農業文化マガジン『電子耕』

『電子耕』No.409-2018.12.29号

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隔週刊「農業文化マガジン『電子耕』」 第409号
-環境・農業・食べ物など情報の交流誌-
2018.12.29(土)発行 山崎農業研究所&編集同人
<キーワード>
環境・農業・健康・食べ物などの情報提供、高齢者と若者、農村と都市の
交流ミニコミ誌。山崎農業研究所&『電子耕』編集同人が編集・発行。
http://www.yamazaki-i.org

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2018年もあとわずか。みなさんにとってどんな1年だったでしょうか。
今年は西日本豪雨や度重なる台風上陸、そして大阪や北海道での地震など自然
災害の多さが際立つ年でした。東日本大震災や熊本地震などからの復興も道半
ばであるわけですが、被災地のみなさまはじめ、読者の方々が安心して暮らせ
る2019年になることを心からお祈り申し上げます。

 

□ 目 次 □----------------------------------------------------
<巻頭言> 
“農業”の二面性―本当の姿―を見つめた取り組みをしよう 塩谷哲夫
<お知らせ> 山崎農業研究所所報『耕 No.144』内容案内
<会員著書案内>
 安富六郎著『武蔵野・江戸を潤した多摩川――多摩川・上水徒歩思考』
<編集後記> 「関係性」から世界をみる
――ステファーノ・バルトリーニ著、中野佳裕訳
『幸せのマニフェスト――消費社会から関係の豊かな社会へ』
(コモンズ、2018年)

 

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<巻頭言> “農業”の二面性―本当の姿―を見つめた取り組みをしよう
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 今、農業高校の1年生のための教科書『農業と環境』作りで悩んでいる。昨
年、文科省による高校教育に関する「指導要領」の改訂があって、まったく新
版の教科書をつくらなければならなくなった。入りたての素直な高校生が学ぶ
のだからと思って、今までついつい“農業の良さ”を強調してきたが、いろい
ろ考えてみて、正直なところ、日本の農業の現実、そして、世界の潮流の難し
さについて触れざるを得ないと思った。

 

 農業のおかれている社会環境について、【考えてみよう】、【話し合ってみ
よう】として、こんな問題を提起した。

 

 「私たちは、農業の社会におけるあり方についても沢山の課題を抱えている。
たとえば、日本では、国産の食糧自給率が38%しかなく、国土の約13%を占め
る耕地の利用率が低下し、不耕作地が増加して行くのに、農業の担い手が高齢
化などのために減少していること、そして国土の約66%と最大の面積率を占め
る山林が有効に利用されていないことである。
 さらに、農業をめぐって、世界的にも、複眼的なとらえ方が提起されている。
たとえば、農業は二酸化炭素の固定や生物多様性の維持など、地球の環境保全
にとってプラスの役割を果たす一方、同じことが環境破壊的なマイナスの影響
を及ぼすことがあるなどである。」

 

 そして、「農業は生息する生物相を変化させ、生物多様性を維持もすれば、
減少させることもある。また、二酸化炭素の固定や残渣・糞尿の排出有機物の
循環利用による炭素の土中への埋設など、地球環境にとってのプラスの役割を
果たす一方、排出する化学物質や地球温暖化をもたらす土壌からの窒素化合物
やウシの吐き出すメタンなどの気体など、外部の環境にマイナスの影響を及ぼ
してもいる。だから、プラスを活かし、マイナスを減らす環境保全型の農業を
考え、実践できるようにしなければならない。」と。

 

 結びは…「これらの問題について、次代を担う生徒の皆さんに、是非とも考
えてもらいたい。」としようと思ったが…考え、話し合って、次の世代へ、
“美しいブループラネット地球”を残さなければならないのは、我々の世代で
はないのか?! 若者任せでは…虫が良すぎる!

 

 国連は、2015年に、「小さな」地球の環境を守りながら、その範囲内で積極
的な開発を進め、90億人が暮らす「大きな」人類社会がめざす食と生活の豊か
さを満たすことが必要であるとして、「持続可能な開発のための2030アジェン
ダ」(SDGs)を採択している。

 

 小さくともよいから、私たちも、その具体化のための取り組みをできるとこ
ろから進めていこうではないか。

 

塩谷哲夫
山崎農業研究所所幹事
yamazaki@yamazaki-i.org

 

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<お知らせ> 山崎農業研究所所報『耕 No.144』内容案内
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山崎農業研究所所報『耕 No.144』の内容を紹介いたします。
ご希望の方には雑誌を頒布いたします。
yamazaki@yamazaki-i.org
までご連絡ください。

