紳也特急

紳也特急 vol,178


カテゴリー: 2014年06月01日
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 ■■■■■■■■■■■  紳也特急 vol,178 ■■■■■■■■■■ 

 全国で年間200回以上の講演、HIV/AIDSや泌尿器科の診療、HPからの相談を 
        精力的に行う岩室紳也医師の思いを込めたメールニュース!  
  
性やエイズ教育にとどまらない社会が直面する課題を 
                                         専門家の立場から鋭く解説。 
                    Shinya Express (毎月1日発行) 

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~今月のテーマ『「予防」って何?』~ 

○『男子の感想』
●『医者が一番「予防」がわかっていない』 
○『手術によって治療』 
●『保存的に治療』 
○『「予防」という発想が生まれない理由』
●『「予防」という幻想』』

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○『男子の感想』

 質問の際にみんなが言っていたことがあまりよくわからなかった。
(高校生男子)

 30才までセックスをしなかったら魔法使いになれるって本当ですか?
(高校生男子)

 レイプは良くないことだと分かった。
(高校生男子)

 自分はSEXに対する執着はあまりありません。そういうのはパソコンなどで
十分。彼女とかに求めるのは何となく違う気がしているのです。決して性行
動が嫌いなのではなく、興味はあるのですが、いざ自分がするのかと思うと
別に必ずしもする必要とは思えません。先生はどのように私の考えを見ます
か?(大学生男子)

 男子の感想文を読んでいると、おふざけからちょっと深刻なのまでいろい
ろですが、とにかく男子向けの性教育が必要と思っていた時に村瀬幸浩先生
が「男子の性教育」(大修館書店)を出版されたり、東山書房に「養護教諭
のための教育実践に役立つQ&A集V」の中で「思春期男子に必要な性教育の
知識を教えてください」という原稿依頼を受けたり、日本家族計画協会の研
修で「『おちんちん』はどうなっているの?」の話をしたりする機会をいた
だきました。改めて男子のトラブルの予防を考えてみると実は「予防」とい
う考え方は非常に高度な、幻想に近いことで、「予防」と口にしながら、じ
つは「予防」が理解できていない人たちが多数存在するということに気付か
されました。
 そこで今月のテーマを「『予防』って何?」としました。

『「予防」って何?』

●『医者が一番「予防」がわかっていない』 
 「おちんちん」の講演をするに当たって、改めて子どもの包茎の手術が必
要か否かの座談会での議論を振り返って唖然としてしまいました。Urology 
Review Vol.3、 No.2、 p124-135、 2005に掲載された私ともう一人の先生
のディベート「包茎の治療 保存的に治療するか、手術で治療するか」を読
んだ後の読者の投票結果は「手術71%」、「保存的29%」でした。まとめを
してくださった東北大学の荒井教授は「両ディベーターともに原則的には保
存的治療と述べている(中略)。しかし、実際の診療現場でどのように対処
するかと言う現実的対応になったときに意見が分かれるという面がありそう
である。あくまでも保存的治療を行う場合、強い信念とそのための十分な時
間、スタッフ・家族との連携が不可欠であろう。それを抜きにしては患児や
家族のトラウマを大きくすることになりかねない。(中略)一方、手術では
標準的な基準が確立されていない。時に医師や家族の都合などで適応が決定
されてはいないか、という懸念が残る。当然、手術にもトラウマという問題
がある。(中略)あらためてガイドラインの必要性を痛感する。」と上手に
まとめてくださいましたが、「手術によって」と「保存的」と意見をくだ
さった内容が正直びっくりでした。

○『手術によって治療』
☆十分な外来時間と子供本人、親の熱意があれば保存的のみの治療は可能だ
が、実際の診療においては不可能です。

☆繰り返す亀頭包皮炎、嵌頓包茎に対して早急に手術をすることにしていま
す。症状がなければ余計なことをしない方がよいと考えています。

☆包茎だけに時間かけることができず、また、何回も炎症を起こしたり硬く
なった場合、保存的にみていくことは親の同意を得ることが難しい。

☆疼痛を伴う場合翻転指導は患児の精神的苦痛が大きく、診察室で無麻酔で
行うべき処置ではないと考えます。軟膏などを使用しても翻転が不可能なら、
全身麻酔下で、翻転操作や手術を行い、患児や家族のトラウマを避けるのが
一番だと思います。

☆最初から手術を勧めるのは稀ですが、翻転指導をしてもうまくできなくて、
結局手術を希望する場合が多いと感じます。インフォームドコンセントを行
い、時期を待てること(両親の都合に合わせることができること)を説明す
ると、家族が安心して手術を受け入れてくれます。

☆長期にわたる時間と苦痛(?)をかけて手術をしない理由が私には見出せ
ず、実際の臨床でも困難かと思います。

●『保存的に治療』
☆具体的な翻転指導法は参考になった。以前より保存療法に強い信念と実績
を持ち、論旨が明確な岩室先生を支持する。

☆保存的に賛成だが亀頭包皮炎などを起こさない限り、いっさい手を加えな
いという選択肢もあると思う。

☆亀頭包皮炎は抗生剤で、BXO・絞扼輪が長く強い場合はステロイド軟膏など
によって保存的にうまくいくことが多い。(BXO:炎症などで包皮口が固く
なっているような状態)

