宮沢賢治 Kenji Review

宮沢賢治 Kenji Review 799

カテゴリー: 2014年06月14日
Kenji Review 799
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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第799号--2014.06.14------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「狼森と笊森、盗森」「〔あな雪か 屠者のひとりは〕」

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ブログ毎日?更新中
http://why0531.sblo.jp/
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--〔話題〕--------------------------------------------------
「狼森と笊森、盗森」
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 今回は「狼森と笊森、盗森」です。この物語では、題名の3つの
森だけではなく、「黒坂森」と合わせて4つの森について語られて
います。

 野原を開墾している農民たちのところから、3回(子供、農具、
粟)がなくなり、それぞれ「狼森と笊森、盗森」で見つかる、とい
うのがこの物語の骨子です。

 それを「黒坂森のまんなかの巨きな巌」が語る、という設定にな
っています。

 「七つ森」や「沼森」などというのも近くにありますが、岩手県
で「森」というと、小さな山のことを指すようです。

 小岩井牧場に行ったとき、事務所から「狼森」が見えていました。
これらの「森」はいずれも岩手山の麓あたり、小岩井牧場の近くに
あります。

 物語の冒頭で、「小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。」
と語られているとおりです。でも、今地図で見ても「狼森」はあり
ますが、残りの「笊森、盗森、黒坂森」は見当たりません。賢治の
創作なのでしょうか。

 と思っていたら、下の欄に紹介しているとおり、盗森と黒坂森は
近所に存在するらしいです。このブログでは「笊森」も紹介されて
いますが、こちらは栗駒山近くのかなり高い山で、別物と考えられ
ます。名前だけ借用したのでしょうか。

 物語では最後に岩手山まで登場します。それで無事騒ぎが収まる
わけですが、全体に牧歌的な雰囲気がただよう話になっています。

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

人と森との原始的な交渉で、自然の順違両面が農民に与へた永い間
の印象です。森が子供らや農具をかくすたびにみんなは「探しに行
くぞお」と叫び森は「来お」と答へました。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 「広告チラシ」の文章ですが、さすがにうまいことを言うもので
すね。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

黒坂森・盗森
http://63927690.at.webry.info/201011/article_30.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 この黒坂森・盗森で滝沢村の山シリーズも28座中27座を登っ
たが、もう1座は陸上自衛隊岩手山演習場の中にある笹森山だけだ
が許可を得るのが難しいらしくそこまでして登る山でも無いので事
実上完歩とする。

 三角点「赤坂」のあと姥屋敷に向かい小学校跡を左に砂利道を行
くと盗森まで着いてしまった。 それじゃあまり面白くないので戻
り歩いて行く事にする。 岩手山や高倉山・秋田駒が綺麗に見える
中を行くと黒坂森と書かれた標柱があるが、ただのヤブでそのまま
通過すると宮沢賢治の童話探訪「狼森・黒坂森・盗森」の石碑があ
る。 そしてもう少し歩くと盗森の標柱がある。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

小岩井農場の文化財 国指定名勝
http://www.koiwai.co.jp/eco/archives/culture/

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 国指定名勝「イーハトーブの風景地」は、宮沢賢治の作品舞台と
なった、岩手県内の7ヶ所を一つの名勝として指定したものです。
複数にまたがり、しかも文学作品が元になっているという、全国で
も他に例のない珍しい名勝となっています。指定されているのは下
記の通りです。

狼森(雫石町)

 童話「狼森と笊森、盗森」に登場する森です。名前の由来は形状
が狼に似ているからとも、実際に狼が住んでいたからともいわれま
す。小岩井農場が出来る前からの古い地名です。

【国指定名勝 イーハトーブの風景地】

●鞍掛山(滝沢村)
     
●七つ森(雫石町)
     
●イギリス海岸(花巻市)
     
●五輪峠(花巻市)
     
●釜淵の滝(花巻市)
     
●種山が原(奥州市、住田町)

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 
--〔狼森と笊森、盗森〕--------------------------------------

     狼森と笊森、盗森

 小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん南が狼
森で、その次が笊森、次は黒坂森、北のはずれは盗森です。

 この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな奇体な名
前がついたのか、それをいちばんはじめから、すつかり知つゐるも
のは、おれ一人だと黒坂森のまんなかの巨きな巌が、ある日、威張
つてこのおはなしをわたくしに聞かせました。

 ずうつと昔、岩手山が、何べんも噴火しました。その灰でそこら
はすつかり埋まりました。このまつ黒な巨きな巌も、やつぱり山か
らはね飛ばされて、今のところに落ちて来たのださうです。

