宮沢賢治 Kenji Review

宮沢賢治 Kenji Review 798

カテゴリー: 2014年06月07日
Kenji Review 798
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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第798号--2014.06.07------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「どんぐりと山猫」「〔水霜繁く霧たちて〕」

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ブログ毎日?更新中
http://why0531.sblo.jp/
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--〔話題〕--------------------------------------------------
「どんぐりと山猫」
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 童話集『注文の多い料理店』最初の作品はおなじみの「どんぐり
と山猫」です。案外短くて、今回一回で掲載です。

 この作品は、次のように場面が別れています。

(1)一郎の家におかしなハガキが来る。

(2)森に入って山猫を探す。

(3)どんぐりの裁判

(4)不思議な場所からの帰宅

 一番長いのはもちろん裁判の場面ですが、(2)も何度も繰り返
し山猫を探す場面があります。

 「どんぐりの裁判」という「異界」に入る儀式のようなものなの
でしょうか。

 そして「異界」から帰ってくると、「黄金のどんぐり」が普通の
どんぐりに変わってしまいます。

 この世界の「どんぐり」は、丸いのや長いのなど、いろいろな種
類があって、一種類のどんぐりではないようです。

 私の育ったあたりでは「ウバメガシ」が圧倒的に優勢で、「バベ」
と呼ばれていました。そんな中「どんぐり」というと大きくて丸い
クヌギの実のことでした。

 今でもこの物語の「どんぐり」というと、小ぶりで細く、先のと
がった「バベ」をイメージするのですが、大きさはともかく、丸い
「バベ」などありませんので、何だか変な感じです。

 いろんなどんぐり類が混在する東北の環境と、ウバメガシ全盛に
なる照葉樹林の環境とは違うのだと、改めて思います。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

2013.7.31
園長先生の月曜礼拝の法話

『もうひとつのものさし』 
~宮沢賢治の童話『どんぐりと山猫』より~

http://ww41.tiki.ne.jp/~nankobo/contents5enchounohouwa.html
--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 今日は月曜礼拝で読んでもらう絵本の中にある『どんぐりと山猫』
というお話です。

 ある日、小学生の一郎は手紙をもらいます。山猫からの手紙で、
面倒な裁判があるので来て下さい、ということでした。そして、一
郎は裁判の日に裁判官の山猫に会いに行きます。するとそこには、  

「誰が一番偉いか」と、けんかばかりしているたくさんのどんぐり
達がいました。

「なんといったって頭のとがっているのがえらいんです。私が一番
とがっています。」

「いいえ、まるいのが一番えらいんです。わたしが一番まるいんで
す。」

「大きいことがえらいんだよ。私が一番大きいから私が一番えらい
んだよ。」

「いや、背が高いのがえらいんだよ。」「力が強いのがえらいんだ
よ。」

 山猫の裁判官は一郎に聞きます。「こんな状態です。どうしたら
いいでしょう。」

 一郎の答えを聞いて、山猫の裁判官は申しわたしをします。

「よろしい、しずかにしろ。申しわたしだ。この中で、一番えらく
なくて、ばかで、てんでなってなくて、あたまのつぶれたようなや
つが、一番えらいのだ。」

 どんぐりはしいんとしてしまいました。しいんとして、かたまっ
てしまいました。

☆ほとけさまなら、なんていう?

 みなさんはこのお話を聞いて、どう思いましたか。それでもやっ
ぱりあたまのとんがっているのが一番えらいどんぐりだと思います
か。大きいのがえらいと思いますか。そう思う人もいるかもしれま
せんね。でも、何がえらいかは人によって違うんじゃありませんか。

 私たちは誰でも自分の考え方があります。それは一人ひとりみん
な少しずつ違っています。もし誰かが「偉いかどうか、わしが決め
る。」といったらどうなるでしょう。あなたは、もしかしたらその
人に「おまえはえらくない」と言われてしまうかもしれませんね。

