武道通信かわら版

武道通信かわら版2月10号


カテゴリー: 2006年02月10日
==================================================================
―――――■―■―■■―――――――――【武道通信かわら版】
――――■■■■■■■■――――――――2/10 2006 vol.154

―――――――■―■――――――――――
―――――■―■■―■―――――――――インターネットで読む
―――――■―■―――■――――――――『武道通信』
――――■■■■■■■―■―――――――サブマガジン
==================================================================
 http://www.budotusin.com              東京都 国立市東3-4-8
 sugiyama@budotusin.com                 杉山頴男(ひでお)事務所
                      042-580-6428 fax 042-580-6438
//////////////////////////////////////////////////////////////////  

            154号 目次  

1 お知らせ
2 HG対談《四》 ……兵頭二十八/後藤よしのり
3 日本傳柔術雑考《五十一》……佐々木タケル
   ◎予想
4 軍歌考《五十七》……小川寛大
   ◎加藤司書

  
■お知らせ――――――――――――――――――――――――――――――
  
   
 一、 あなたは……日本刀を持ったこと、振ったことありますか?
    日本刀のこと、どれくらい知ってますか?
    我ら祖先が刀剣に森羅万象を表わしたことを知ってますか?
 
    『日本刀はなぜに日本人の魂なのか?』 高山武士・著 
  
    オンライン読本 2月15日発行 いま、しばらくお待ちください。
     (HPトップ<オンライン読本>からご入店を)
              ―目次―
    序章 初めて日本刀を手にしたとき、あなたは第一に何を感じるだろ
    一章 遠い祖先はいつも命を考えていた。刀は生命力のシンボル
    二章 なぜ、日本刀は火をくぐり研ぐのか 神に昇華していくため
    三章 日本刀はどこから来たのか 邪馬台国が教えること
    四章 刀に美を求めたのは日本人だけ 日本の美が集約された日本刀
    五章 神道に道教、密教、そして仏教が混じる 刀剣もまさに神仏習
    六章 他国の刀にない日本刀の研磨 日本独自の思想が見えてくる
    七章 刃文は日本人が愛した不定形の曲線の美 
    八章 「刀はすべからく古刀へ還ろう!」水心子「復古刀論」の意味

    九章 刀の拝領が最高の栄誉だった。剣道家よ、日本刀を蘇らせよ!
    十章 刀剣道―刀の手入れの作法化 手入れが精神性を取り戻す
    十一章 日本刀の手入れ 
武士の心得なり
    終章(補足として) 湾刀を最初に使ったのは古代東北軍(蝦夷)
       なぜ湾刀になったか? この謎に一つの仮説

 二、 兵頭 二十八+籏谷嘉辰 共著
   『陸軍戸山流で検証する 日本刀真剣斬り』  定価は1800円+税。
       2月末日・発売予定
          [目次]
      はじめに(兵頭 二十八)
    1 日本人はいつから真剣が使えなくなったか?
    2 剣術のトレーニング 
    3 馬術の心得  
    4 武器としての日本刀 
    5これからの武道 
    6 「武士とは何ぞや?」 
       あとがき(籏谷嘉辰)  

三、 初代タイガーマスク リアルジャパンプロレス
   レジェンド・チャンピオンシップ&市街地型実戦武道第6回トーナ
   メント  ★3月10日(金)後楽園ホール
    時代を超えた、身体能力の“天才”同士の対決
   初代タイガーマスクの対戦相手は丸藤正道(ノア)
 
      チケット販売 掣圏真陰流HP http://www.seiken-do.com/
   e+(イープラス)http://eplus.jp/tiger

四、 「週刊武道通信TV」チャンネル桜  日曜午後3時
    2月12日 ゲスト:高山武士(刀剣鑑定家)
    2月19日 ゲスト:村川平治(弓道家)
    2月26日 ゲスト:松井健二(神道夢想流杖心会主宰師範) 
    佐山聡「虎の穴」―リアル・ジャパン記者会見、佐山聡、丸藤
    インタビューほか
              《PR》
      チャンネル桜が見たい! でもスカパーがない! 
      スカパーアンテナ・チューナーセットが
        実質4980円で手に入ります。
        お申し込みはチャンネル桜まで
       info@ch-sakura.jp  tel 03-6419-3900

■連載 HG対談《四》 兵頭二十八/後藤よしのり―――――――――――

兵頭  「放送形式」に古本の摘録を掲載しておきましたが、南喜一という日
共から転向した労働運動家が、東武「玉の井」駅前にあった私娼街の待遇向上
運動を支那事変前に2年間やっていたことがありまして、伝記にはそのディテ
ールが紹介されているのです。

後藤  早速読ませていただきましたが驚くほど今と非常に状況が似ておりま
すね。

兵頭  今の日本の風俗業界に、かつての人身売買のような事例はあるのでし
ょうか? 

