宮沢賢治 Kenji Review

宮沢賢治 Kenji Review 394

カテゴリー: 2006年09月09日
Kenji Review 394
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--宮沢賢治---Kenji-Review-----------------------------------
-----------------------------------第394号--2006.09.09------
--〔今週の内容〕--------------------------------------------

「グスコーブドリの伝記(9)」「バナナン大将の行進歌」

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http://www.kenji.ne.jp/

(連載)杜仲茶/日付入力/日付入力2
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--〔話題〕--------------------------------------------------
「グスコーブドリの伝記(9)」
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 いよいよこの物語も最終章です。有名な自己犠牲の場面です。で
も、改めて読んでみると、意外なほどあっさりとした文章です。

 「すつかり仕度ができると、ブドリはみんなを船で帰してしまつ
て、じぶんは一人島に残りました。/そしてその次の日、イーハト
ーブの人たちは、青ぞらが緑いろに濁り、日や月が銅いろになつた
のを見ました。」

 グスコープドリの死の場面は文章上は描かれていないのですね。
それどころか火山の爆発も間接的な表現になっています。

 見落としがちなところですが、最終章でテグス工場の主人と沼ば
たけの百姓とがもう一度語られます。この人たちもクーボー大博士
やペンネン技師とならんで、ブドリの恩人たちです。

 話のすすみ具合は非常に早いのに、こうして逆に落ち着いた雰囲
気の文章で、話はしめくくられています。

 二酸化炭素の「温室効果」については、このごろよく話題になり
ます。地球は太陽からかなりの量のエネルギーを受けています。人
類が使っている総エネルギーは、この太陽からくるエネルギーの1
%に満たないのだそうです。ところが大気の温室効果がなければ、
そのほとんどが再び宇宙に出ていってしまいます。水蒸気や二酸化
炭素は温室効果の強い物質なのです。

 この二酸化炭素の温室効果に着目し、飢饉救済の手段として考え
たあたりはさすがに科学者宮沢賢治です。実際には二酸化炭素が増
えてもそんなに急には温度はあがりません。また、火山の爆発は太
陽の光を遮り、温度を下げる効果があるとされています。細かい点
では正しくないのですが、一つのアイデアをネタに物語を作るのは
SF作品の常套手段です。

 衆生の済度という宗教者の夢と科学による自然災害の克服という
科学者の夢がこの作品になったように思います。人知れず死ぬこと
でこの夢が実現するとしたら、どんなにすばらしいか…。

--〔BookMark〕----------------------------------------------

カルボナード島越駅(しまのこし)
http://www.sanrikutetudou.com/service_info/stations/north/siko_st.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 岩手県といえば宮沢賢治。メルヘンチックな駅舎は、賢治の童話
「グスコーブドリの伝記」から名付けられました。ブドリがその身
を投げ打って爆発させたカルボナード火山島。

 駅を出るとすぐ目の前に島越海水浴場がひろがっています。歩い
て5分位のところに、「北山崎めぐりの観光船」発着港があり、豪
快な海岸線を仰ぐ観光船の旅は、感動も一際です。 

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

「グスコーブドリの伝記」より
http://www.kenji.gr.jp/kaiho/kaiho29/index.html#D

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 さて、この作品についてある文学者は賢治の農村活動に奉仕した
自伝的要素にみちたものだといい、ある文学者は、きわめて宗教的
感覚の強いものだといい、ある文学者は、社会主義的傾向を有する
作品だと評し、そして、ある文学者は、やや遊びに近い手法で、文
学とはいえないと批判しました。

 そういった文学的評価の是非は、私にはわかりませんが、少なく
とも科学的立場からこの作品をみるならば、

 (1)″火山噴火の予知″という、現代的テーマがもりこまれて
いること、(2)自然改造という問題にアプローチしていること、
(3)″科学の夢″をフルに追っていること、(4)「農民に役立
つ科学を」というねがいが込められていること−−など、賢治のす
ぐれた科学者としての姿勢がにじみでている作品だと思わざるをえ
ません。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

宮沢賢治
http://www.asahi-net.or.jp/~pb5h-ootk/pages/M/miyazawakenji.html

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 賢治が生まれた年三陸海岸に大津波があった。

 押し寄せた波の頭にのって短く辛苦な期間を激しく生きた賢治は、
昭和6年、東京で倒れ、遺書を書いた。「この一生の間どこのどん
な子供も受けないやうな厚いご恩をいただきながら、いつも我慢で
お心に背きたうたうこんなことになりました。今生で万分の一もつ
いにお返しできませんでしたご恩はきっと次の生でご報じいたした
いとそれのみを念願いたします。どうかご信仰といふのではなくて
もお題目で私をお呼びだしください。そのお題目で絶えずおわび申
しあげお答えいたします。/九月二一日/賢治/父上様/母上様」----
二年後の同じ日、急性肺炎のため彼は死んだ。

