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言葉の森新聞 2007年11月3週号 通算第1007号

カテゴリー: 2007年11月14日
言葉の森新聞 2007年11月3週号 通算第1007号
文責 中根克明(森川林)


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■■信じて見守る(ともち/きり先生)

 私は4月から、耳の不自由な高三の女の子(A子ちゃんとします)の補助として、
数学と英語の授業についてきました。ところが、この10月から、私はA子ちゃんの
数学の授業につくことが時間的にできなくなりました。病気で長期の休みを取られた
ある先生の代わりに、私が英語の授業を持つことになってしまったからです。そこで
、私の代わりの先生がA子ちゃんの数学の補助についてくれることになりました。

 10月になり、A子ちゃんに「数学の授業で困ったことはない?」と聞いてみたと
ころ、「新しく補助についてくれている先生は親切すぎる」というのです。A子ちゃ
んが自分でわかっているところまで、一つ一つ丁寧にノートに書いてくれるのだそう
です。A子ちゃんは、自分で授業を受けて、先生の板書や口の動き方を見て、それで
もわからないことを教えてくれたら十分だというのです。私はポイントを説明する以
外は、A子ちゃんが「今、なんて言ったの?」「これはどういうこと?」など、聞い
てきたことに対して答えることにしていました。その少し不親切だとも思われるやり
方のほうがA子ちゃんはよかったというのです。

 私たちは教える側になったとき、どうしても、手とり足とり、先回りをして、相手
ができることまでやってしまうことがあります。それでは教えてもらう側が自分で考
える楽しみを味わうことができなくなります。

 低学年の保護者の方から、「表現のまちがいを直した方がいいですか?」や「作文
に書くことについて、アドバイスをしてもいいですか?」と聞かれることがあります
。子どもが作文を書くときは、ついそばで見ていて口出ししたくなるということがあ
るかもしれません。でも、そこで、あれこれ口出しをすると、自分で考える力をうば
ってしまうことになります。なかなかむずかしいことかもしれませんが、子どもの力
を信じて、見守ってあげるのが一番だと思います。


■■秋の夕暮れに(うるっち/かん先生)

「あ、タイミング悪すぎ。終るまで少し待とう。」

そう心の中でつぶやいて学童の玄関の陰にそっと身を隠しました。

 先日のことです。長男を学童に迎えに行くと、ちょうど指導員さんが子どもたちに
お説教をしているところでした。全く気にもしていなかったそのお説教が急に気にな
りだしたのは「シュンスケ」という長男の名前が耳に飛び込んできたからです。これ
は何かあったかな? ひとことも漏らさないよう、注意深く聞き耳をたててみました
。どうやら誰かが殴る蹴るの暴力をふるったようです。絶対にしてはいけないことだ
と訴える指導員さんの声はいつになく熱を帯びています。そして、その暴力をふるわ
れた方が長男なのでした。どうしたのかな? 何があったのかな? 急に心配になり
、背中に冷たい汗が流れるような嫌な気分です。

 学童から出てきた長男のほっぺには、ひっかいたような傷がいくつか刻まれていま
した。

「どうしたの、そのほっぺ。傷があるよ。何かあったの? 」

長男の顔をのぞきこみながらそう尋ねました。もちろんこっそり話を聞いていたこと
は内緒です。

「なんでもないよ。もう忘れた。」

私の問いかけに、ひとことそっけない返事をして先を歩く長男。

「だって、変だよ、そのほっぺ。ケンカでもした? 」

懲りずにしつこく聞いてみました。

「だってもう忘れちゃったから答えらんないよ。やなことはすぐ忘れちゃえってママ
、自分でよく言ってんじゃん。」

もともと頑固な子ですが、どうしても真相を話そうとしません。でも、何もないわけ
ありません。指導員さんの話もありますし、ひっかき傷もあります。

 学童そばのコンビニでちょっとしたおやつを買い、二人でつまみながら弟たちの待
つ保育園に向かいます。金木犀の甘い香りが鼻をくすぐる秋の夕暮れ、辺りにはすっ
かり夜の気配が漂っています。おやつのチョコレートのおかげでちょっぴりリラック
スしたのでしょう。長男は少しずつ、ポツリポツリと話をしてくれました。同じ学年
のコウキくんといざこざがあったそうです。

