宮沢賢治 Kenji Review

宮沢賢治 Kenji Review 801

カテゴリー: 2014年06月28日
Kenji Review 801
-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=--=/=-=/=-=/
--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第801号--2014.06.28------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「烏の北斗七星」「〔ほのあかり秋のあぎとは〕」

-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=--=/=-=/=-=/
------------------------------------------------------------
ブログ毎日?更新中
http://why0531.sblo.jp/
------------------------------------------------------------
--〔話題〕--------------------------------------------------
「烏の北斗七星」
------------------------------------------------------------

 今回は「烏の北斗七星」です。この作品は「烏の軍隊」の話で、
こんな逸話が残っています。

「昭和22年10月に『注文の多い料理店』が出版されたが、この
時は「烏の北斗七星」を削除」

 たくさんの詩と童話を残した宮沢賢治ですが、作品の中で戦争を
語ることはほとんどなかったので、よく取り上げられるようになり
ました。

 賢治自身は徴兵検査を受けていますが、「第二乙種」合格で、兵
役にはつきませんでした。賢治の父親は徴兵検査を受けることも回
避したかったようですが、賢治は逆に徴兵検査に合格して兵役につ
きたがっていたようです。

 弟の清六は「一年志願兵」として弘前に入隊しています。これは
患部候補生のようなもので、徴兵で招集された兵隊とは別の扱いだ
ったようです。入隊中の費用は自前だそうで、裕福な商売人だった
宮澤政次郎氏が、子供の兵役をどのように考えていたのかよくわか
ります。

 主人公の「烏の大尉」は、「どうか憎むことのできない敵を殺さ
ないでいゝやうに」祈りますが、戦闘そのものを忌避しているので
はなく、実際には先頭に立って戦います。

 そうでなければ、本当に戦争の中で死んで行った人たちまで感動
させることはできなかっただろうと思います。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

星空紀行 教師時代の作品群(4)
http://www.nhk.or.jp/space/blog/kikou/20131023.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 教師時代の作品の一つに、賢治にしては珍しく軍隊を取り上げた
作品がある。「烏の北斗七星」である。この作品は、烏の群れを軍
隊に、その鳴き声を大砲になぞらえ、その仲間同士あるいは恋人と
のやりとりをまじえつつ、軍隊としての訓練や敵の山烏の殺戮シー
ンなどがあるため、戦後になって作品集「注文の多い料理店」から
全文が削除されたことがある。さらに言えば、賢治作品の特徴であ
る現実から夢の世界へ、そして再び現実に戻るというパターンから
も外れており、最初から現実を超越した空想世界を最後まで貫き通
している。

(略)

 この作品に登場する、もうひとつの天体が題名にもある北斗七星
である。もともと北斗七星は仏教でも北辰(北極星)妙見信仰とも
あいまってあがめられていた星座でもあり、古くは死の象徴でもあ
った。ちなみに生の象徴は南斗六星(いて座の一部)である。賢治
は、その意味を理解し、使っていた可能性がある。再び高次元の幻
想世界に入り込むところでは、自らの死と,祈りの対象としての北
斗七星が現れる。

(略)

 マヂエルというのは、おおぐま座の名称「Ursa Major」の後半の
読みであるとされている。また、この作品自体が雪原の烏(白い雪
の上の黒い烏)と天上の北斗七星(黒い夜空の輝く星)とを対峙さ
せたものだという論考もある(『天上の雪原と地上の夜空に散りば
められた星々:宮沢賢治「烏の北斗七星」小考』、中井悠加、論叢
国語教育学 no.復刊3 page.1-13 ) 確かに冒頭、雪原の烏を望遠
鏡でのぞくシーンがあることからも、その対比を賢治自身が意識し
ていた可能性は大きい。

 さて、その後、作品は山烏の殺戮、その遺骸を手厚く葬ろうとす
る時の思いの吐露につながっていき、そして銀河鉄道の夜の中でも
示されるように、皆の幸せを求める賢治の心そのもののが、次のよ
うに映し出される。