 ほとけさまなら、どのように教えてくれるでしょう。

「えらい、えらくない、なんて、誰にも決められない。頭がとがっ
ている、丸い、大きい、力が強い、という違いがある、ただそれだ
けですよ。」

 えらい、えらくない、というのはひとまず置いておいて、ありの
ままの事を知ることが、ほとけさまの智慧のはたらきなのです。

 私たちはつい、自分の考え方が一番正しいと思ってしまいます。
まるいのが良い、大きいのが良い、とがっているのが良い・・・。
それはそれで良いのですが、それだけではなく、ありのままの事を
知る、というほとけさまの智慧の目、『もうひとつのものさし』と
してはどうですか。自分が、自分が、という自己中心な姿を知って
しまえば、自己中心な心が、消えていくでしょう。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

 
--〔どんぐりと山猫〕--------------------------------

     どんぐりと山猫

 おかしなはがきが、ある土曜日がた、一郎のうちにきました。 
 
   かねた一郎さま 九月十九日
   あなたは、ごきげんよろしいほで、けつこです。
   あした、めんどなさいばんしますから、おいで
   んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
                   山ねこ 拝 

 
 こんなのです。字はまるでへたで、墨もがさがさして指につくく
らゐでした。けれども一郎はうれしくてうれしくてたまりませんで
した。はがきをそつと学校のかばんにしまつて、うちぢうとんだり
はねたりしました。

 ね床にもぐつてからも、山猫のにやあとした顔や、そのめんだう
だといふ裁判のけしきなどを考へて、おそくまでねむりませんでし
た。

 けれども、一郎が眼をさましたときは、もうすつかり明るくなつ
てゐました。おもてにでてみると、まはりの山は、みんなたつたい
まできたばかりのやうにうるうるもりあがつて、まつ青なそらのし
たにならんでゐました。一郎はいそいでごはんをたべて、ひとり谷
川に沿つたこみちを、かみの方へのぼつて行きました。

 すきとほつた風がざあつと吹くと、栗の木はばらばらと実をおと
しました。一郎は栗の木をみあげて、
「栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかつたかい。」ときき
ました。栗の木はちょつとしづかになつて、「やまねこなら、けさ
はやく、馬車でひがしの方へ飛んで行きましたよ。」と答へました。

「東ならぼくのいく方だねえ、おかしいな、とにかくもつといつて
みやう。栗の木ありがとう。」

 栗の木はだまつてまた実をばらばらとおとしました。

 一郎がすこし行きますと、そこはもう笛ふきの滝でした。笛ふき
の滝といふのは、まつ白な岩の崖のなかほどに、小さな穴があいて
ゐて、そこから水が笛のやうに鳴つて飛び出し、すぐ滝になつて、
ごうごう谷におちてゐるのをいふのでした。

 一郎は滝に向いて叫びました。

「おいおい、笛ふき、やまねこがここを通らなかつたかい。」滝が
ぴーぴー答へました。

「やまねこは、さつき、馬車で西の方へ飛んで行きましたよ。」

「おかしいな、西ならぼくのうちの方だ。けれども、まあも少し行
つてみやう。ふえふき、ありがたう。」

 滝はまたもとのやうに笛を吹きつゞけました。

 一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、たくさ
んの白いきのこが、どつてこどつてこどつてこと、変な楽隊をやつ
てゐました。

 一郎はからだをかがめて、
「おい、きのこ、やまねこが、こゝを通らなかつたかい。」ときき
ました。するときのこは、
「やまねこなら、けさはやく、馬車で南の方へ飛んで行きましたよ。」
とこたへました。一郎は首をひねりました。

「みなみならあつちの山のなかだ。おかしいな。まあもすこし行つ
てみやう。きのこ、ありがたう。」

 きのこはみんないそがしさうに、どつてこどつてこと、あのへん
な楽隊をつづけました。

 一郎はまたすこし行きました。すると一本のくるみの木の梢を、
栗鼠がぴよんととんでゐました。一郎はすぐ手まねぎしてそれをと
めて、
「おい、りす、やまねこがここを通らなかつたかい。」とたづねま
した。するとりすは、木の上から、額に手をかざして、一郎を見な
がらこたへました。