 その年にも三陸沿岸に大津波があった。

 農学校跡のぎんどろ公園をぬけた坂道の中途に身照寺はある。見
上げた石段のなお上に、枝垂れ桜の葉群が宙に溶け込んでいた。杉
木立を日傘にある五輪の塔は、墓域に敷き詰められた芝生の反射光
をあびて明るく輝き、イーハトヴのフィールドの青い青い空には二
筋の飛行機雲が放射状にのびていった。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

地球温暖化
http://www.s-yamaga.jp/kankyo/kankyo-kankyo-3-2b.htm

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 宮沢賢治は、童話「グスコーブドリの伝記」(1932年)の主人公
ブドリに、イーハトーブの冷害を防ぐため、火山を人為的に爆発さ
せ、噴出する二酸化炭素の温室効果を使わせようとしている。もっ
とも最近では、火山の大噴火はエアロゾル<火山灰や硫酸ミストの
ような大気中の浮遊粒子状物質>の日傘効果のため、気温の低下を
招くと考えられている。この話でも、まだ子供だったブドリとその
家族が離散することになる大飢饉の年は「お日さまが春から変に白
くて」とあるが、それはどこかの火山の噴火による日傘効果のため
ともとれる。もっとも火山が噴出する二酸化炭素が地球を暖めるこ
ともあるようで、今から3億年前ころの石炭紀は火山の噴火が活発
で、そのためか大気中の二酸化炭素の濃度は現在の10倍程度もあり、
気温も10℃ほど高かったという。恐竜が繁栄した中生代もそういう
傾向にあったらしい。

 ともかく、初期型の「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
(1922年ごろ?)ではまだ温室効果のアイディアは使われていない
が(内容的にも使うような話ではないが)、原型の「グスコンブド
リの伝記」(1926年以降?)では使われている。たぶんこの間に、
温室効果についての知識を手に入れたのだろう。二酸化炭素の温室
効果を最初に学術論文で言及したのは、スウェーデン人のアレニウ
スという化学者・天文学者で、1896年のことなのに、インターネッ
トもない時代に賢治はどのようして、正確な情報を素早く得ていた
のだろう。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

石は語る
http://www.jia-tokai.org/sibu/architect/2002/0207/isi.htm

--〔↓引用はじめ〕------------------------------------------

 黒いダイヤと言われた石炭は、昭和30年代の重要なエネルギー資
源でした。ダイヤモンドの中には真っ黒で、…一見、石炭のような
ものもあります。石炭もダイヤモンドも化学組成は同じ炭素(C)な
ので、黒いダイヤモンドがあっても不思議ではありません。カルボ
ナード(carbonard)と名付けられたこの黒いダイヤモンドをボーリ
ングマシーンなどの切削工具に使うと、ふつうのダイアモンドより
も壊れにくいという特長があり珍重されています。カルボナード・
ダイヤモンドは普通のダイヤモンドのように正八面体の結晶(単結
晶)ではなく、0.01mサイズの微粒ダイヤモンドの集合体(多結晶)
なので、衝撃に強いと考えられています。

--〔↑引用おわり〕------------------------------------------

--〔今週の作品〕--------------------------------------------

     グスコーブドリの伝記(つづき)

九、カルボナード島 

 それからの五年は、ブドリにはほんたうに楽しいものでした。赤
鬚の主人の家にも何べんもお礼に行きました。

 もうよほど年を老つてゐましたが、やはり非常な元気で、こんど
は毛の長い兎を千疋以上飼つたり、赤い甘藍ばかり畑に作つたり、
相変らずの山師はやつてゐましたが、暮しはずうつといゝやうでし
た。

 ネリには、可愛らしい男の子が生れました。冬に仕事がひまにな
ると、ネリはその子にすつかりこどもの百姓のやうなかたちをさせ
て、主人といつしよに、ブドリの家に訪ねて来て、泊まつて行つた
りするのでした。

 ある日、ブドリのところへ、昔てぐす飼ひの男にブドリといつし
よに使はれてゐた人が訪ねて来て、ブドリたちのお父さんのお墓が
森のいちばんはづれの大きな榧の木の下にあるといふことを教へて
行きました。それは、はじめ、てぐす飼ひの男が森に来て、森ぢゆ
うの樹を見てあるいたとき、ブドリのお父さんたちの冷たくなつた
からだを見附けて、ブドリに知らせないやうに、そつと土に埋めて、
上へ一本の樺の枝をたてゝ置いたといふのでした。ブドリは、すぐ
ネリたちをつれてそこへ行つて、白い石灰岩の墓をたてて、それか
らもその辺を通るたびにいつも寄つてくるのでした。

 そしてちようどブドリが二十七の年でした。どうもあの恐ろしい
寒い気候がまた来るやうな模様でした。測候所では、太陽の調子や
北の方の海の氷の様子からその年の二月にみんなへそれを豫報しま
した。それが一足づつだんだん本統になつてこぶしの花が咲かなか
つたり、五月に十日もみぞれが降つたりしますと、みんなはもう、
この前の凶作を思ひ出して生きたそらもありませんでした。クーボ
ー大博士も、たびたび気象や農業の技師たちと相談したり、意見を
新聞へ出したりしましたが、やつぱりこの烈しい寒さだけはどうと
もできないやうすでした。

