紳也特急

紳也特急 vol,223


カテゴリー: 2018年03月01日
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 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!

性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を
                                         専門家の立場から鋭く解説。
                    Shinya Express (毎月1日発行)

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~今月のテーマ『話したい』~

●『大人の感想』
○『話したいこと』
●『SOS出し方教育?』
○『出せないのがSOS』
●『話すことでしか癒されない』
○『洪ちゃんが亡くなりました』
●『SOSを消しあう社会を』

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●『大人の感想』
 子どもの思春期への心構えを聞くつもり出来ましたが、自己カウンセリン
グのような、目からウロコの講座でした。
 自分自身が挫折を乗り越え変わったのは、自分自身のおごりがなくなった
からだけだと思っていましたが、おごりがなくなり、人に対する壁がなくな
り、多くの人とコミュニケーションをとり、つながることができるようになっ
たから変わったのだと気がつきました。
 いま、子育てでの悩みは中学受験をするかしないかだったのですが、あま
り大した悩みではなかったと思えるようになりました。
 カーリング子育てにならないよう、もう一度、冷静に、何が大切かを考え
たいと思いました。
 自分の失敗談や夫の悪の武勇伝などは話したくなく、特に悪の武勇伝は話
して欲しくなかったのですが、それもいいかな、話してみようかなと思いま
した。
 このような感想をいただくと、実は大人たちもいろんな話を聞きたがって
いるのかなと思いました。
 
 平昌オリンピックが終わり、そだねーカーリングチームが銅メダルを取っ
たばかりなので敢えて言い訳をします。個人的には競技としてのカーリング
は大好きです。銅メダルの瞬間も見ていて涙していました。ここでいうカー
リング子育てとは、「子どもが進む道を掃き清め、躓かないように、障害物
に当たらないよう、貴方の目標はここ(例えば〇〇大学)ですよ」と親が全
部のお膳立てをするカーリング子育てはやめましょう、という意味です。
 
 でも、この時期、やはり子どもたち向けの講演オンパレードです。講演を
した学校の養護教諭の先生から次のような情報をいただきました。
 
 昨日、男子生徒が保健室にやってきて、約1時間話していきました。先生
の講話の際に、目立っていた生徒です。いろんな話が出てきました。話を聞
いてみると、自分が抱える不安や心配をいえる友達が彼にはいないようでし
た。「また来ます」といって帰っていきました。
 今日も、別の男子生徒が「話したい」といってきました。この生徒も自分
の心配事を友達にも親にもいえずにいました。私と話して「少し楽になった
ので、母親にも話してみる」「友達にもいってみようかな」といっていまし
た。週明けにまた来るそうです。
 
 カールロジャーズの言葉、「人は話すことで癒される」と伝えるだけで
「話したい」と言えて、実際に「話す」という行動につなげられるようです。
そこで今月のテーマを「話したい」としました。
 
『話したい』

○『話したいこと』
 いま、皆さんは何を、誰と話したいですか。こう聞かれてもおそらく戸惑
います。普通、誰かと話すとき、「こんなことを話したいから話を聞いてく
ださい」と思って話す人はあまりいません。もちろん「相談したい」という
明確な目的を持っていたら「聞いて」となるでしょう。しかし、多くの場合
は、何となくその場の雰囲気や自分のその時の気持ちから自然と言葉が出て、
そのキャッチボールを繰り返していると思います。そして、気が付けば悩み
が解消していたり、癒されたりしています。
 
●『SOS出し方教育?』
 ところが、若者たちの自殺、自死を減らそうということで、国はSOSの出し
方教育を推進しようとしています。残念ながら自死された方の意見を聞くこ
とができないのですが、おそらく「SOSを出せなかったから自死してしまった
んだ」とおっしゃることでしょう。じゃあ、やはり「SOSの出し方教育が大事」
と思う人が多くなるでしょう。しかし、そもそも生きている、生身の人で、
自分から積極的にSOSを出している人、出せている人はどれだけいるのでしょ
うか。そんな思いを講演の中でぶつけたところ、次のような反応をいただきま
した。
 
 自分の痛みを伝える事ができる関係。自分の弱さも見せられる関係。どう
やって構築していくんだろう。すぐに答えは出ないけれど、とにかく、私が
この疑問を心においていこうと思います。今回の講話を受けてどんな風に進
めていこうか。私自身も迷いの毎日ですが、少しずつ前に進めたら・・・と
感じました。でも、先生の講演を聴いて、私の中で何か「覚悟」のようなも
のができたように思います。感謝いたします。
 
 これは保健室で日々いろんな相談を受ける立場の養護教諭の先生の言葉で
す。答えはないけど覚悟ができた。このことがすごく大事だけど、この覚悟
がないまま「困ったらSOSを出してね」と答えを言うことで自分の責任を果た
したと勘違いしている人とどこが違うのでしょうか。