後藤  日本人に関しましては該当例は当時に比べればあまりなくなったので
はないでしょうか。まあ、家族に売られて利用されているというケースも今で
も時々事件にはなりますが。たとえば母親のパチンコ代のためにヤクザを通じ
てフーゾク店に売ったという事件が新潟の方で去年ありましたね。
 それでも今は女の子の90%以上が自分の意思でフーゾク入りします。ホスト
やヒモに騙されて沈められるケースで、「自分の意思で働く」という誘導をさ
れてフーゾクで働いているというケースは少なくありません。ちなみに「沈め
る」とはホストやヒモの用語でフーゾク経験のない女性を自分に貢がせること
を目的にしてフーゾクで働かせることです。

兵頭  玉の井の新機軸というのは、客が写真を見て指名する当時の吉原など
の旧いシステムが修整過多で不評であるというので、オランダにあるような
「飾り窓」方式にしたことのようです。

後藤  これ面白いですね。平成のフーゾクでも修正写真が増えました。特に
デジタル加工ができるようになってからは顕著です。それまでは撮り方の工夫
だったのですが、今では原形を留めないほどデジタル修正する店も増えてきて
います。もちろん、それが原因でトラブルになることもあります。だから僕が
指導している店では修正はさせずに、トラブルを未然に防ぐようにしています。
長い目で考えた時には、修正で嘘から顧客との関係をスタートすることは意味
が無いように思うからです。
 商売はリピート客の方が重要なので、リピーターを大切にする店では修正は
少ないですね。修正を活発に行う店では顧客を騙すことが慢性化しているよう
に感じます。

兵頭  玉の井では、ちょんのまの一階のガラス窓から女を見て選べた。そし
て遊郭と違って「回し」はなかった、というのですが、これには驚きました。
昭和になっても、落語の「五人回し」みたいな商法を続けていたのかと。つ
まり花魁が一人の客を放置して別な部屋を巡回してしまう。客に高いカネを
払わせておいて一晩独占させない。それで文句をいわないのが「通」であっ
て、文句を言えば「無粋」だとされるのですから勝手なものでした。

後藤  その「回し」というのは吉原などの昔からの遊郭に特有なんですよね。
今でも吉原は、これをやるところが残っているんですよ。新興業種ではあまり
聞きません。やっている店では昔からの業界人を入れたところだと思います。
まだ供給よりも需要が大きかった時代のビジネススタイルだと思います。

兵頭  それから、これも玉の井の新機軸で、私娼が和装に限らない。断髪、
お下げ、セーラー服、女給の格好と、最新の洋装であった。しかもいずれも有
名な映画スターや美人歌手に似せて外見を作っていたというのですね。メイド
カフェなんて、そんなに新しくもないわけですよ。

後藤  笑いました。コスプレですね。昔からあったんですね。

兵頭  戦後も1960年代までは、東京の娼婦の出身地は東北6県が7割を
占めていたとあるのですが、今ではさすがに多様化しているのでしょうね。

後藤  九州方面、それも沖縄からの女の子は多いように感じます。今は農業
の事情と家庭の経済状況は連動しません。一般に、仕事が無い地域から出て来
るのです。それは、北も南も関係ないのかもしれませんね。
 不思議なことに、沖縄から本土に来る子は、いきなり大阪や東京には出ない
で、最初は関西以西のどこかの小さい都市で、試しにフーゾク業界に飛び込む
んです。ところがそうしたところの店は暴力団関係者の経営が多く、物凄く悲
惨な経験をしたりします。
 「こんな田舎町で、こんなに酷い思いをするのだから都会はもっと酷いに違
いない。そして東京とか横浜はもっと酷いに違いない」と考えるのですが、実
際には大都市の方が、その手の店は少ないものですよ。 

兵頭  なるほど。市場が大きく、労働者に選択の自由があって、情報も十分
な大都市では、他店より悪い待遇の経営をしていたら、女の子が集まってくれ
ないわけですね。産業活動が盛んな都市や国ほど、人々は他人の評判を気にし
て、社会的道徳を身に着ける、と道破したアダム・スミスはじつに正しいわけ
でしょう。
 ところで、戦前の私娼は男の同情を引く身の上話としてしばしば自分が女学
へ行っていたという嘘をついたそうなのですが、こういうのが通用したのは80
年代の「女子大生ブーム」のときまででしょうか?