「そう、それは頭にきたでしょ? そういうときは隠さないでママに言ってね。一緒
に怒ってやるから。わかった? 困ったことがあったら何でも言うんだよ。」

私は心底そう思いました。その一方で、どうしてママには言えないの? ママのこと
なんて頼れないって思ってるの? そんな不安や苛立ちも混ざった感情が心をふさぎ
ました。

 わが子にはそんな注文をつけてみましたが、自分自身を振り返ってみると長男と全
く同じなのです。問題が深刻であるほど両親に愚痴をこぼしたり相談したりというこ
とができません。いつも自分ひとりで手探りで答えを見つけ出しました。それは大人
になっても一向に変わらず、就職や転職、結婚といった人生の転機においてさえ自分
で決断する子になってしまいました。いつだって事後報告です。子どもを持って初め
て、両親の苦悩が手にとるように理解できました。さぞ心配したことでしょう。言い
出したら聞かない子だから……そう現実を受け入れるようになるまでには幾度も葛藤
があったと察します。でも、相談しないのは決して親を信頼していないからではあり
ませんでした。親を困らせてはいけないような気がして言えなかったのです。大好き
な両親への私なりの思いやりでした。

 人間には生まれ持った気質があると常々思うのですが、私も長男も、問題が起きた
らまず自分の力で乗り越えようとするタイプなのでしょう。ときにかなりの困難や遠
回りを強いられることを実感したからこそ、子どもにはなるべく同じ苦労をかけたく
ないと思ってきました。でも、その考えこそが大きな勘違いなのかも知れません。わ
が子の人生は親の人生をやり直す場ではないですし、主人公はあくまでも子ども自身
。苦労と思われる部分も主人公が体験しなければ意味がありません。確かに間違いの
ない人生は楽でしょうし輝かしいものに見えるかもしれません。でも、間違いのない
人生なんて薄っぺらでなんの面白みもありません。

 きっとこの先も、長男は私を頼らず自分自身の力で山を乗り越えていくのだと思い
ます。私の手を離れ少しずつ自分の足で人生を歩み始めた長男。

「がんばって。応援してるからね。」

そうささやきながらぎゅっと長男の手を握りしめた秋の夕暮れは、心にぽっと灯をと
もしてくれるような懐かしい雰囲気が漂っていました。


■■スポーツの秋 体を動かそう(ひまわり/すぎ先生)

<<え2007/276み>> 今年は残暑が厳しく、9月まで暑い日が続きましたが、やっ
と本格的な秋が来ました。幼稚園や小学校では運動会が盛大に行なわれています。ス
ポーツには最高の季節になりましたが、みなさんは普段積極的に体を動かしています
か?

 先日、子どもの体力低下に関する気になる新聞記事を読みました。文部科学省の2
006年度体力・運動能力調査によれば、小学生の運動能力は20年前をピークに低
下し始め、ここ10年間は低水準のまま移行しているそうです。つまり、20年前か
らしばらくの間は、スポーツテストの平均記録がどんどん悪化し、最近10年間は数
値がほぼ横ばいだというのです。

 このデータから、どんなことが読み取れるでしょう。最近の10年間はあまり変化
がないということで、単純に「心配する必要はない」と考えますか? データの意味
をきちんと読み取るためには、小学生の体力低下の原因を考える必要があるでしょう

<<えa/2784み>> 初代ファミコンの発売が1983年と言いますから、20年前
と言えば、本格的な家庭用ゲーム機が普及し始めた頃と重なります。現在では、携帯
用のゲーム機を複数持っている人も珍しくないようですね。この夏、大人も子どもも
たくさん集まって、友人宅でホームパーティーをしたのですが、その時に、子ども達
が円座になって、一人一台携帯用ゲーム機を使って遊んでいました。大人から見ると
、少々異様な光景だったので、「今どきは、みんなこうなのかな。」「今の子は、あ
れが楽しいんだろうな。」と口々につぶやいていました。昔は、みんなが集まれば近
所の空地に行って棒切れやガラクタを拾って遊ぶか、家の中でも押入れに入ってかく
れんぼをしたり、新聞紙を丸めてバットとボールを作って、最後は必ず大人に叱られ
ていたものです(笑)。

 体力低下の原因は、もちろんゲームの普及だけではありません。たとえば、マンシ
ョンの五階まで上がるとき、階段を使いますか? そういう人は少ないでしょう。し
かし、古い四〜五階建ての建物には、エレベーターのないものもあります。それが建
てられた頃は、五階までは階段で問題なしという意識があったのでしょう。私達の意
識も、ずいぶん変わってきたのですね。

