Japan on the Globe-国際派日本人養成講座

JOG-Mag No.417 税高くして国滅ぶ

■■ Japan On the Globe(417)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

              Common Sense: 税高くして国滅ぶ

                         グローバルな減税競争に敗れた国家は
                        衰退を余儀なくされる。
■■■■ H17.10.23 ■■ 33,986 Copies ■■ 1,814,939 Views■
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■1.身代をつぶす相続税■

     東京都千代田区麹町のある八百屋さんは近所の5軒の店とと
    もに52坪の土地に9階建ての共同ビルを建てていた。平成3
    (1991)年1月に店主が亡くなり、店舗部分に課せられた相続税
    1億数千万円が息子夫婦にふりかかってきた。共同ビルなので
    売ろうにも売れずに、やむなく税務署には延納を申請した。

    息子は「自分の残りの人生は20年間税金を払い続けること
    なのか」と悔やんでいたが、同年12月、くも膜下出血で突然、
    他界した。まだ58歳だったが、医者には「心労が重なったか
    らでしょう」と言われた。

     新たに1億8千万円の相続税が未亡人にかかってきた。第一
    回分の1800万円は保険金や預貯金を取り崩して、なんとか
    支払ったが、第2回分の支払いの目処は立っていない。未亡人
    はこう嘆く。

         義父は優良納税者で税務署から表彰された人です。八百
        屋という商売は、引っ越ししてできるものじゃないんです。
        税務署には同情してくれる人もいますが、「制度は制度だ
        から」というばかり。生活させていただいた残りで、相続
        税を払うということではいけないのでしょうか。[1,p126]

     現代の相続税は、優良納税者が一生かかって築き上げた店を
    一代で取りつぶし、息子の命を奪い、残された未亡人の住む家
    まで取り上げようとしている。江戸時代のいかな悪代官でもな
    しえなかった悪行である。

     悪知恵のある人なら、会社組織でも作って所得税も相続税も
    逃れたろう。この八百屋さん一家のようなまじめな納税者は身
    代をつぶしてしまい、悪知恵のある人は栄える。そういう国家
    で国民は幸せになれるだろうか。そもそもそういう国家が栄え
    うるのだろうか。

■2.近代世界を形成した税金問題■

     税金は国家の盛衰に大きな影響を及ぼしてきた。英国におけ
    る立憲政治、人権思想の始まりとされる大憲章(マグナ・カル
    タ、1215年)も、ジョン王がフランス内の領土を敗戦で失い、
    戦費調達のために苛斂誅求を行った事がきっかけであった。各
    地の諸侯が団結して「あらゆる課税は議会の賛成投票で決定さ
    れねばならない」と国王の徴税権に、議会の制約をかけたもの
    である。

     1776年のアメリカ独立も税金がきっかけだった。1767年イギ
    リスの議会で北米植民地に「茶その他に対する間接税」を課す
    法律が成立した。アメリカでは激しい反対運動が起こり、つい
    にはインディアンに変装した過激分子が、ボストンの港で東イ
    ンド会社の茶箱を海に投げ込むという「ボストン茶会事件」
    (1773年)を起こした。これに対抗して英本国はボストン港封鎖
    を行い、ここから独立戦争が始まった。

     当時のアメリカ側のスローガンが「代表なくして課税なし」、
    すなわち、植民地からは英本国議会に代表を送れないのに、な
    ぜ税金を払わねばならないのか、という主張である。王の勝手
    な徴税を拒否した大憲章の考え方と通じている。[a]

     1789年のフランス革命も重税が原因であったという説がある。
    当時のフランス人口の大半を占める農民は、それほど貧しくな
    かった。しかし、領民税(小作料)、10分の一教区税、人頭
    税、その他多くの間接税をかけられ、すべて合わせると40%
    も税金を取られていた。その怨嗟が「地主殺し」の革命という
    形をとったのが、フランス革命であった、と言われる。

     英国の大憲章、アメリカ独立、フランス革命。近代世界を形
    成したこれらの重大事件にはそれぞれ税金が絡んでいたのであ
    る。

■3.税金への歯止めが大英帝国発展の原動力■

     北米植民地は失ったが、その後のイギリスは世界帝国として
    発展を続ける。『大国の興亡』を書いたポール・ケネディは、
    近世におけるイギリス興隆の一つに、大憲章以来、議会が税金
    に対する歯止めになっていたため、国力が充実していたという
    説を述べている。

