言葉の森 オンラインマガジン

言葉の森新聞2018年5月1週号■小4から小5に切り替わるときの作文■フィンランドの教育がなぜ世界一になったか


カテゴリー: 2018年05月01日
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■■作文は伸ばすのが先、直すのは後 
 作文指導をしていると、保護者の方からよく聞かれる相談の中に、もっと上手にするにはどうすればいいのかということがあります。 

 作文を見てそれをより上手になるように直す、という添削の方法によって上手にできる範囲は、限られています。 
 作文を上達させるためには、直すよりも先に作文力を伸ばす必要があるのです。 

 子供の作文を直して上達させるというのは、教える側の自己満足にすぎません。 
 作文は直ったように見えても、子供の作文力は変わりません。 
 伸ばす前に直していくと、そのときは多少よくなったように見えても、そのまま直し続けて上達するわけではありません。 
 それよりも、自分の書いたものが直されるというストレスで、子供は作文を書くことがだんだん負担になってくるのです。 

 直すよりも先に伸ばすことを考えるというのが、作文の勉強の基本方針です。 
 しかし、そういう考え方で作文指導を行っているところは、学校や塾も含めてほとんどありません。 
 では、伸ばすためにはどうしたらいいかと言うと、それは準備をすることなのです。 

 その準備とは、第一に題材の準備です。 
 あるテーマについて、子供の考えた実例だけでなく、お父さんやお母さんの体験談も話してあげるのです。 
 また、自分で調べる力がある子供であれば、そのテーマに関連する資料をデータが入るような形で調べるのです。 

 第二に、そのテーマについて親子で話し合うことです。 
 大人の視点を知ることで、子供は、感想をより深めて書いていくことができます。 

 題材をふくらませていくことと主題を深めていくことが作文の準備で、その準備ができた上で書いた作文の表現を工夫して行くという形で作文を上達させていきます。  
 その表現の工夫とは、低中学年であれば個性的なたとえ、高学年や中高生であれば(言葉の森で自作名言と呼んでいる)光る表現などです。 

 書き終えたあとの作文については、その作文のよく書けたところを褒めるだけというのが基本です。 
 作文は、直して上達させるのではなく伸ばして上達させるという基本を忘れないように子供の作文を見ていってください。  

■■小4から小5に切り替わるときの作文 
 小学4年生から5年生になるときの精神年齢の差は、かなり大きなものです。 

 小学4年生のころは、小学生としての作文がほぼ完成する時期にあたります。 
 それまでに作文がよく書けるようになっている子は、毎回何の苦もなく作文を仕上げます。 
 そして、それが内容的にも表現的にもそれなりに優れているというものを毎回書けるようになっています。 

 そういう作文の勉強の仕方をみていると、保護者の立場からは、もう作文を書くことが完璧にできるから、これ以上勉強する必要はないと思ってしまうことも多いのです。 

 ところが、小学5年生になると、子供の精神年齢の上で物事を構造的に捉え、それをより抽象的に考える力がついてきます。 
 そこで、小学4年生までの生活作文のレベルから、考える作文や構成を意識する作文を書く段階に入っていくのです。 

 そして、この小4から小5に切り替わる時期が、子供たちにとってかなり大きな努力を必要とする時期になります。 
 それまで身近な話題で自由に書いていた子が、小学5年生からは抽象的な課題でより本質的なことを書くことを要求されるようになります。 
 例えば、「友達」のことを書いていた作文が、「友情」について書く作文になるというような変化です。 

 この時期には、小4までとは別の意味で保護者との対話が必要になってきます。 
 実際の年齢の差はわずか1年のように見えても、物事を考える力においては、この1年でかなり大きな変化があるのです。 

 しかし、こういうことがわかって作文指導をしているところは、学校や塾も含めてほとんどないと思います。

 小学4年生と小学5年生の作文には、質的に大きな違いがあります。 
 この時期は、作文だけでなく、学校の勉強でも、内容が急に難しくなります。 
 それまでの日常的な語彙から、より抽象的な語彙が必要になってくるからです。 
 ある意味で本格的な勉強は、小5から始まります。(更に本格的になるのは中3からで、そして更に本格的になるのは高3からですが) 

 生徒の作文の進度を決めるとき、先生がいちばん悩むのも、この小4から小5の課題に進んでいいかどうかというところです。 
 小4までの課題であれば、説明をすれば何とか書けていた子が、小5の課題からはどう説明しても書けなくなることがあるのです。 
 では、どうしたらいいかというと、私(森川林)は、どんなに無理に見えても小5の課題に進めて無理やり説明します(笑)。 
 そうすると、わけもわからず1年間言われたとおりに書いていた子が、小6になるころから少しずつわかってくるのです。 
 人間の脳は、どんなに難しく見えても、長い間そのことに接していれば、だんだん適応するようになっているのだと思います。  

■■緻密に読む力より、長い文章をばりばり読む力が真の国語力 
「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」で、著者の新井紀子さんが調査した面白いデータがありました。 
 それは、かなりおおまかに言うと、文章を緻密に読むテスト問題で、東大クラスの学生の得点だけがきわめて高く、そのほかの大学は早稲田大、慶応大も含めて、大学のレベルに応じてはいるものの、それほど大きな差がない程度に並んでいたのです。 

