こころをめぐる話-内観に学ぶ

内観における罪悪感 1

カテゴリー: 2003年11月10日
こころをめぐる話ー内観に学ぶ NO87
                        内観における罪悪感 1
                     
                発行者 白金台内観研修所 本山 陽一
                    Mail to: zan25224@nifty.com
                                    http://homepage3.nifty.com/shirokanedai/

今日の内観法の普及は、主に内観体験者の実際の効果とその体験者の口コミで
広がって来たものであって、体系化された理論のようなものはまだない。その
せいか内観法を誤解して解釈している人も数多くいるようである。その中で一
番多い誤解が、内観は結局宗教であるというものと、もう一つは内観法は自分
を責めるようになるというものである。

宗教の問題はまた機会があれば述べるとして、今回は内観の罪悪感について考
えてみたい。鬱病と睡眠障害で悩む女性が集中内観に来られた。内観に感動し
た彼女は帰ってからも日常内観を続けていた。そこで彼女は、自分の中ではも
うすっかり終わっていると思っていた離婚した男性に対する怨みに気がついた。
彼女は、その怨みから解放されることが自分には重要と考え、その男性に対し
ての内観を始めた。

彼女が怨んでいたのは、別れた男性のある判断ミスであった。そのために多く
のものを失ったと彼女は感じていた。しばらくの葛藤の後、判断ミスそのもの
は確かにあったかもしれないが、彼を選んだのは自分なのだと気づいた。もと
もとは自分が悪いんだ、自分の責任だと心から思えた瞬間、わだかまりが解け
ると同時に赤ん坊のようにすべてを任せきったような不思議な感覚になり、夜
もぐっすり眠れるようになったと彼女は言う。

嬉しくなった彼女は、次の診察日にかかりつけの精神科医に自分の体験を話し
た。すると医師に「自分が悪いというのは消極的な解決法であって、積極的で
はありませんねえ」と言われ、自分の体験が間違っていたのではないか、とす
っかり落ち込んでしまったらしい。このように「自分が悪い」と思うことは間
違った考え方で心理的によくないと思っている人は、意外に多い。私はこれも
アメリカの影響かもしれない、と秘かに思っている。

たとえば野球チームの監督が試合に負けたときに「監督である自分が全部悪い
のです。選手はよくやってくれました」というコメントを出したら、それは消
極的と感じるだろうか。確かにアメリカ人はそう言わないかもしれない。「や
るべきことはやった。運が悪かった」と言うかもしれない。これは文化の違い
の問題でどちらが正しい、どちらが積極的という問題ではないと思う。

最近の風潮を見ていると政治家もマスコミも耳障りの悪い言葉は使わず、耳に
心地よい言葉ばかり使う傾向があるようだ。簡単な言葉では片づかない死とか
自分の醜さといったような深刻で大事な問題は、目をそむける対象になってい
るように感じられる。前述の精神科医が「自分が悪い」という言葉に敏感に反
応した背景には、言葉ばかり先行し、そのイメージに過剰に反応する社会的な
雰囲気と無縁ではないかもしれない。

これもアメリカの商業主義と無縁ではないと言えば言い過ぎだろうか。しかし
こういう風潮こそ精神的には不健康なことで、嫌なものを避けずに現実をあり
のままに見ることこそが健康的なものの見方だと私は思っている。言葉の持つ
意味は深い。同じ言葉でもその言葉に抱く感情は人によって違う。精神の世界
では言葉よりもその時に抱く感情を大切に扱うことこそがより重要である。

人生の問題や自分の問題にはこれが正しいという解答があるわけではない。こ
の場合大切なのは彼女が一人で考え一人で結論を出し、そしてその結果、夜も
眠れるようになったということである。無論これで彼女の問題がすべて解決し
たわけではないだろう。しかし、自分の問題を自分の力で一つ解決できたとい
う達成感はとても貴重な体験で、これからの彼女の人生に大きな意味を持つと
私は思っている。

今後の人生で彼女は、この時出した結論を否定する時が来るかもしれない。し
かしそんなことはどうでもいいことなのである。私たちは試行錯誤を繰り返し
て成長していくものである。成功ばかりがあるわけではない。間違いも犯すし
失敗もするだろう。大事なことは、そういう成功も失敗も乗り越えてさらに前
進することであり、前進するたくましさを備えることである。

次回に内観の罪悪感についてもう少し考えてみたい。

こころをめぐる話-内観に学ぶ

発行周期: 不定期 最新号:  2019/02/15 部数:  611部

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