KISARAGI

KISARAGI vol.931


カテゴリー: 2017年09月24日
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K I S A R A G I vol.931                              2017/09/24
                                             編集/発行:みやこたまち
                         E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
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通信欄: たまさんの次のお話「竜宮の棟上げ」キャッチーなタイトル!
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今週のお話

◆ "古典へのいざない" [702]
   伽婢子《おとぎぼうこ》[11] 竜宮の棟上げ [1]
   作者 たまさん


◆ 空想技術集団 [47]
     作者 みやこたまち

● KISARAGIについて

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古典へのいざない [702]

  伽婢子《おとぎぼうこ》[11] 竜宮の棟上げ [1]                  作者:たまさん

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江州《ごうしゅう》の瀬田《せた》の橋は東国一の大橋で、琵琶湖から流
れ出た瀬田川に東西方向に架けられている。
 北西の方角に目をやると、志賀《しが》・辛崎《からさき》の里が間近に
あり、山田・矢橋《やばせ》への渡し船や、塩津《しおづ》・海津《かいづ》
の上り船が帆を掛けて走る様が言いようもなく素晴らしい。夕暮れになると
南の石山《いしやま》寺から鐘の音が響き、山伝いに更に南に下ると岩間
《いわま》寺がある。
 北東には蓮《はす》の名所として知られる志那《しな》の里がある。六月
の中頃から蓮の花が咲き乱れ、四方に芳香を漂わせている。古今和歌集に、

  蓮葉《はちすば》の濁りに染《し》まぬ心もて
  なにかは露を玉とあざむく
  (蓮の葉は濁りにも染まらぬ清い心を持っているのに、
   どうして露を玉と見せ掛けて欺くのだろうか)

 と歌われたように、見た者の心を清めるほど見事である。
 南東は夏になると田上《たなかみ》山の夕日の影が落ち、蝉の声が響き渡
る涼しい地である。背後は伊勢路へと続き、前面には湖水が流れ、鹿飛《し
しとび》の瀬から宇治の川瀬に出るという。
 その北には蛍谷《ほたるだに》という洞がある。四月の初めから五月中旬
に至るまで、数百万匹の蛍が湧き出て湖面に集まり、鞠や車輪ほどの大きさ
に丸く固まり、雲路遙かに舞い上がったかと思うと、にわかに水面にはたと
落ち、はらはらと砕けて水に流れる。それはまるで石榴《ざくろ》の花が五
月雨の中で点々と咲くようで、明るく光り輝きながら乱れる様は見捨てがた
い眺めである。
 そのようなわけで、僧俗問わず世の好事家《こうずか》たちはこの地に遊
びにやって来て、多くの和歌を詠み、漢詩を作り、口伝や書物として後世に
残した。
(続く)
                                  ★

 今回から「竜宮の棟上《むねあ》げ」をお届けします。
 前回まで、最も有名な「牡丹灯籠」を先に取り上げましたが、この「竜宮
の棟上げ」が「伽婢子」の一番目のエピソードとなります。
 物語の舞台となるのは、現在の地名で言うと滋賀県大津市。琵琶湖から南
に向かって瀬田川となって流れ始める場所で、ちょうど国道一号線と名神高
速道路の間に「瀬田の唐橋」という橋が架けられています。
 この続きは次回にお届けします。それではまた。


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 趣味で読んでいる古典文学の現代語訳と参考文献を主に掲載しています

「山猫屋本舗」http://yamanekoya.net/
 写真日記を綴っています

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空想技術集団 [47]

6 能面師 土師無明のこと 5
                           作者:みやこたまち
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6-5
 欠如ヲ埋メラレルモノハ空想ダケダ。
 室田六郎にはその空想するユニットが欠落していた。この男のキナ臭さは、この欠
落部を杜撰に埋め戻した廃棄物から立ち昇っていた。

 タンクはエコーでしかないの。思い出が現在を癒す。

 「キオラ画廊」で偶然にあった肌が漂白したかのように白く、瞳が透き通るような琥
珀色をした長身痩躯の男性に、私はそんなことを話したことがあった。私を傷つけたも
のが私の過去であったとしたら、じゃあ、どうやってその刃が私を癒せるというのだろう?

 男は美しく整え、おそらくはクリアなマニキュアを何層も塗りか重ねた十本の爪の内側
に、私の手をそっと包み込んで言った。

 あなたは、美しい。

 それは、土師無明ではないわね。

 つい私は香鳴の話に嘴をはさんでしまった。香鳴はうつむき、肩をすくめた。

 私は、こういうとき彼女が舌先をチロリと覗かせる癖がすきだった。唇と舌とは本当に生
殖器そのものだと思う。私は、もう十分にむき出したな彼女の顔の、さらにその奥からチロ
リと現われる真っ赤な舌に、えもいわれぬエロスを感じていた。今はマスクに隠されている
その部分を、乱暴に露にして震える唇の間から、彼女の舌の感触を、私自身の唇と舌とで感
じたい衝動を抑えることに困難を感じていた。
 そんなときふと、社史編纂室の在日之文護の、床にはいつくばった後頭部から、薄い背中、
そして痩せた尻が思い起こされ、それで私は正気にかえるのだった。

 空想するユニットの欠落は人間にとって致命的ではない。だが人類にとっては致命的にな
りうる。
 空想とはこの世界の鋳型であり世界の多様性と存在態とをマッチングさせる唯一の経路だ
からだ。
 隊毛頭像はそのことをずっと考えていた。
 そしてもっとも空想が空想らしくありうる場とは、現代美術であるとの結論に達した。

 私も、その通りだと思いました。いくら仕事ができるといっても、新機軸を打ち出すと
いっても、アイデアマンだともてはやされても、所詮は、来た道を辿っているに過ぎません。
業務というのは、迷わず往けよ。往けば分るさ! ってわけにはいかないんです。そもそも、
空想なんて理解されて時点でもう、駄目なんです。

 駄目っていうのは乱暴だけど、いいたいことは分るわよ。あなたは、空想の躯体としての
顔を失って、よりいっそう、アニマとしての顔、共同幻想としての空想、という思想にのめ
りこんでいったのね。

 だから、ユングだったし、ブランショだったの。

 浅田彰よね。つまり。
 
 私は、平喇香鳴が何を思考しどこを志向するのかを知りたかった。タンク内部での、彼女
と土師との睦言の意味が明らかになれば、それはあのイルカちゃんシステムが目的とするも
のを示しているに違いないと考えたからだ。

 あの日、一糸纏わぬ姿でタンクに入った二人は、世にも奇態なるアンドロギュノスただ一
体として産出された、いや算出されたのであった。

 それが、私が、このシステムによって解放の端緒についた「空想技術」なるものに触れた
瞬間であった。(20170924)

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