「やまねこなら、けさまだくらいうちに馬車でみなみの方へ飛んで
行きましたよ。」

「みなみへ行つたなんて、二とこでそんなことを言ふのはおかしい
なあ。けれどもまあもすこし行つてみやう。りす、ありがたう。」
りすはもう居ませんでした。たゞくるみのいちばん上の枝がゆれ、
となりのぶなの葉がちらつとひかつただけでした。

 一郎がすこし行きましたら、谷川にそつたみちは、もう細くなつ
て消えてしまひました。そして谷川の南の、まつ黒な榧の木の森の
方へ、あたらしいちいさなみちがついてゐました。一郎はそのみち
をのぼつて行きました。榧の枝はまつくろに重なりあつて、青ぞら
は一きれも見えず、みちは大へん急な坂になりました。一郎が顔を
まつかにして、汗をぽとぽとおとしながら、その坂をのぼりますと、
にはかにぱつと明るくなつて、眼がちくつとしました。そこはうつ
くしい黄金いろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、まはりは立派な
オリーヴいろのかやの木のもりでかこまれてありました。

 その草地のまん中に、せいの低いおかしな形の男が、膝を曲げて
手に革鞭をもつて、だまつてこつちをみてゐたのです。

 一郎はだんだんそばへ行つて、びつくりして立ちどまつてしまひ
ました。その男は、片眼で、見えない方の眼は、白くびくびくうご
き、上着のやうな半天のやうなへんなものを着て、だいいち足が、
ひどくまがつて山羊のやう、ことにそのあしさきときたら、ごはん
をもるへらのかたちだつたのです。一郎は気味が悪かつたのですが、
なるべく落ちついてたづねました。

「あなたは山猫をしりませんか。」

 するとその男は、横眼で一郎の顔を見て、口をまげてにやつとわ
らつて言ひました。

「山ねこさまはいますぐに、こゝに戻つてお出やるよ。おまへは一
郎さんだな。」

 一郎はぎょつとして、一あしうしろにさがつて、
「え、ぼく一郎です。けれども、どうしてそれを知つてますか。」
と言ひました。するとその奇体な男はいよいよにやにやしてしまひ
ました。

「そんだら、はがき見だべ。」

「見ました。それで来たんです。」

「あのぶんしやうは、ずゐいぶん下手だべ。」と男は下をむいてか
なしさうに言ひました。一郎はきのどくになつて、
「さあ、なかなか、ぶんしやうがうまいやうでしたよ。」と言ひま
すと、男はよろこんで、息をはあはあして、耳のあたりまでまつ赤
になり、きものゝえりをひろげて、風をからだに入れながら、「あ
の字もなかなかうまいか。」ときゝました。一郎は、おもはず笑ひ
だしながら、へんじしました。

「うまいですね。五年生だつてあのくらゐには書けないでせう。」

 すると男は、急にまたいやな顔をしました。

「五年生つていふのは、尋常五年生だべ。」その声が、あんまり力
なくあはれに聞えましたので、一郎はあはてゝ言ひました。

「いゝえ、大学校の五年生ですよ。」

 すると、男はまたよろこんで、まるで、顔ぢう口のやうにして、
にたにたにたにた笑つて叫びました。

「あのはがきはわしが書いたのだよ。」一郎はおかしいのをこらえ
て、
「ぜんたいあなたはなにですか。」とたづねますと、男は急にまじ
めになつて、
「わしは山ねこさまの馬車別当だよ。」と言ひました。

 そのとき、風がどうと吹いてきて、草はいちめん波だち、別当は、
急にていねいなおぢぎをしました。

 一郎はおかしいとおもつて、ふりかへつて見ますと、そこに山猫
が、黄いろな陣羽織のやうなものを着て、緑いろの眼をまん円にし
て立つてゐました。やつぱり山猫の耳は、立つて尖つているなと、
一郎がおもひましたら、山ねこはぴよこつとおぢぎをしました。一
郎もていねいに挨拶しました。

