宮沢賢治 Kenji Review

宮沢賢治 Kenji Review 1004


カテゴリー: 2018年05月19日
Kenji Review 1004
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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第1004号--2018.05.19-----
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「春と修羅第三集(2)」「〔聖なる窓〕」

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-〔話題〕---------------------------------------------------
「疲労」「〔道べの粗朶に〕」「蛇踊」
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 今回は1926年の六月の詩三篇です。1926年といえば元号が大正か
ら昭和に変った年ですが、変った月日は12月25日ということなので、
ほとんどが大正15年でした。

 今回の三篇も、農作業の間に書いたもののようです。でも、早く
もお疲れかと思うような内容です。

そっちはさっきするどく斜視し
あるひは嘲けりことばを避けた
陰気な幾十の部落なのに
何がこんなにおろかしく
私の胸を鳴らすのだらう

 どうも近所の農民から、白い眼で見られているようです。しかし
何かが「私の胸を鳴らす」というとおり、このころはまだ希望をな
くしているというわけではなさそうです。

あの雲にでも手をあてゝ
電気をとってやらうかな

とか、

おまへの方で遁げるのか
それではひとつわたしも遁げる

という諧謔ともとれる詩句も健在です。

 でも、その後の結果を知っている私たちからすると、何か痛まし
いものが早くも感じられるというところです。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

宮沢賢治論 下根子時代
     ――農民芸術論の構想と現実    木嶋孝法
https://goo.gl/qhx1bzhttp://www.longtail.co.jp/)


--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

一、道べの粗朶(そだ)に

 一度は採種業をやろうとして、畑つきの住居を探し求めた形跡
(詩「住居」大正十四年十月)もあるのだが、適当なものが見つか
らなかったらしく、大正十五年四月、花巻農学校を退職した賢治は、
花巻の実家から南に二キロメートルほど離れたところにある、下根
子桜の別宅に移り住んだ。この別宅は、賢治の祖父が療養のために
建てたものであったので、畑などあるわけがなく、賢治は土地の開
墾から始めなくてはならなかった。家のまわりと北上川の岸辺、少
し離れた森の中の荒地がそれである。

 ぎっしり生えたち萱の芽だ
 紅くひかって
 仲間同志に影をおとし
 上をあるけば距離のしれない敷物のやうに
 うるうるひろがるち萱の芽だ
   ……水を汲んで砂へかけて……
             (大正十五年五月「水汲み」より)

 詩の言葉の明るさに誘われて、北上川の岸辺の、春のうららかな
光景を想像してしまうためか、あるいは、念願が叶って、いよいよ
自分の理想の実現に一歩を踏み出したのだな、とこちらが期待して
しまうためか、この詩の「砂」という言葉の意味に最近まで気づか
なかった。「砂」という語は、賢治が開墾した北上川岸辺の畑の土
質を言っている。ここの土地は、川の水に運ばれてきた土砂が沖積
してできていたため、水持ちが悪かった。そのために何度も水汲み
をして掛けなければならない。地質学を学んだ賢治が、そんなこと
を知らないはずはない。農業をやっていくのにふさわしい住居が見
つからなかったために、あえて劣悪な条件下に甘んじているのであ
る。

(略)

 賢治が、下根子桜に入って農業を始めたことのうちには、「農民
芸術論」の実践という意味もあったことを、詩「水汲み」は教えて
いる。そして、この考えは、農業技術や芸術で農村を明るくしよう
とした考えの雛形になっている。農村への取り組み方をよく示して
いるのは、次の詩であろう。

 粗朶でさゝへた稲の穂を
 何かなし立ちよってはさはり
 か白い風にふり向けば
 あちこち暗い家ぐねの杜と
 黒雲に映える雨の稲
 
(大正十五年六月[道べの粗朶に]先駆形より、以下同じ)

 伐り採った枝(粗朶)で稲の穂を支えなければならないのは、今
朝の雨で稲が倒れてしまったからである。賢治は、その枝に支えら
れている稲になんとなく触る。とは言っているものの、そこには何
らかの理由があったはずだ。風に誘われるように振り返ると、あち
こちに垣根をめぐらせた暗い家が見え、黒雲に映えて雨に濡れた稲
が見える。「暗い」とは、ただ単に「光が少ない」という意味では
あるまい。後年、下根子時代を振り返って、《根子では私は農業わ
づかばかりの技術や芸術で村が明るくなるかどうかやって見て半途
で自分が倒れた訳ですが》(年月日不詳、書簡下書き)と言ってい
ることと無関係でないはずだ。