 

《土と太陽と》(巻頭言)
Good Agricultural Production=GAPで日本農業は変わるか◎岩元明久

 

[第159回定例研究会]農福連携にみる「農」の可能性
I  農福連携の広まる背景と動向◎濱田健司
II ノーマライゼーションから農マライゼーションへ◎石田周一

 

[特別寄稿]
農作業の手伝いから地域農業の担い手へ◎吉田行郷
福祉施設の小規模な作業から農福連携を考える◎井尻吉門
農福一体―すべての人のためのソーシャルファーミング◎新井利昌
富士山麓の恵まれた自然環境を活用した
農業による就労支援の取組み◎高橋 智
イタリアの社会的農業―ヴァルデーラ連合区の事例から◎中野美季

 

〈連載〉

“生きもの語り”の世界から(15)経験の知の再発見/宇根 豊

 

〈農村定点観測〉
農業法人の今後に楽しみながら迷う/福島県・大河原 海
小農学会に参加して/栃木県・小林俊夫
生産者の熱意で育てられた「越の丸なす」◎新潟県・吉原勝廣

 

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<会員著書案内>
 安富六郎著『武蔵野・江戸を潤した多摩川──多摩川・上水徒歩思考』
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安富六郎著『武蔵野・江戸を潤した多摩川──多摩川・上水徒歩思考』
農文協、199ページ、定価1700円〈税別〉)
http://www.amazon.co.jp/dp/4540142631
※山崎農研HPに関連記事を掲載しています。

玉川上水の奇跡「ひとくい川」(第3話)連載  安富六郎 著
http://www.yamazaki-i.org/img/Hitokui_No3.pdf 第3話
http://www.yamazaki-i.org/img/Hitokui_No2.pdf 第2話
http://www.yamazaki-i.org/img/Hitokui_No1.pdf 第1話

 

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<編集後記>「関係性」から世界をみる
――ステファーノ・バルトリーニ著、中野佳裕訳
『幸せのマニフェスト――消費社会から関係の豊かな社会へ』
(コモンズ、2018年)
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9月から10月にかけて、イタリアの経済学者、ステファーノ・バルトリーニの
来日講演を続けて聞く機会を得た。今回の来日は『幸せのマニフェスト――消
費社会から関係の豊かな社会へ』の日本版発刊とあわせてのものだ。

 

『幸せのマニフェスト』のテーマは、経済的繁栄が幸福をもたらさないという
「幸福の逆説」である。バルトリーニはその鍵となるのが「防御的経済成長」
だという。防御的経済成長は3つの仮説にもとづく。

 

(1)社会には、市場で購入できないが幸せな生活にとって非常に重要なもの、
つまり、自由材や無償の消費財と呼ばれるものが存在する。
(2)経済は、自由材に対して費用のかかる代替物(商品)を供給する。
(3)経済成長は自由材の利用可能性を減らす。

 

一見難しいようなことを言っているようにみえるが、こんな例がひかれている。
たとえば、自然環境が悪化すると人々は旅行に支出する傾向にある、とか、治
安がよくない街に暮らす人々は自宅でビデオを見たりやゲームをして過ごすた
めの出費が増える、とか、職場での過酷な労働環境による精神疾患のために通
院する機会がふえる、とか。

 

これらの支出はすべて経済成長としてカウントされる。社会の負の側面を補う
ための支出が増大することで成長するのが、防御的経済成長であるといっても
よいだろうし、そうであるならば、経済成長によって幸福度が増すと言えない
というのも納得がいく。

 

とともに、こうした防御的経済成長は、自然との関係の悪化、近隣住民との関
係の悪化、職場での人間関係の悪化といった「関係性の悪化」と結びついてい
ることにも注目しなくてはならない。いや、「関係性の悪化」が「防御的経済
成長」をもたらし、それがさらなる「関係性の悪化」を生み出し…。といった
ほうが正確だろう。そういった意味では、本書のいちばんのキーワードは「関
係性」といえるだろう。

 

バルトリーニは本書でアメリカを例に解説をしている。アメリカでは平均所得
は高い成長を記録しているが、「とても幸せだ」と答える人の数は減少し続け
ているのだという。またアメリカでは、労働管理、警察、警備会社、監獄、軍
人など「監視的労働」に従事する労働者が20%以上にのぼるという。その背景
にあるのは「関係性の悪化」であり、そしてこの領域の拡大は「防御的経済成
長」につながるのである。

 

ところで先日、哲学者の内山節さんが貧困問題に関するコメントとして、こん
なふうに話していた。

 

