Japan on the Globe-国際派日本人養成講座

JOG-Mag No.496 組織改革の武士道 ~ 葛西敬之氏の国鉄改革

■■ Japan On the Globe(496)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

 Common Sense: 組織改革の武士道 〜 葛西敬之氏の国鉄改革
                    
                         自己犠牲と奉公のエリート精神が、
                        国鉄改革をもたらした。
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 ★★★ 葛西敬之JR東海会長講演
     「国家百年の計 ― 鉄道事業経営、教育、外交」 ★★★
第19回国民文化講座(主催:社団法人国民文化研究会 後援:産経新聞社)
日時:5月19日(土)14:00〜、 場所:明治神宮
参集殿会費(当日受付にて):1,500円 (学生500円)
お申込はinfo@kokubunken.or.jpにメール下さい。
(詳細はhttp://www.kokubunken.or.jp) 
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■1.「常識破り」のリーダー■

     JR東海は超電導リニア新幹線の東京−名古屋間の営業運転
    を2025年に実現すると発表した。すでに山梨の実験線では有人
    走行で時速581キロの世界最高速度を達成しており、営業速
    度500キロなら、東京−名古屋はわずか40分で結ばれる。

     現在の東海道新幹線は輸送能力がほぼ限界に近づいているこ
    とに加え、大地震などの災害時のバイパスとしても、中央新幹
    線が必要と判断した。総投資額は最大10兆円近くになると予
    想されている。

     現在の東海道新幹線は世界の超高速鉄道の時代を切り開いて、
    日本人の構想力と技術力を世界に示したが、それに続く気宇壮
    大な計画として期待したい。

     東海道新幹線は、天才技術者・島秀雄と十河(そごう)信二
    ・国鉄総裁のコンビが、当時の「常識派」の無理解と批判を乗
    り越えて実現したもので、このような独創的な巨大プロジェク
    トを完遂するには「常識破り」のリーダーが不可欠だ。[a]

     今回のリニア新幹線計画をぶち上げたJR東海にも、そうい
    うリーダーがいるに違いない。そのリーダーは葛西敬之・JR
    東海会長だろう。葛西会長は、国鉄の分割民営化という、これ
    また壮大な「常識破り」を成功させた「国鉄改革3人組」の一
    人であるからだ。

■2.「君は組織人としての則(のり)を超えているのではないか」■

     葛西氏の著書『未完の「国鉄改革」』を読むと、国鉄の巨大
    組織の中で「3人組」がいかに孤軍奮闘してきたかがよく分か
    る。葛西氏はこう書いている。

         国鉄の内部での分割反対派は、総裁・副総裁以下大部分
        の重役陣なかんずく労務担当の常務理事であり、賛成派は
        井出氏、松田氏、私以下少数であった。 [1,p236]

     井出正敬氏(後にJR西日本会長)は当時、秘書課長として
    幹部人事を扱うポストにいたが、国鉄のOBが関係会社のポス
    トにしがみついているのを断ち切ろうとして、総スカンを食ら
    い、東京西鉄道管理局長に転出させられた。経営計画室で分割
    民営化を進めていた松田昌士氏(後のJR東日本会長)は、北
    海道総局の中にわざわざ新設された総合企画部長というポスト
    に追いやられた。

     葛西氏も職員局職員課長として「経営問題などには口を出す
    べきではない。実務に埋没していればよい」と抑え込まれてい
    た。先輩からも「おまえの同期で、理事になるのはおまえとあ
    いつと二人しかいないんだ。黙ってじっとしていれば出世でき
    るのに、余計なことを言うと損をするよ。静かにしていなさい」
    と注意された。

     それでも分割民営化のために行動する葛西氏に、ある先輩か
    ら「君は組織人としての則(のり)を超えているのではないか」
    と言われた。その時、葛西氏はこう答えた。

         国鉄の掟もあるでしょう。しかし、日本国家というもの
        もあります。組織人であるという意味でいうと、最も基本
        的な組織というのは国家です。国家・国民が正しいと思っ
        ていることと、国鉄のなかにおける意見が違っている場合、
        一体どちらに従うかといえば、国家・国民としての立場を
        貫くのが組織人の原点であって、泥棒の集団にいるから泥
        棒の掟に従うのが組織人であるということにはならないと
        思います。[2,p173]
           