 噴火がやつとしづまると、野原や丘には、穂のある草や穂のない
草が、南の方からだんだん生えて、たうたうそこらいつぱいになり、
それから柏や松も生え出し、しまひに、いまの四つの森ができまし
た。けれども森にはまだ名前もなく、めいめい勝手に、おれはおれ
だと思つてゐるだけでした。するとある年の秋、水のやうにつめた
いすきとほる風が、柏の枯れ葉をさらさら鳴らし、岩手山の銀の冠
には、雲の影がくつきり黒くうつゝてゐる日でした。

 四人の、けらを着た百姓たちが、山刀や三本鍬や唐鍬や、すべて
山と野原の武器を堅くからだにしばりつけて、東の稜ばつた燧石の
山を越えて、のつしのつしと、この森にかこまれた小さな野原にや
つて来ました。よくみるとみんな大きな刀もさしてゐたのです。

 先頭の百姓が、そこらの幻燈のやうなけしきを、みんなにあちこ
ち指さして、
「どうだ。いゝとこだらう。畑はすぐ起せるし、森は近いし、きれ
いな水もながれてゐる。それに日あたりもいゝ。どうだ、俺はもう
早くから、こゝと決めて置いたんだ。」と云ひますと、一人の百姓
は、
「しかし地味はどうかな。」と言ひながら、屈んで一本のすゝきを
引き抜いて、その根から土を掌にふるひ落して、しばらく指でこね
たり、ちよつと嘗めてみたりしてから云ひました。

「うん。地味もひどくよくはないが、またひどく悪くもないな。」

「さあ、それではいよいよこゝときめるか。」

 も一人が、なつかしさうにあたりを見まはしながら云ひました。

「よし、さう決めやう。」いまゝでだまつて立つてゐた、四人目の
百姓が云ひました。

 四人はそこでよろこんで、せなかの荷物をどしんとおろして、そ
れから来た方へ向いて、高く叫びました。

「おゝい、おゝい。こゝだぞ。早く来お。早く来お。」

 すると向ふのすゝきの中から、荷物をたくさんしよつて、顔をま
つかにしておかみさんたちが三人出て来ました。見ると、五つ六つ
より下の子供が九人、わいわい云ひながら走つてついて来るのでし
た。

 そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃へて
叫びました。

「こゝへ畑起してもいゝかあ。」

「いゝぞお。」森が一斉にこたへました。

みんなは又叫びました。

「こゝに家建ててもいゝかあ。」

「ようし。」森は一ぺんにこたへました。

みんなはまた声をそろへてたづねました。

「こゝで火たいてもいいかあ。」

「いゝぞお。」森は一ぺんにこたへました。

みんなはまた叫びました。

「すこし木貰つてもいゝかあ。」

「ようし。」森は一斉にこたへました。

 男たちはよろこんで手をたたき、さつきから顔色を変へて、しん
として居た女やこどもらは、にわかにはしやぎだして、子供らはう
れしまぎれに喧嘩をしたり、女たちはその子をぽかぽか撲つたりし
ました。

 その日、晩方までには、もう萱をかぶせた小さな丸太の小屋が出
来てゐました。子供たちは、よろこんでそのまわりを飛んだりはね
たりしました。次の日から、森はその人たちのきちがひのやうにな
つて、働らいてゐるのを見ました。男はみんな鍬をピカリピカリさ
せて、野原の草を起しました。女たちは、まだ栗鼠や野鼠に持つて
行かれない栗の実を集めたり、松を伐つて薪をつくつたりしました。
そしてまもなく、いちめんの雪が来たのです。

 その人たちのために、森は冬のあいだ、一生懸命、北からの風を
防いでやりました。それでも、小さなこどもらは寒がつて、赤くは
れた小さな手を、自分の咽喉にあてながら、「冷たい、冷たい。」
と云つてよく泣きました。

 春になつて、小屋が二つになりました。

 そして蕎麦と稗とが播かれたやうでした。そばには白い花が咲き、
稗は黒い穂を出しました。その年の秋、穀物がとにかくみのり、新
らしい畑がふえ、小屋が三つになつたとき、みんなはあまり嬉しく
て大人までがはね歩きました。ところが、土の堅く凍つた朝でした。
九人のこどもらのなかの、小さな四人がどうしたのか夜の間に見え
なくなつてゐたのです。