「(あゝ、マヂエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないで
いゝやうに早くこの世界がなりますやうに、そのためならば、わた
くしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまひません。)マヂ
エルの星が、ちやうど来てゐるあたりの青ぞらから、青いひかりが
うらうらと湧きました。」

 ふたつの世界大戦の間に書かれたという時代背景もあろうが、こ
の作品には賢治の思いが込められている。実際、続く太平洋戦争に
おいて、特攻隊員として沖縄で散った東大の経済学徒兵・佐々木八
郎の手記には、「烏の北斗七星」が触れられている。

「しかし僕の気持はもっとヒューマニスティックなもの、宮沢賢治
の烏と同じようなものなのだ。憎まないでいいものを憎みたくない、
そんな気持なのだ。」(『きけわだつみのこえ』より)

 星を生と死、そして永遠の時間、あるいは超越したものとして投
射し続けた賢治の思いは、特に学徒動員されるような人たちには重
く伝わっていたに違いない。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

--〔烏の北斗七星〕------------------------------------------

     烏の北斗七星

 つめたいいぢの悪い雲が、地べたにすれすれに垂れましたので、
野はらは雪のあかりだか、日のあかりだか判らないやうになりまし
た。

 烏の義勇艦隊は、その雲に圧しつけられて、しかたなくちよつと
の間、亜鉛の板をひろげたやうな雪の田圃のうえに横にならんで仮
泊といふことをやりました。

 どの艦〔ふね〕もすこしも動きません。

 まつ黒くなめらかな烏の大尉、若い艦隊長もしやんと立つたまゝ
うごきません。

 からすの大監督はなほさらうごきもゆらぎもいたしません。から
すの大監督は、もうずゐぶんの年老りです。眼が灰いろになつてし
まつてゐますし、啼くとまるで悪い人形のやうにギイギイ云ひます。

 それですから、烏の年齢〔とし〕を見分ける法を知らない一人の
子供が、いつか斯う云つたのでした。

「おい、この町には咽喉のこわれた烏が二疋ゐるんだよ。おい。」
これはたしかに間違ひで、一疋しか居ませんでしたし、それも決し
てのどが壊れたのではなく、あんまり永い間、空で号令したために、
すつかり声が錆びたのです。それですから烏の義勇艦隊は、その声
をあらゆる音の中で一等だと思つてゐました。

 雪のうへに、仮泊といふことをやつてゐる烏の艦隊は、石ころの
やうです。胡麻つぶのやうです。また望遠鏡でよくみると、大きな
のや小さなのがあつて馬鈴薯のやうです。

 しかしだんだん夕方になりました。

 雲がやつと少し上の方にのぼりましたので、とにかく烏の飛ぶく
らゐのすき間ができました。

 そこで大監督が息を切らして号令を掛けます。

「演習はじめいおいつ、出発」

 艦隊長烏の大尉が、まつさきにぱつと雪を叩きつけて飛びあがり
ました。烏の大尉の部下が十八隻、順々に飛びあがつて大尉に続い
てきちんと間隔をとつて進みました。

 それから戦闘艦隊が三十二隻、次々に出発し、その次に大監督の
大艦長が厳かに舞ひあがりました。

 そのときはもうまつ先の烏の大尉は、四へんほど空で螺旋を巻い
てしまつて雲の鼻つ端まで行つて、そこからこんどはまつ直ぐに向
ふの杜に進むところでした。

 二十九隻の巡洋艦、二十五隻の砲艦が、だんだんだんだん飛び上
がりました。おしまひの二隻は、いつしよに出発しました。こゝら
がどうも烏の軍隊の不規律なところです。

 烏の大尉は、杜のすぐ近くまで行つて、左に曲がりました。

 そのとき烏の大監督が、「大砲撃てつ。」と号令しました。

 艦隊は一斉に、があがあがあがあ、大砲をうちました。

 大砲をうつとき、片脚をぷんとうしろへ挙げる艦は、この前のニ
ダナトラの戦役での負傷兵で、音がまだ脚の神経にひびくのです。

 さて、空を大きく四へん廻つたとき、大監督が、「分れつ、解散」
と云ひながら、列をはなれて杉の木の大監督官舎におりました。み
んな列をほごしてじぶんの営舎に帰りました。