■3.国鉄改革の要としての労使問題■
    
     改革前の国鉄は、昭和60年度の年間売上3兆3千億円に対
    して、赤字額2兆6千億円。政府助成金6千億円を注ぎ込んで
    も、焼け石に水だった。こういう状態の国鉄で、「黙ってじっ
    としていれば出世できるよ」と言われても、国家・国民の立場
    に立つ葛西氏らは黙っていられなかった。そして、この3人組
    を中心とする少数の志ある人たちが、瀕死の国鉄を救ったので
    ある。

     国鉄の問題点は2つあった。第一は、運賃や設備投資を含め
    た事業計画が国会の手にゆだねられていて、機動的な経営がで
    きないことであった。第二は戦闘的な労働組合が跋扈して、合
    理化も人員削減も進めることができなかった点である。

     第一の問題点は、組織の形態の問題で国鉄再建監理委員会な
    ど、外部からの改革が進められたが、第二の労使問題は国鉄内
    部の自助努力で解決しなければならない問題だった。そして、
    この問題が解決しない限り、人員削減も果たせず、分割民営化
    などそもそも不可能という事になってしまう。

     この労使問題解決と人員削減を、中心となって進めたのが葛
    西氏だった。一般企業では非常識な労使慣行を、葛西氏は一つ
    ずつ打破していったのだが、その過程で、「国鉄の掟」よりも
    自らが正しいと思うことを断じて行うという姿勢がよく窺われ
    る。そのいくつかをご紹介しよう。

■4.「国鉄の掟」の洗礼■

     葛西氏が「国鉄の掟」の洗礼を受けたのは、昭和52(1977)
    年2月に静岡鉄道管理局の総務部長に着任した時であった。そ
    れまで長期計画や予算を扱う本社部門に籍を置いていて、現業
    に出るのは初めてだった。

     職場に顔を出した最初の日に、人事課長が顔色を変えて飛び
    込んできた。「4月1日に入社してくる新入社員の配属先に間
    違いがあった」という。当時の国鉄は国労と動労という2大組
    合が争っており、それぞれの組合の縁故で入った新入社員は、
    組合の意向を尊重し、了解をとった上で配置をしなければなら
    ない、という「掟」があった。それを人事課は10名の新入社
    員の推薦元を取り違えて、動労に不利になるような配属を決め
    てしまったという。

     正しい配分に戻そうとしても、今度は国労の方が、一度発表
    されたものから不利になるので納得しない。一週間ほど徹夜の
    交渉が続いたが、それを見ていた葛西氏はこう言った。

         元来、採用も配属も当局の責任なのだから、すべてを白
        紙に戻して本来の姿に立ち返り、当局側の考えるとおり適
        材適所に配属すべきだ。両方が「うん」と言わなくてもい
        いから、独自の判断でやりなさい。

     全体の責任者である局長が「自分が動労に謝りに行って、こ
    とを済ませたい」と言い出したが、葛西氏は「あなたが謝りに
    いって解決することは何もありません」と抑えた。謝ってこの
    場は取り繕っても、採用や配属に組合が口を出すのを許してい
    たのでは、効率的な人材活用はいつまでたっても実現しない。
    
■5.「後は戦場でまみえよう」■

     人事課長が葛西氏の指示通り進めると、やがて動労本部の副
    委員長が葛西氏に電話をかけてきた。初めは丁寧なお願い口調
    だったが、葛西氏が「無理です」と突っぱねた途端、「お前の
    ような小さな管理局の総務部長に、大動労の本部の副委員長が
    これほど辞を低くして頼んでいる。この重大な事柄の意味が貴
    様には分からないのか。俺は二度とお前とは口をきかない。後
    は戦場でまみえよう」と言い放って、電話を切った。