○『出せないのがSOS』
 おなかが痛い。頭が痛い。胸が痛い。このような痛みだったら、おそらく
誰でも他人に言えます。それは同じような痛みを他の人も経験していること
をどこかで学んでいるからです。「おなかが痛い」と言えば同じ思いをして
いる他の人に理解してもらえるという期待感を事前にどこかで学習している
からです。でも、次のようなこともありました。30年以上前の話ですが、
「胸が痛い」と訴えていた人を調べてみると、最終的な診断は「恋の病」で
した。その人は他の人と、「恋をすると胸が苦しくなる、胸が痛くなるとい
うことを話したことがなかった」と言っていました。でも「痛み」は人に言っ
ていいものだと思ったので素直に「胸が痛い」と訴え、医者にかかったとの
ことでした。
 一方で、SOSを出さなければならないような心の痛みというのは自分の中で
も整理が思うようにいかないため、それを言語化して他人に伝えること自体
がすごく難しいのです。そのような時に有効とされるカウンセリングとは、
カウンセラーの助けを得て、自分の心の闇を整理してもらう方法です。確か
にカウンセラーにつながろうとする意識自体がSOSを出していることになりま
すが、自分の弱みを人前に出せない人に「相談しましょう」ときれいごとを
言うのはいかがなものでしょうか。

●『話すことでしか癒されない』
 薬物依存症から回復するには「薬物を使いたい」ということが話せる環境
が必要です。私の患者さんで「使っちゃった」と私に、病院の職員に話すこ
とで、再び使わないよう頑張れている人もいます。失恋のストレスを乗り越
えるには友達に話すしかありません。陸前高田市で展開している「はまって
けらいん、かだってけらいん運動(あつまっておしゃべりをしよう運動)」
で実際に自殺も減っています。このように中高生に話すと、彼らははじめて
「話していいんだ」と思うようです。
 「人と会って話す」ということと、「LINE、SNSで話す」ということの違い
を実感したことはありますか。癌を患った仲間とLINEでつながり、もちろん
見舞いに行ったりするなかで、「やっぱり会って話すことでしか癒されない」
ということを、身をもって気づかされました。

○『洪ちゃんが亡くなりました』
 AIDS文化フォーラム in 横浜に初期の頃から来てくれていた洪ちゃん、
洪久夫さんが2月11日に膵臓がんのため亡くなりました。2016年12月4日、新
宿の京王プラザホテルで行われた、荻窪病院の花房秀次先生お別れの会の後、
膵臓がんと診断されたばかりの洪ちゃんと、AIDS文化フォーラム in 横浜、
AIDS文化フォーラム in 陸前高田の仲間と飲みながら手術に向けて頑張ろう
と決起集会をしてから1年余り。その後もLINEや電話で毎日のように、それ
こそ一日に何度もやり取りをしながら、常に前向きに病気と闘ってくれてい
ました。2018年5月のAIDS文化フォーラム in 佐賀、そして8月のAIDS文化
フォーラム in 横浜にでることを目指し続けていました。
 頑張っていたとはいえ、お見舞いに来てくれる人がそれなりにいたとはい
え、いろんな心配事があったことは間違いありません。最後の方は検査結果
を含め、LINEで一日に何回もやり取りをしていたのですが、会いに行って、
ただ話しているだけで、看護師さんが「ずいぶん元気そうになりましたね」
と言ってくれるぐらい、表情も、顔色もよくなったのは訪ねた私自身が実感
していました。亡くなる数時間前に一緒に撮ってFacebookにアップした写真
も一所懸命笑っているいい顔でした。

●『SOSを消しあう社会を』
 SOSって何なのだろうと思いました。洪ちゃんは確かにSOSを出していたと
思いますが、同時に岩室も「誰か、何とかしてくれ。洪ちゃんを助けてくれ」
という思いでした。でも、それができないこともわかっていました。だから
二人で話して、二人で解決できることは解決し、解決できないことは他の人
に話し、「仕方がないよね」と気が付けば自分を納得させ、SOSをお互いに
消しあっていたように思います。
 SOSを「助けて」というシグナルと思うと、助けるために何ができるのかを
考えてしまいます。しかし、SOSを危機的な状態と考えると、何ができるかを
考える時間的余裕があるはずがありません。ただただ一緒に話し、気が付け
ば気持ちが少しは癒されている。その時間をやり過ごしているのでいいんだと、
洪ちゃんが改めて教えてくれていました。治らない病を抱えても、人はその
一瞬一瞬を生きています。だからこそ、SOSを出さなければならない危機的な
状況になった時、一人ではなく、一人でも多くの人とその状況を共有するこ
とが求められています。それも会った上で、「話す」というコミュニケー
ションで。
 広辞苑によると、「コミュニケーション=社会生活を営む人間の間に行わ
れる知覚・感情・思考の伝達。言語・記号その他視覚・聴覚に訴える各種の
ものを媒介とする」とあります。SNSは単に言語・記号を媒介とした視覚に
訴えるものでしかありません。知覚・感情の伝達のためには、相手と会って、
お互いの表情や声、声のトーンを通して視覚・聴覚に訴えあうことが大事な
ようです。もっと顔を突き合わせて、おしゃべりをしましょう。スマホの電
源を切って。
 
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☆岩室先生宛の質問も t.watanabe49@gmail.com 受け付けています。 
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