 烏の大尉は、けれども、すぐに自分の営舎に帰らないで、ひとり、
西のはうのさいかちの木に行きました。

 雲はうす黒く、たゞ西の山のうへだけ濁つた水色の天の淵がのぞ
いて底光りしてゐます。そこで烏仲間でマシリイと呼ぶ銀の一つ星
がひらめきはじめました。

 烏の大尉は、矢のやうにさいかちの枝に下りました。その枝に、
さつきからじつと停つて、ものを案じてゐる烏があります。それは
いちばん声のいゝ砲艦で、烏の大尉の許嫁でした。

「があがあ、遅くなつて失敬。今日の演習で疲れないかい。」

「かあお、ずゐぶんお待ちしたわ。いつかうつかれなくてよ。」

「さうか。それは結構だ。しかしおれはこんどしばらくおまへと別
れなければなるまいよ。」

「あら、どうして、まあ大へんだわ。」

「戦闘艦隊長のはなしでは、おれはあした山烏を追ひに行くのださ
うだ。」

「まあ、山烏は強いのでせう。」

「うん、眼玉が出しやばつて、嘴が細くて、ちよつと見掛けは偉さ
うだよ。しかし訳ないよ。」

「ほんたう。」

「大丈夫さ。しかしもちろん戦争のことだから、どういふ張合でど
んなことがあるかもわからない。そのときはおまへはね、おれとの
約束はすつかり消えたんだから、外へ嫁つてくれ。」

「あら、どうしませう。まあ、大へんだわ。あんまりひどいわ、あ
んまりひどいわ。それではあたし、あんまりひどいわ、かあお、か
あお、かあお、かあお」

「泣くな、みつともない。そら、たれか来た。」

 烏の大尉の部下、烏の兵曹長が急いでやつてきて、首をちよつと
横にかしげて礼をして云ひました。

「があ、艦長殿、点呼の時間でございます。一同整列して居ります。」

「よろしい。本艦は即刻帰隊する。おまへは先に帰つてよろしい。」

「承知いたしました。」兵曹長は飛んで行きます。

「さあ、泣くな。あした、も一度列の中で会へるだらう。丈夫でゐ
るんだぞ、おい、お前ももう点呼だらう、すぐ帰らなくてはいかん。
手を出せ。」

 二疋はしつかり手を握りました。大尉はそれから枝をけつて、急
いでじぶんの隊に帰りました。娘の烏は、もう枝に凍り着いたやう
に、じつとして動きません。

 夜になりました。

 それから夜中になりました。

 雲がすつかり消えて、新らしく灼かれた鋼の空に、つめたいつめ
たい光がみなぎり、小さな星がいくつか聯合して爆発をやり、水車
の心棒がキイキイ云ひます。

 たうたう薄い鋼の空に、ピチリと裂罅がはいつて、まつ二つに開
き、その裂け目から、あやしい長い腕がたくさんぶら下つて、烏を
握んで空の天井の向ふ側へ持つて行かうとします。烏の義勇艦隊は
もう総掛りです。みんな急いで黒い股引をはいて一生けん命宙をか
けめぐります。兄貴の烏も弟をかばふ暇がなく、恋人同志もたびた
びひどくぶつつかり合ひます。