     もとはと言えば、ヨーロッパ大陸の西端の島国で、土地も資
    源も人口も限られた弱小混血民族が、地球上の面積の4分の1、
    人口の6分の1を支配し、なおかつ産業革命や議会制民主主義
    などの多くの経済的、文化的遺産を残したのは、世界史上の奇
    跡と言って良い。

     その大英帝国建設の原動力については、弊誌184号[a]で、国
    家公共のために尽くす「精神の貴族」たちにあった、と述べた。
    そうした「精神の貴族」たちを輩出できたのも、重税を排して、
    国民のエネルギーを活性化し、自助と国家発展に向けることが
    できたからだろう。

■4.「貧困の悲劇に対する宣戦布告」■

     しかし、1904年に転機が訪れた。時の蔵相ロイド・ジョージ
    が「貧困の悲劇に対する宣戦布告」と称して「人民の予算」を
    議会に提出したのである。19世紀から広まっていた社会主義
    思想に基づいて、富者には税率を重くする「累進課税」によっ
    て、社会福祉政策を進めようとしたのである。

     この「人民の予算」から始まった累進課税は、第一次・第二
    次大戦を通じて、徐々に高率になっていった。

     同時にイギリスでは19世紀から20世紀にかけて選挙法改
    正が進み、かつては一定以上の財産を持つ富裕層にのみ与えら
    れていた選挙権が、1918年には21歳以上のすべての男性と、
    30歳以上の一部の女性に与えられた。これは「代表なくして
    課税なし」という大憲章以来の原則を「課税なくても代表あり」
    に転換したものだった。貧しい大衆がその選挙権を利用して、
    富裕階級に課税する道が開かれた。

    「貧困の悲劇に対する宣戦布告」は現実には「富者に対する宣
    戦布告」であった。

■5.地代を集めない地主、流出する科学者・技術者■

     戦後のイギリスでは「福祉国家」を目指す社会主義政権によっ
    て、累進課税は高率化し、1970年代には最高所得税率は83%
    に達していた。株、金利、土地代、相続などの不労所得にかか
    る最高税率は98%だったという。

     ある大地主が小作料をとっていない。それでは税金が入らな
    くて困るから、税務署員が出かけて行って「地代を取ってくだ
    さい」と言った。その大地主は「あなたが好きなようにすれば
    いいでしょう」と答えたという。地代の2%しか残らないなら、
    地代を徴収する手間賃も出ない、というのだろう。こういう社
    会では、土地をもっと儲かる用途に有効活用しようという動機
    も失われ、国全体の経済的活力がそがれてしまう。

     また、有能で他国で稼げる人は、もっと税率の低い国へ逃げ
    出してしまう。1963年1月7日の『イブニング・スタンダード』
    紙はこう報じている。

         この数ヶ月の調査によれば、イギリスの最も優秀な若き
        科学者及び技術者の殆ど四分の一が、北アメリカの仕事に
        惹きつけられており、しかも10パーセントの人間はすで
        にそこに住みついている。これはイギリスからの "brain
        drain(頭脳流出)"である。[1,p112]

■6.高税率による「イギリス病」■

     また、家族の資産が根こそぎ、税金で取られてしまっうこと
    によって、社会の安定性と伝統が失われていった。

     かつて上層中流階級が住んでいた屋敷が売りに出される。庭
    にはテントが張られ、その下で、家具や絨毯、蔵書、絵画など
    が競売にかけられる。そんな光景を[1]の著者・渡部昇一氏は、
    1970年代にイギリスに留学した際に、何度も目にしたという。
    冒頭の八百屋さんの例とよく似ている。

     経済的活力の喪失と、優秀な頭脳の流出、さらには社会の安
    定性の崩壊によって、この時期のイギリスは、かつての植民地
    だったシンガポールよりも一人あたりの国民所得は低くなって
    いた。

    「ゆりかごから墓場まで」の「福祉国家」を標榜して、高税率
    の累進課税を行ったイギリスの社会主義政権が残したのは経済
    的活力を失い、停滞と不安定の支配する社会だった。「イギリ
    ス病」という言葉まで生まれた。