     それからほどなくして明日勤務予定の動労組合員30名ほど
    が次々に「頭が痛い」「腹が痛い」などと医師の診断書を持っ
    て欠勤を申請してきた。しかも乗務員の変更は、組合の了解無
    しにはできないという「掟」があった。

     このままでは列車運転に支障が出る。葛西氏は明日非番となっ
    ている国労所属の乗務員に呼び出しをかけるよう指示した。労
    働課長が国労の了解をとった上で、代理の乗務員を手配した。
    すると、今度は病気だったはずの動労の組合員が次々と「病気
    は治ったから、明日は乗ります」と言ってきた。これは「代わ
    りの乗務員は手配済みだ」と断った。列車の運行への影響はまっ
    たくなかった。

     葛西氏は「来年から組合推薦での採用は、一切してはならな
    い」と厳命した。人員の採用と配置は経営上の重要な意思決定
    である。それに組合が口を差し挟むという国鉄内部の「掟」を
    葛西氏は否定し、世間常識に立ち返らせたのである。
    
■6.2ヶ月間休み無しで下位代行をしていた助役■

     昭和54年3月末、葛西氏は仙台鉄道管理局の総務部長とし
    て転勤した。この年の8月、会津若松駅を出た列車が連結不良
    で途中で二つに分離してしまうという事故が起きた。旅客の安
    全にもかかわる重大事故であり、調べてみると、ある助役が下
    位代行でその作業をしていた事が判明した。

     その日は鉄労がキャンプ、国労がソフトボール大会で欠勤者
    が多く、助役が作業を下位代行してその場をしのぐしかない状
    況だった。しかも、国労のソフトボール大会は、鉄労のキャン
    プにぶつけて嫌がらせをしたのだ、と管理者たちは見ていた。

     その助役の勤務状況を調べると、事故の前の2ヶ月、一日も
    休みをとっていないことが分かった。毎日、こうした状況で、
    部下の下位代行をしていたのである。「あの助役は寝ぼけてい
    るから、きっと近いうちに事故でも起こすぞ」と言いながら、
    ストーブにあたって見ていた組合員もいたということであった。

     葛西氏はこれを機に、職場規律の回復に取り組もうと考え、
    19項目の悪慣行を是正項目としてリストアップして、現場管
    理者に「以降は悪慣行に拘束されないで作業指示を出すように」
    と命じた。
    
■7.「私の部下は至らなくない」■

     既得権益を犯された組合員は管理者に抵抗したが、そういう
    組合員には、葛西氏の指示で、業務命令違反として賃金カット
    の処分を行った。

     国労仙台地方本部はストライキを設定した上で、緊急団体交
    渉を申し入れてきた。違法ストをバックに、不当な権益を認め
    させようとする者に妥協の余地はない。団体交渉は4日間に及
    んだが、それを通じて葛西氏は、世間の常識を逸脱した悪慣行
    の是正を組合側にすべて認めさせた。

     すると本社の労働課長から電話がかかってきた。「君が無茶
    なことをやったお陰で、東北新幹線の開業に向けての交渉はス
    トップした。もう少しうまくやれないか」という。「悪慣行を
    見逃せと言うのか」「いや、そうではない」「こんなことを看
    過すれば、長期にわたって禍根を残すので、ここで頑張るしか
    ない。その結果、東北新幹線の開業が遅れるのなら遅らせれば
    いいではないか」と突っぱねた。

     最終段階では、組合の地方本部委員長が「膝を交えて話し合っ
    て問題を解決していこう」と言ってきた。葛西氏が会うと、相
    手は「私の部下が至らない所が多いので、いろいろ迷惑をかけ
    ている」と、まず一歩下がった。「ここは、お互いに自分の部
    下の至らないところをよく指導し合って、今後はそういうこと
    にないようにするという事で収めたいが、いかがか」と水を向
    けてきた。

     しかし、うかつにこれに乗ると「お互いに至らない所があっ
    たので、紛争が起こった。その結果、組合員の就業拒否が起こ
    り、賃金カットなどの処分が行われた。だが、お互いに至らな
    いことを認めた以上、処分はなかった事にして欲しい」と丸め
    込んでいくのが、組合側の常套手段であった。

