農業文化マガジン『電子耕』

『電子耕』No.247-2008.11.14号

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隔週刊「農業文化マガジン『電子耕』」  第247号
−環境・農業・食べ物など情報の交流誌−
2008.11.14(金)発行      山崎農業研究所&編集同人
<キーワード>
環境・農業・健康・食べ物などの情報提供、高齢者と若者、農村と都市の
交流ミニコミ誌。山崎農業研究所&『電子耕』編集同人が編集・発行。
http://www.yamazaki-i.org
*************************************発行部数  1234  部***************
□  目  次    □----------------------------------------------------
<巻頭言>
市場原理スタンダード、アメリカンスタンダードに未来はない 小泉浩郎
<83歳からのメッセージ> 中国人初の芥川賞受賞作
             楊逸(ヤンイー)著 『時が滲む朝』 原田 勉
<編集後記> ニンジンの葉を食す
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<巻頭言> 市場原理スタンダード、アメリカンスタンダードに未来はない
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 このところ中国餃子、事故(汚染)米等食の安全・安心を脅かす事件が相次
いで起こった。にわかに、先進諸国中最低の食料自給率(39%)が話題となり、
国は、食料自給率目標50%を掲げ、国産農産物の消費拡大をテーマとした「食
料自給率向上に向けた国民運動」を展開している(08/10)。

 だが、付け焼刃的な国産農産物愛用運動で問題は解決するのか。市場原理を
スタンダードとするグローバリゼーションの進行で山野が荒れ農業が後退し、
競争社会の結果、社会における信頼の欠如と弱者切り捨ての現状こそ問題では
ないか。

 みどりと水、農地と食べ物は、かけがえのない地域資源の循環利用と再生産
の産物であり、食べ物の安心・安全は、社会の相互信頼を基本に成り立つ。問
うべきは、足し算・割り算の「自給率」ではなく、「自給」そのものではない
か。

 そうした問題意識から、山崎農業研究所では『自給再考――グロバリゼーシ
ョンの次は何か』を出版することにした。

 「自給」をキーワードとし、「自然と農と食そして暮らし」をめぐる循環と
信頼の回復を主題に、市場原理スタンダード、アメリカンスタンダードを批判
的に問い、世界に共通する新しい価値観=もうひとつのグローバルスタンダー
ドを生み出そう――というのが本書のスタンスである。

 電子耕読者諸賢にはぜひとも手にとっていただきたい。

  山崎農業研究所編『自給再考――グロバリゼーションの次は何か』
  176頁 四六版 定価(1,500円+税)
  ISBN978-4-540-08295-5
  12月上旬発行
  発行=山崎農業研究所
  http://www.yamazaki-i.org/
  発売=農山漁村文化協会
  http://www.ruralnet.or.jp/

《目次より》
◎世界の「食料危機」
 ――その背景と日本農業にとっての意味 西川 潤
◎貿易の論理 自給の論理 関 曠野
◎ポスト石油時代の食料自給を考える
 ――人類史の視点から 吉田太郎
◎自然と結びあう農業を社会の基礎に取り戻したい
 ――自給論の時代的原点について考える 中島紀一
◎「自給」は原理主義でありたい 宇根 豊
◎自給する家族・農家・村は問う 結城登美雄
◎自創自給の山里から 栗田和則
◎ライフスタイルとしての自給
 ――半農半Xという生き方と農的感性と 塩見直紀
◎食べ方が変われば自給も変わる
 ――自給率向上も考えた「賢い消費」のススメ 山本和子
◎輪(循環)の再生と和(信頼)の回復 小泉浩郎

小泉浩郎
山崎農研事務局長
yamazaki@yamazaki-i.org

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<83歳からのメッセージ> 中国人初の芥川賞受賞作
             楊逸(ヤンイー)著 『時が滲む朝』
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 天安門事件は私にとっても忘れがたい大事件である。
 一九八九年五月七日から十七日まで、単独で初めて中国に出張し、中国農業
映画社、テレビ局、政府農業部などを訪問、農業映画の打ち合わせや科学出版
『十億人は豊に飽食している』という日中合作の出版契約をしていた。ほぼ終
わった所で十六から十七日天安門広場には毎日、百万の群衆が集まっていた。