 さて、新聞記事のデータの意味ですが、この調査を監修した順天堂大の内藤准教授
は「運動不足の状態が行き着くところまで行った印象がある」と分析しています。万
年運動不足の生活が定着し、落ちるところまで落ちたということでしょうか。確かに
、塾や習い事で忙しかったり、住宅事情や住環境から体を動かす遊びを簡単にできな
かったりということもあるでしょう。しかし、少し意識を変えるだけで、体力低下を
防げる可能性があるはずです。これは、大人もしっかりと考えていかなくてはならな
い問題ですね。

<<え2007/279み>> いろいろと書いてきましたが、何よりも、スポーツや遊びで
体を動かすことはすばらしく楽しいので、それを子どものうちに、みなさんにたっぷ
り味わってもらいたいと思います。この秋、思い切り体を動かして、その経験を作文
にも存分に活かしてくださいね。


■■いい文章を味わって(はち/たけこ先生)

 みなさんには、部活や習い事など、いっしょうけんめいがんばっているものがある
と思います。サッカーやピアノ、ダンスに野球など、じょうずな人を見ると、あんな
ふうになりたい、少しでも近づきたい、とお手本にすることもあるでしょう。じょう
ずな人を見てこそ、自分も努力しよう、進歩しようとがんばれるのではないでしょう
か。自分より上の人がいる、尊敬できる人がいる、ということを知っているのは、感
動することでもあるし、うれしいことでもありますね。

作文も実はそれと同じです。でも、作文の場合は、「あの人のシャーペンの動かし
方はうまい!」というお手本のしかたではありませんよね。この場合はじょうずな人
をお手本にする、というのでなく、じょうずな文を読む、ということになります。反
対に言うと、じょうずな文を読んだことがなければ、じょうずな文はなかなか書けな
いということになります。

 私がすすめたいのは、大人の小説家が書いた、読みやすいエッセイを読むことです
。本にはたくさんの種類があります。自分の経験をそのままに書いた本もあります。
それは、文はそんなにじょうずでなくても、経験で人を感動させる本です。それから
、外国の本を日本語に翻訳した本もあります。しかし、そういう本はどうしても、も
との外国語の作家がくふうした文そのままを日本語に完全にうつしかえることはでき
ません。小説家は「日本語の文章のプロ、達人」です。一つ一つの言葉の選び方、そ
して文のならべかたにも、くふうをはらっています。短い文のつみかさねのようでい
て、そこには、なめらかな調べ、美しいひびきがあり、人の心を動かすためにはこれ
しかないということばがはめこんであるのです。そういう人が書いたエッセイは、小
説より短いだけに、さらに文にはくふうがしてあります。ただし、「こんなにがんば
っているんだ!」ということが見えないくふうです。野球選手のイチローが外野から
矢のような送球をするとき、見ている人は、そのための地味な練習や努力でなく、美
しいフォームによいしれるのです。いい文も同じで読んでいるだけで、知らず知らず
ことばの美しさに気持ちがよくなってくるのです。

 ただし、中高生のみなさんが読むためには、明るく、わかりやすいエッセイのほう
が理解しやすいと思います。いくらいいエッセイでも文章が難解ならつまづいてしま
います。といっても、どんなにエライ小説家でも「子ども向け」に書いたものは私は
すすめません。子どもの本には子どもの本を書くプロがいます。大人の本を書いてい
る小説家は子どもの本のプロでないので、たまに子ども向けに書くと、どうも考えち
がいをしたような、ぶきように赤ちゃんことばであやすような文になってしまいがち
です。

 では具体的にというと、これがむずかしい。村上春樹は達人ですが、読みやすいも
のには、大人のための下ネタ(!)が入っているのです。ただし上品に、ですが。一
番は田辺聖子が朝日新聞に連載していた『文車日記〜私の古典散歩』。今は新潮文庫
などにあります。これは、短いし、田辺さんが好きな古典一つ一つについてその良さ
をわかりやすく、美しい文で書いています。古典のことも身につくし、一石二鳥。平
安時代の本大好き少女『更科日記』のところなど、共感する人も多いのでは。男性だ
と、背伸びをして小林信彦の『人生は五十一から』シリーズ。今のテレビから、昭和
の日本、戦後の日本など、あらゆる体験をおしゃれに書いています。意外に、さくら
ももこさんもエッセイは達人。最初はそこから入って、文章作りそのもののうまさを
味わうのもいいかもしれません。



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