 みんなはまるで、気違ひのやうになつて、その辺をあちこちさが
しましたが、こどもらの影も見えませんでした。

 そこでみんなは、てんでにすきな方へ向いて、一諸に叫びました。

「たれか童〔わらし〕やど知らないか。」

「しらない。」と森は一斉にこたへました。

「そんだらさがしに行くぞお。」とみんなはまた叫びました。

「来お。」と森は一斉にこたへました。

 そこでみんなは色々の農具をもつて、まづ一番ちかい狼森に行き
ました。森へ入りますと、すぐしめつたつめたい風と朽葉の匂とが、
すつとみんなを襲ひました。

 みんなはどんどん踏みこんで行きました。

 すると森の奥の方で何かパチパチ音がしました。

 急いでそつちへ行つて見ますと、すきとほつたばら色の火がどん
どん燃えてゐて、狼〔オイノ〕が九疋、くるくるくる、火のまはり
を踊つてかけ歩いてゐるのでした。

 だんだん近くへ行つて見ると居なくなつた子供らは四人共、その
火に向いて焼いた栗や初茸などをたべてゐました。

 狼はみんな歌を歌つて、夏のまはり燈籠のやうに、火のまはりを
走つてゐました。

 「狼森のまんなかで、
     火はどろどろぱちぱち
     火はどろどろぱちぱち、
     栗はころころぱちぱち、
     栗はころころぱちぱち。

 みんなはそこで、声をそろへて叫びました。

「狼どの狼どの、童しゃど返して呉ろ。」

 狼はみんなびつくりして、一ぺんに歌をやめてくちをまげて、み
んなの方をふり向きました。

 すると火が急に消えて、そこらはにわかに青くしいんとなつてし
まつたので火のそばのこどもらはわあと泣き出しました。

 狼は、どうしたらいゝか困つたといふやうにしばらくきよろきよ
ろしてゐましたが、たうたうみんないちどに森のもつと奥の方へ逃
げて行きました。

 そこでみんなは、子供らの手を引いて、森を出やうとしました。
すると森の奥の方で狼どもが、
「悪く思わないで呉ろ。栗だのきのこだの、うんとご馳走したぞ。」
と叫ぶのがきこえました。みんなはうちに帰つてから粟餅をこしら
へてお礼に狼森へ置いて来ました。

 春になりました。そして子供が十一人になりました。馬が二疋来
ました。畠には、草や腐つた木の葉が、馬の肥と一諸に入りました
ので、粟や稗はまつさをに延びました。

 そして実もよくとれたのです。秋の末のみんなのよろこびやうと
いつたらありませんでした。

 ところが、ある霜柱のたつたつめたい朝でした。

 みんなは、今年も野原を起して、畠をひろげてゐましたので、そ
の朝も仕事に出やうとして農具をさがしますと、どこの家にも山刀
も三本鍬も唐鍬も一つもありませんでした。

 みんなは一生懸命そこらをさがしましたが、どうしても見附かり
ませんでした。それで仕方なく、めいめいすきな方へ向いて、いつ
しよにたかく叫びました。

「おらの道具知らないかあ。」

「知らないぞお。」と森は一ぺんにこたへました。

「さがしに行くぞお。」とみんなは叫びました。

「来お。」と森は一斉に答えました。

 みんなは、こんどはなんにももたないで、ぞろぞろ森の方へ行き
ました。はじめはまづ一番近い狼森に行きました。

 すると、すぐ狼が九疋出て来て、みんなまじめな顔をして、手を
せわしくふつて云ひました。

「無い、無い、決して無い、無い。外をさがして無かつたら、もう
一ぺんおいで。」

 みんなは、尤もだと思つて、それから西の方の笊森に行きました。
そしてだんだん森の奥へはいつて行きますと、一本の古い柏の木の
下に、木の枝であんだ大きな笊が伏せてありました。

「こいつはどうもあやしいぞ。笊森の笊はもつともだが、中には何
があるかわからない。一つあけて見やう。」と云ひながらそれをあ
けて見ますと、中には無くなつた農具が九つとも、ちやんとはいつ
てゐました。

 それどころではなく、まんなかには、黄金色の目をした、顔のま
つかな山男が、あぐらをかいて座つてゐました。そしてみんなを見
ると、大きな口をあけてバアと云ひました。