後藤  最近の子は、そんな嘘はつきませんね。特に、男に貢ぐために業界入
りしたケースでは少ないです。借金があるという嘘は定番ですが。後々、自分
に惚れた異性から金を引くための布石として。
 ホステスやホストの借金話の大半は嘘ですし、それは後々貢がせるための布
石です。しかし嘘をついて巧みに業界を泳ぐ人間よりもストレートに現状を全
て受け入れてしまう手合いが一番、卒業できないんですが……。

兵頭  昔の吉原では、幇間も妓遊太郎も花魁に対しては敬語を使い、花魁の
席は必ず上座で、決して客の下手には出ない、と決まっていました。また、教
養のあるフリをさせた。高嶺の花であるから男は欲情すると。

後藤  そして大枚をはたくのを納得する、という心理ですね。教養レベルが
一致すれば「擬似恋愛」が可能になりますから高級官僚、つまり武家の客が集
まる。一致しなくても女の方が高ければ、カネで買う男たちにとっては刺激的
です。しかし、高等教育や学歴に関する大衆男子の幻想が、今は消えてしまい
ました。
 また女性の方が格が上だから男が燃えるという心理も必ずしも普遍的ではな
いようです。あるキャバクラに国語の研究者の女の子がいて、その子の専門の
研究テーマは「助詞」だそうです。しかし、その子が働いている地域が下町だ
ったので、その子が研究者である事実を隠していました。燃える、あるいは萌
えるどころか劣等感を刺激して売れなくなってしまうからです。
 またそもそもの高等教育機関の「ブランドの維持」が軒並み失敗しているよ
うに思います。だって、僕の関係する店で、六大学の子が働いていないところ
なんて、ひとつもありません。東大、京大ブランドで出演したAV嬢もいまし
たよね。従って幻想を抱きようが無いのです。東大の大学院生が僕のところに
弟子入りしたケースも一人や二人では無いのですが皆、普通の子ですもの。専
門ジャンルでは素晴らしく輝きますが、そこを一歩外れれば皆、普通の良い子
です。

兵頭  南喜一の経験では、私娼を足抜けさせてやっても、ほとんど例外なく
また元の世界に戻ってくる、というのですが、従業員に第二の堅気人生を用意
させるのがモットーの後藤さんは、どう思われますか。

後藤  これは身につまされます。僕と同じようなことをしていた人が昔もい
たんですね。
 今は証文などで縛られているわけではない。参入動機も本人の意思です。
子供の教育費を稼がねばならないとか、リストラされた親を養うためという立
派な理由を持っている人もいますが、そもそも「いつかは辞めたい」という明
確な意思を持っていないケースが多いのです。その場合には如何ともし難い。
 それでも、見過ごしにできませんのが、馬鹿男に貢ぐためにフーゾク業界に
いる女の子です。こういうのはもう100%利用されているのは明らかなのです。
その手の女の子の想いが報われたケースは見たことがありません。
 世界中を助けたいとかヒーローみたいなことは全く考えませんが。だからこ
そ僕の関係する店の子くらいは早く気付かせたいのですよ。

兵頭  男に貢ぐというケースはまさに民事の領域で、警察は介入できません
ね。

後藤  ホストに計画的に借金を負わされ、それでフーゾク入りというケース
であっても、立件が至難でしょう。この手の話は全国で山ほどあるのですよ。
しかし、立件された例を聞いたことがありません。