「いや、こんにちは、きのふははがきをありがたう。」

 山猫はひげをぴんとひつぱつて、腹をつき出して言ひました。

「こんにちは、よくいらつしやいました。じつはおとゝひから、め
んだうなあらそひがおこつて、ちよつと裁判にこまりましたので、
あなたのお考へを、うかがいたひとおもひましたのです。まあ、ゆ
つくり、おやすみください。ぢき、どんぐりどもがまゐりませう。
どうもまい年、この裁判でくるしみます。」山ねこは、ふところか
ら、巻煙草の箱を出して、じぶんが一本くわい、
「いかゞですか。」と一郎に出しました。一郎はびつくりして、
「いゝえ。」と言ひましたら、山猫はおほやうにわらつて、「ふゝ
ん、まだお若いから、」と言ひながら、マツチをしゆつと擦つて、
わざと顔をしかめて、青いけむりをふうと吐きました。山ねこの馬
車別当は、気を付けの姿勢で、しやんと立つてゐましたが、いかに
も、たばこのほしいのをむりにこらえてゐるらしく、なみだをぼろ
ぼろこぼしました。

 そのとき、一郎は、足もとでパチパチ塩のはぜるやうな、音をき
ゝました。びつくりして屈んで見ますと、草のなかに、あつちにも
こつちにも、黄金いろの円いものが、ぴかぴかひかつてゐるのでし
た。よくみると、みんなそれは赤いずぼんをはいたどんぐりで、も
うその数ときたら、三百でも利かないやうでした。わあわあわあわ
あ、みんななにか云つてゐるのです。

「あ、来たな。蟻のやうにやつてくる。おい、さあ、早くベルを鳴
らせ。今日はそこが日当たりがいゝから、そこのとこの草を刈れ。」
やまねこは巻たばこを投げすてゝ、大いそぎで馬車別当にいひつけ
ました。馬車別当もたいへんあわてゝ、腰から大きな鎌をとりだし
て、ざつくざつくと、やまねこの前のとこの草を刈りました。そこ
へ四方の草のなかから、どんぐりどもが、ぎらぎらひかつて、飛び
出して、わあわあわあわあ言ひました。

 馬車別当が、こんどは鈴をがらんがらんがらんがらんと振りまし
た。音はかやの森に、がらんがらんがらんがらんとひゞき、黄金の
どんぐりどもは、すこししづかになりました。見ると山ねこは、も
ういつか、黒い長い繻子の服を着て、勿体らしく、どんぐりどもの
前にすわつてゐました。まるで奈良のだいぶつさまにさんけいする
みんなの絵のやうだと一郎はおもひました。別当がこんどは、革鞭
を二三べん、ひゆうぱちつ、ひゆう、ぱちつと鳴らしました。

 空が青くすみわたり、どんぐりはぴかぴかしてじつにきれいでし
た。

「裁判ももう今日で三日目だぞ、いゝ加減になかなほりをしたらど
うだ。」山ねこが、すこし心配さうに、それでもむりに威張つて言
ひますと、どんぐりどもは口々に叫びました。

「いえいえ、だめです、なんといつたつて頭のとがつてるのがいち
ばんえらいんです。そしてわたしがいちばんとがつてゐます。」

「いいえ、ちがひます。まるいのがえらいのです。いちばんまるい
のはわたしです。」

「大きなことだよ。大きなのがいちばんえらいんだよ。わたしがい
ちばん大きいからわたしがえらいんだよ。」

「さうでないよ。わたしのはうがよほど大きいと、きのふも判事さ
んがおつしやつたぢやないか。」

「だめだい、そんなこと。せいの高いのだよ。せいの高いことなん
だよ。」

「押しつこのえらいひとだよ。押しつこをしてきめるんだよ。」も
うみんな、がやがやがやがや言つて、なにがなんだか、まるで蜂の
巣をつゝついたやうで、わけがわからなくなりました。そこでやま
ねこが叫びました。

