KISARAGI

KISARAGI vol.635

カテゴリー: 2012年01月15日
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K I S A R A G I vol.635                             2012/1/15
                        編集/発行:みやこたまち
                      E-mail:tamachim@yahoo.co.jp
                      http://mgkisaragi.web.fc2.com/index.html
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実存的な震えを体験し、嘔吐でなくて
よかったとおもう冷え込んだ未明
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■薄紅通夜 第五部                          作者:みやこたまち

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 白磁のようだった睦美の頬が紅蓮に染まっていた。沈み行く夕日を左右に一つ
ずつ写した左右の瞳も真っ赤だった。祥子は睦美から飛びのいた。と、足元が定
まらず腰砕けにしりもちをついた。尻と掌には乾いた砂を感じた。
「樹記!」
 祥子の声は、波と風の音にかき消された。南の島の長閑な夕焼けの風景の中に、
祥子はいた。
「どうしてあなたがここにいるのかしら?」
 睦美の周辺は無風地帯ででもあるかのように、髪もスカートの裾もなびいてい
なかった。その足元にうずくまる祥子を、砂交じりの風がなぶっている。
「睦美さん。どうしてこんなことをするの?」
 祥子は砂浜にぺたんと座って、睦美を見上げた。ああ、星がまたたき始めてい
る。南十字星かしら、などという考えが、祥子の胸中をかすめていった。
「私が? それは勘違いもいいところだわ。」
 睦美は、もう祥子には完全に興味をなくした、といった冷淡さで言い放ち、海
へ向かって歩き出した。相変わらず彼女のスカートははためかない。
「ここは、どこなの? 樹記をどこへやったの?」
 祥子はあわてて睦美に追いすがった。ほんの二三歩の差だったはずなのに、砂
に足をとられて思うように進めなかった。睦美は海の上をどんどんと歩いていた。
波が、睦美の靴をぬらした。そこから先へは進めなかった。睦美はみるみる沖へ
と歩いていき、暗闇にまぎれて消えた。
 祥子は砂浜へとって返し、流木に腰をかけて沈み行く夕日をぼんやりと眺めた。
きれいだな。祥子はそう感じた。暗くなると、海は巨大な音となった。その音に
反応するかのように、ポツポツと青白い光が上下しはじめた。ああ、夜光虫がい
るんだな、と祥子は思った。青白い光が不規則に明滅しながら上下した。
 夕日が水平線に消える寸前に、一瞬、その日一日の光の最期の一束を、海上の
ただ一本のラインに投げかける。祥子は夜光虫の乱舞に導かれたかのように顔を
上げ、その一束を額に受けた。頭蓋骨の中が光で溢れた。睦美の笑顔が見えた気
がした。
「おはよう。」
 額に暖かな掌を感じ、そっと目を開けると、天蓋付きのベッドの真ん中で、樹
記が微笑んでいた。
「おはよう。変な夢みちゃった。」
 祥子はそういうと、樹記の腕に両手を絡ませた。樹記はそっと祥子を抱え、自
分の膝に横抱きにした。さわやかな風が海側から吹き込み、レースのカーテンを
なびかせた。
「まだ、終わってないんだよ。祥子。」
 祥子は目を見開いた。自分を抱えているのは、樹記だった。しかし、祥子は叫
び声をあげた。長い長い叫びだった。押しとどめようの無い恐怖が、これほどま
で自分の内部に溜まっていたのか、と思うくらい長く、深く、そして暗い叫びだ
った。樹記はぎゅっと祥子を抱きしめた。息を継ぎ、叫び、また息を継ぎ、叫ぶ。
祥子は長い間そうしていた。また樹記はずっと祥子を抱きかかえていた。

第五部完 次からは第六部にします。
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