紳也特急

紳也特急 vol,225


カテゴリー: 2018年05月01日
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 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!

性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を
                                         専門家の立場から鋭く解説。
                    Shinya Express (毎月1日発行)

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~今月のテーマ『正しい知識は役に立たない』~

●『真剣な眼差し』
○『女性は土俵に上がらないでください』
●『「性交」や「避妊」という言葉は不適切』
○『資格、経歴は何を教えてくれるのか』
●『知識を活かす関係性』
○『セクハラの基準』
●『性交と性行と性向』


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●『真剣な眼差し』
 ある中学校で講演した際、人工妊娠中絶術を受けたお子さんが真剣に私の
話を聞いていました。その子の存在を知ったのはもちろん学校の先生からの
情報でした。もっとも、200人を超える生徒さんの中の「この子が」と教えて
もらったわけではありません。しかし、その子の動き、目線、等々からこの
子だろうなと思いながら、ずっとその子を見ながら、もちろんセックスの経
験どころか、言葉にさえも着いて来られない子どもたちの存在も意識しなが
ら講演を組み立てていました。
 講演後、「あの子があんなに真剣に最後まで聞いているとは思わなかった」
と言われたのですが、私はその子の真剣な眼差しは、まさしく彼女が発して
いたSOSだと思いました。私の講演を聞くことで、その子の中で何が変わり、
次なるトラブル防止につながるかわかりません。もしかしたら、誰ともつな
がることなく、どんどん奈落の底に落ち、最後は自死するかもしれません。
だからこそ校長先生をはじめ、先生方にアドバイスもさせていただきました。
 養護教諭の先生のところには時々来るようなので、ぜひその子がセックスを
していることについてもっと関心を持ち、「セックスしてどうだった?」、
「気持ちよかった?」、「うれしかった?」と言った突っ込みを入れて欲し
いと伝えました。「うれしかった」という返事が来たら、「何でうれしかっ
たんだろうね?」とさらに突っ込んでくださいと。
 セックスに関するカウンセリングで難しいのが、どこまでが「まじめな質
問」なのか、それとも「スケベ心でのハラスメント」なのかというところで
す。中高生の女の子だけではなく、それこそ大人の女性からセックスに関す
る相談が来た時、私はこのような質問をします。もっと突っ込むこともあり
ます。大事なことはそこに信頼関係があるか否かです。
 信頼できる相手に対して自己開示したくなるのが人間です。そして、自己
開示をする中で、自己カウンセリングが生まれ、自己矛盾や自分自身の問題
点に気づくことができるようです。これがカールロジャーズの言う、「人は
話すことで癒される」というプロセスです。人と話している人は、気が付け
ば自分が欲しい答えにたどり着けることがあります。このような環境こそが
SOSを消しあう社会、SOSが、気が付けば消えている世の中です。
 一方で「相談してください」と言いながら、相談した結果、説教、正解、
正しい知識の押し付けをする人にはこころを閉ざします。でも、最近の世の
中はそのようなことの繰り返しのように思えてなりません。そこで今月の
テーマを「正しい知識は役に立たない」としました。

『正しい知識は役に立たない』

○『女性は土俵に上がらないでください』
 京都府舞鶴市で開催されていた大相撲舞鶴場所の土俵上で市長さんが倒れ
たのを見て複数の女性が土俵に上がったのに対して、行事の方が土俵を降り
るようにというアナウンスをしたことが何度も報道されています。しかし、
議論の多くは「命よりも土俵が大切か?」といった視点でしたし、最近は
「土俵の女人禁制はいかがなものか」という声をマスコミが取り上げ続けて
います。しかし、私は全く異なる視点で今回のアナウンスをとらえていまし
た。すなわち、行司さんが倒れた人が死ぬかもしれない状況と思わなかった
こと、思えなかったことが問題です。「そんなはずはない」と読者の皆さん
は思っているのかもしれませんが、「人は経験にしか学べず、経験していな
いことは他人ごと」です。現代社会の葬儀は家族だけのことが多く、身近で
「人が死ぬ」という経験をしていないのです。

●『「性交」や「避妊」という言葉は不適切』
 東京都足立区立の中学校で、学校の先生たちがいろいろ工夫をして性教育
をしたところ、都議の人が「学習指導要領」にない言葉を使った指導を不適
切と教育委員会に抗議をしたのに対して、性教育を一所懸命やっている人た
ちがこれまた抗議をしている状況を皆さんはどう思われますか。
 そもそもどれだけの中学生が「性交(せいこう)」や「避妊(ひにん)」
という言葉が持つ意味を知っているのでしょうか。「セックス」という言葉
も、「コンドーム」という言葉も知らない中学生が増えているのですが、朝
日新聞の取材に対して「性教育をすることで『子どもが興味を持ってしまっ
たら危険だ』」との考えを述べた人もいます。教育学の専門家は、「子ども
たちの発達段階とともに、育つ環境に合った形で、適切な性教育を丁寧に行っ
ていくことが大切だと思っています。インターネットの発達などで、子ども
たちが偏った情報を得ることが容易な現代社会において、本当に必要な性教
育のあり方を議論することが重要です。」とおっしゃっていますが、そもそ
も「教育」って何なのでしょうか。広辞苑には「教え育てること。望ましい
知識・技能・規範などの学習を促進する意図的な働きかけの諸活動。」とあ
りました。確かに、教育界のみならず、多くの人たちが目指す最高のところ
が東京大学理科三類、東大医学部、司法試験の合格ですが、そこもいろいろ
ありますね。