兵頭  最近ではホストを扱った漫画があるそうで、ドラマ化までされるよう
ですね。 

後藤  本当は全然あんな奇麗事じゃない世界なんですがね。嘘ばっかりです
よね。果たして公益に資するドラマかどうかは疑問です。むしろ文化破壊とし
て問題だと思います。
 よほどの大金持ち以外の客にとってのホストクラブの危険性は、これはどの
都市にあるかということは無関係です。
 以前はフーゾク店舗は全国でもごくわずかなフーゾク街にしかありませんで
した。しかし今はデリヘルという業態で全国津々浦々までフーゾク店舗があり
ます。そこがホストが女の子を働かせて貢がせるための装置として機能してい
ます。
 そのための前段階としてのキャバクラも昔は大都市の繁華街にしかありませ
んでしたが今はかなり小さな町にもあります。
 システム的に騙してハメこむのに必要な舞台装置が全国に整ってしまったの
です。怖いことです。
 さらに外人と話すと、ホストがこんなに多い国であることを本当に馬鹿にさ
れます。女が金を払って一部の男のところに通うなどという文化は、日本の多
くの男が腑抜けだからとも言われます。
 僕はホスト側も、ホストに騙されている女の子を守る側もどちらも経験して
いるのですが、ホストなどという文化が漫画にもなり、ドラマでヒーロー扱い
されていて平気だとか、そんなホストを目指すような日本の男は全然怖くない、
恐れるに足らずと言われてしまいますよね。
 また日本では雑誌で「処女喪失は幾つですか?」などのクイズをやっており
ますが、あれなど、海外では売春婦でさえも「私は処女だ!」という前提から
スタートするそうです。これなど「嘘だろ?」と思いましたが心意気では、そ
うだとのことです。

兵頭  風俗街の不動産はじつはみんな市井の堅気衆がもっていて、名義を貸
して所得が入ってくる仕組みだから、もうほとんど共犯だというのですが、こ
れは今でも同じですか。

後藤  現代でも変わらないかもしれません。違法フーゾクをさせた場合、不
動産を貸した家主も禁固刑を食らうという司法があれば蔓延はしませんでしょ
うね。

兵頭  地主や家主には社会的責任があるはずですね。ところで女の子がいち
ど風俗業で働いてしまうと、二度と堅気のライフスタイルには歩調が合わなく
なるものですか?

後藤  大いにそうなるでしょう。だから僕は一番大切なのは「社内教育」だ
と思っているわけです。辞めた後の生活を可能にさせるトレーニングをフーゾ
クで働いている間に並行して行わなければだめなんですよ。
 まずは収入源の確保。それから資産管理など。それが出来なければ、何千万
円貯めても、貯金がなくなれば必ず舞い戻ってきます。
 ただし、完全にフーゾクから足を洗うことのできる率は、昔より今の方が断
然に高くなっています。そもそも本人の意思で業界入りしてますし。

兵頭  南という人は大衆演説に艶談から入るのが得意で、それ専門の本も書
き遺しています。実生活でも多数の「二号」をもっていた。その南いわく「女
というのは、とかく自分の喜びを他にアピールしたがる性質を持っているんだ。
俗な言葉でいえば、見せびらかすというやつだ」「セックスでもおなじことが
いえる。もし、かってない喜びを味わったとしたら、女はそれを自分の胸だけ
にしまいこんでおけないんだ。同時に女は、それを他の女に話し、もう一度確
認しようとする貪欲きわまりないものなんだ」と。一人の女を起点として、つ
ぎつぎに新しい女ができるというのです。

後藤  口コミの発生原理のような話ですね。人間は最初は大した感情でなか
ったとしても話せば話すほど確信が生まれますよね。
 話せば話すほど他人を説得したくなるので最初の経験そのものよりも他人に
話す追体験の方がむしろ確信を強化します。
 この話させる仕組み作りは中々難しく、カルト宗教では伝道行為、昔の自己
啓発セミナーではエンロールという勧誘をノルマにしていますよね。だから、
これらの女性は話せば話すほどハマっていったでしょうね。
 でも今では当時よりも娯楽も多いので、一つの経験を、そんなに方々で話さ
せること自体が容易ではないですね。当時の子は凄く行動がシンプルだと感じ
ます。これは外人のおねーちゃんのいる飲み屋で働いている、日本では想像も
できないほどの田舎から来ている女の子の言動に似ていると感じます。ちなみ
に、その想像もできない田舎とは、ロシアパブで働く女の子の中に、モスクワ
での面接に車で20時間かかるところから来る子もいるわけです。途中で車が止
まってしまって凍死するケースもあるそうです。そんなところですよ。

兵頭  後藤さんは「男がもてるかもてないかは顔は関係ない」とご著書で断
言しておられますが、南喜一は綽名が「ガマ」で、そのような外見です。が、
若いときからやることなすこと迫力があった。行動力があって面倒見が良けれ
ば、女に限らず、周囲の人は放っておかないでしょう。けれども、その張り詰
めた意志力は、かならず顔の表面まで出て「私は頼れる」というオーラを発し
ていたんだろうと思うのですね。では、その「張り」が表情にない男は、どう
したら良いんですか?