 十七日には空港が閉鎖されるとの情報が伝わって、大群衆、自転車の列を避
けながら約四時間かかって北京空港に到着、帰国した。

 その後、北京から逃れ東京に着いたあと、中国人学者や米国人を迎えたり、
ひと騒動があった。

 そして六月四日の天安門事件をテレビ中継で見た。中国に再び暗雲が漂って
いる不安感を感じた。

 
 この本は、天安門事件前夜から北京五輪まで、中国民主化勢力の青春と挫折
の物語である。以下、簡単にあらましを紹介することにする。

 小説の主人公のひとりは、梁浩遠(りょう・こうえん)。

 もともと北京出身の彼の父は新中国建設間もなく北京大学に入って哲学を専
攻していたエリートであったが、「資本家や地主だからと言って悪い人だと決
めつけるのは、弁証法に矛盾する」と発言して一九五〇年の「反右派運動」に
巻き込まれ、大学を卒業する直前に、第一陣の右派として西北の農村、紅旗村
に「下放」された。

 黄土高原のど真ん中にあるこの村は、北京人には想像もできないほど環境の
厳しい農村だった。

 浮き世知らずの学生は、その夜一晩中涙が止まらなかった。翌朝、棚田を作
るため後ろの山に行って、氷片のような風に吹かれ、顔中がヒリヒリして涙で
荒れた痕がくっきり赤く残ってしばらく消えなかった。

 その後、村長に認められて小学校の先生になってくれと頼まれ、二年後に貧
農出身の女性と結婚した。

 子どもの浩遠が小学校に上がる前の年に、父、梁定に更なる吉報が届いた。
東林鎮にある中学の英語教師になってくれということだった。


 梁浩遠は一九八八年めでたく泰都の秦漢大学に入学した。

 学友、謝志強(しゃしきょう:もうひとりの主人公)もできて、共に中国文
学科に学ぶ。

 優れた教師、甘凌洲 (かんりょうしゅう)教授にも巡り会えた。中国も民
主主義が必要で監督する野党がなければ、官僚の腐敗はいつまでも根絶できな
いと言っていた。

 授業では魯迅を取り上げ、筆一本で、アメリカの先進的武器で武装された軍
隊を持つ蒋介石の腐敗政権と戦ってきた。まさに愛国知識人の模範である。

 浩遠は改めて魯迅の短編集を読み返し、苦難の多い我が国や民族などに関し
て考えさせられた。

 市政府広場で甘先生が率い、学生が集会を始め、その中で「五・四運動以来、
中国の革命はいつも我々大学生と知識人が先頭となっている。国を救うのは我
々しかいない。その昔魯迅は医学を止め、文学を選び、筆をもって武器とした。
我々も書生の身で国に何ができるのか? 我が人民に何ができるのかを、今こ
そ考えるべきではないか」と議論した。

 「反貧汚、反腐敗!」のスローガンとともに頭上に数知れない腕が挙がった。


 甘先生は学生リーダーを集め、臨時のミーティングを行っていたが、やがて、
六月三日北京で「装甲部隊が天安門に突入した」と言った。喉の奥に怪獣がい
るような声だった。小さく重く、爆弾よりも強い衝撃だった。みんなは一遍に
目が覚め、むっくり起き上がり甘先生に傍らに集まった。

 「僕らは騙されたんですか?」
 「あの市書記は嘘を言っていたの?」
 「人は死んだ」
 「これからどうなるの?」

 かすかにすすり泣きの声があがり、すぐ部屋中に広まった。浩遠の頭の中は
真っ白になり、頬にやたらと熱い液体が流れて、唇から舌へと滲む。塩の味が
乾ききった舌をヒリヒリさせて、喉に波及していく。甘先生の顔が涙に反映し
て流れて、段々溶けて見えなくなって行く。沈黙の頭の中で頭の奥に「なぜ、
なぜ」という言葉が響きだし、耳に聞こえた。

 「すぐ町に出てデモで抗議しよう」と皆は沸き立ったが、甘先生は大学の周
りは厳重に警備されているから「これから私の許可なく大学の門を一歩も出て
はならない」と断固たる命令がなされ、皆はその命令に頷くしかなかった。