(略)

 そっちはさっきするどく斜視し
 あるいは嘲けりことばを避けた
 陰気な散点部落なのに
 なおもおろかに胸の鳴るのはどういふわけだ
 このうへそこに何の期待があるのだらう

 だから、嘲ったり、言葉を避けたりしたのは、散点部落に農業技
術や芸術の入り込む余地がないからだと、一応、推測を立てること
もできよう。にもかかわらず、胸が鳴り、何かを期待する、と言う
のである。

 五月から、毎週土曜日にこども会を開いて、童話を朗読して聞か
せるようになった。農学校の卒業生たち五、六人と合奏会も試みた。
何かが少しづつ変わりつつあると感じていたのかもしれない。

 年譜によれば、この月、賢治は、「農民芸術概論」を書き始めて
いる。すでに、農民たちと《いっしょに正しい力を併せわれらのす
べての田園とわれらのすべての生活を一つの巨きな第四次元の芸術
に創りあげよう》という目標を持っていたと考えられる。だから、
胸の鳴る理由を一番よく知っていたのは賢治自身のはずなのである。
喜びを隠そうとして、かえってそれが表に出てしまっているのだ。

 それが一つの形になって
 もう一度立て直すことにもなるよりは
 倒れて傷んだ稲の穂を
 とり戻すのを望むのだらう

 何が一つの形となり、何を立て直すことになるのか、あまり明確
ではない。散点部落に期待するものがあり、「形のないもの」が一
つの形になることを考えると、その「期待」が、具体化されること
を考えているのか。立て直すことになるのは、部落の生活。しかも、
それは《倒れて傷んだ稲の穂を/とり戻す》ことの対極、生活の糧
を得ることの対極にあるものだ。

 むしろそれこそ
 今朝なほ稲の耐へてゐた間
 いだいたのぞみのかすかな暈【さんずいに翁】と
 わづかに白くひらけてひかる東のそらが
 互に溶けてはたらくためだ
 野原のはてで荷馬車は小く
 ひとはほそぼそ尖ってけむる

 つまり、今朝、まだ稲が倒れていなかったときには、この陰気な
部落を、(おそらくは、農業技術や芸術によって)明るくしようと
いう望みを抱いていた。ところが、倒れた稲を(健気にも?)粗朶
で支えているのを眼にしたとき、部落の人々が望んでいるのは、倒
れた稲を取り戻すことの方だということに気がついた。いや、それ
だからこそ遣り甲斐があるのではないのか。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

-〔春と修羅第三集(2)〕----------------------------------

「疲労」「〔道べの粗朶に〕」「蛇踊」

------------------------------------------------------------
■「疲労」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿推敲後)
------------------------------------------------------------

七一四
     疲労
                     一九二六、六、一八、

南の風も酸っぱいし
穂麦も青くひかって痛い
それだのに
崖の上には
わざわざ今日の晴天を、
西の山根から出て来たといふ
黒い巨きな立像が
眉間にルビーか何かをはめて
三っつも立って待ってゐる
疲れを知らないあゝいふ風な三人と
せいいっぱいのせりふをやりとりするために
あの雲にでも手をあてゝ
電気をとってやらうかな

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

七一四
     疲労
                     一九二六、六、一八、

南の風も酸っぱいし
穂麦も青くひかって痛い
えい それだのに
崖の上には
わざわざ西の山根から出て来たとか云って
黒い巨きな立像が 眉間にルビーか何かをはめて
三っつも立って待ってゐる
あの雲にでも手をあてゝ
電気をとってやらうかな

------------------------------------------------------------
■「〔道べの粗朶に〕」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿推敲後)
------------------------------------------------------------