後藤  もしも顔だけがモテる要因であれば全員整形で解決できるんですがね。
でも現実は違いますよね。安部譲二さんはどうですか? 伊集院静香さんはど
うですか? ゴツくてジャニーズ系とは程遠いですよね。でもモテそうだとは
誰もが理解できるのではないでしょうか。議論するのも馬鹿らしい。また、そ
ういう方のモテる能力は、恐らくは生涯使えます。しかしながらジャニーズ系
の男の子が年をとって中年太りにでもなったら、それでもモテ続けるでしょう
か? どちらが本質的にモテる力を持っているのか言うまでもありません。
 そもそもモテるもモテないも生活習慣病です。美男子でないと自覚なされて
いる方にでも、色々と、お伝えすることはできるのですが。またお時間があれ
ば、詳しくお話ししようと思います。


■日本傳柔術雑考《五十一》――――――――――――――――――――――
                      佐々木タケル(Web編集員)
   ◎予想

 人は賢い生き物で、何かに付け予想をして行動したりものを喋ったりします。
この予想をオカルト的に追求したのが占いで、学問的に追求したのが確率統計
学となります。私、バリバリの文系で、数学は高校一年のときに既に置いてい
かれ、微分積分ベクトルなどの類は日本語として認識できない脳みそになりま
した。それがどういうわけか社会に出て、会社のお金で文部科学省の統計数理
研究所の基礎統計講座に行かされたり、「マンガでわかる統計解析」などとい
う本を一生懸命読んだりするハメになり、今や会社で統計学の権威のような顔
をして偉そうに統計に関する講座を持つであろうことは、それこそ予想もつか
ないことでした。

 確率統計学は、ギャンブルでどうやったら儲ける事ができるのか、なんてま
じめに計算し論議できる数少ないゆるい学問で、かの山本五十六提督もラスベ
ガスでは、この学問を駆使して大儲けをしたとかという逸話が残っています。
軍事面でも重要視されているようで、かつてはUボートの出現率を予想し、船団
の編成に大きく影響を及ぼしたりしたそうです。こういった流れなのか、アメ
リカ人の知識階級や経営者は統計数字にうるさい人が多い気がします。あのロ
ッテのバレンタイン監督も専属の統計解析のエキスパートを側近におき、敵チ
ームのデータを緻密に分析したそうです。日本人は違った意味で統計データに
弱い傾向があるようで、データを緻密に計算する人を嫌い、野放図な勘ピュー
ターに頼る人を好む傾向があるのに、簡単で見た目わかりやすい統計データも
どきは無邪気に信用してしまいがちです。

 我々が日々生活する上で確率統計の恩恵をこうむったり、毎日今日の行動予
想確率なんて数字を出したりする人も珍しいと思います。せいぜい降水確率ぐ
らいが毎日の気になる確率データでしょう。それでも、経験に基づきいろいろ
なことを予想しながら行動していきます。そして、経験が多ければ多い程予想
の精度もあがってきます。これを小難しい数式で計算して、数字で表せば確率
統計であり、あやしげな身振り手振り品物で表せば、占いの類になるわけです。
で、この人間の性質といってもいい予想ですが、武道の世界でも重要な役目を
果たします。相手がどう動くか予想し、その上を行く行動をすれば必ず勝てま
す。
 初代タイガーマスクの佐山先生が、「未来を打て」と打撃のコツを教えてい
ました。相手が動くのを見て体が反応してパンチを打っても相手は未来の位置
にいるからあたらない、だから相手の動きを予想してパンチを出す必要がある、
と先生は説きます。組み技でも、何手先を読むといったように、相手の動きを
予想し技を掛け合います。ですが、言うは易しで、なかなかこれができません。
当然ですが、これがうまく出来るようになるには、自分の経験を多くつまなけ
ればならず、そのために練習が重要になります。経験がそのまま自分だけのデ
ータベースとして蓄積されていきます。

