KISARAGI

KISARAGI vol.921


カテゴリー: 2017年07月16日
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K I S A R A G I vol.921                              2017/07/16
                                             編集/発行:みやこたまち
                         E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
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通信欄:たまさん。新連載スタート! 夏にぴったりですよ。
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今週のお話

◆ "古典へのいざない" [692]
   伽婢子《おとぎぼうこ》[1] 序
   作者 たまさん


◆ 空想技術集団 [37]
    作者 みやこたまち

● KISARAGIについて

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古典へのいざない [692]

  伽婢子《おとぎぼうこ》[1] 序                        作者:たまさん

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 そもそも聖人は常《つね》を説いて道を教え、徳を施して身を整え、理
《ことわり》を明らかにして心を収める。その行いは天下国家の模範となっ
て民を変えることを旨とし、「怪力乱神《かいりょくらんしん》を語らず」
(怪異・剛力・反乱・鬼神といった理から外れたものには触れない)とはい
うものの、どうしても止まらない場合は書物に記して道理を導いた。「易経
《えききょう》」には「竜が野で戦う」とあり、「書経《しょきょう》」は
鼎《かなえ》の中で雉《きじ》が鳴いた話を記し、「春秋《しゅんじゅう》」
では乱賊の非道を示し、「詩経《しきょう》」は諸国の民謡を載せ、後世に
伝えて明白な鑑《かがみ》とした。
 言うまでもなく、仏経では「三世因果《さんぜいんが》の理」(過去・現
在・未来を通じて因果応報の関係があること)を教え、「四生流転の業《ご
う》」(死後、畜生として輪廻《りんね》することになる原因)を戒め、神
通《じんつう》や変化《へんげ》に関する話を説いている。また神道でも、
何でもない草木や土石に至るまですべてのものには神霊が宿り、「不測の妙
理」(人間には推し測ることができない理)があることについて触れている。
このように、儒教・仏教・神道はいずれも霊理・奇特《きどく》・怪異・感
応《かんのう》の類《たぐい》が嘘やまやかしではないことを教え、その道
に入るための仲介としている。
 中国の聖人や賢人の伝記、名高い思想家たちに関する書物は、荷車を引く
牛が汗をかき、家の棟木《むなぎ》まで届くほどに溢れている。これまでに
我が国で執筆された文書に関しても、たった五台の車では到底足りない。中
でも花山《かざん》法皇《ほうおう》の「大和物語」、宇治《うじ》大納言
の「宇治拾遺《うじしゅうい》物語」、「竹取物語」、「宇津保《うつほ》
物語」の「俊蔭《としかげ》」の巻をはじめ、怪しく珍しい事柄を記した話
は、指を折って数えていては暇《いとま》がない。
 ところで、この「伽婢子《おとぎぼうこ》」は遙か遠い昔の話ではなく、
最近伝え聞いたことを集めたものである。学問に通じた者たちの目を喜ばせ、
耳を洗い清めるためのものではない。子どもに聞かせて驚かせることで、心
を改め、正しい道を歩むための補助の一つとするものである。
 自分の目で見たものを重んじ、他人から聞いた話を信じないのは、先人た
ちの悪いところである。陰陽五行《いんようごぎょう》によると、この世界
は広大で測りがたく、奥深く、人が把握するのは困難だという。直接、見た
ことがないからといって、これから語られる話を疑ってはいけない。
(続く)
                                  ★

 今回から「伽婢子《おとぎぼうこ》」の現代語訳をお届けします。
 あまり馴染みのない作品名かもしれませんが、「近世怪異小説の祖」と称
される江戸時代の怪奇短編集で、中でも有名なのは落語の怪談噺にもなった
「牡丹灯籠《ぼたんとうろう》」です。作者は浅井了意《りょうい》。
 中国の小説を元にした二次作品ですが、物語の舞台を日本に移し、分かり
易く、面白くアレンジしてあります。
 ちなみに「伽婢子」とは、幼児のそばに置いて形代《かたしろ》として凶
事を負わせるのが目的の魔除け人形のことで、序文の中で「わざと子どもを
怖がらせて、悪いことをさせないようにするのが目的」と宣言しているのに
も対応します。
 次回は少しエピソードを飛ばして、「牡丹灯籠」をお届けします。
 それではまた。

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 趣味で読んでいる古典文学の現代語訳と参考文献を主に掲載しています

「山猫屋本舗」http://yamanekoya.net/
 写真日記を綴っています

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空想技術集団 [37]

5 砂の女 3
                           作者:みやこたまち
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チャイムが鳴る。休憩時間が終わったのだ。私は物憂く瞼をあける。この夏最後の潮風
が、サンセットビーチから私の前髪をすくって山の手へともつれていった。
「釜名見クン。ここだったのか」
 そう声をかけてきたのは、もうすっかり髪のセットを終えた工辞基我陣企画営業部長
で、私の直属の上司兼私のテトラポットだ。黙って左手を差し出すと、彼は大きな瑪瑙
のついた指輪を左手の薬指に光らせながら、そって私の指先を掌にのせる。分厚い掌だ。
 若い頃には、空軍に所属し、灼熱のM作戦では数々の武勲をあげたとかあげないとか
いう話を、少しだけ汗ばんだシーツからゆったりと回るシーリングファンを見上げたま
ま、聞いたことがあったようななかったような記憶が鼻腔に香った。
「おや、怪我をしたようだね」
 彼が私の左手首を握り直し、ねじ上げる様に肘を上にむけた。私は反射的に彼の右か
ら左右の肘を自分の右ひじと右わき腹でまきこんで、彼の両方の腕を一本にまとめると、
彼の左の脇の下をくぐった。それだけで、彼の両肩の関節がきまるのだ。
 目の前を一筋の血が流れた。血は私の腕をゆったりと伝わり、目の前の肘から一滴ず
つ落ちた。
「ごめんなさい」
 私は彼の肩をそっとはめてあげた。激痛が走ったはずだが、歴戦の勇士である工辞基我
陣部長は、眉一つ動かさない。一説には、私と過ごす時間が増えるにしたがって、肩を外
される機会が増え、ルーズショルダーになってしまっているのではないかといわれていた
り、または、M作戦において拉致された折に、肩を外すことによって赤い砂の塔の鉄格子
を抜けて脱出してきたのだとか、が噂になっているとかなっていないとか。
「手当てをしたほうがいい。厚生部へ寄ってから戻りなさい」
 部長は腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動から、ハイッ! の動きをしたそうな
顔で、私の頬に軽く触れ、白い歯を少しだけ見せて凪を出て行った。
 私はその足で厚生部へ向かった。(20170716)

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