宮沢賢治 Kenji Review

宮沢賢治 Kenji Review 800

カテゴリー: 2014年06月21日
Kenji Review 800
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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第800号--2014.06.21------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「注文の多い料理店」「著者」

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ブログ毎日?更新中
http://why0531.sblo.jp/
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--〔話題〕--------------------------------------------------
「注文の多い料理店」
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 童話集『注文の多い料理店』の3作目は表題作の「注文の多い料
理店」です。

 この童話集は当初『山男の四月』という題名で刊行予定だったそ
うですが、『宮沢賢治年譜』によると、以下のような事情で表題作
が変更になっています。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 刊行者側の異変は、最初から賢治と交渉のあった近森善一が、父
親から急遽帰郷するよういわれ、高知へ発ってしまったことである。
父の応援する候補者のための選挙の手伝いである。第一五回総選挙
は五月一〇日が投票日だから、少なくとも三月中に帰ったと思われ
る。で、協力者であった及川四郎が刊行を引きついだが、薬剤研究
所(改名して光原社。杜陵出版部)には出版費用もなく、近森もも
どらず、いろいろ見積りをしては出版形態の検討を迫られた。賢治
としては四月に『春と修羅』と同時発刊の夢は消え、『山男の四月』
の書名はふさわしくなくなり、『注文の多い料理店』として九篇の
作品の配列も改めて度度勘考された。

http://www2.gol.com/users/mlv/kenkyu/ronbun05/ooyama05.html
--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 童話集『山男の四月』は「『春と修羅』と同時発刊」を目指して
いたのですね。実際は同年の秋になってからの刊行になりました。

 さて、この作品も案外短く、導入部からいきなり「料理店」の中
の描写になっている印象があります。

 「レストラン山猫軒」のオーナーは山猫なのでしょうが、物語の
中では姿を現しません。

 危うく食べられそうになった紳士たちを、猟師と犬が救い、「料
理店」も消え失せてしまいます。この店は実在のものではなく、は
じめから山猫のつくった幻だったようです。

 そういう意味では、「どんぐりと山猫」と同じように、人間が異
界に行って帰ってくる話と言えます。宮沢賢治の童話にはこのよう
なものが多いですね。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

「注文の多い料理店」の犬の怪
http://tiem.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-d417.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 しかし、このような「中間的現象」は、「注文の多い料理店」の
出現の前に、一種の「警告」のような形で、既に2人の人間に与え
られていたのである。

 それは、2人の人間が、山で道に迷い始める頃のことで、連れて
いた犬が、突然あわをふいて、死んでしまうというものである。こ
れは、「物語」として、はっきり「死んでしまいました」と書かれ
ており、単なる「幻覚」とは解し難い。2人の人間も、「いくらの
損害である」などと、「物」扱いしているが、はっきりと、死を認
めている。

 しかし、その「犬」こそが、いわば、その「料理店」の「実質」
を暴き、それに飛び込むことによって、人間が「食われる」前に、
消えさせてしまうことに成功するのである。

 つまり、死んだはずの「犬」は、生きていたのであり、まさにそ
の犬こそが、人間を救ったのである。人間が、「物」扱いにした犬
によってこそ、救われているのも、皮肉がきいている。(前にも述
べたように、この「犬」を、たとえば、幽霊だったと解するのは無
理である。犬は、「料理店」が消えた後も、残って、2人の人間の
もとにいるからである。)

 これによって、「犬が死んだ」という「現象」は、単なる「幻覚」
ではないにしても、「物質的現実」そのものではなかったことが、
明白になった。つまりは、「中間的現象」というしかないのである。

(略)

 宮沢賢治の、この「死んだはずの犬の怪」は、一見まさに「怪」
だけれども、「中間的現象」としてみると、実に、その「真実」を
細かいところまで、よく示していると言える。賢治自身は、この
「怪」については、何の説明も加えておらず、いわば、当たり前の
ことのように流している。