 柔術では、この予想する能力を逆に利用することでかける技もあります。人
は、相手を押したり引いたり、引きずりまわしたり、などといった行動をする
時、過去の経験からどういった時点でどの程度の力が必要かということを、勝
手に脳が判断し行動に移します。それを逆手に取り相手を投げたり関節技へと
移行したりすることができます。相手の力を利用するなどといわれますが、こ
れを柔術をやったことの無い人にやって見せると、大抵達人を見る目で見てく
れます。こういった技は単純で、手品師のタネほど難しいものではないのです
が、原理原則を習得するのは難しいでしょう。

 さらに、人は予想という能力のおかげで、恐怖心や緊張が沸き起こります。
これは人によって様々ですが、私が経験したなかで、最も冷静に技を出すこと
が出来たのは、不意な事態でした。最もダメな形で柔術の技を出さざるを得な
かった多くの場合は、試合の時なんです。試合のように、自分の順番を待ち、
その間自分の相手が誰であるか、どういう試合運びをするか、なんて予想する
ともうダメです。恐怖心に支配されガチガチに緊張します。これは、私の試合
経験が少ないというのが、最も大きな原因でしょう。場数を踏めばなんてこと
はなくなるとは思いますが、元来あがり症の私は、人前でものを話すのも苦手
とするので、どうも試合のような状況はなじめません。待たされるということ
が死ぬほど嫌いで、待たされる間にあれこれ考えてしまうような困った性質な
のです。これが、突然降って湧いたような災難の場合、どういうわけか冷静に
動くことが出来るのですから不思議なものです。
 突発的に起こった事は、今そこにある危機をとにかく排除することだけしか
考えなくて良いので、ある意味楽です。これも道場での修練の賜物なのでしょ
う。こういったことは、人によっては全く逆になったりするので不思議なもの
です。その人の持つ個性や性格によって、試合前の緊張感がたまらないという
人もいらっしゃると思います。私の場合は、これを克服できない限り達人の領
域には絶対到達できないんでしょうね。


■軍歌考《五十七》――――――――――――――――――――――――――

                       小川寛大(Web編集員)
   ◎加藤司書

 明治維新とは、畢竟九州、山口の人士が起した革命である。であるから幕末
維新期、この地域は実に多くの人材を輩出した。しかし、である。福岡という
土地は、その例外といっていいくらい、著名な勤皇志士を出さなかった。当時
福岡にあったのは黒田50万石。徳川幕藩体制を代表する大藩の一である。「そ
もそも人がいませんでした」ではすまされなかろう。けれども、前述の通り、
福岡は維新の人材をほとんど出さなかったのである。
 黒田藩内に、勤皇論がなかったわけではない。むしろそれは過ぎるほどに加
熱してあった。黒田勤皇派の首領的存在だったのは、家老の加藤司書。加藤家
は、藩祖黒田官兵衛孝高(如水)を有岡城の土牢より救出した功により、代々
家老に任ぜられてきた藩内の名門。文政13年(1830)の生れであったから、維
新期には30代と歳も若く、また血筋に負けない、本人自身の英邁さも持ってい
た。勤皇の志を抱く黒田藩士の須らくが憧れ、また敬愛する存在であった。
 元治元年(1864)の第1次長州征討。ここで加藤司書は八面六臂の活躍を見
せることになる。この第1次長州征討、経緯自体はあっさりと幕府側の勝利で
決したが、その後の長州藩の処遇をどうするのかで意見が交錯。幕府側36藩の
代表が参集した広島の地で、日夜激論が戦わされていた。そしてその場におい
て、燦然とと輝きつつ議論を戦わせていたのが、誰であろう、黒田藩代表加藤
司書だったのである。
 加藤は尊皇攘夷派としての立場から、国内で無用な対立を煽り立てることの
愚を強調。長州藩取り潰しの方針を打ち出していた幕府側と延々渡り合い、遂
に長州藩を存続させることに成功するのである。そしてこれ以降、福岡に加藤
司書ありと、彼はその名を全国に轟かせることとなる。
 意気軒昂に福岡に引揚げた加藤であったが、その翌年、突然の悲劇が彼を襲
う。藩主黒田長溥に近付いた佐幕派の讒言により、彼は切腹を命じられるので
ある。加藤を中心とする勤皇派がクーデターを企んだ、というのが理由だが、
その計画の真偽については分からないところが多い。ともかく加藤以下の福岡
勤皇派は、この「乙丑の獄」と呼ばれる政変で、ことごとく粛清された。加藤
司書、享年36歳であった。
 それからわずか3年後、徳川幕府は崩壊し、時代は明治となる。新政府筋か
ら勤皇派の粛清について詰問されることを恐れた藩主は、今度は藩内の佐幕派
を次々に粛清。これによって黒田藩には、「有為の人材」というものがほとん
どいなくなってしまう。福岡が、「維新のバスに乗り遅れた」のには、こうし
た事情があるのである。
 以上のような経緯があって、福岡人は明治新政府に対する影響力というもの
をほとんど持てなかった。しかし「黒田武士の魂」は、意外なところで明治政
府の中に入り込んでいた。
「皇御国」という歌がある。陸海軍の礼式歌のひとつで、軍隊間の敬礼の際用
いられていた。曲は伊澤修二。そして詞は、なんとあの加藤司書であった。