 この表とグラフだけを見ると、東大生はダントツに頭がよく、そのほかの大学は難易度の違いはあるが、それはただ量的な差だけであるような印象を受けると思います。 

 しかし、私はこれを見てすぐにわかりました。 
 東大受験を目指す生徒は、受験勉強として文章を緻密に読む訓練をしているのです。そのほかの大学、そういう訓練をせずにただ実力だけで試験に臨んでいるということなのです。 

 私がそう思ったのは、大学入試センター試験の国語問題を解く勉強を教えたことがあるからです。(今は時間がないのでやっていませんが、そのコツを知りたい方は、言葉の森のホームページでセンター試験という言葉で検索してみてください。) 

 高校3年生に、夏ごろからセンター試験国語の解き方の授業をすると、最初はどの生徒も平均点の60点ぐらいしか取れません。 
 ところが、解き方を説明すると、次の週からほとんどの生徒が満点近い高得点を取れるようになるのです。 

 この緻密に解くというコツは、英語の試験でも同じです。 
 センター試験の問題は、文章の全体を大体読み取るという読み方ではなく、文法的な知識をもとに厳密に読むという読み方で問題を解かないと、うっかり間違えるという問題がかなりあるのです。 
 それは、実力というよりも、解く訓練で身につく力です。 
 だから、現在の入試の主流になっているこういう入試問題は、生徒の実力を必ずしも反映したものではないと思ったのです。 

 では、生徒の実力は、国語の場合、どういうところで表れるかというと、それは、緻密に読むことよりも、長い文章をばりばり読むというところにおいてです。 
 国語の実力のある人は、長い文章を見てもすぐに読みますが、国語の実力がない人は、その長さを見ただけで読む気がなくなることがあります。 

 今は、スマホで文章を読んだりやりとりしたりすることが多く、昔のように本をじっくり読むという時間が少なくなっています。スマホで読んでいると、長い文章はそれだけでパスしてしまうようになります。 
 だから、長い文章を読む力は、全体に低下していると思います。 

 中学入試の作文の試験問題でも、そういう長い文章を読み取れることを条件とする問題が増えています。 
 これは、緻密な問題で学力を評価するよりも、ずっと生徒の学力の実態に合っていると思います。

 入試ということ自体が将来はなくなると思いますが、今の段階で、最も生徒の実力を反映する入試問題は、長い文章を読ませ、長い作文小論文を複数書かせ、口頭試問を行う形の入試問題です。 
 もちろん、それは、採点する側の負担が大きすぎるので、当面は実現しないでしょう。(AIで作文小論文を評価するようになるまでは、です) 
 しかし、子供の真の学力としては、そういう本質的な方向を考えておくことが大切です。  

■■フィンランドの教育がなぜ世界一になったか 
 面白い動画を見ました。 
 フィンランドの教育がなぜ世界一になったかを、生徒や教師など当事者たちのインタビューで紹介している動画です。 
 この動画の中で特に印象に残ったところが六つありました。 

 第一は、学校のテストで選択問題がなかったという卒業生たちの証言です。
 テストの問題はすべて記述式だったので、その内容を自分が確実に理解していなければできない問題だったということです。 

 第二は、学校が宿題を出さないということでした。 
 国の方針として、子供は遊ぶことによって能力を育てるという考えだったのです。 

 第三は、学校における勉強の授業時間が少ないということでした。 
 小中学校の勉強の基本はほんのわずかです。テストで差をつけるための難問に時間を取られなければ、正味の時間はずっと少なくてよいのだと思いました。 

 第四は、学校がすべて公立で、できる子もできない子も同じように学んでいたということです。 
 これは子供たちが成長したときに、社会の問題を自分の身近な問題として考えることに役立っているということでした。 

 第五は、テストというものがほとんどなかったということです。
 これも第三の話と同様で、小中学校の勉強は基本をおさえるということであれば、テストをなどで評価しなくてもほとんどの子が授業の中で身につけられるということから来ているのではないかと思いました。 

 第六は、音楽や芸術も含めてすべての教科にバランスよく力を入れているということでした。
 主要教科だけに力を入れることは、かえって子供たちの人生にとってマイナスになるという考えでした。 

 ちょうどこの動画を見る前に、ある高校生の成績を見せてもらい、受験に関係のない科目は捨てているという話をその生徒から聞きました。 
 その生徒は普通に真面目な考えを持っている生徒だったので、多少照れ隠しに言っているのだろうと思いましたが、私は一応、 
「高校時代の勉強は全部自分のプラスになるのだから、受験に関係なくどの教科もしっかりやっておくといいんだよ」 
 という話をしました。 

 そういう話をしたばかりでしたから、教育における文化というものが、フィンランドと日本ではすでにかなり違っているという印象を受けました。 

 もう一つ考えさせられたのは、選択問題がなく、すべてが記述式の問題だったということです。 
 日本では2020年度の入試改革に合わせて、記述式の問題をどのように客観的に評価するかということが話題になっていますが、これが問題になるのはテストの評価ということを前提にしているからです。 

 小中学生の本当の学力を育てるということが目的であれば、客観性云々よりも、まず記述式の問題を中心にするということを考えなければいけないのではないかと思いました。

 フィンランドの人口は550万人ですから、小さい国だからこそできる教育改革という意見もあるでしょう。 
 しかし、すべては教師や親の取り組み方次第で、日本でもすぐにできることだと思います。

 言葉の森の目指しているものも、同じようにバランスの取れた学力と、記述力を中心とした本当の学力です。 
 更に、それに加えて、創造性と文化性を育てる教育を、作文指導と少人数クラス指導で実現していきたいと思っています。  

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