■7.金持ちを潰すことによって貧乏人を助けることはできない■

     こうした社会主義の過ちを徹底的に攻撃する政治家が、1970
    年代に現れた。保守党の女性議員マーガレット・サッチャーで
    ある。サッチャーは1978年に次のようなラジオ演説を行ってい
    る。

         昔は少なくとも労働党(社会主義政党)は理想を掲げた
        党であった。その党が腐って酸っぱくなってしまったので
        ある。今日、労働党は、その場しのぎ、貪欲、特権の代弁
        者となり、イギリス社会の半分を他の半分と喧嘩させるよ
        うな政策を支持している。その根本原因の一つは嫉妬であ
        る。この嫉妬の精神は、家系やら相続した遺産によって特
        権的に恵まれた人々・・・のみならず、自分の能力や努力
        で成功した人々に対しても向けられているのである。

         自分自身や自分の家族を向上させようという男女に対し
        て、労働党は偏見を持っている。中小企業者や自家営業者
        のような普通の人々が栄えることはけしからんというので
        ある。集団的に豊かになるか、みんな貧乏になるかにせよ、
        ということなのだ。質の向上、自立、創造性、天才、あら
        ゆる形の富、生活の多様性----こういったことに労働党は
        すべて反対なのである。

         こんな社会は進歩できるわけがない。われわれ文明は、
        何世代にもわたって、卓越しようという意思のある人々に
        よって築かれてきたのである。[1,p146]

    「給料を払う者を潰すことによって給料をもらう者を助けるこ
    とにはならない」「金持ちを潰すことによって貧乏人を助ける
    ことはできない」 社会主義の過ちを糾弾したサッチャー語録
    の一部である。

■8.サッチャーの減税革命■

     1979年の総選挙で、サッチャー率いる保守党はイギリス経済
    の復活と小さな政府の実現を公約として勝利し、イギリス初の
    女性首相が誕生した。

     今まで最低33%、最高83%だった個人所得の累進税率を
    次第に改めて、ついには25%と40%という2段階にしてし
    まった。当初は「金持ち優遇税制」と非難されていたが、イギ
    リスの最富裕階級5%の人々の納める税金は、減税前にくらべ
    て30%も増加したという。

     これは、過大な税率は、人々に勤労意欲を失わせ、かえって
    税収を減らしてしまうというラッファー理論の正しさを実証し
    たものである。適度な税率なら前述の地主も、しっかり地代を
    徴収してその中から税金を納めるようになり、有能な科学者や
    技術者も母国で働いて、税金を払う。

     サッチャーは1990年まで約12年間も首相を務め、さらに後
    継者メジャーが6年半も政権の座にあった。この間にイギリスの
    経済は再び活気を取り戻し、「英国病」は完全に過去の言葉と
    なった。その後は労働党のトニー・ブレアが政権を取り戻した
    が、経済政策の基本はサッチャーとは変わらず、労働党も社会
    主義の迷妄から目を覚ました。

     アメリカでも1年遅れて登場したレーガン政権によって、最
    高70%15段階の累進税率が、2回の改正を経て、15%、
    28%の2段階とされた。レーガンはソ連との冷戦に勝利して、
    人類を社会主義の夢想から完全に解放した。そのための巨大な
    軍事支出は巨額の財政赤字をもたらしたが、税収そのものは減
    税によって増加しており、ここでもラッファー理論の正しさが
    示されている。

■9.「相続税ゼロ」国家の衝撃■

     我が国でも近年は累進税率の低減・簡素化が進み、20年前
    には地方税を含めて最高70%、15段階あったものが、現在
    では50%、4段階にまで改訂されている。イギリスの40%
    にはかなわないが、アメリカの約47%とは比肩しうるレベル
    になっている。[2]

     一方、相続税はかつて70%が最高であったが、現在では
    50%と引き下げられた。しかし、アメリカでは今後、遺産税
    を段階的に引き下げて、2010年には廃止することになって
    いる。

     スイスではすでに相続税をゼロにしている州がある。「生き
    ている間に税金を払っているのに、死んだらその財産にまた税
    金がかかるのはおかしい」と考えが広まっているからだという。

