ほぼ日刊日々是映画

[ほぼ日刊日々是映画] vol.2224 ★ 市川崑監督追悼 細雪

================================================2008/2/14==
                        -vol.2224--
  ほぼ日刊 日々是映画         発行:cinema-today
                http://www.cinema-today.net/
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2224号です。

市川崑監督が亡くなりましたね。
先日も『私は二歳』を見たばかりですが、私の好きな監督のひとり
です。余裕があれば、追悼特集でも組みたいですね。
いい作品が本当にたくさんあります。
『ビルマの竪琴』http://cinema-today.net/0508/26p.html
『黒い十人の女』http://cinema-today.net/0107/07p.html
『野火』http://cinema-today.net/0112/03p.html
『おとうと』http://cinema-today.net/0204/27p.html
などなど
最近はDVDで手に入るものも多いので、こちらをご覧ください。
http://tinyurl.com/2a4zpx

ご冥福をお祈りいたします。

というわけで今日は代表作の『細雪』を長いバージョンでお届け
します。かなり長いです。

プレゼント企画実施中です。
日々是映画的アカデミー賞。もちろん受賞者を決めます。皆さんの
投票で。もちろん受賞者には何も知らせませんが…
詳細は映画のあとをご覧ください。


みんなの日々是映画(再開してます)
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-------- 目次 --------

■ 今日の映画
 細雪

□ ヒビコレリンク

□ DVD今日の買い!

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■ 今日の映画 − 細雪


--cinema1375------------

 細雪

 1983年,日本,140分

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<キャスト&クルー>

監督 市川崑
原作 谷崎潤一郎
脚本 日高真也
   市川崑
撮影 長谷川清
音楽 大川新之助
   渡辺俊幸

キャスト 岸恵子
     佐久間良子
     吉永小百合
     古手川裕子
     石坂浩二
     伊丹十三
     岸部一徳
     桂小米朝
     江本孟紀
     細川俊之
     三宅邦子
     小林昭二
     上原ゆかり
     仙道敦子

<評価>

☆☆☆☆(満点=5)


<プレヴュー>

 時は昭和十三年、京都に花見にやってきた蒔岡家の四人姉妹と次
女の婿の貞之助。長女・鶴子は銀行員の辰雄を婿にとって本家を守
り、次女・幸子は百貨店で働く貞之助を婿にとって分家を作って、
雪子と妙子というふたりの妹を引き取っていた。もっぱらの話題は
雪子の縁談だが、そこに「5年前の事件」が暗く影を落とす…
 大阪の旧家を舞台に、四姉妹のそれぞれの一年を描いた谷崎の同
名小説の映画化。四姉妹それぞれのキャラクターに時代がこめられ、
それを市川崑が一風変わった雰囲気の映画に仕上げている。



<レビュー>

 この映画は全てが「おかしい」のではないかと思う。それは面白
くないということではなく、とにかくおかしくて、それが面白いと
いうことである。昔に読んだ原作の印象ではそのような「おかしさ」
は感じなかったような気がする。しかし、谷崎の小説には常にどこ
かに「おかしさ」が漂い、それが艶やかな魅力ともなっていること
を考えると、この原作にも「おかしさ」があったのだろう(谷崎の
作品という先入観でそのおかしさは読む前から中和されてしまって
いたのかもしれない)。しかし、映画化されることによってその
「おかしさ」は加速度的に増しているように思える。
 それを象徴的に示すのが映画の始まり方である。映画は花見のシー
ンから始まるが、原作ではそうではなかったはずである。
 ただ、そもそも原作は4年以上に渡る物語であるのに対し、映画
のほうはおよそ1年の物語であるし、物語そのものも変えられてい
るから比較することに特に意味はないということも言っておきたい。
重要なのは、原作と違うということではなく、花見のシーン(原作
では何度もある)を冒頭に持ってきたということなのだ。
 この花見のシーンの桜は美しいというものを超え、恐ろしいほど
の色彩を放つ。桜という花が狂気を象徴する(人を狂わせる)花で
あることを言うまでもなく、この桜のシーンからは狂気の匂いが漂っ
てくる。そして、さらに雪子の見合いの相手の母親が精神病である
というご丁寧なエピソードまで挟まれるのだ。これを見ただけで、
この映画には狂気が付きまとうのでは、という予感がよぎる。
 そしてモチーフとしての狂気ということに加え、この映画のいっ
とう最初のシーンが幸子と妙子の真正面からのクロース・アップ
ショットの切り返しの繰り返しであることで、映画としての「おか
しさ」を感じる。真正面から人の顔を捉えた切り返しというのは非
常に居心地が悪いのだ。なぜなら、そのふたりが向き合っていると
したら、観客である私はそのふたりの真ん中に挟まれて小人のよう
にちじこまって巨人であるふたりを見上げているかのような感覚を
覚えざるを得ないからである。そんな居心地の悪さを映画の冒頭か
ら味あわされ、これは「おかしな」映画であると確信するのだ。