    皇御国の武士は
    いかなる事をかつとむべき
    ただ身にもてる真心を
    君と親とに尽すまで

 あの第1次長州征討後の広島会議の最中、加藤が作った今様歌であるといわ
れている。
 陸海軍の礼式歌というものは、その後次第に簡略なラッパ譜に取って代わら
れて行き、「歌」としての命脈を保ったものはほとんど無い。しかしこの「皇
御国」は、文部省の唱歌集に取り上げられたことなどもあって、かなり長く、
広く歌い継がれた。その墓がある福岡の天福寺には、戦前軍人の参拝が絶えな
かったという。
 ただいかなる事情があるにせよ、「歌」そのもののよさがないところに、盛
行もまたあるまい。上で陸海軍の礼式歌は、その後「歌」としてはほとんど消
えていったと書いた。そしてその数少ないたったふたつの例外は、「海行かば」
とこの「皇御国」であった。他の明治になってから新しく書かれた礼式歌は、
全て、次々と消えていった。
「文明開化」の世にあって、万葉の古歌と封建武士の今様だけが生き残ったと
いう事実。いかなる見方もできようが、ともかく志半ばに散った勤皇の士、加
藤の魂は、その後「大日本帝国」が滅びるまで、人々の歌の中に生き続けたの
である。


――――――――――――――∞∞∞∞∞――――――――――――
   
                <PR>
   
           既刊オンライン・ブック
   ◆創刊 壱ノ巻から二十二ノ巻 (各刊700円)
         誌面をそのままPDFで
        HP<Webで読む武道通信>からご入店を
   
        その他のオンライン・ブック
       
   ◆兵頭二十八を読む (幻の絶版本も)
    「ヤーボー丼」「日本の防衛力再考」「日本の海軍兵備再考」
    「日本海軍の爆弾」「陸軍機械化兵器」「日本の陸軍歩兵兵器」
    「日本有事」って何だ」「日本海軍の爆弾 」「武侠都市宣言!」
        HP<兵頭二十八を読>からご入店を

   ◆オンライン読本
         ★新刊 「柔 回帰曲線 一より習い柔を知り、
         柔より還る元のその位置」佐々木 建(タケル)
    「総合格闘技と武道――『格闘技通信』源流の旅」杉山頴男/
    「軍刀の操作及試斬」(陸軍戸山学校 編)/「兵法要務 柔術
     剣棒図解秘訣」」/「兵法要務 武道圖解秘訣」/別宮暖朗・著 
    「軍事史からみた「南京事件」の真実 」/ 田中光四郎・著「照
    準のなかのソ連兵」/木村三浩・著「右翼は終わってねぇぞ!――
    新民族派宣言」/「坂井三郎の遺訓――若きサムライたちへ」
          <オンライン読本>からご入店を

           http://www.budotusin.com    
      
              ――――――*――――――

                  弓道の本
    ★『大射道』安沢平次郎・著  定価3800円(送料340円)計4140円
    ★『射道―わが師のおしえ』北島芳雄・著  
                   定価1800円(送料290円)計2090円
         メール、ファクス、電話等でお申し込みください