☆先端のみ露出できれば十分清潔することができ、亀頭部分すべてを翻転す
る必要はないと思うが、手術するまでもないと考える。医療者間で治療の考
え方が異なるが、ガイドラインなどで治療者間での考え方の標準化が望まれる。

☆当科の手術統計を調べたら過去5年以上小児包茎手術はゼロであり、実際
にも保存療法を行っていたので保存療法に軍配を上げたい。また、岩室先生
が「されど包茎」治療について医療機関別役割分担を述べていたのには同感
である。

○『「予防」という発想が生まれない理由』
 「何のため」ではなく、「忙しいし割が合わないから手術」というのはあま
りにも短絡的だと思いませんか。一方で「亀頭包皮炎を起こさない限り、いっ
さい手を加えないという選択肢もあると思う」と述べている先生がどうして
「亀頭包皮炎を予防する」ためにできることは何かという発想にならないので
しょう。これは「正解はこれです。なぜならこういうことだからです。」とい
う日本式教育の弊害です。
 医者は「病名」を覚え、「病因」を明らかにし、「治療方法」を持っていれ
ば医療、診療行為が提供できます。包皮の中に細菌が入り込み炎症を起こす亀
頭包皮炎に対しては抗生物質の内服や軟膏塗布で治療することになっています
のでそのことを知っていれば診療上は何の問題もなく患者さんを治すことがで
きます。しかし、医療と違って予防は大変複雑なプロセスを頭の中に思い浮か
べ、そのことへの対処方法を考えなければなりません。
 そもそも包皮の中に細菌が入る環境とはどのようなことでしょうか。「ミミ
ズにションベンをかけるとちんちんが腫れる」というのは多くの人が聞いたこ
とがあると思いますが、これは本当でしょうか、単なる迷信でしょうか。実は
これは本当のことです。
 
 ミミズにションベンをかけるのは子ども、それも男の子

    ↓

 小さい男の子のほとんどは包茎

    ↓

 おちんちんをむいておしっこをしなければミミズを狙っても命中しない

    ↓

 上手く命中しないとミミズをほじくり出す時に
  汚れた手でおちんちんを触り細菌が包皮内に

    ↓

 細菌が繁殖し亀頭包皮炎になる

    ↓

 包皮をむいて排尿すれば最初からミミズに当たり、
  風呂で包皮をむいて洗えば亀頭包皮炎は予防可能

 
 このように迷信と思われていたことを科学的に検証するとミミズにションベン
をかけても亀頭包皮炎にならないように予防するにはどうすればいいかがわかり
ます。
 一方で「ミミズにションベン」と「亀頭包皮炎」の関連を連想することは至難
の業のようです。考えることを放棄した人は「そんなの迷信」で片づけていない
でしょうか。どうしてそうなってしまうのかと考えてみるとそもそもどの教科書
にも、「包皮内に細菌が入って繁殖すると亀頭包皮炎を起こします」とは書いて
あっても、「包皮内に細菌が入ってもむいて洗い流せば亀頭包皮炎を予防するこ
とができます」とは書かれていません。さらに言えば人は経験をしないことは自
分事になりません。中高の教科書に「コンドームは性感染症の予防に有効です」
と書かれていても、実際に性感染症にならないと実感を持って予防するというこ
とにはなりません。

●『「予防」という幻想』
 臨床の先生たちが「亀頭包皮炎の予防」というごくシンプルな発想にさえなれ
ないのを改めて振り返ることで、実はそもそも「予防」という発想はわかりやす
いものの、実際には非常に高度な思考パターンだということに気付かされました。
 先日、「エイズ動向委員会が2013年の1年間に新たに報告されたエイズウイル
ス(HIV)感染者とエイズ発症患者数の確定値を発表し、感染者、患者合わせ計
1,590人で、5年ぶりに過去最多を更新した。」と報道されました。脅しが一番と
思っている人が報道するとこうなるようですが、HIV感染者とエイズ発症者はそ
もそも感染時期にずれもありますし、両者を丁寧に分けてみると、実は両方とも
ほぼ横ばいの状況が続いています。
 http://homepage2.nifty.com/iwamuro/kennketu.htm
 予防ということをPRしたいのであれば、なぜMSM、同性間性的接触で横ばいの
状況が生まれているのかをもっとPRすべきではないでしょうか。私は居場所づく
りが進んでいるのが大きいと考えていますが、エビデンスはありません。「そん
なの意味なし」と切り捨てる人もいるでしょうが、では「エビデンスのある予防
の実践」を一つでも教えてくださいと反論したくなります。そうなのです。「エ
ビデンスのある予防の実践」はないのです。だから「予防」というのは幻想なの
かもしれません。


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