 そのような予感は裏切られることはなく、映画は一貫しておかし
いまま進んでいく。そのおかしさの最大の要因は、映画の流れが非
常にギクシャクしているということである。スムーズに流れていた
映像や会話の流れが、まったく関係ないカットや言葉によってブツ
リと断ち切られる。そのような断絶がたびたび繰り返され、そのた
びに私は言いようのないおかしさを感じ、ニヤリとしてしまうのだ。
よく考えてみれば、この「おかしさ」というのは映画の内容とはまっ
たく関係がない。映像上の、あるいは脚本上のいたずらである。そ
のいたずらが原作の世界に加わることによってこの映画は名作になっ
たのだともいえるのではないか。そして、それこそが監督・市川崑
の天才たるゆえんだともいえるのだと思う。

 ということだが、もちろん内容たる物語も面白い。戦争の足音が
聞こえる昭和10年代も後半、凋落していく名家の姿。名家が凋落し
ていく姿と言えば、太宰の「斜陽」を想い出すが、この作品はそれ
とはまた違った形で時代の変化を切り取っている。彼女たちが名家
の伝統を引きずっていることは確かだ。明確に言葉にされる「本家
へのこだわり」ということだけではなく、たとえば女中に対する態
度ひとつからでも、その伝統の残滓を嗅ぎ取れる。そんな中、末娘
の妙子/こいさん(ちなみに「こいさん」とは良家の末娘を呼ぶ関
西地方の言葉、特に大阪の商家でよく使われていたらしい)だけは、
その伝統を振り払っている。その妙子には啓造(啓ボン)が対照さ
れ、啓造の家の元番頭である板倉がその対照をさらに引き立ててい
る。そのことで妙子という存在が、特に長女の鶴子と比較されてい
ることが明らかになる。そんな中、幸子は伝統にかなり引きずられ
ているが、中立的な存在となる。さて雪子は、ということになるが、
この雪子というのがかなり厄介な存在なのである。
 物語は雪子の縁談を中心として展開していくわけだから、基本的
には雪子が主人公なわけだが、まったく何を考えているのかわから
ないのだ。電話恐怖症で、普段はぼやんとしていて、しかし意固地
なところもある。実は非常に計算高いのかもしれないとも取れるわ
けだが、本当のところはどうなのかわからない。
 この雪子についてひとつ気になるところがあった。それは、東谷
との見合いの後、東谷が雪子を梅田で食事をしないかと電話をかけ
てくるシーンである。このとき幸子は家を出ていて、雪子は女中の
春に幸子を呼びにいかせる、幸子は急ぎ戻ってくるのだが、ときす
でに遅し、電話を切った後だった。そこで、雪子は「都合が有りま
すからと言って断った」といい、幸子もそれを受け入れる。しかし、
しばらく後のシーンで唐突に雪子が受話器を持って呆然としている
カットが挿入されるのだ。果たしてこのシーンが意味するものは何
なのか?
 映画の序盤では「5年前の事件」というものが謎として提示され、
雪子にとってそれがある種のトラウマになっているような描かれ方
をしている。しかし、その謎が明らかになり雪子にはそれほど関わ
りのないことだったことが明らかになる。しかし雪子はまだどこか
おかしいのだ。そこで、電話恐怖症に何かのトラウマがあるのでは
と考えてしまったわけだが、それがゆえに雪子は結局東谷からの電
話に出ることが出来ず、一方的に切られてしまったのではないかと
邪推する。そして、幸子には嘘をついたのではないかと。そう考え
たところでそれにいったいどんな意味があるのかと問われるとわか
らないのだが、そこには雪子という不思議な存在の心の底にあるヌ
ルリとしたものが浮かび上がってきているのではないかという気が
するのだ。
 その雪子のおかしさを吉永小百合は見事に演じきっていると思う。
5年前の事件のその時以外には台詞らしい台詞もあまりなく、ただ
ポヤンとしているだけという役をなかなか魅力的に演じているのだ。
この映画は誰の映画化といわれれば、吉永小百合の映画だと答えら
れるほどに、見事だと思う。