 賢治は、『注文の多い料理店』の序文で、これらの「物語」は、
「虹や月明かりからもらった」もので、「どうしても、本当にある
ようでしかたがないこと」だと言っている。それが、まさに、その
ように、「もらった」ものだとしても、賢治の、このような、当た
り前のような流し方は、やはり、賢治自身が、これらの「中間的現
象」について、よく知っていたとしか思えないのである。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

--〔注文の多い料理店〕--------------------------------------

     注文の多い料理店

 二人の若い紳士が、すつかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴ
かぴかする鉄砲をかついで、白熊のやうな犬を二疋つれて、だいぶ
山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云ひながら、
あるいてをりました。

「ぜんたい、こゝらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがら
ん。なんでも構はないから、早くタンタアーンと、やつて見たいも
んだなあ。」

「鹿の黄いろな横つ腹なんぞに、二三発お見舞もうしたら、ずゐぶ
ん痛快だらうねえ。くるくるまはつて、それからどたつと倒れるだ
らうねえ。」

 それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ち
よつとまごついて、どこかへ行つてしまつたくらゐの山奥でした。

 それに、あんまり山が物凄いので、その白熊のやうな犬が、二疋
いつしよにめまひを起して、しばらく吠つて、それから泡を吐いて
死んでしまひました。

「じつにぼくは、二千四百円の損害だ。」と一人の紳士が、その犬
の眼ぶたを、ちよつとかへしてみて言ひました。

「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もひとりが、くやしさうに、
あたまをまげて言ひました。

 はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、ぢつと、もひとりの
紳士の、顔つきを見ながら云ひました。

「ぼくはもう戻らうとおもふ。」

「さあ、ぼくもちようど寒くはなつたし腹は空いてきたし戻らうと
おもふ。」

「そいぢや、これで切りあげやう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、
山鳥を拾円も買つて帰ればいゝ。」

「兎もでてゐたねえ。さうすれば結局おんなじこつた。では帰らう
ぢやないか。」

 ところがどうも困つたことは、どつちへ行けば戻れるのか、いつ
かう見当がつかなくなつてゐました。

 風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木は
ごとんごとんと鳴りました。

「どうも腹が空いた。さつきから横つ腹が痛くてたまらないんだ。」

「ぼくもさうだ。もうあんまりあるきたくないな。」

「あるきたくないよ。あゝ困つたなあ、何かたべたいなあ。」

「喰べたいもんだなあ。」

 二人の紳士は、ざわざわ鳴るすゝきの中で、こんなことを云ひま
した。

 その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家があり
ました。

 そして玄関には、


     RESTAURANT
       西洋料理店
    WILDCAT HOUSE
        山猫軒

といふ札がでてゐました。

「君、ちようどいゝ。こゝはこれでなかなか開けてるんだ。入らう
ぢやないか。」

「おや、こんなとこにおかしいね。しかしとにかく何か食事ができ
るんだらう」

「もちろんできるさ。看板にさう書いてあるぢやないか」

「はいらうぢやないか。ぼくはもう何か喰べたくて倒れさうなんだ。」

 二人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸の煉瓦で組んで、実に
立派なもんです。

 そして硝子の開き戸がたつて、そこに金文字でかう書いてありま
した。

  「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」

 二人はそこで、ひどくよろこんで言ひました。

「こいつはどうだ、やつぱり世の中はうまくできてるねえ、けふ一
日なんぎしたけれど、こんどはこんないいこともある。このうちは
料理店だけれどもたゞでご馳走するんだぜ。」