「やかましい。こゝをなんとこゝろえる。しづまれ、しづまれ。」

 別当がむちをひゆうぱちつとならしましたのでどんぐりどもは、
やつとしづまりました。やまねこは、ぴんとひげをひねつて言ひま
した。

「裁判ももうけふで三日目だぞ。いゝ加減に仲なほりしたらどうだ。」

 すると、もうどんぐりどもが、くちぐちに云ひました。

「いえいえ、だめです。なんといつたつて、頭のとがつてゐるのが
いちばんえらいのです。」

「いゝえ、ちがひます。まるいのがえらいのです。」

「さうでないよ。大きなことだよ。」がやがやがやがや、もうなに
がなんだかわからなくなりました。山猫が叫びました。

「だまれ、やかましい。こゝをなんと心得る。しづまれしづまれ。」
別当が、むちをひゆうぱちつと鳴らしました。山猫がひげをぴんと
ひねつて言ひました。

「裁判ももうけふで三日目だぞ。いゝ加減になかなほりをしたらど
うだ。」

「いえ、いえ、だめです。あたまのとがつたものが……。」がやが
やがやがや。

 山ねこが叫びました。

「やかましい。こゝをなんとこゝろえる。しづまれ、しづまれ。」
別当が、むちをひゆうぱちつと鳴らし、どんぐりはみんなしづまり
ました。山猫が一郎にそつと申しました。

「このとほりです。どうしたらいゝでせう。」一郎はわらつてこた
へました。

「そんなら、こう言ひわたしたらいゝでせう。このなかでいちばん
ばかで、めちやくちやで、まるでなつてゐないやうなのが、いちば
んえらいとね。ぼくお説教できいたんです。」山猫はなるほどとい
ふふうにうなづいて、それからいかにも気取つて、繻子のきものゝ
胸を開いて、黄いろの陣羽織をちよつと出して、どんぐりどもに申
しわたしました。

「よろしい。しづかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばん
えらくなくて、ばかで、めちやくちやで、てんでなつてゐなくて、
あたまのつぶれたやうなやつが、いちばんえらいのだ。」

 どんぐりは、しいんとしてしまひました。それはそれはしいんと
して、堅まつてしまひました。

 そこで山猫は、黒い繻子の服をぬいで、額の汗をぬぐひながら、
一郎の手をとりました。別当も大よろこびで、五六ぺん、鞭をひゆ
うぱちつ、ひゆうぱちつ、ひゆうひゆうぱちつと鳴らしました。や
まねこが言ひました。

「どうもありがたうございました。これほどのひどい裁判を、まる
で一分半でかたづけてくださいました。どうかこれからわたしの裁
判所の、名誉判事になつてください。これからも、葉書が行つたら、
どうか来てくださいませんか。そのたびにお礼はいたします。」

「承知しました。お礼なんかいりませんよ。」

「いゝえ、お礼はどうかとつてください。わたしのじんかくにかゝ
はりますから。そしてこれからは、葉書にかねた一郎どのと書いて、
こちらを裁判所としますが、ようございますか。」

 一郎が「えゝ、かまひません。」と申しますと、山猫はまだなに
か言ひたさうに、しばらくひげをひねつて、眼をぱちぱちさせてゐ
ましたが、たうたう決心したらしく言ひ出しました。