七一五
     〔道べの粗朶に〕
                    一九二六、六、二〇、

道べの粗朶に
何かなし立ちよってさわり
け白い風にふり向けば
あちこち暗い家ぐねの杜と
花咲いたまゝいちめん倒れ
黒雲に映える雨の稲
そっちはさっきするどく斜視し
あるひは嘲けりことばを避けた
陰気な幾十の部落なのに
何がこんなにおろかしく
私の胸を鳴らすのだらう
今朝このみちをひとすじいだいたのぞみも消え
いまはわづかに白くひらける東のそらも
たゞそれだけのことであるのに
なほもはげしく
いかにも立派な根拠か何かありさうに
胸の鳴るのはどうしてだらう
野原のはてで荷馬車は小く
ひとはほそぼそ尖ってけむる

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

七一五
                    一九二六、六、二〇、

粗朶でさゝえた稲の穂を
何かなし立ちよってさわり
け白い風にふり向けば
あちこち暗い家ぐねの杜と
黒雲に映える雨の稲
そっちはさっきするどく斜視し
あるひは嘲けりことばを避けた
陰気な散点部落なのに
なほもおろかに胸の鳴るのはどういふわけだ
このうへそこに何の期待があるだらう
それが一つの形になって
もう一度立て直すことになるよりは
倒れて痛んだ稲の穂を
とり戻すのを望むのだらう
むしろそれこそ
今朝なほ稲の耐えてゐた間
いだいたのぞみのかすかな暈翕と
わづかに白くひらける東のそらが
互に溶けてはたらくためだ
野原のはてで荷馬車は小く
ひとはほそぼそ尖ってけむる

------------------------------------------------------------
■「蛇踊」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿推敲後)
------------------------------------------------------------

七一八
     蛇踊
                     一九二六、六、二〇、

この萌えだした柳の枝で
すこし頭を叩いてやらう
叩かれてぞろぞろまはる
はなはだ艶で無器用だ
がらがら蛇でもない癖に
しっぽをざらざら鳴らすのは
それ響尾蛇に非るも
蛇はその尾を鳴らすめり
青い
青い
蛇も青くて立派だし
りっぱな節奏〔リズム〕もある
さう そのポーズ
いまの主題は
「白びかりある攻勢」とでもいふのだらう
しまひにうすい桃いろの
口を大きく開くのが
役者のこわさ半分に
所謂見栄を切るのにあたる
もすこしぴちゃぴちゃ叩いてやらう
今日は厩肥をいぢるので
蛇にも手などを出すわけだ
けれども蛇よ
どうも、おまへにからかってると
酸っぱいトマトをたべてるやうだ
おまへの方で遁げるのか
それではひとつわたしも遁げる

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

七一八
     蛇
                     一九二六、六、二〇、

このやはらかな柳の枝で
すこしおまへを叩いてやらう
おまへの紋は図案としては まあありふた青と茶で
べつに不快なこともない
むしろさうたうきれいだし
かたちも悪くない
それからちゃんと節奏〔リズム〕もある
さう そのポーズ
もすこしぴちゃぴちゃ叩いてやらう
いまの主題は
「白びかりある攻勢」とでもいふのだらうな
しまひの方だけその桃いろの
口をあくのが所謂見栄を切るのだな
もすこしぴちゃぴちゃ叩いてやらう
どうもおまへにからかってると
酸っぱいトマトをたべてるやうだ
もちろんおれは朝飯前さ
もう遁げるのか
わたしも遁げる

------------------------------------------------------------
-〔文語詩稿未定稿(084)〕----------------------------------
------------------------------------------------------------
■「〔聖なる窓〕」
------------------------------------------------------------
(本文=下書稿2)
------------------------------------------------------------

     〔聖なる窓〕

聖なる窓
そらのひかりはうす青み
汚点ある幕はひるがへる
 Oh, my reverence!
 Sacred St. Window!

------------------------------------------------------------
(下書稿1「東京」ノート49・50頁)
------------------------------------------------------------

聖なる窓
そらのひかりはうす青み
汚点ある幕はひるがへる
  ……Oh, My reverence!
    Sacred St. Window!

--〔後記〕--------------------------------------------------

 今週はちょうど点滴が終るころ、熱中症のようになってしまいま
した。持続点滴といって、自宅に小さなボトルを持って帰り46時
間点滴というのをやるのですが、ちょうど終ったころ、寒けがした
のです。風邪かな?と思って暖かくして寝ていたのが失敗で、あや
うく熱中症になりかけました。

 室内にいて、別に暑い環境でもないのに、こういうこともあると
いうのはやはり「高齢者」のためなんでしょうか。

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