     そういう州に世界的に有名な個人蔵書がある。ガリレオやニュ
    ートンの初版本、グーテンベルクの聖書など市価億単位の稀覯
    本を個人で蒐集しているのである。この蒐集家は以前、チュー
    リッヒにいたが、そこではこれらが相続税の対象になるので、
    相続税のないジュネーブに移住した。これに懲りたのか、今で
    はチューリッヒでも相続税はゼロになっているそうだ。[3]

     アメリカの相続税がゼロになったら、こうした資産家の移動
    がグローバルに起こるだろう。そうした資産家が様々な新規事
    業に投資をして、アメリカ経済にさらなる活況をもたらし、そ
    の恩恵は、一般の人々にも及ぶだろう。芸術家のパトロンをし
    たり、社会奉仕活動を援助する資産家も現れよう。さらに相続
    税の心配なく、自分の子供や孫のために一生懸命働くことで、
    勤勉と自助の精神が生まれ、家庭と社会の安定が増す。

     こういう国家は経済的にも文化的にも発展するに違いない。
    かつての大英帝国のように。逆に、八百屋の未亡人が住む家ま
    でも奪われる国家では、社会と家庭は荒廃する他はない。

     ちなみに、平成17年度の当初予算の中で、相続税・贈与税
    は44兆円の税収総額のわずか1.5%を占めるに過ぎないの
    である。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(188) 人権思想のお国ぶり
    「造花」型のフランス革命は200万人の犠牲者。「根っこ」
   型のイギリスは無血の名誉革命。
   http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h13/jog188.html
b. JOG(184) セント・ポール大聖堂にて〜大英帝国建設の原動力
    そこここに立つ偉人の彫像や記念碑は、未来の「精神の貴族」
   を育てる志の記憶装置である。
   http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h13/jog184.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
  →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
   (まぐまぐ版では、httpのあとに「:」を補ってください)

1. 渡部昇一『税高くして国滅ぶ』★★★★、H17、ワック
http //www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4898315305/japanontheg01-22%22
2. 財務省ホームページ『個人所得課税の国際比較(未定稿)』
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/027.htm
3. 渡部昇一『正論 スイスで相続税はなぜ安いのか』、産経新聞、
   H17.10.21

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■前号「万世一系のY染色体」に寄せられたおたより

                                       「たんぽぽ」さんより
     こんにちは。いつも楽しみにしております。

     今回の女性天皇の記事は、とても勉強になりました。実際、
    私は女性天皇もいいのでは、と考えておりました。もちろん、
    記事にかいてある知識は持ち合わせておりませんでしたので。

     今号の記事を読み、これは再考の余地がだいぶあるなと思い
    ました。ありがとうございました。

                                         「まり子」さんより
     今回の号は最近特に関心をもっていた事で、お陰でこれまで
    の疑問が解決しました“女系ではY染色体は伝わらない”なぜ
    女系ではいけないのか、はっきりと説明をしている物を見たこ
    とが無かったので今回読んだ時“これだ”と、とてもうれしく
    なりました。

     126代も続いた皇統をここで終焉させるわけには行きませ
    ん。何としても万世一系のY染色体を守り日本という国を繁栄
    させていく義務を私たち国民は持っていると思います。

                                        「minkobo」さんより
     私とは違う視点からのご意見は本当に参考になります。日本
    人としてたしなみを新たに感じております

     さて今回の女性天皇問題ですが確かに性染色体のY染色体は
    男子しか受け継がないという事を改めて認識しました万世一系
    のY染色体・・・これは日本人として大変な問題です

     この染色体を考えれば単純に女性天皇をたてて外部(一般人)
    からの男性を迎えればいい・・というのは危険な思いを感じま
    した。

     この点をもっと日本国民に知らしめるべきだと痛感していま
    す。なんとかなりませんか・・・

■ 編集長・伊勢雅臣より

     現代人の限られた知恵だけで、2千年も続いてきた伝統を破
    壊しては、後世のより知恵のある世代から恨まれるでしょう。

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     掲載分には、薄謝として本誌総集編を差し上げます。
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発行周期:  週刊 最新号:  2019/03/17 部数:  31,056部

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