 ところが六月もはじめになつて、まだ黄いろなオリザの苗や、芽
を出さない樹を見ますと、ブドリはもう居ても立つてもゐられませ
んでした。このままで過ぎるなら、森にも野原にも、ちようどあの
年のブドリの家族のやうになる人がたくさんできるのです。ブドリ
はまるで物も食べずに幾晩も幾晩も考へました。ある晩ブドリは、
クーボー大博士のうちを訪ねました。

「先生、気層のなかに炭酸瓦斯が増えて来れば暖くなるのですか。」

「それはなるだらう。地球ができてからいままでの気温は、大抵空
気中の炭酸瓦斯の量できまつてゐたと云はれる位だからね。」

「カルボナード火山島が、いま爆発したら、この気候を変へる位の
炭酸瓦斯を噴くでせうか。」

「それは僕も計算した。あれがいま爆発すれば、瓦斯はすぐ大循環
の上層の風にまじつて地球ぜんたいを包むだらう。そして下層の空
気や地表からの熱の放散を防ぎ、地球全体を平均で五度位温にする
だらうと思ふ。」

「先生、あれを今すぐ噴かせられないでせうか。」

「それはできるだらう。けれども、その仕事に行つたもののうち、
最後の一人はどうしても遁げられないのでね。」

「先生、私にそれをやらしてください。どうか先生からペンネン先
生へお許しの出るやうお詞を下さい。」

「それはいけない。きみはまだ若いし、いまのきみの仕事に代れる
ものはさうはない。」

「私のやうなものは、これから沢山できます。私よりもつともつと
何でもできる人が、私よりもつと立派にもつと美しく、仕事をした
り笑つたりして行くのですから。」

「その相談は僕はいかん。ペンネン技師に談したまへ。」

 ブドリは帰つて来て、ペンネン技師に相談しました。技師はうな
づきました。

「それはいい。けれども僕がやらう。僕は今年もう六十三なのだ。
ここで死ぬなら全く本望といふものだ。」

「先生、けれどもこの仕事はまだあんまり不確かです。一ぺんうま
く爆発しても間もなく瓦斯が雨にとられてしまふかもしれませんし、
また何もかも思つた通りいかないかもしれません。先生が今度お出
でになつてしまつては、あと何とも工夫がつかなくなると存じます。」
老技師はだまつて首を垂れてしまひました。

 それから三日の後、火山局の船が、カルボナード島へ急いで行き
ました。そこへいくつものやぐらは建ち、電線は連結されました。

 すつかり仕度ができると、ブドリはみんなを船で帰してしまつて、
じぶんは一人島に残りました。

 そしてその次の日、イーハトーブの人たちは、青ぞらが緑いろに
濁り、日や月が銅いろになつたのを見ました。けれどもそれから三
四日たちますと、気候はぐんぐん暖くなつてきて、その秋はほぼ普
通の作柄になりました。そしてちやうど、このお話のはじまりのや
うになる筈の、たくさんのブドリのお父さんやお母さんは、たくさ
んのブドリやネリといつしよに、その冬を暖かいたべものと、明る
い薪で楽しく暮すことができたのでした。

(校本全集11 「生前発表童話」より)
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--〔作品〕--------------------------------------------------

     バナナン大将の行進歌
                 (「飢餓陣営」の歌(四))

いさをかゞやくバナナン軍
マルトン原にたむろせど
荒さびし山河のすべもなく
飢餓の陣営日にわたり
夜をもこむればつはものの
ダムダム弾や葡萄弾
毒瓦斯タンクは恐れねど
うゑとつかれをいかにせん
やむなく食みし将軍の
かゞやきわたる勲章と
ひかりまばゆきエボレット
そのまがつみは録〔しる〕されぬ
あはれ二人のつはものは
責に死なんとしたりしに
このとき雲のかなたより
神ははるかにみそなはし
くだしたまへるみめぐみは
新式生産体操ぞ
ベース ピラミッド カンデラブル
またパルメット エーベンタール
ことにも二つのコルドンと
棚の仕立にいたりしに
ひかりのごとく降〔くだ〕り来し
天の果実をいかにせん
みさかえはあれかゞやきの
あめとしめりのくろつちに
みさかえはあれかゞやきの
あめとしめりのくろつちに

(校本全集6 「歌曲」より)
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--〔後記〕--------------------------------------------------

 もう9月も中旬になります。22日にはまたまた花巻で、今度は
宮沢賢治学会の定期総会です。11月には中国語学習ソフトを作っ
ている会社からの企画で、中国旅行に参加します。何だか遊んでば
かりいるようです。

 中国旅行は北京と上海をまわります。中国語の先生が同行して、
言語学院の見学などもあるお勉強のツアーです。先日の国際研究大
会で発表された、上海の黄先生にできれば会いたいと思っています。

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発行周期: 週刊 最新号:  2018/07/14 部数:  1,005部

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