 いや、ちがひました。

 さうぢやありません。

 月が出たのです。青いひしげた二十日の月が、東の山から泣いて
登つてきたのです。そこで烏の軍隊はもうすつかり安心してしまひ
ました。

 たちまち杜はしづかになつて、たゞおびへて脚をふみはずした若
い水兵が、びつくりして眼をさまして、があと一発、ねぼけ声の大
砲を撃つだけでした。

 ところが烏の大尉は、眼が冴えて眠れませんでした。

「おれはあした戦死するのだ。」大尉は呟やきながら、許嫁のゐる
杜の方にあたまを曲げました。

 その昆布のやうな黒いなめらかな梢の中では、あの若い声のいゝ
砲艦が、次から次といろいろな夢を見てゐるのでした。

 烏の大尉とたゞ二人、ばたばた羽をならし、たびたび顔を見合せ
ながら、青黒い夜の空を、どこまでもどこまでものぼつて行きまし
た。もうマヂエル様と呼ぶ烏の北斗七星が、大きく近くなつて、そ
の一つの星のなかに生えてゐる青じろい苹果の木さへ、ありありと
見えるころ、どうしたわけか二人とも、急にはねが石のやうにこわ
ばつて、まつさかさまに落ちかゝりました。マヂエル様と叫びなが
ら愕ろいて眼をさましますと、ほんたうにからだが枝から落ちかゝ
つてゐます。急いではねをひろげ姿勢を直し、大尉の居る方を見ま
したが、またいつかうとうとしますと、こんどは山烏が鼻眼鏡など
をかけてふたりの前にやつて来て、大尉に握手しやうとします。大
尉が、いかんいかん、と云つて手をふりますと、山烏はピカピカす
る拳銃を出していきなりずどんと大尉を射殺し、大尉はなめらかな
黒い胸を張つて倒れかかります。マヂエル様と叫びながらまた愕い
て眼をさますといふあんばいでした。

 烏の大尉はこちらで、その姿勢を直すはねの音から、そらのマヂ
エルを祈る声まですつかり聴いて居りました。

 じぶんもまたためいきをついて、そのうつくしい七つのマヂエル
の星を仰ぎながら、あゝ、あしたの戦でわたくしが勝つことがいゝ
のか、山烏がかつのがいゝのか、それはわたくしにわかりません、
たゞあなたのお考のとほりです、わたくしはわたくしにきまつたや
うに力いつぱいたゝかひます、みんなみんなあなたのお考へのとほ
りですとしづかに祈つて居りました。そして東のそらには早くも少
しの銀の光が湧いたのです。

 ふと遠い冷たい北の方で、なにか鍵でも触れあつたやうなかすか
な声がしました。烏の大尉は夜間双眼鏡を手早く取つて、きつとそ
つちを見ました。星あかりのこちらのぼんやり白い峠の上に、一本
の栗の木が見えました。その梢にとまつて空を見あげてゐるものは、
たしかに敵の山烏です。大尉の胸は勇ましく躍りました。

「があ、非常召集、があ、非常召集」

 大尉の部下はたちまち枝をけたてゝ飛びあがり大尉のまはりをか
けめぐります。

「突貫。」烏の大尉は先登になつてまつしぐらに北へ進みました。

 もう東の空はあたらしく研いだ鋼のやうな白光です。

 山烏はあわてゝ枝をけ立てました。そして大きくはねをひろげて
北の方へ遁げ出さうとしましたが、もうそのときは駆逐艦たちはま
はりをすつかり囲んでゐました。

「があ、があ、があ、があ、があ」大砲の音は耳もつんぼになりさ
うです。山烏は仕方なく足をぐらぐらしながら上の方へ飛びあがり
ました。大尉はたちまちそれに追ひ付いて、そのまつくろな頭に鋭
く一突き食らはせました。山烏はよろよろつとなつて地面に落ちか
ゝりました。そこを兵曹長が横からもう一突きやりました。山烏は
灰いろのまぶたをとぢ、あけ方の峠の雪の上につめたく横はりまし
た。