「それから、はがきの文句ですが、これからは、用事これありに付
き、明日出頭すべしと書いてどうでせう。」

 一郎はわらつて言ひました。

「さあ、なんだか変ですね。そいつだけはやめた方がいゝでせう。」

 山猫は、どうも言ひやうがまづかつた、いかにも残念だといふふ
うに、しばらくひげをひねつたまゝ、下を向いてゐましたが、やつ
とあきらめて言ひました。

「それでは、文句はいまゝでのとほりにしませう。そこで今日のお
礼ですが、あなたは黄金のどんぐり一升と、塩鮭のあたまと、どつ
ちをおすきですか。」

「黄金のどんぐりがすきです。」

 山猫は、鮭の頭でなくて、まあよかつたといふやうに、口早に馬
車別当に云ひました。

「どんぐりを一升早くもつてこい。一升にたりなかつたら、めつき
のどんぐりもまぜてこい。はやく。」

 別当は、さつきのどんぐりをますに入れて、はかつて叫びました。

「ちようど一升あります。」山ねこの陣羽織が風にばたばた鳴りま
した。そこで山ねこは、大きく延びあがつて、めをつぶつて、半分
あくびをしながら言ひました。

「よし、はやく馬車のしたくをしろ。」白い大きなきのこでこしら
えた馬車が、ひつぱりだされました。そしてなんだかねずみいろの、
おかしな形の馬がついてゐます。

「さあ、おうちへお送りいたしませう。」山猫が言ひました。二人
は馬車にのり別当は、どんぐりのますを馬車のなかに入れました。

 ひゆう、ぱちつ。

 馬車は草地をはなれました。木や藪がけむりのやうにぐらぐらゆ
れました。一郎は黄金のどんぐりを見、やまねこはとぼけたかほつ
きで、遠くを見てゐました。

 馬車が進むにしたがつて、どんぐりはだんだん光がうすくなつて、
まもなく馬車がとまつたときは、あたりまへの茶いろのどんぐりに
変つてゐました。そして、山ねこの黄いろな陣羽織も、別当も、き
のこの馬車も、一度に見えなくなつて、一郎はじぶんのうちの前に、
どんぐりを入れたますを持つて立つてゐました。

 それからあと、山ねこ拝といふはがきは、もうきませんでした。
やつぱり、出頭すべしと書いてもいゝと言へばよかつたと、一郎は
ときどき思ふのです。

--〔文語詩稿五十編(29)〕----------------------------------
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(本文)
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     〔水霜繁く霧たちて〕

水霜繁く霧たちて、 すすきは濡〔そほ〕ぢ幾そたび、
馬はこむらをふるはしぬ。
 
(荷縄を投げよはや荷縄)
 
 
雉子鳴くなりその雉子、 人なき家の暁を、
歩み漁りて叫ぶらし。

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(下書稿推敲後)
------------------------------------------------------------

水霜繁く霧たちて
すゝきは濡〔そほ〕ぢ幾そたび
馬はこむらをふるはしぬ
 
 縄を投げよ!
 
(荷縄を投げよ はや荷縄)
熊野の森を行くころは
雲ののろしものぼらんを
雉子〔きぎす〕鳴くなりその雉子
人なき家の暁を
歩み漁りて叫ぶらし

------------------------------------------------------------
(下書稿推敲前)
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水霜繁く霧たちて
すゝきはそぼち幾そたび
馬はこぶらをふるはしぬ
 
 縄を投げよ!
 
(荷縄を投げよ その荷縄)
雲ののろしの昇るころ
ひかりを浴みて帰らんを
雉子〔きぎす〕ぞ鳴くなるその雉子
人なき家の暁を
歩み漁りて叫ぶらし


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(先駆形口語詩「七三九〔霧がひどくて手が凍えるな」)
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七三九
     〔霧がひどくて手が凍えるな〕
                    一九二六、九、一三、

霧がひどくて手が凍えるな
 ……馬もぶるっとももをさせる……
縄をなげてくれ縄を
 ……すすきの穂も水霜でぐっしょり
   あゝはやく日が照るといゝ……
雉子が啼いている 雉子が
おまへの家のなからしい
 ……誰も居なくなった家のなかを
   餌を漁って大股にあるきながら
   雉子が叫んでゐるのだらうか……

--〔後記〕--------------------------------------------------

 今度の日曜日は小学校の同窓会があります。小学校卒業が東京オ
リンピックのあった1964年ですので、ちょうど50年ぶりに初めての
同窓会というわけです。都会ではないので、その間みんなどこでど
うしているか、結構わかっているようですが、私も地元に住み続け
ているのですが、そういう情報はどうも蚊帳の外です。

 でも、退院して2ヶ月、何とか参加できそうなのでよかったです。

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