「どうもさうらしい。決してご遠慮はありませんといふのはその意
味だ。」

 二人は戸を押して、なかへ入りました。そこはすぐ廊下になつて
ゐました。その硝子戸の裏側には、金文字でかうなつてゐました。

  「ことに肥つたお方や若いお方は、大歓迎いたします」

 二人は大歓迎といふので、もう大よろこびです。

「君、ぼくらは大歓迎にあたつてゐるのだ。」

「ぼくらは両方兼ねてるから。」

 ずんずん廊下を進んで行きますと、こんどは水いろのペンキ塗り
の扉がありました。

「どうも変な家だ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだらう。」

「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなかうさ。」

 そして二人はその扉をあけやうとしますと、上に黄いろな字でか
う書いてありました。

  「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知くださ
い」

「なかなかはやつてるんだ。こんな山の中で。」

「それあさうだ。見たまへ、東京の大きな料理屋だつて大通りには
すくないだらう。」

 二人は云ひながら、その扉をあけました。するとその裏側に、

  「注文はずゐぶん多いでせうがどうか一々こらえて下さい。」

「これはぜんたいどういふんだ。」ひとりの紳士は顔をしかめまし
た。

「うん、これはきつと注文があまり多くて支度が手間取るけれども
ごめん下さいと斯ういふことだ。」

「さうだらう。早くどこか室の中にはいりたいもんだな。」

「そしてテーブルに座りたいもんだな。」

 ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。そし
てそのわきに鏡がかゝつて、その下には長い柄のついたブラシが置
いてあつたのです。

 扉には赤い字で、

  「お客さまがた、こゝで髪をきちんとして、それからはきもの
   ゝ泥を落してください。」と書いてありました。

「これはどうも尤もだ。僕もさつき玄関で、山のなかだとおもつて
見くびつたんだよ」

「作法の厳しい家だ。きつとよほど偉い人たちが、たびたび来るん
だ。」

 そこで二人は、きれいに髪をけづつて、靴の泥を落しました。

 そしたら、どうです。ブラシを板の上に置くや否や、そいつがぼ
うつとかすんで無くなつて、風がどうつと室の中に入つてきました。

 二人はびつくりして、互によりそつて、扉をがたんと開けて、次
の室へはいつて行きました。早く何か暖いものでもたべて、元気を
つけて置かないと、もう途方もないことになつてしまふと、二人と
も思つたのでした。

 扉の内側に、また変なことが書いてありました。

  「鉄砲と弾丸をこゝへ置いてください。」

 見るとすぐ横に黒い台がありました。

「なるほど、鉄砲を持つてものを食ふといふ法はない。」

「いや、よほど偉いひとが始終来てゐるんだ。」

 二人は鉄砲をはづし、帯皮を解いて、それを台の上に置きました。

 また黒い扉がありました。

  「どうか帽子と外套と靴をおとり下さい。」

「どうだ、とるか。」

「仕方ない、とらう。たしかによつぽどえらいひとなんだ。奥に来
てゐるのは。」

 二人は帽子とオーバーコートを釘にかけ、靴をぬいでぺたぺたあ
るいて扉の中にはいりました。

 扉の裏側には、

  「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、
   ことに尖つたものは、みんなこゝに置いてください。」

と書いてありました。扉のすぐ横には黒塗りの立派な金庫も、ちや
んと口を開けて置いてありました。鍵まで添へてあつたのです。

「はゝあ、何かの料理に電気をつかふと見えるね。金気のものはあ
ぶない。ことに尖つたものはあぶないと斯う云ふんだらう。」

「さうだらう。して見ると勘定は帰りにこゝで払ふのだろか。」

「どうもさうらしい。」

「さうだ。きつと。」

 二人はめがねをはづしたり、カフスボタンをとつたり、みんな金
庫の中に入れて、ぱちんと錠をかけました。

 すこし行きますとまた扉があつて、その前に硝子の壺が一つあり
ました。扉には斯う書いてありました。

  「壺のなかのクリームを顔や手足にすつかり塗つてください。」

 みるとたしかに壺のなかのものは牛乳のクリームでした。

「クリームをぬれといふのはどういふんだ。」

「これはね、外がひじやうに寒いだらう。室のなかがあんまり暖い
とひびがきれるから、その豫防なんだ。どうも奥には、よほどえら
いひとがきてゐる。こんなとこで、案外ぼくらは、貴族とちかづき
になるかも知れないよ。」

 二人は壺のクリームを、顔に塗つて手に塗つてそれから靴下をぬ
いで足に塗りました。それでもまだ残つてゐましたから、それは二
人ともめいめいこつそり顔へ塗るふりをしながら喰べました。