「があ、兵曹長。その死骸を営舎までもつて帰るやうに。があ。引
き揚げつ。」

「かしこまりました。」強い兵曹長はその死骸を提げ、烏の大尉は
じぶんの杜の方に飛びはじめ十八隻はしたがひました。

 杜に帰つて烏の駆逐艦は、みなほうほう白い息をはきました。

「けがは無いか。誰かけがしたものは無いか。」烏の大尉はみんな
をいたはつてあるきました。

 夜がすつかり明けました。

 桃の果汁のやうな陽の光は、まづ山の雪にいつぱいに注ぎ、それ
からだんだん下に流れて、つひにはそこらいちめん、雪のなかに白
百合の花を咲かせました。

 ぎらぎらの太陽が、かなしいくらゐひかつて、東の雪の丘の上に
懸りました。

「観兵式、用意つ、集れい。」大監督が叫びました。

「観兵式、用意つ、集れい。」各艦隊長が叫びました。

 みんなすつかり雪のたんぼにならびました。

 烏の大尉は列からはなれて、ぴかぴかする雪の上を、足をすくす
く延ばしてまつすぐに走つて大監督の前に行きました。

「報告、けふあけがた、セピラの峠の上に敵艦の碇泊を認めました
ので、本艦隊は直ちに出動、撃沈いたしました。わが軍死者なし。
報告終りつ。」

 駆逐艦隊はもうあんまりうれしくて、熱い涙をぼろぼろ雪の上に
こぼしました。

 烏の大監督も、灰いろの眼から泪をながして云ひました。

「ギイギイ、ご苦労だつた。ご苦労だつた。よくやつた。もうおま
へは少佐になつてもいゝだらう。おまへの部下の叙勲はおまへにま
かせる。」

 烏の新しい少佐は、お腹が空いて山から出て来て、十九隻に囲ま
れて殺された、あの山烏を思ひ出して、あたらしい泪をこぼしまし
た。

「ありがたうございます。就ては敵の死骸を葬りたいとおもひます
が、お許し下さいませうか。」

「よろしい。厚く葬つてやれ。」

 烏の新らしい少佐は礼をして大監督の前をさがり、列に戻つて、
いまマヂエルの星の居るあたりの青ぞらを仰ぎました。(ああ、マ
ヂエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないでいゝやうに早
くこの世界がなりますやうに、そのためならば、わたくしのからだ
などは、何べん引き裂かれてもかまひません。)マヂエルの星が、
ちやうど来てゐるあたりの青ぞらから、青いひかりがうらうらと湧
きました。

 美しくまつ黒な砲艦の烏は、そのあひだ中、みんなといつしよに、
不動の姿勢をとつて列びながら、始終きらきらきらきら涙をこぼし
ました。砲艦長はそれを見ないふりしてゐました。あしたから、ま
た許嫁といつしよに、演習ができるのです。あんまりうれしいので
、たびたび嘴を大きくあけて、まつ赤に日光に透かせましたが、そ
れも砲艦長は横を向いて見逃がしてゐました。

--〔文語詩稿五十編(32)〕----------------------------------
------------------------------------------------------------
(本文)
------------------------------------------------------------

     〔ほのあかり秋のあぎとは〕

ほのあかり秋のあぎとは、  ももどりのねぐらをめぐり、
官〔つかさ〕の手からくのがれし、   社司の子のありかを知らず。


社殿にはゆふべののりと、  ほのかなる泉の声や、
そのはははことなきさまに、 しらたまのもちひをなせる。

------------------------------------------------------------
(下書稿4推敲後)
------------------------------------------------------------

     家

ほのあかり秋のあぎとは
ももどりのねぐらをめぐり
官〔つかさ〕の手からくのがれし
社司の子のゆくゑを知られず


社殿にはゆふべののりと
ほのかなる泉の声や
そのはははことなきさまに
しらたまのもちひをなせる

------------------------------------------------------------
(下書稿4推敲前)
------------------------------------------------------------

     失意

おほいなる秋のあぎとは
ほのじろく林をめぐり
頬蒼くまなこひかりて
社司の子ぞつめたくわらふ


社殿にはゆふべののりと
もも鳥のかへりもだすや
そのはははことなきさまに
しらたまのもちひをなせる

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲後)
------------------------------------------------------------