「スウェーデンでは高税率社会と言われる。それでも成り立っている理由のひ
とつに、良好な自然が身近なところにあるということがあると思います。それ
は身近なところに楽しみの場があるということですね」

 

「僕が一年の三分の一くらい過ごす上野村は経済的には貧しいとされるのだけ
れども、生活に困っている人はいない。それは身近に良好な自然があるから。
楽しみの場があるから。これが都会暮らしだと、遊びに行こうと思ってもお金
がなくてはできないわけで」

 

スウェーデンでも上野村も、その暮らしの根底を支えているのは良好な自然と
の関係だというのだ。そして「“関係性”はいまの社会を批判的にとらえる人
びとの間では、共通したキーワードになっていますね」とも語っていた。

 

たしかに、さまざまな国際問題も、自然災害の問題も、経済格差の問題も、
「関係性」という言葉をつうじてみてみると、その問題の所在やアプローチの
仕方がすっと見えてくるような気がする。2018年を振り返り、そして来る2019
年を展望するには、本書は最良の一冊である。

 

ステファーノ・バルトリーニ著、中野佳裕訳
『幸せのマニフェスト──消費社会から関係の豊かな社会へ』
出版社:コモンズ
ISBN: 978-4861871528
発売日: 2018/8/1
http://www.commonsonline.co.jp/books/books2018/201808shiawase.html
www.amazon.co.jp/dp/4861871522

 

2018年12月30日
山崎農業研究所会員・田口 均
yamazaki@yamazaki-i.org

 

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山崎農業研究所編・発行/農山漁村文化協会発売
『自給再考──グローバリゼーションの次は何か』
(発売:2008/11 定価:1、575円 )
http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_4540082955/
たくさんの書評・紹介記事をいただいています。感謝・感謝です。
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◎辻信一さん(文化人類学者、ナマケモノ倶楽部世話人。明治学院大学教授)
グローバルの次は何? ~卒業するゼミ生諸君へ
http://www.sloth.gr.jp/tsuji/library/column64.html
◎戎谷徹也さん(大地を守る会)
ブログ:大地を守る会のエビちゃん日記 “あんしんはしんどい”
「自給率」の前に、「自給」の意味を
http://www.daichi.or.jp/blog/ebichan/2008/12/16/
◎吉田太郎さん(長野県農業大学校教授、執筆者)
キューバ有機農業ブログ 自給再考の本が出ました
http://pub.ne.jp/cubaorganic/?entry_id=1822182
◎関良基さん(拓殖大学政経学部)
ブログ:代替案 書評:『自給再考 -グローバリゼーションの次は何か』
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/cb22650fa39384bdd22b61440fa81fa0
◎大内正伸さん(イラストレーター・ライター)
ブログ:囲炉裏暖炉のある家 tortoise+lotus studio「書評『自給再考』
http://iroridanro.net/?p=15533
◎ブログ:本に溺れたい グローバリゼーションの次は何か
http://renqing.cocolog-nifty.com/bookjunkie/2009/01/post-841e.html
◎森川辰夫さん
NPO法人 農と人とくらし研究センター/資料情報
http://www.rircl.jp/shiryo.htm
◎日本農業新聞/書評
(2009/01/19 評者:日本農業新聞編集委員 山田優)
http://yamazaki-i.org/
(画面トップの「書評はこちらから」よりアクセス下さい)
◎小谷敏さん(大妻女子大学)
日本海新聞コラム「潮流」/「自給」の方へ(2009/01/31)
http://blog.goo.ne.jp/binbin1956/e/c895f6619b30ba7725e264b4daa75219
◎白崎一裕さん((株)共に生きるために)
月刊とちぎVネットボランティア情報vol.158/しみん文庫
http://yamazaki-i.org/
(画面トップの「書評はこちらから」よりアクセス下さい)
◎塩見直紀さん(半農半X研究所、執筆者)
ブログ:半農半Xという生き方~スローレボリューションでいこう!
立国集。
http://plaza.rakuten.co.jp/simpleandmission/diary/200812270000/

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1、件名(見出し)を必ず書いて下さい。「はじめまして」は省略して、言い
たいことを具体的に。
2、氏名・ハンドルネームは、文末ではなく始めのほうに。
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5、JIS X0208 規格外の文字(機種依存文字)のチェックを。
http://www.csj.jp/learned-society/check/new_but/jisx0208-sjis.html
インターネットで使えない丸数字や半角カタカナ、括弧入り略号などは文字化
けの原因です。

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次回 410号の締め切りは01月15日、発行は01月17日の予定です。

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発行周期: 隔週刊 最新号:  2018/12/30 部数:  685部

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