 それから大急ぎで扉をあけますと、その裏側には、

  「クリームをよく塗りましたか、耳にもよく塗りましたか、」

 と書いてあつて、ちいさなクリームの壺がこゝにも置いてありま
した。

「さうさう、ぼくは耳には塗らなかつた。あぶなく耳にひゞを切ら
すとこだつた。こゝの主人はじつに用意周到だね。」

「あゝ、細かいとこまでよく気がつくよ。ところでぼくは早く何か
喰べたいんだが、どうも斯うどこまでも廊下ぢや仕方ないね。」

 するとすぐその前に次の戸がありました。

  「料理はもうすぐできます。
   十五分とお待たせはいたしません。
   すぐたべられます。
   早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。」

 そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。

 二人はその香水を、頭へぱちやぱちや振りかけました。

 ところがその香水は、どうも酢のやうな匂がするのでした。

「この香水はへんに酢くさい。どうしたんだらう。」

「まちがへたんだ。下女が風邪でも引いてまちがへて入れたんだ。」

 二人は扉をあけて中にはいりました。

 扉の裏側には、大きな字で斯う書いてありました。

  「いろいろ注文が多くてうるさかつたでせう。お気の毒でした。
   もうこれだけです。どうかからだ中に、壺の中の塩をたくさ
   んよくもみ込んでください。」

 なるほど立派な青い瀬戸の塩壺は置いてありましたが、こんどと
いふこんどは二人ともぎよつとしてお互にクリームをたくさん塗つ
た顔を見合せました。

「どうもおかしいぜ。」

「ぼくもおかしいとおもふ。」

「沢山の注文といふのは、向ふがこつちへ注文してるんだよ。」

「だからさ、西洋料理店といふのは、ぼくの考へるところでは、西
洋料理を、来た人にたべさせるのではなくて、来た人を西洋料理に
して、食べてやる家とかういふことなんだ。これは、その、つ、つ、
つ、つまり、ぼ、ぼ、ぼくらが……。」がたがたがたがた、ふるえ
だしてもうものが言へませんでした。

「その、ぼ、ぼくらが、……うわあ。」がたがたがたがたふるえだ
して、もうものが言へませんでした。

「遁げ……。」がたがたしながら一人の紳士はうしろの戸を押さう
としましたが、どうです、戸はもう一分も動きませんでした。

 奥の方にはまだ一枚扉があつて、大きなかぎ穴が二つつき、銀い
ろのホークとナイフの形が切りだしてあつて、

  「いや、わざわざご苦労です。
   大へん結構にできました。
   さあさあおなかにおはいりください。」

と書いてありました。おまけにかぎ穴からはきよろきよろ二つの青
い眼玉がこつちをのぞいてゐます。

「うわあ。」がたがたがたがた。

「うわあ。」がたがたがたがた。

 ふたりは泣き出しました。

 すると戸の中では、こそこそこんなことを云つてゐます。

「だめだよ。もう気がついたよ。塩をもみこまないやうだよ。」

「あたりまえさ。親分の書きやうがまづいんだ。あすこへ、いろい
ろ注文が多くてうるさかつたでせう、お気の毒でしたなんて、間抜
けたことを書いたもんだ。」

「どつちでもいゝよ。どうせぼくらには、骨も分けて呉れやしない
んだ。」

「それはさうだ。けれどももしこゝへあいつらがはいつて来なかつ
たら、それはぼくらの責任だぜ。」

「呼ばうか、呼ばう。おい、お客さん方、早くいらつしやい。いら
つしやい。いらつしやい。お皿も洗つてありますし、菜つ葉ももう
よく塩でもんで置きました。あとはあなたがたと、菜つ葉をうまく
とりあわせて、まつ白なお皿にのせる丈けです。はやくいらつしや
い。」