     葛西氏はこう答えた。「私の部下は100%、私の考えどお
    りやっている。私の部下は至らなくない。あなたの部下は至ら
    ない。あなたの言うとおりであるからちゃんと指導しなさい」

     委員長は、通常の手管が通じなかったので、非常に興奮して
    「あなたは、思想的に偏っている。そういうことだから困る」
    と言って席を立った。

■8.現場管理者の顔に自信が戻ってきた■

     葛西氏の動じない姿勢を見て、現場の助役たちも、次第に今
    度の総務部長は今までと違う、という事に気がついていった。
    従来は「職場規律を正せ」と言いながら、格好だけつけて、水
    面下で国労と手を握って現実には処分をしない、また賃金カッ
    トをしてもその分を別の形で本人に戻してやる、という事が行
    われていた。

     局長や総務部長などのキャリア組は、2年もしたら別の部署
    に替わっていく。その間、なるべく問題を起こさないで、本社
    筋に睨まれないようにすることが、出世のために大切なことだっ
    た。だから、口では「職場規律を正せ」と言いながら、組合と
    の水面下の馴れ合いで、事を収めようとする。

     現場を治める助役たちはこれを知っていて、「命ぜられた通
    り、愚直に職場規律を正そうとしても、どうせ後で梯子を外さ
    れて、ツケを払わされるのは全部自分たちだ」という空気が強
    かった。彼らは、連結不良の事故を起こした助役に代表される
    ように、働かない組合員とバックアップしてくれない上層部の
    狭間で、個人的な生活を犠牲にして列車の運行を一生懸命に支
    えていたのである。

     しかし、今度の総務部長は梯子を外さない人だ、と分かって、
    現場の助役たちも真剣に職場規律の粛正に取り組んでいった。
    約2年間で、仙台鉄道管理局の規律は大幅に改善した。葛西氏
    は、現場管理者の顔に自信が戻ってくるのが実感できて、嬉し
    く思った。

■9.エリートの生きざま■

     この後、昭和56(1981)年4月、葛西氏は経営計画室に移っ
    た。ちょうど国をあげての行政改革の推進機関として第2次臨
    時行政調査会が設置されたばかりであり、その国鉄側の窓口と
    なった。この時から、国鉄改革の動きが本格化していく。[b]

     しかし、外からいくら改革を迫られても、国鉄の管理者が
    「組織の掟」に埋没し、組合との馴れ合いに安住していては、
    改革は「絵に描いた餅」で終わってしまっただろう。葛西氏の
    ように、「組織の掟」よりも「国家・国民としての立場」を貫
    く人々によって、この馴れ合いの構造が変革されていく。その
    迫真のドラマは[1]によく記録されている。

     葛西氏は「武士道というのは、エリートのための生きざま」
    と語っている[2,p177]。エリートとは自己犠牲を厭わずに、国
    のために役立とうとする志を持つ人を言う。それは出世を目指
    して、組織の掟に埋没していた国鉄上層部とは正反対の生きざ
    まと言える。

     このような自己犠牲と奉公の精神を持つエリートがいたから
    こそ、国鉄改革が実現したのである。

        (葛西氏の講演会をヘッダーにてご案内しているので、聴
        講をお勧めしたい。)
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(359) 島秀雄 〜 新幹線の生みの親
    それまでの常識を覆した新幹線は、世界の高速鉄道を再生さ
   せた。
   http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h16/jog359.html
b. JOG(250) 亀井正夫〜「おまけの人生」で国鉄改革
    原爆攻撃を奇跡的に生き延びた亀井正夫は「おまけの人生」
   をかけて国鉄改革に挑戦した。
   http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h14/jog250.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。

1. 葛西敬之『未完の「国鉄改革」』★★★、東洋経済新報社、H13
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492061223/japanontheg01-22%22
2. 松井孝典、葛西敬之、三枝成彰『人生の座標軸を持て』★★、ウェッジ、H11
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4900594296/japanontheg01-22%22

■ 編集長・伊勢雅臣より

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発行周期: 週刊 最新号:  2019/03/17 部数:  31,053部

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