紳也特急

紳也特急 vol,179


カテゴリー: 2014年07月01日
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 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を 
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!  
  
性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を 
                                         専門家の立場から鋭く解説。 
                    Shinya Express (毎月1日発行) 

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~今月のテーマ『高齢者の包茎問題』~ 

○『思いが大事』
●『ご返事は』 
○『老人ホームに入るために手術?』 
●『包茎の清潔が確保できない人たち』 
○『剥かれる屈辱』
●『理屈より習慣に』
○『手術費用』 
●『若い人と異なる手術方法?』 
○『たかが包茎、されど包茎』

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○『思いが大事』
 今年の12月に大阪で開催される日本エイズ学会に久しぶりに演題を出しま
した。
 「認知症合併例の地域包括ケアシステムの構築を可能とした要因の検討」
 タイトルは仰々しいのですが、要は「HIVに感染している人が認知症になっ
てもちゃんといろんな人に支えられ、その人らしい生活ができるようになっ
ている地域がありますよ」というメッセージを発信したいだけのことです。
でも、言うは易しで、実は本当に思いのある人たちと出会わなければこのよ
うなことは実現しませんでした。
 HIVに感染している人でも年齢と共に認知症になる人も当然のことのように
いらっしゃいます。家で家族が対応できている間はご本人にとってもそれが
一番いいでしょうが、徘徊するようになったり、家族のことも分からなくなっ
たりしてしまうとやはり施設に入るという選択肢にならざるを得ない場合が
あります。幸い、その方を受け入れてくださる施設は見つかったのですが、
慣れない環境のせいか、入所してから身体的に精神的にも状態が悪くなりま
した。そのため精神科の病院に転院させてもらい、おかげさまで元気になら
れました。転院できたことにも感謝していますが、何より転院後が本当にあ
りがたかったです。施設の方が、「〇〇さんはいつまで精神科病院にいらっ
しゃるのですか。早く帰って来られるといいですね」と言ってくださいまし
た。
 退院が決まった時に施設の方に思わず次のようなメールを打っていました。

 失礼な言い方ですが、いろんなことが普通な形で進んでいるのが本当にあ
りがたいです。 いま、毎月岩手県陸前高田市にお邪魔していますが、そこの
戸羽市長が常々「ノーマライゼーションという言葉がいらないまちづくり」と
おっしゃっていますが、皆さんの〇〇さんへの対応を見ていると、まさしく
そうだなと思っています。
 いつだったでしょうか職員の方が「〇〇さんを病院にいつまでも入れてお
くのは・・・」とおっしゃっていたことが今でも忘れられません。そしてそ
のお気持ちを受けるかのように今回そちらに戻れるというのは出来過ぎたス
トーリーのように思えてなりません。本当にありがとうございます。

●『ご返事は』 
 普通のことと思っていますが、そのように思っていただいて、恐縮です。
ありがとうございます。

 ノーマライゼーションという言葉がいらないというのはこういうことな
んだと思いました。
 一方で、高齢者を取り巻く社会にはいろんな問題が次から次へと出てきて
います。先日、週刊現代で「高齢者の包茎手術について」取材を受けました。
取材を受ける前は「新たな被害者続出」と思っていましたが、実際に高齢者の
包茎問題を考えると、そう単純ではないことに気づかされました。そこで今月
のテーマを「高齢者の包茎問題」としました。

『高齢者の包茎問題』

○『老人ホームに入るために手術?』 
 記者の方から「老人ホームに入るために包茎の手術を受ける高齢者の方が増
えているとのことですが、安全な手術の受け方についての取材を受けてもらえ
ますか」という連絡を受けた時、思わず耳を疑い、同僚の先生たちにそのよう
な話を聞いたことがあるかを聞いていました。もちろんそんなことは聞いたこ
とがないという同僚たちの話でした。そこでネットで「老人ホーム 包茎手術」
で検索してみると変なサイトもありました。その一方で介護現場からすると包
茎の手術を受けた男性の方が介護しやすいこともあるという現実に気づかされ
ました。

●『包茎の清潔が確保できない人たち』 
 よく包茎の手術を勧める広告に「包茎は不潔だ」と書かれているのに対して、
「このような広告に騙されるな」という思いから「自分でちゃんと向いて洗っ
ていれば問題なし」と断じていました。しかし、それは自分の手が使え、かつ
清潔が大事と思える人たちの場合でした。整形外科病棟などに入院している、
骨折で両手が使えない寝たきりの男性のペニスの清潔を保つため、看護師さん
などが体を清拭する際には、包皮を翻転し、包皮内を清潔にするのが常識です。
介護現場でも寝たきりの人であればそのようにしなければ包皮内で炎症を起こ
し、亀頭包皮炎になり、場合によっては排尿ができないほど包皮口が狭くなる
というケースもあります。
 しかし、両手に障がいを抱え、自分で包皮をむいて包皮内を清潔にできない
人はどうすればいいのでしょうか。認知症になって「おちんちんは剥いて洗わ
なければ不潔になる」ということさえも認識できず、包皮がかぶったまま不潔
にしたままの人のペニスの清潔は誰が担保するのでしょうか。認知症であって
も自分の性器を他人が触ることに対して拒否感があれば、触られることを拒否
して結果的に不潔による後遺症で苦しむことも考えられます。
 実はそのような人も亀頭部が常に露出している状態にしてあれば、亀頭部は
下着に触れて擦れるため、それだけである程度清潔が保たれます。そう考える
と認知症の人の包茎手術はご本人の清潔や健康を考えるとあながち間違った対
応とは言えないのかもしれません。