「へい、いらつしやい、いらつしやい。それともサラドはお嫌ひで
すか。そんならこれから火を起してフライにしてあげませうか。と
にかくはやくいらつしやい。」

 二人はあんまり心を痛めたために、顔がまるでくしやくしやの紙
屑のやうになり、お互にその顔を見合せ、ぶるぶるふるえ、声もな
く泣きました。

 中ではふつふつとわらつてまた叫んでゐます。

「いらつしやい、いらつしやい。そんなに泣いては折角のクリーム
が流れるぢやありませんか。へい、たゞいま。ぢきもつてまゐりま
す。さあ、早くいらつしやい。」

「早くいらつしやい。親方がもうナフキンをかけて、ナイフをもつ
て、舌なめずりして、お客さま方を待つてゐられます。」

 二人は泣いて泣いて泣いて泣いて泣きました。

 そのときうしろからいきなり、
「わん、わん、ぐわあ。」といふ声がして、あの白熊のやうな犬が
二疋、扉をつきやぶつて室の中に飛び込んできました。鍵穴の眼玉
はたちまちなくなり、犬どもはううとうなつてしばらく室の中をく
るくる廻つてゐましたが、また一声
「わん。」と高く吠えて、いきなり次の扉に飛びつきました。戸は
がたりとひらき、犬どもは吸ひ込まれるやうに飛んで行きました。

 その扉の向ふのまつくらやみのなかで、
「にやあお、くわあ、ごろごろ。」といふ声がして、それからがさ
がさ鳴りました。

 室へやはけむりのやうに消え、二人は寒さにぶるぶるふるえて、
草の中に立つてゐました。

 見ると、上着や靴や財布やネクタイピンは、あつちの枝にぶらさ
がつたり、こつちの根もとにちらばつたりしてゐます。風がどうと
吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとん
と鳴りました。

 犬がふうとうなつて戻つてきました。

 そしてうしろからは、
「旦那あ、旦那あ、」と叫ぶものがあります。

 二人は俄かに元気がついて
「おゝい、おゝい、こゝだぞ、早く来い。」と叫びました。

 蓑帽子をかぶつた専門の猟師が、草をざわざわ分けてやつてきま
した。

 そこで二人はやつと安心しました。

 そして猟師のもつてきた団子をたべ、途中で十円だけ山鳥を買つ
て東京に帰りました。

 しかし、さつき一ぺん紙くづのやうになつた二人の顔だけは、東
京に帰つても、お湯にはいつても、もうもとのとほりになほりませ
んでした。

--〔文語詩稿五十編(31)〕----------------------------------
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(本文)
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     著者

造園学のテキストに、  おのれが像を百あまり、

著者の原図と銘うちて、 かゝげしことも夢なれやと、

青き夕陽の寒天や、   U字の梨のかなたより、

革の手袋はづしつゝ、  しづにをくびし歩みくる。

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲後)
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     著者

造園学のテキストに
おのれが像を百あまり、
著者の原図と銘うちて
かゝげしことも夢なれやと、
青き夕陽の寒天や
U字の梨のかなたより
革の手袋はづしつゝ
しづにをくびしあゆみくる。

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(下書稿推敲前)
------------------------------------------------------------

     著者

造園学のテキストに
著者の原図と銘うちて
百をも超えんワイシャツの
像そのまゝのよき紳士
青き夕陽の寒天や
U字の梨のかなたより
革の手袋はづしつゝ
しづにをくびしあゆみくる。

--〔後記〕--------------------------------------------------

 童話集『注文の多い料理店』は当時の慣習で「総ルビ」をふって
います。全集もそうなっていて、私のサイトでも校本全集版ではル
ビをつけていまが、今回の掲載ではすべてルビを省略しています。

 NHKの朝ドラ「花子とアン」を見ていますが、今1919年あたり
です。3歳下で盛岡高等農林の学生だったの宮沢賢治の青春時代で
もあります。2年後は賢治も東京に出て行きますが、カフェなどに
も顔を出したのでしょうか?

 今回で800回に到達です。長年のご愛読ありがとうございます。
本当に1000回までやれるかどうか、あと4年ですが…。

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--発行--渡辺--宏------- URL    http://why.kenji.ne.jp/
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宮沢賢治 Kenji Review

発行周期:  週刊 最新号:  2018/07/14 部数:  1,004部

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