KISARAGI

KISARAGI vol.922


カテゴリー: 2017年07月23日
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K I S A R A G I vol.922                              2017/07/23
                                             編集/発行:みやこたまち
                         E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
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今週のお話

◆ "古典へのいざない" [693]
   伽婢子《おとぎぼうこ》[2] 牡丹灯籠 [1]
   作者 たまさん


◆ 空想技術集団 [38]
     作者 みやこたまち

● KISARAGIについて

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古典へのいざない [693]

  伽婢子《おとぎぼうこ》[2]  牡丹灯籠 [1]                  作者:たまさん

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 京では毎年、七月十五日から二十四日までの間、どの家でも精霊《しょう
りょう》の棚を飾って祭る習わしになっている。また、花や鳥、草木を優美
にかたどった灯籠に灯火《ともしび》を入れ、精霊棚や町家の軒、先祖の墓
前に吊し、夜もすがら灯しておく。この時期、往来は多くの見物人で賑わい、
彼らの間を縫うように、集まった踊り子たちが高らかな音頭に合わせて身振
りよく踊る様が見られる。これは身分の上下を問わぬ盂蘭盆会《うらぼんえ》
の風物詩である。
 天文十七年(一五四八年)のこと、五条京極に荻原《おぎわら》新之丞
《しんのじょう》という男がいた。先日、妻に先立たれたばかりで、愛執
《あいしつ》の涙が袖に余り、恋慕の炎が胸を焦がし、一人寂しく窓辺で在
りし日を思い出しながら悲しみに暮れていた。
「今日から精霊祭りか。今年はあいつも故人の一人として数えられることに
なってしまったのだな」
 経を手向けて供養すると、友人の誘いを断って外出もせず、心が沈んだま
ま茫然と門前でたたずんだ。

  いかなれば立《たち》も離れず面影の身に添ひながら悲しかるらむ
 (あの人の面影が離れず、いつもそばにありながら、どうしてこんなに悲
  しいのだろうか)

 新之丞は古歌を口ずさみ、溢れる涙を袖で押し拭った。
(続く)
                                  ★

 今回から「牡丹灯籠《ぼたんとうろう》」の訳をお届けします。
 落語にもなった有名エピソードで、しかもタイトル名である「伽婢子《お
とぎぼうこ》」が登場することから、作者自身も代表作・切り札と考えてい
たように思われます。
 原作は中国の「剪燈新話《せんとうしんわ》」(瞿佑《くゆう》 著)の
「牡丹燈記《ぼたんとうき》」。オリジナルをほぼ踏襲したストーリーで
すが、中国の正月(春節)に街中で灯される灯籠が、日本のお盆の風景に
差し替えられています。
 ちなみに、京都のお盆といえば多くの人が「五山の送り火」を連想する
と思いますが、京都に縁のある作者が作中で触れていないため、ひょっと
したら江戸初期にはまだ存在しなかったのかもしれません。(「五山の送
り火」の開始時期については諸説あります。)
 この続きは次回にお届けします。それではまた。

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HP
「かたかご」http://yamanekoya.jp/
 趣味で読んでいる古典文学の現代語訳と参考文献を主に掲載しています

「山猫屋本舗」http://yamanekoya.net/
 写真日記を綴っています

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空想技術集団 [38]

5 砂の女 4
                           作者:みやこたまち
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5-4
 社屋の通路は長い。そしていつだってうっすらと砂が積もってる。海風が膨大な量の
砂を運んでくる。私たちの服や身体の襞という襞には、この砂がはさまっている。肺に
も、腸にも、そしてもちろん脳にも。モカシンとリノリウムの床の間で不均一な形をし
た砂粒が、軋むような音をたてている。口のなかもじゃりじゃりして、喉もいがらっぽ
い。 この時間は特に、砂が多いようだ。清掃部の誰かが怠けているのかもしれない。
あとで上司に報告しておくことにしよう、と決めた
 突然、傍らの片開き扉が私の進路を塞いだ。顔の前に、日々をセロハンテープで継い
だスリガラスが立ちふさがったのだ。私はあやうく、顔をつっこむところだった。そし
て、この扉こそ、厚生部のある才女から顔を奪った、忌まわしき扉であったことを思い
出した。その同じ扉が今再び、私の貌を奪おうとしていたのだった。
 「或日野クン!」
 私は、目の前の扉越しに、そう怒鳴って、扉を目いっぱい引いた。その向こうで、男
が一人土下座をしていた。
 或日野文護。
 数か月前、営業から清掃部へ転属となった、私のもと同僚である。(20170723)

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