     失意

おほいなる秋のあぎとは
ほのじろく林をめぐり
頬蒼くまなこひかりて
なれのたゞつめたくわらふ


ながちゝはゆふべののりと
ももどりのかへりすだくや
ながはははことなきさまに
しらたまのもちひをなせる

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲前)
------------------------------------------------------------

     失意

ほのじろき秋のあぎとは
ほのじろく森をめぐりて
頬蒼くまなこひかりて
なれはたゞつめたくわらひ


ながちゝはゆふべののりと
ももどりのかへりすだくや
ながはははことなきさまに
しらたまのもちひをなせる

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲後)
------------------------------------------------------------

     訪問

うちけぶる 稲穂の面や
森も暮れ  地平も暮れて
巨いなる  秋のあぎとは
ほのじろく 野をめぐりにき


ながおもひ やぶれしをきき
いそがしく おとなひくれば
ながいへに 黄なる灯はつき
水の音   いともしづけし


杉むらは  まくろによどみ
はゞけたる 鳥のけはひを
かなしみの さはふかかりし
ああなれの つめたくわらふ


社殿に   ゆふべののりと
ながちちの ぬさやさゝげん
ながははは 事なきさまに
しらたまの もちひをなせる

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲前)
------------------------------------------------------------

     訪問

森も暮れ  地平も暮れて
シグナルに 赤き灯はつき
ほのじろき 秋のあぎとは
はかなくも 四方をめぐりき

やつれたる なれを訪はんと
そがなかを 急ぎて来しに
かなしみの さはふかかりし
ああなれの つめたくわらふ

------------------------------------------------------------
(下書稿1「歌稿B159葉~160葉」)
------------------------------------------------------------

森も暮れ地平も暮れて
ほのじろき秋のあぎとは
かなしくも四方をめぐりき
やつれたるなれを見んとて
そがなかをわが急ぎてきて
かなしみのさはふかかりし
あゝなれはかなしくわらふ

------------------------------------------------------------
(先駆形短歌「歌稿B159葉~160葉」)
------------------------------------------------------------
736  巨なる
   秋のあぎとに繞られし
   薄明をわがひとりたどれる。

737  そらのはて
   わづかに明く
   たそがれの
   秋のあぎとにわがきらるゝらし。

737a たそがれの
   森をいそげば
   ほのじろく
   秋のあぎとぞ
   うちめぐるなれ

737b ほのじろき
   秋のあぎとに繞られて
   森ある町の
   しづかに暮れたり

--〔後記〕--------------------------------------------------

 童話集『注文の多い料理店』の作品はどれも案外短いです。草稿
として残っている多くの作品も、出版されるところまで行けば、も
っと凝縮されて短くなっていたのかもしれません。

 もう2014年も半分終わりました。今年は入院などもありまし
たが、9月で2歳になる孫の成長を楽しみにしています。

------------------------------------------------------------
-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=--=/=-=/=-=/
--通巻--801号---------- e-mail why@kenji.ne.jp--------------
--発行--渡辺--宏------- URL    http://why.kenji.ne.jp/
------------------------------------------------------------
 購読者数970名です。ご購読ありがとうございます。
------------------------------------------------------------
私あてのメールのあて先は、
why@kenji.ne.jp
私のホームページ(宮沢賢治童話館、全詩篇など)は
http://why.kenji.ne.jp/    です。
バックナンバーもすべて、このページで読めます。
【まぐまぐ】
このメールマガジンは、インターネットの本屋さん「まぐまぐ」を
利用して発行しています。( http://www.mag2.com/ )
マガジンIDは10987です。
このメールマガジンの登録や解除は
http://why.kenji.ne.jp/    です。
=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=-=/=--=/=-=/=-=/

ついでに読みたい

宮沢賢治 Kenji Review

発行周期:  週刊 最新号:  2018/07/14 部数:  1,005部

他のメルマガを読む