○『資格、経歴は何を教えてくれるのか』
 「灘高、理三、東大医学部、司法試験合格」・「援助交際」
 この方は散々たたかれた末に辞職しました。援助交際、買売春、すなわち
金銭のやり取りを伴う性交の提供は売春防止法で禁止されていることは司法
試験を受ける際にちゃんとわかっていたはずなのに、なぜこのようなことに
なったのでしょうか。もしかしたら、買春した側は違法で逮捕されるけど、
売春をした人は保護の対象という考えのもとで処罰されないため、援交(売
春)する側が自ら警察に通報することがあるということを知らなかったとか?
 「湘南、文一、東大法学部、司法試験合格」・「セクハラ」
 この方はさすがに勉強したことを上手に活用しようと思っておられるのか、
「裁判で争う」とおっしゃっていましたが、やはり辞職しました。確かに司
法試験に合格した時に「セクハラ」という言葉はなかったのかもしれません。
 皆さんはこのお二人が、なぜこのような状況に追い込まれたと思っていま
すか。このお二人にどのような「性教育」をすれば「望ましい知識・規範な
どの学習」ができると思いますか。そんなことを考えることなく、子どもが
理三や文一と言わず、そもそも東大に入れば万々歳で、今後の人生は安泰と
思っていないでしょうか。その東大医学部の5月祭で偶然にも2018年5月20日
(日)13:30~15:00のシンポジウムの中で講演をする機会を得ました。
場所:医学部一号館講堂。そこで話そうと思っているのが「人は経験に学び、
経験していないことは他人ごと」です。

●『知識を活かす関係性』
 司法試験合格という人たちがこのようなトラブルを起こしてしまうのは、
「おいおい、援交なんかやっていたら知事の首が飛ぶぞ」とか、「『おっぱ
い触っていい?』はこの関係性だとセクハラを超えた言葉だぞ」といった指
摘をする人がいなかったからでしょう。
 そもそも男にはセックスをしたい、性的な関係を相手と持ちたいという本
能的欲望があります。それを抑えるのは社会性が育んだ理性です。「英雄色
を好む」は広辞苑に「英雄は女色を好む性向がある。女色を好むことの弁護
としても用いる。」、「女色」は「女との情事。いろごと。」と書かれてい
ます。「性向」は「性質の上での傾向。気質。」とあります。すなわち「男」
とは性のトラブルを起こし得る存在だということを、敢えて「弁護」という
形で教えてくれています。性のトラブルを回避するためには「正しい知識」
を「教育」するだけではなく、いろんな人の「経験」を通して、常に自分自
身の危うさを補正し続ける必要性も併せて「教育」する必要があることを、
トラブルを起こした人たちが身をもって教えてくれています。

○『セクハラの基準』
 セクハラは人と人の関係性から生まれる感情ですし、そもそも言葉は人と
人の関係性を育むためのツール、手段です。だから、人間関係、信頼関係が
できている人同士であればセクハラにならない言葉も、それらがない関係性
の中ではセクハラになります。今回のセクハラ発言問題ように力関係があり、
かつ信頼関係がない中で性的な言葉が発せられたら、セクハラと認定される
のは当たり前のことです。しかし、一線は超えないものの、お互いにどこと
なく好意を感じつつ、少し性的な表現を使いながら人間関係を構築している
人たちも少なからずいます。「そんなの不潔」と思う人は、それを表現し、
「私の前でそのような言葉を使ったやり取りはやめてください」と言えばい
いだけです。セクハラの基準は一つではないので、「いや」と思ったらその
ことを表現し、「いや」と言われたらそのことを素直に受け入れる関係性を、
社会を創るしかないのではないでしょうか。逆に言うと、それが言えない社
会だとすると、あなたも、私もセクハラの加害者に十分なり得るということ
です。

●『性交と性行と性向』
 「人のふり見て我がふり直せ」とはよく言ったもので、広辞苑には「他人
の性行の善悪を見て、自分の性行を改めよ。」、「性行」は「日常の性質と
おこない」とありました。しかし、現代社会を反映するならば「他人の性交
の善悪を見て、自分の性交を改めよ。」と教えたいところですが、学習指導
要領違反でしょうか(笑)。
 「人のふり見てわがふり直せ」は「人は経験に学び、経験していないこと
は他人ごと」ということも併せて教えてくれています。ぜひ中学生には「人
は他人の性行、経験に学び、経験していないことは他人ごとのままにすると、
自分の性向が原因でトラブルになるよ」と教えたいものです。「わか~~ん
な~~い」と言われそうですが、学習指導要領には違反していません(苦笑)。

 
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