんご夫婦は、た
だ言われた日程を空けて、結婚式に出席する準備だけをして、普段と変わりない日
常生活を送りながら式の当日を気楽に待っていました。

結婚式の前日、式場での最後の打ち合わせを終えた息子さんが家に立ち寄られたの
で、当日の確認をしたりして久しぶりに夕食を共にしたそうです。帰る息子さんを
ご夫婦で玄関まで見送りに出ると、靴を履いた息子さんが急に振り返り、丁寧にお
辞儀をして「今まで長い間、ありがとうございました」と挨拶を始めました。不意
をつかれたAさんは、つられてお辞儀を返しながらハッと気づきました。“これを
言いにわざわざ来たんだ”と。

息子さんの気持ちがわかった瞬間、感激で涙が溢れ出したAさんは、息子さんに見
られないようにお辞儀をしたまま顔を上げられなかったようです。奥さんも泣いて
いたそうです。息子さんが帰っても感激の治まらなかったAさんは、一人でパソコ
ンの前に座って動揺が治まるのを待っていたようです。奥さんの「わざわざ言いに
来てくれたんですね」という声にうなずくのが精一杯だったとのことでした。

わたしは照れくさそうに話すAさんの顔を見ながら、その前日に訪れた青年のこと
を思っていました。20代後半のその青年は、Aさんの息子さんと同じ年頃でした。
ご主人の浮気で半狂乱になったお母様を連れて相談に見えたのです。以前から夫婦
仲はよくなかったようですが、今回のことで決定的な状況になったようです。青年
は、感情的なお母様と違って、冷静沈着といった様子でお母様の面倒を見ておられ
ました。

その後、お父様も相談に来られましたが、口では反省の言葉を唱えながらもいろい
ろと言い分があるようでした。お母様は自らの感情に振り回され、お父様もご自分
の社会的立場を一番気にしておられました。お二人ともこちらから話を向けるまで、
子どもである青年の気持ちということに頓着しておられないようでした。どうもこ
の青年は、家庭でもご両親に対して冷静に対応しているようなのです。

わたしは、ご両親に比べてやけに大人びた対応をする青年の不自然さを考えざるを
得ませんでした。生まれつきの性格もあるでしょうが、それ以上に不仲なご両親の
中で育つうちに身につけた処世術のように思えたのです。頭のいい青年は、自らの
心の傷を広げないように無意識か意識的かわかりませんが、ご両親と精神的に距離
をとり、感情を押し込めて付き合うよう自らを訓練したのかもしれません。

表面的に見ると、親を憎むとか攻撃するとかの感情は全く感じられません。お話を
伺うとご両親とも彼には優しく、尊敬を持って接しているようです。きっとご両親
に対して、一言では言えない複雑な感情が交差しているのでしょう。Aさんの息子
さんのように素直で真っ直ぐ育った青年と自らの気持ちを押し込めて生きる青年。
この同世代の二人の青年をみて、あらためて親の責任というものを考えさせられま
した。

バタフライ効果というものがあります。カオス理論を表現した思考実験の一つです
が、北京で蝶が羽ばたくと、その僅かな風がだんだん大きくなって、やがていつの
日かニューヨークで嵐が起こるようになる、といった考え方です。池に石を投げる
と波紋が広がるように、どんな小さなことでも徐々に回りに影響を与えていくとい
うわけです。

この理論によると、わたしたち一人ひとりの行動も、どんなちっぽけな意味のない
と思われる行動でも、やがては周りの人々、地球環境に大きな影響を与えているこ
とになります。事実、冷静に観察していると、程度の差はあれ、わたしたちは、何
らかのかたちで周りの環境と相互に影響し合っていることは間違いないようです。
自分が存在しているということは、それだけで意味を有していると言えるでしょう。

日常生活に埋没していると、わたしたちは自分の存在の大きさを過小評価する傾向
があります。しかし、わたしたちは、善いことにつけ悪いことにつけ、私たちが思
っている以上に周りに影響を与えているようです。ところが、実際に生活している
とそれが実感できません。わたしも一人の親として、子どもに愛情はあっても、自
分の言動がどれほど子どもに影響を与えているか、常に自覚しながら生活している
わけではありません。

しかし、子どもの立場から見ると親の存在が大きなものであることは、冷静に周り
を観察しているとよくわかります。とくに、幼いときは親は神様のような存在で、
絶対的な存在です。子どもはいつも親に認めてもらうように行動し、親の愛情を確
認します。大きくなっても程度の差はあれ、親の評価は気になるものです。しかし、
当の親には自分の影響力の大きさはなかなか自覚できないものです。

自殺をする人もそうだと思います。自分の自殺が、どれほど周りの人に悲しみやこ
ころの傷を与えているか気づいていないのではないでしょうか。自殺した当初だけ
でなく、それ以後長く続く残された家族の悲しみ、苦しみを自覚していないから、
自分の存在の大きさを知らないから自殺するのでしょう。極端なケースを書きまし
たが、良くも悪くも人は誰でも回りの人たちに常に影響を与え続けている存在で、
主観的にわたしたちが思っている以上にその存在の意味は大きく重いと言えるでし
ょう。

自分は自分だけのものではない。自分の生き様によって、いつも知らず知らずのう
ちに周りを幸福にしたり不幸にしたりしているのです。それに気づけば、もっと自
分の人生に責任を持ち大切に生きるようになる、と多くの内観者さんが教えてくれ
ています。“自分自身を客観的に観る眼を養う”内観を少しでも多く実行すること
が、自分自身をよりステップアップさせる近道であり、確実な幸せを感じられる秘
密の扉を開くことになると最近つくづく感じるのです。

こころをめぐる話-内観に学ぶ

発行周期: 不定期 最新号:  2019/02/15 部数:  611部

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