 子供らは叫んで逃げ出さうとしましたが、大人はびくともしない
で、声をそろえて云ひました。

「山男、これからいたづら止めて呉ろよ。くれぐれ頼むぞ、これか
らいたずら止めで呉ろよ。」

 山男は、大へん恐縮したやうに、頭をかいて立つて居りました。
みんなはてんでに、自分の農具を取つて、森を出て行かうとしまし
た。

 すると森の中で、さつきの山男が、
「おらさも粟餅持つて来て呉ろよ。」と叫んでくるりと向ふを向い
て、手で頭をかくして、森のもつと奥へ走つて行きました。

 みんなはあつはあつはと笑つて、うちへ帰りました。そして又粟
餅をこしらえて、狼森と笊森に持つて行つて置いてきました。

 次の年の夏になりました。平らな処はもうみんな畑です。うちに
は木小屋がついたり、大きな納屋が出来たりしました。

 それから馬も三疋になりました。その秋のとりいれのみんなの悦
びは、とても大へんなものでした。

 今年こそは、どんな大きな粟餅をこさえても、大丈夫だとおもつ
たのです。

 そこで、やつぱり不思議なことが起りました。

 ある霜の一面に置いた朝納屋のなかの粟が、みんな無くなつてゐ
ました。みんなはまるで気が気でなく、一生けん命、その辺をかけ
まわりましたが、どこにも粟は、一粒もこぼれてゐませんでした。

 みんなはがつかりして、てんでにすきな方へ向いて叫びました。

「おらの粟知らないかあ。」

「知らないぞお。」森は一ぺんにこたへました。

「さがしに行くぞ。」とみんなは叫びました。

「来お。」と森は一斉にこたへました。

 みんなは、てんでにすきなえ物を持つて、まづ手近の狼森に行き
ました。

 狼供は九疋共もう出て待つてゐました。そしてみんなを見て、フ
ツと笑つて云ひました。

「今日も粟餅だ。ここには粟なんか無い、無い、決して無い。ほか
をさがしてもなかつたらまたこゝへおいで。」

 みんなはもつともと思つて、そこを引きあげて、今度は笊森へ行
きました。

 すると赤つらの山男は、もう森の入口に出てゐて、にやにや笑つ
て云ひました。

「あわもちだ。あわもちだ。おらはなつても取らないよ。粟をさが
すなら、もつと北に行つて見たらよかべ。」

 そこでみんなは、もつともだと思つて、こんどは北の黒坂森、す
なはちこのはなしを私に聞かせた森の、入口に来て云ひました。

「粟を返して呉ろ。粟を返して呉ろ。」

 黒坂森は形を出さないで、声だけでこたへました。

「おれはあけ方、まつ黒な大きな足が、空を北へとんで行くのを見
た。もう少し北の方へ行つて見ろ。」そして粟餅のことなどは、一
言も云はなかつたさうです。そして全くその通りだつたらうと私も
思ひます。なぜなら、この森が私へこの話をしたあとで、私は財布
からありつきりの銅貨を七銭出して、お礼にやつたのでしたが、こ
の森は仲々受け取りませんでした、この位気性がさつぱりとしてゐ
ますから。

 さてみんなは黒坂森の云ふことが尤もだと思つて、もう少し北へ
行きました。

 それこそは、松のまつ黒な盗森でした。ですからみんなも、
「名からしてぬすと臭い。」と云ひながら、森へ入つて行つて、
「さあ粟返せ。粟返せ。」とどなりました。

 すると森の奥から、まつくろな手の長い大きな大きな男が出て来
て、まるでさけるやうな声で云ひました。

「何だと、おれをぬすとだと。さふ云ふやつは、みんなたゝき潰し
てやるぞ。ぜんたい何の証拠があるんだ。」

「証人がある。証人がある。」とみんなはこたへました。

「誰だ。畜生、そんなこと云ふやつは誰だ。」と盗森は咆えました。

「黒坂森だ。」と、みんなも負けずに叫びました。

「あいつの云ふことはてんであてにならん。ならん。ならん。なら
んぞ。畜生。」と盗森はどなりました。

 みんなももつともだと思つたり、恐ろしくなつたりしてお互に顔
を見合せて逃げ出さうとしました。

 すると俄に頭の上で、
「いやいや、それはならん。」といふはつきりした厳かな声がしま
した。

 見るとそれは、銀の冠をかぶつた岩手山でした。盗森の黒い男は、
頭をかゝへて地に倒れました。

 岩手山はしづかに云ひました。

「ぬすとはたしかに盗森に相違ない。おれはあけがた、東の空のひ
かりと、西の月のあかりとで、たしかにそれを見届けた。しかしみ
んなももう帰つてよからう。粟はきつと返させやう。だから悪く思
はんで置け。一体盗森は、じぶんで粟餅をこさえて見たくてたまら
なかつたのだ。それで粟も盗んで来たのだ。はつはつは。」