 しばらく後、浩遠と志強と範亮たちは飲み屋に入り議論しているうち他の客
ともみあいになり、大乱闘になった。

 近くの派出所の警察官に事情聴取され、結果は三人とも傷害罪で三ヶ月も拘
留となり、大学から退学処分が下された。


 浩遠は日本国籍を持つ女性と結婚し、一九九二年、日本に行った。
 冬の風が吹き荒れる黄土高原から三時間余り、飛行機を降りると東京は春め
いて、桜の蕾が重たくなる季節だった。

 外国でみる初めての六月四日に日比谷公園で記念集会が行われることを愛読
する中国新聞で知った。

 その日、民主同志会の活動家との集会に参加した。そしてその日浩遠は民主
同志会に入会した。懇親会と称し、民主同志会は毎月第四土曜日の夕方から、
いつもの活動場所で活動する。

 毎回百人余りの在籍する会員の半数以上が出席し、家族連れもいたりしてか
なり感況を誇る。

 会の始まりは、まず袁利が世界の民主主義状勢について説明して、それから
日本支局の幹事 王文によって今後の活動計画を説明、それから自由討論にな
る。

 「香港の中国返還について、今香港は全世界的規模の反対運動が起きている。
我々日本支部局は”香港返還反対、一国両制反対、中国を自由民主国家に”と
いうスローガンで署名運動を中心にやって行こう」

 日本人の名前でも良いので、全世界だから良いと思う、などの意見が出て決
まった。

 浩遠も大雄を引っ張って仲間入りし、活動を続けた。


 一九九六年三月に生まれた第二子、民生に「たみお」とふりがなをつけ、大
安の日を選んだ。浩遠は役所に届けた。

 子どもが寝たあと、中国語ソフト付きのマックのパソコンの猛勉強が始まっ
た。

 こうして、日本での中国人に関することだけでなく中国国内のニュースや、
全世界の中国人の動向なども知ることができた。

 日本人の配偶者だから栗田浩遠にすれば、日本国籍もとれるし、ビザだけじ
ゃなく、アルバイトだって時給が高くなる。

 その後、甘先生がフランスの某大学で研究員をしていることがわかり、連絡
もとれるようになった。

 結局香港は返還され、コンピューターで「在日中国人祝香港返還」と題する
ニュースを見た。

 一九九九年の年末休み浩遠は小学生の桜(第一子・長女)と三歳半の民生を
連れて、妻の梅が店長を務める黄雄餃子館に手伝いに行った。

 浩遠は印刷工場の正社員に昇格し、コンピューター室で仕事するようになっ
た。

 二〇〇一年を迎えようとする十二月三十日、甘先生は日本に泊まって翌日北
京に帰るのだ。

 十一年ぶりに東京で会えるのだから、夜を明かしたいと思い切って甘先生の
ホテルに部屋をとった。(後略)


 苦労しながらも、日本で勉強し、中国民主化を願って活動している姿に頭が
下がる。


<参考文献>
 著者 楊逸(ヤンイー)
 署名 『時が滲む朝』
 発行 文藝春秋 (税込) 1300 円 152ページ
http://www.bunshun.co.jp/book_db/3/27/36/9784163273600.shtml


山崎農業研究所会員・『電子耕』編集同人
原田  勉
tom@nazuna.com
http://nazuna.com/tom/

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<編集後記> ニンジンの葉を食す
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一昨晩の夕食時のこと、カミさんが「これなにかわかる?」と尋ねてきた。目
の前にあるのはかき揚げ。使っている素材が何かわかるかということらしい。

一口食べてみる。小魚が入っていることはわかった。が、合わせてあるものが
よくわからない。「シュンギク?」とたずねると、「はずれ!」とうれしそう
に言う。聞いてみると、ニンジンの葉だそうだ。ニンジンはセリ科の植物だか
ら、葉の香りがいいのは考えてみればありそうな話である。しかし、わたしは
(そしてカミさんも)食べたことはなかった。

家庭菜園をやっている60代の方からニンジンを分けていただいたとき、「こん
なふうにして食べると美味しいですよ」と教えられたらしい。素朴でありなが
ら葉の香りもよく、小魚(ちりめんじゃこ)の旨味と相まって、わたしは一口
でファンになってしまった。

気になってGoogleで「ニンジン 葉 レシピ」で検索すると、なんと30万件以
上がヒットする。

食は深い。

2008年11月13日
山崎農業研究所会員・田口 均
yamazaki@yamazaki-i.org

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