 もうひとつ、この映画の魅力といえば着物であるだろう。演出上
でも帯のクロースアップがあったり、雪子のために誂えられたとい
う花嫁衣裳一式がゆっくりと映し出されたり、帯がキューキューな
るというエピソードがあったりと、かなり意識的に着物を使ってい
る。この映画が撮られたの80年代であり、着物はすでに生活からほ
とんど消えてしまっていた。そんな中で日常着としての着物にスポッ
トを当てる。それは谷崎が象徴する日本的なるものへの回帰なのか。
時代設定がしっかりしてしまっていることで、着物というものは違
和感を生じせしめない。着物は「おかしさ」を生む源泉とはなって
いないのだ。とすると、着物とはこの映画で唯一まっとうなものだっ
たのかもしれない。生活から失われてしまったからこそ、まともに
正面から描く。
 そこに生じる現実とのギャップはこの映画が描く世界を現実から
切断してしまう。それは谷崎の世界を観客が生きる80年代の世界か
ら切断してしまうということを意味する。しかし映画は「おかしさ」
を通じて観客とつながってしまう。われわれ観客は映画を観終わる
ことで、現実とは切断された谷崎の世界からは抜け出すことが出来
るが、「おかしさ」によって表現された世界からは抜け出すことが
出来ない。それはヌルリとした塊となってわれわれの心に残ってし
まうのだ。
 そのことは、ラストシーンの不可解さによっても強調される。こ
の映画のラストシーンは、雪子が嫁に行ったことで貞之助が落ち込
み、料亭でひとり酒をあおるというシーンである。貞之助は幸子の
夫で、確かに映画中でも雪子に気があるようなそぶりを見せ、幸子
はそのことで夫を非難するし、雪子を夫から離そうともする。しか
し結局、ふたりはどうにもならないし、雪子のほうは何のアクショ
ンも起こさない。にもかかわらず、貞之助は雪子が嫁に行ったこと
で、どうにもやるせない気持ちになってしまうのだ。その不可解さ
はどうしても解決することが出来ない。
 そしてさらにそれが映画の決定的な最後に来てしまうということ。
そのことで貞之助のもやもやとして心持は浮かび上がってくるが、
そもそもうやむやだった映画の主題は暗闇にも等しい霧の中へと投
げ込まれてしまうのだ。
 「いったい何についての映画だったのか…」そんな戸惑いを残し
たまま、彼らは遠くへ去ってしまったのだ。


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□ ヒビコレリンク

『ビルマの竪琴』http://cinema-today.net/0508/26p.html
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<今日の作品:細雪>

 『細雪』
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<今日のお勧め>

 もちろん市川崑です

 『黒い十人の女』
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 『ぼんち』
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 『ビルマの竪琴』
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 『おとうと』
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日々是映画的アカデミー賞、投票受付中!

2007年公開の映画から、作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女
優賞を選びましょう。
一応私なりの候補をあげておきますが、見た作品だけからなの
で、どんどんほかの作品や人を上げてください。
他の部門を勝手に作ってプッシュしていただいてもかまいませ
ん。挙がってきた候補などは、随時お知らせしようと思います。

とりあえず、今のところの候補は

<作品賞>
グアンタナモ、僕達が見た真実
善き人のためのソナタ
ボルベール <帰郷>
ヘアスプレー
再会の街で
ブラックブック

<監督賞>
周防正行『それでもボクはやってない』
マイケル・ウィンターボトム『グアンタナモ、僕達が見た真実』
             『マイティ・ハート/愛と絆』
ペドロ・アルモドバル 『ボルベール <帰郷>』
ソフィア・コッポラ 『マリー・アントワネット』
ジョン・キャメロン・ミッチェル 『ショートバス』

<主演男優賞>
アダム・サンドラー 『再会の街で』
ジミー・ツトム・ミリキタニ 『ミリキタニの猫』

<主演女優賞>
ロモーラ・ガライ 『エンジェル』
サラ・ポーリー 『あなたになら言える秘密のこと』
ペネロペ・クルス 『ボルベール <帰郷>』
アンジェリーナ・ジョリー 『マイティ・ハート/愛と絆』

というところです。主演男優賞が今ひとつ思いつかず。

締め切りはアカデミー賞にあわせて2/23日です。

応募は present2008@cinema-today.net まで。
各賞への投票などなどに加えて、お名前(ハンドルネーム可)、
メールアドレスをお書き添えください。

プレゼントは1名様に映画鑑賞券、1名様にプレスシート詰め
合わせを差し上げます。


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 下記アドレスで手続きをしてください。こちらでは対処しきれな
 い場合もございますので。
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                     日々是映画第2224号
                      2007年2月14日発行
                     発行:cinema-today
                   マガジンID:0000032940
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