○『剥かれる屈辱』
 一方で、認知症ではないものの、けがや障がい、脳卒中などの後遺症のため、
自分自身で包皮をむいて包皮内の清潔を保てない人もいます。その人たちは結
局のところ誰かに包皮を剥いて包皮内を清潔にしてもらう必要があります。も
ちろんいわゆるムケちんの人も亀頭部を含め、ペニスの清潔を保つ必要があり
ますので、誰かにペニスの清拭をお願いしなければなりません。ただ、「包茎」
と「ムケちん」では清拭をお願いするにしてもそのことに対する抵抗感が異な
ります。
 女性はぴんと来ないでしょうが、男性であれば自分自身がケアされるときに
「包茎」だった場合と、「ムケちん」の場合でどのような意識の差になると思
いますか。もちろん「ムケちん」でも日頃は他人に触られることがないペニス
を触られることには抵抗があるでしょうが、「包茎」の場合は単に触られるだ
けではなく、「剥かれる」という操作が入ります。このことに対する抵抗感、
屈辱感が生まれる人がいてもおかしくありません。

●『理屈より習慣に』
 他人が包皮を剥くことへの抵抗感は、お母さんたちにおちんちんのムキムキ
体操を指導しているときにも感じます。お母さん自身は「お子さんの清潔のた
めですよ」というこちらの指導を素直に受け止め、当たり前のこととして「剥
いて、洗って、また戻す」をしてくださります。しかし、「息子といえども、
男のペニスを女が剥くなんてとんでもない」といった抵抗を示す大人(祖父母
など)が少なくありません。それほど「包皮を剥く」ということが「性器をい
じる」という抵抗感につながるようです。その際に「理屈」で攻めてもだめな
ようで、「知るより慣れろ」、「理屈より習慣に」という対処の方がいいよう
です。もっとも大人になってからはそう簡単には変われませんよね。

○『手術費用』 
 包茎の手術を受ける場合、手術費用が大きなネックになります。亀頭部が全
く露出できない真性包茎であれば保険診療が認められており、3割負担で済みま
す。しかし、自分でむけば亀頭部を露出できる仮性包茎の場合は自由診療の対
象となり、それこそ何十万円請求されても仕方がありませんので、事前にいく
らぐらいかかるかを確認しておく必要があります。ただ、包茎の手術は泌尿器
科医にとっては基本中の基本でもあり、美容外科などに行かなくても、総合病
院の泌尿器科や泌尿器科の開業医さんでもやってくれます。そこであればおそ
らく常識的な範囲内で10万円前後と思われます。

●『若い人と異なる手術方法?』 
 包茎の手術を受ける場合、何のために、手術を受けた結果、手術前と何がど
う変わって欲しいかをしっかり考えておく必要があります。もし、「亀頭部が
常時露出している状態にしたい」と思っている場合は、ペニスの膨張率、特に
非勃起時と勃起時のペニスの全長の変化を検証しておく必要があります。膨張
率、伸縮率が大きい人の場合は包皮を切除しすぎると勃起時に突っ張って痛み
を覚える場合があります。逆に勃起時に合わせた切除を行うと、「包茎切って
もまだ包茎」ということもあり得ます。
 上記のことは実際には若い人と高齢者の場合で判断が異なります。若い人と
高齢者の場合は究極の目的だけではなく、勃起力、勃起の回数、性行為に対す
る期待度が異なるため、手術で得られる結果に対する評価が異なります。高齢
者の場合は勃起時につっぱってもいいから、日常的にはむけっぱなしになった
方がいいということもありますので、そのようになる手術方法を選択すること
もあながち間違いとは言えません。しかし、若い人では「突っ張ってセックス
が苦痛になった」というのはよく聞く話です。

○『たかが包茎、されど包茎』
 包茎について真剣に考え、対応してきたつもりでしたが、まだまだ甘かった
と言わざるを得ません。若い人たちの想像力が低下していると文句を言う前に、
自分自身の足元を今一度見つめなおす必要があると反省させられました。
 たかが包茎、されど包茎ですね。


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