武道通信かわら版

RSSを登録する
発行周期 月2回
最新号 2018/08/20
部数 961部

このメルマガを購読する

ついでに読みたい

武道通信かわら版

RSSを登録する
発行周期 月2回
最新号 2018/08/20
部数 961部

このメルマガを購読する

今週のおすすめ!メルマガ3選

サラリーマンで年収1000万円を目指せ。
高卒、派遣社員という負け組から、外資系IT企業の部長になった男の、成功法則を全て公開します。誰にでも、どんな状況、状態からでも自分の力で人生を変えるための情報と知性を発信しています。人生を意のままにするには、脳みそとこころの両方が進化しなければなりません。そんな進化とは何か?をお届けする四コママンガ付きメルマガです。2014年から4年連続でまぐまぐ大賞部門賞を受賞しました 学歴やバックグラウンドに拘わらず、人生を思いのままに生きるために必要な考え方が書かれた、「良書リスト」も希望者に差し上げています。
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

親鸞に学ぶ幸福論
【あなたを幸せにさせない理由はただ一つの心にあった。その心がなくなった瞬間に人生は一変する】と親鸞は解き明かします。 「本当の幸福とは何か」はっきり示す親鸞の教えを、初めての方にもわかるよう、身近な切り口から仏教講師が語ります。登録者にもれなく『あなたを幸せにさせない5つの間違った常識』小冊子プレゼント中。
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

日本株投資家「坂本彰」公式メールマガジン
サラリーマン時代に始めた株式投資から株で勝つための独自ルールを作り上げる。2017年、億り人に。 平成24年より投資助言・代理業を取得。現在、著者自身が実践してきた株で成功するための投資ノウハウや有望株情報を会員向けに提供しているかたわら、ブログやコラム等の執筆活動も行う。 2014年まぐまぐマネー大賞を受賞。読者数3万人。雑誌等のメディア掲載歴多数。 主な著書に『10万円から始める高配当株投資術』(あさ出版)『「小売お宝株」だけで1億円儲ける法』(日本実業出版社)
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

今週のおすすめ!メルマガ3選

右肩下がりの時代だからこそ、人の裏行く考えを【平成進化論】
【読者数12万人超・日刊配信5,000日継続の超・定番&まぐまぐ殿堂入りメルマガ】 ベストセラー「仕事は、かけ算。」をはじめとするビジネス書の著者であり、複数の高収益企業を経営、ベンチャー企業23社への投資家としての顔も持つ鮒谷周史の、気楽に読めて、すぐに役立つビジネスエッセイ。 創刊以来14年間、一日も欠かさず日刊配信。大勢の読者さんから支持されてきた定番メルマガ。 経験に裏打ちされた、ビジネスで即、結果を出すためのコミュニケーション、営業、マーケティング、投資、起業、経営、キャリア論など、盛り沢山のコンテンツ。
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

●人生を変える方法【人生をよりよくしたい人必見!誰にでもできる方法を組み合わせました。】
■「人生(自分)の何かを変えたい!」と思ってる方、まずは最初の1分から始めましょう!今日は残っている人生の一番初めの日です。今、「人生を変える方法」を知ることで、一番長くこの方法を使っていくことができます。コーチングで15年間実践を続けてきている方法なので、自信をもってお勧めできます。「人生を良くしたい!」と思うのは人として当然のこと。でも、忙しい生活の中で人生(自分)を変えることって諦めてしまいがちですよね。誰かに変える方法を教えて欲しいけど、その方法を知っている人は少ない。だからこそ・・・。
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

サラリーマンで年収1000万円を目指せ。
高卒、派遣社員という負け組から、外資系IT企業の部長になった男の、成功法則を全て公開します。誰にでも、どんな状況、状態からでも自分の力で人生を変えるための情報と知性を発信しています。人生を意のままにするには、脳みそとこころの両方が進化しなければなりません。そんな進化とは何か?をお届けする四コママンガ付きメルマガです。2014年から4年連続でまぐまぐ大賞部門賞を受賞しました 学歴やバックグラウンドに拘わらず、人生を思いのままに生きるために必要な考え方が書かれた、「良書リスト」も希望者に差し上げています。
  • メールアドレスを入力

  • 規約に同意して

アーカイブ

他のメルマガを読む

ウィークリーランキング