 そして岩手山は、またすましてそらを向きました。男はもうその
辺に見えませんでした。

 みんなはあつけにとられてがやがや家に帰つてみましたら、粟は
ちゃんと納屋に戻つてゐました。そこでみんなは、笑つて粟もちを
こしらえて、四つの森に持つて行きました。

 中でもぬすと森には、いちばんたくさん持つて行きました。その
代り少し砂がはいつてゐたさうですが、それはどうも仕方なかつた
ことでせう。

 さてそれから森もすつかりみんなの友だちでした。そして毎年、
冬のはじめにはきつと粟餅を貰ひました。

 しかしその粟餅も、時節がら、ずゐぶん小さくなつたが、これも
どうも仕方がないと、黒坂森のまん中のまつくろな巨きな巌がおし
まひに云つてゐました。

--〔文語詩稿五十編(30)〕----------------------------------
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(本文)
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     〔あな雪か 屠者のひとりは〕

「あな雪か。」屠者のひとりは、 みなかみの闇をすかしぬ。

車押すみたりはうみて、     えらひなく橋板ふみぬ。

「雉なりき青く流れし。」    声またもわぶるがごとき。

落合に水の声して、       老いの屠者たゞ舌打ちぬ。 

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(定稿推敲前)
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「あな雪か。」屠者のひとりは、 みなかみの闇をすかしぬ。

車押すみたりはうみて、     えらひなく橋板ふみぬ。

「雉なりき青く流れし。」    屠者の声わぶるがごとき。

落合に鴨の声して、       老いの屠者たゞ舌打ちぬ。 

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲後)
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「あな雪か」屠者のひとりは
みなかみの闇をすかしぬ

車押すみたりはうみ
えらひなく橋板ふみぬ

「山鳥よ青く流るは」
屠者の声わぶるがごとき

車押す老いのもろびと
えらひなくたゞ舌打ちぬ。 

------------------------------------------------------------
(下書稿3推敲前)
------------------------------------------------------------

「あな雪か」屠者のひとりは
みなかみの闇をすかしぬ

車押すみたりはうみ
えらひなく橋板ふみぬ

「山鳥よ青く流れし」
車押す屠主はいかりぬ

車押す老いのもろびと
えらひなくたゞ舌打ちぬ。 

------------------------------------------------------------
(下書稿2推敲後)
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「あな雪か」屠者のひとりは
みなかみのやみをすかしぬ

車押すみたりは倦み
えらひなくたゞあしぶみぬ

「山鳥よ青く流るは」
車押すひとりは答ふ

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(下書稿2推敲前)
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天霧す夜のさなかを
車ひき 橋わたる群

「あな雪か」屠者のひとりは
みなかみのそらをすかしぬ

車押すみたりは倦み
えらひなくたゞ霧ふれり

「山鳥か青びかりせし」
かのひとり謝するに似たり

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(下書稿1推敲後「冬のスケッチ」第25葉右半第1章)
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天霧らす夜のさなかを
白き巾かしらに巻きて
と者二人橋を来れり
霧雨の黒きかなたに
一すじの青びかりあり
「あな雪か」一人は立ちて
いぶかれるかたちをなしぬ
「いなそらよ落ちものこれる
たそがれの青のひとひら」
一人やゝ倦みたるこはね
かの一人ほのかにわらひ
落合に鷺鳴きにけり

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(下書稿1推敲前「冬のスケッチ」第25葉右半第1章)
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きりあめのよるの中より
一すじ西の青びかり、
はじめは雪とあざわらひ
びがては知りつ落ちのこり
薄明穹のひとかけと
ほのかにわらひ人行けり

--〔後記〕--------------------------------------------------

 先週の小学校の同窓会は、卒業生約180名のところ、50人ほ
どが集まり、盛況でした。私も無事参加してきましたが、二次会ま
では無理でした。

 そのとき、昔のアルバムの集合写真を拡大して会場に貼ってあっ
たのですが、私の顔を探すと、どうも私の顔だけピンぼけしていま
す。写真を撮るとき動いたらしいですが、どうもアホの子みたいで
ショックを受けました。成績は一番よかったはずなのに、そうは見
えない子だったようです。

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発行周期:  週刊 最新号:  2018/07/14 部数:  1,003部

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